製薬業界において、これからの時代に求められるのは、「なにをするか」ではなく、「なにをしないか」を戦略的に決めることです。かつての成長市場では、活動量を増やすことで一定の成果が得られました。しかし、現在のように制度変更リスクが常に存在し、市場そのものが縮小傾向にある環境下では、やみくもな行動はリスクでしかありません。

市場が制度によって規定される製薬ビジネスでは、努力や施策の効果が制度改定によって無力化されるリスクを常に抱えています。そのため、すべての市場、すべてのターゲットに均等にリソースを投入することは、労力の分散と消耗を招くだけです。

成果につながる市場、戦うべき領域にのみ、限られたリソースを集中させる判断が不可欠なのです。とはいえ、「なにをしないか」を決めることは容易ではありません。なぜなら、意思決定には明確な基準と冷静な分析が求められるからです。

感覚や経験だけに頼っていては、どうしても曖昧な判断になり、結局また「全部やる」という選択に逆戻りしてしまいます。大切なのは、現時点の市場構造、競争環境、自社のポジショニングを冷静に見極めた上で、リターンが期待できない領域を明確に見切ることです。

この「やらない決断」を支えるためには、属人的な判断ではなく、論理的な裏付けが必要です。それによって初めて、組織全体が迷いなくリソースを集中できるようになります。また、「なにをしないか」を明確にすることは、単なるリスク回避ではありません。

むしろ、勝てる場所に圧倒的にリソースを集中し、確実に成果を積み上げるための、攻めの戦略です。すべてに手を広げるのではなく、戦うべき市場を選び抜き、そこに勝ち切る。それがこれからの製薬ビジネスに求められる戦い方だと考えています。

今後、モヤモヤを解消し、確実に勝てる組織に変わるためには、「なにをしないか」を決める勇気と、判断を支える冷静な分析の両方が不可欠なのです。