マーケティングやビジネスの現場では、「ビッグデータ」こそが時代の答えであるかのように語られてきました。確かに、膨大なデータを扱えば傾向やパターンを可視化しやすくなります。しかし、その一方で、私たちは“平均”や“多数派”のなかに埋もれた希少な価値を見逃していないでしょうか。
価値のあるものは、えてして希少です。希少だからこそ模倣が難しく、そこに独自性が生まれ、競争優位となる。これは製品だけでなく、情報やインサイトにも当てはまります。だからこそ、ビジネスにおいても「スモールデータ」が持つ意味がいま、見直されるべきだと考えます。
スモールデータとは、少数の具体的な事例や観察から得られる定性的・定量的な情報です。例えば、ある営業担当者が訪問先で得た医師のひと言、クレーム対応から見えた顧客心理、リピーターが語るちょっとした感想。こうした“声”は、ビッグデータの波に紛れてしまうほど微細かもしれませんが、そこにこそ本質が隠れています。
スモールデータは、解像度の高い“顕微鏡”のようなものです。全体像を俯瞰するのがビッグデータなら、スモールデータは一人ひとり、一件ごとのストーリーに焦点を当て、なぜそれが起きたのかという「因果」に迫ります。そして、この因果の積み重ねが戦略の根拠となり、実行力を高めるのです。
デジタル時代において、情報の量は無限に近づいています。しかし、本当に必要なのは情報の“量”よりも、“意味”を見極める力です。スモールデータは、単なるサンプルや外れ値ではありません。見過ごされがちな少数のなかにこそ、イノベーションの種が眠っているのです。