”医療機器開発の支援に関わるなかで良く直面するのが「まずは良いものを作る」という開発志向が先行しがちで、ビジネスとしての成立条件、すなわち「誰が・どこで・いくらで・どれくらいの期間・どれだけ買ってくれるのか」という視点が後回しになるケースが非常に多いです。本来、製品開発とは「価値提供の手段」であり、市場の存在とニーズの明確化が出発点であるべきです。にもかかわらず、「ニーズがあると思う」「良いものを作れば売れる」という仮説の域を出ないまま開発が進み、結果として事業化できない事例が多発しています。
より良いものを世に送り出そうとする技術者や研究者の熱意には頭が下がります。しかし開発の本質は、社会や市場が抱える課題を解決し、誰かに選ばれる製品を作ることです。良いものを作るために開発しているのではなく、“売れるべき理由があるからこそ”良いものを作る必要があるのです。
特に医療分野は保険制度や規制、臨床ニーズの複雑さが絡み、単独企業での事業化が困難なケースも少なくありません。にもかかわらず、「自社だけで完結させよう」という視野の狭さが、結果として“完成したが売れない”製品群を生み出しています。いま必要なのは、製品開発という“作る”視点だけでなく、「誰が、どこで、どう使うのか」という“使われる”視点を持ち直すことです。そしてその上で、開発の初期段階から出口戦略を描くべきだと強く感じます。
“完成”よりも“検証”を――PoCを起点にした戦略的コンソーシアム構築のススメ
自社単独でリーチ出来る市場が小さい、制度対応が複雑、リソースが足りない。そんなときこそ、医療機器開発は“自前主義”を捨て、PoC(概念実証)を軸とした戦略的コンソーシアムの構築が有効です。
PoCとは「実現性の確認」であり、完成品を作ることではありません。むしろ未完成でも良いから、現場におけるニーズの適合性、有用性、導入可能性といった“採用のための条件”を検証することに価値があります。
自社単独では見えなかった顧客の声が、PoCを通じて可視化され、改良点が明確になります。連携するパートナー企業との分業体制により、開発リスクとコストも分散できます。製品の完成度にこだわりすぎて市場に出るのが遅れ、競合に先を越されるような事態も避けられます。
そして何より、PoCの設計段階で出口(事業化)の定義を行い、参画者間で共有することが成功の鍵になります。コンソーシアムを立ち上げるのであれば、共通ゴールは「売れる仕組み」であるべきです。
開発に情熱を持つのは素晴らしいことです。しかし、それだけでは社会に届きません。届けるには、戦略が必要です。PoCとは、技術と市場を繋ぐ“仮説検証の橋”なのです。
出口を見据えた戦略が重要です。