フォーミュラリ時代における「戦略的インフラ」としてのDXS Stratify®

「医薬品アクセスの確保」は、単なる企業の利益確保の問題ではありません。少子高齢化、医療費抑制、ゼロサム化する市場環境の中で、それは地域医療の持続性そのものを問う社会課題となりつつあります。

こうした時代背景のもと、「営業支援ツール」としてではなく、「アクセス最適化インフラ」として開発されたのがDXS Stratify®です。今回は、その社会的意義と、注目が集まる「フォーミュラリ」への応用可能性について考えてみましょう。


「営業最適化」ではなく「アクセス最適化」へ

従来の営業支援ツールは、シェアの高い医療機関への集中投下や訪問頻度の最大化といったロジックに従って設計されてきました。しかしその結果、ある施設では企業の訪問が集中することで情報提供が過剰に重複し、他方では全く情報がこない。そんな“営業の偏在”が生まれています。

DXS Stratify®が目指すのは、そのような非効率を回避し、企業の強みを発揮できる“戦略的戦場”への適正配置を行うこと。結果として、地域ごとの棲み分けや、アクセスの公平性を支える仕組みにつながるのです。


企業の戦略が、医療現場を守る

製薬企業にとって「勝てない市場からの撤退」は合理的な判断かもしれません。しかし、それが地域の医療機関における選択肢の喪失や、製品の供給停止を引き起こすのであれば、それは単なる企業判断では済まされません。

特に中堅・内資系企業がカバーしてきた希少疾患や特定診療科の分野では、撤退=アクセス喪失に直結するケースも。DXS Stratify®は、こうした“戦わないための戦略”を設計するための基盤となり、ひいては地域医療の多様性維持にもつながります。


「フォーミュラリ運用」への応用可能性


DXS Stratify®は「営業活動の最適化」ではなく「医薬品アクセスの最適化」

DXS Stratify®の設計思想は、企業の強みが発揮できる“最適戦場”を明確化することで、非効率な競争を避け、健全な棲み分けと供給安定性を実現することにあります。

これは、

  • 市場構造を可視化し、
  • 競合との相対優位を分析し、
  • リソースの配分を戦略的に再構築する
    というプロセスによって、個社の業績と社会的医薬品アクセスのバランスを両立させるものです。

結論:営業のためのツールから、社会を支えるインフラへ

繰り返しますが、DXS Stratify®は「売上を最大化するためにターゲットを選ぶ」ためのツールではありません。

それは、「アクセスの偏在」「情報提供の空白」「医療供給の過不足」といった社会課題に対し、戦略の視点から構造的にアプローチする意思決定基盤です。

医薬品アクセスの公平性と持続性を支える。企業の合理的な経営判断と、社会的責任を両立する。その橋渡しを担う存在として、DXS Stratify®の意義は今後ますます高まっていくでしょう。

近年、営業部門を中心とした人員削減を繰り返す製薬企業が増えています。財務の視点から見れば、一見合理的な判断にも思えます。しかし、その裏に潜む構造的な問題に目を向けると、これらの企業が負のスパイラルに陥っている可能性が高いことが見えてきます。

製薬業界は、薬機法・薬価制度・適応症・ガイドラインといった厳格な制度により差別化が難しく、もともと「同質化しやすい」を余儀なくされる業界です。さらに近年はDXの波が押し寄せ、どの企業も同じようにビッグデータを用いて、同じような意思決定プロセスを行い、同じような営業戦略にたどり着く、“誰がやっても同じ”という均質化競争が進行することで、自ら厳しい競争環境を招き、究極のレッドオーシャンを作り上げています。

このような環境では、営業活動の成果が得られなくなり、「営業は非効率」「コストに見合わない」との認識が広がります。そしてその結果、真っ先に手をつけられるのが営業部門の人員削減です。ところが、人員削減による戦力量の低下によって再び売上が減少し、生産性もさらに低下します。これがまた次の削減判断を呼び、企業は自ら競争力を削る悪循環に陥っていきます。

このように、「営業が機能しない → 人員削減 → さらに成果が出ない → さらなる削減」というループに入ってしまうと、構造的に回復が難しくなります。人員削減は一時的に財務指標を改善させるかもしれませんが、中長期的には競争力の基盤そのものを崩している可能性が高いのです。

このスパイラルの原因はどこにあるのか。

営業力強化のためにスキルアップのための研修やDX推進を行う、対処療法的な部分最適では改善することはできません。余分な経費がかさむだけです。営業成果が出にくくなっているのは、市場の構造的な同質化や差別化困難な環境が原因であり、営業個人の能力や努力不足ではありません。営業部門は本社が推し進める「差別化の無効化」施策に従い活動しただけです。しかしそれを見極めず、「営業の生産性が低い=人員削減すべき」と短絡的に判断した経営層の責任は大きいでしょう。

本来、経営層が担うべきは、「どの市場で、どの武器で、どのように戦うか」という戦略的判断です。ところが、実際にはその根幹を見直すことなく、DXや標準化に流され、他社と同じ土俵・同じ戦術での勝負に終始してしまっています。これでは、差別化による競争優位性が得られるどころか、企業独自の勝ち筋すら見えなくなってしまいます。

「同質化の中でどう戦うか」「自社が選ぶべき競争領域はどこか」という根本的な戦略設計を怠り、他社と同じ分析・同じ行動を繰り返すことで、差別化の機会を放棄したといえます。

繰り返される人員削減は、企業の体力を削ぐだけでなく、組織文化や現場の士気をも蝕みます。そして何より、それを導いているのが、戦略を描けていない経営層の判断であるならば、本当に見直すべきは「現場」ではなく「経営」そのものかもしれません。

主要製薬企業の人員削減事例

1. 塩野義製薬

2023年度に単体ベースで13.9%(341人)の人員削減を実施。同社は「特別早期退職プログラム」を実施し、約200人の募集に対して301人が応募した。過去10年間の推移を見ると、2013年度と比較して従業員数は49.3%(2061人)減少しており、ほぼ半減している状況だ。

2. 参天製薬

2023年度に単体ベースで7.2%(131人)減少。人数を定めず早期退職者を募集し、180人の応募があった。連結ベースでは9.7%(400人)減少しており、米国事業の合理化も影響している。

3. 中外製薬

2023年度に単体ベースで3.9%(200人)減少。早期退職を実施し、374人の応募があった。

4. アステラス製薬

2023年度に単体ベースで1.3%(61人)減少。500人規模の応募を想定して早期退職を募集した。2018年3月末時点で2400人いたMRを2023年8月までに半分に削減し、さらに2024年3月末にも早期退職で多くのMRが会社を去った。

5. 住友ファーマ

連結ベースで20.3%(1270人)減少。米国での人員削減が主因とされている。2年連続の大幅赤字の中で、事業構造改革とともに700人規模の削減を実施した。2024年も国内で人員削減を行う可能性に言及している。

6. 武田薬品工業

2024年3月期決算発表の場で、2025年3月期に1400億円を事業構造再編費用に投じることを発表。クリストフ・ウェバー社長CEO就任以来、頻繁にリストラが行われており、2024年8月には国内でのリストラが公表された。単体ベースでは2023年度に4.8%(261人)増加しているが、2024年度以降は複数年にわたる人員の最適化を含む事業構造再編を行う方針を明らかにしている。

7. 協和キリン

2025年5月7日に早期退職制度の導入を発表。対象は40歳以上、勤続3年以上で、募集人数は「特に定めず」としている。2024年にも同様の制度を導入しており、今回が第二弾となる。単体ベースでは2023年度に2.0%(80人)増加していたが、2024年7月から8月にかけて希望退職者募集の実施が公表された。

8. MSD(日本法人)

2024年7月までに希望退職者募集の実施を公表。55歳以上、勤続1年以上(ワクチンファーマ営業部門)を対象に約100人の募集を行い、退職日は2025年3月末としている。2023年6月に日本法人で約200人の人員削減を発表し、対象は営業部門の社員で、MRの数は約1000人から800人に減少した。

9. トーアエイヨー

2024年に希望退職者募集を実施。勤続3年以上(生産部、信頼性保証部は対象外)を対象に約100人を募集し、退職日は2024年11月末としている。

10. 田辺三菱製薬

2024年に希望退職者募集を実施。45歳以上、勤続5年以上を対象に人数を定めずに募集し、退職日は2024年12月末としている。

企業規模別に見る再編の特徴

人員削減の動きは企業規模によって異なる特徴を見せている:

大手企業:アステラス、武田、塩野義、住友ファーマなど、世界市場を視野に入れた企業群では、営業部門中心にスリム化が進んでいる。組織内で特定領域のスペシャリストやグローバル人材に重点が置かれる傾向がある。

中小企業:富士製薬工業、JCRファーマなど、ニッチ市場に強みを持つ企業ではむしろ人員増加傾向が見られる。特に配置薬や希少疾病薬など需要が安定している分野では、採用強化が行われている。

このように、製薬業界の人員削減は「一律の削減」ではなく、「構造的再編」の性格が強い。

1. 現状認識:市場構造の偏重と競争構造の変化

  • 現在の国内医薬品市場はショートヘッド・ロングテール型のべき乗分布を示し、上位数社による寡占状態(Winner Takes All)が顕著。
  • 一部の大手企業が市場を占有する一方で、多くの企業が持続可能性のない過当競争に巻き込まれている。

2. 外部環境の構造要因:制度による同質化圧力

  • 医薬品ビジネスは、薬機法・薬価制度・適応症・ガイドライン・エビデンスなど、厳格な制度下の自由競争に位置づけられる。
  • これにより製品の差別化は難しくなり、競争力の源泉が不明確な同質化市場が形成される。
  • 市場はすでに成長期を終え、成熟・衰退フェーズに突入。競争は拡大ではなくゼロサムの奪い合いへと変化している。
  • 成長市場である海外販路を持つ製薬企業にのみ業績改善が見られる。

3. 内部環境の構造要因:戦略なき資源集中と分析の画一化

  • 多くの企業は、ABC分析(パレートの法則)に基づいてターゲティングを行っており、競争優位性の異なる顧客が同一ターゲットに混在
  • 同一ターゲットに複数社が資源を集中させる結果、競争の過熱と非効率な重複投資が発生。
  • さらに、IQVIAのDDD、VEEVAのCRMといった汎用ツール高シェアにより、各社の営業・分析手法が極度に同質化。競争力の源泉が埋没する。

4. 帰結:消耗戦の果てに訪れる“戦わずして沈む”業界構造

  • 同一ターゲットに過剰にリソースが投入され、勝者以外には成果が残らない消耗戦へと突入。
  • 大手企業が圧倒的なリソース差で勝ち残る一方、中堅・中小企業は市場からの撤退や縮小を余儀なくされる。
  • セールス・マーケティング機能は形骸化し、売上インパクトを生まなくなり、営業部門を中心とした人員削減が進行。
  • 人員削減により活動量が低下し、売上がさらに減少。構造的な負のスパイラルが完成する。

5. 社会的影響:医薬品アクセスへの深刻な波及

  • 製薬企業の経営悪化が進行することで、採算性の低い領域からの撤退や情報提供の縮小が相次ぐ。
  • その結果、地域や疾患による医薬品アクセスの格差が拡大し、医療提供体制に支障をきたす可能性がある。
  • 特に、希少疾患・小児・在宅医療分野などでは、企業の撤退が医薬品供給の空白地帯を生みかねない。

このように、製薬企業の構造的衰退は単なる業績の問題にとどまらず、医療現場の安全性・継続性に直結する「医薬品アクセスの危機」を引き起こす可能性がある。業界再構築のためには、競争戦略の抜本的な見直しと差別化軸の再定義が急務である。 縮小市場における戦略スキームに転換した企業だけが、限られたパイを制する相対的競争優位を確立し、生き残りではなく勝ち残る道を歩むことができる。

総務省の調査によれば、2024年時点で日本の個人における生成AIの利用率は9.1%だそうです。予想よりもあまりにも低くてかなり驚きました。

これは、中国(56.3%)、米国(46.3%)、ドイツ(34.6%)と比較しても大きく下回る数値です。出力結果に対する信頼性や正確性への不安が利用を躊躇させる要因というのも良く聞く話です。

でも出力結果が怪しいというのは、操作スキルが原因かもしれませんね。

「正しい情報を入れないと、正しく働かない」、そうAIを効果的に活用するには、適切なプロンプトの入力など一定のスキルが求められます。

一方で、企業に導入されたCRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)も、結局“使われていない”という話はよく耳にします。

AIとCRM。性質も用途も違うように見えて、このふたつに共通している点は「正しい情報を入れないと、正しく働かない」という特性です。

AIは、プロンプト(指示文)の書き方次第で出力が大きく変わります。

文脈を正しく与えれば驚くほど有用な答えが返ってきますが、曖昧な問いを投げかけると、それらしく見えて中身のない“それっぽい答え”が返ってくることがあります。

CRMも同じです。入力情報が誤っていたり、そもそも入力されていなかったりすれば、どれだけ高度な分析機能を持っていても活用できません。

「ゴミを入れれば、ゴミが出る(Garbage In, Garbage Out)」という原則です。

CRMはよく「箱」に例えられますが、これでは「ゴミ箱」です。

「正しい情報を入れないと、正しく働かない」、この当たり前だけど見落とされがちな原則こそ、AIやCRMを“本当の武器”に変えるヒントなのかもしれません。

医薬品ビジネスは、一見すると“自由競争”の市場に見えますが、実態は厳しい規制のもとに設計された、非常に特殊な競争空間です。
薬機法、薬価制度、適応症、ガイドライン、エビデンス──こうした制度や科学的根拠が厳格に定められているがゆえに、企業の自由裁量で差別化できる余地は極めて限られているのです。

つまり、「保護と規制によって競争が制限される」構造でありながら、その枠の中では熾烈な自由競争が繰り広げられているという、矛盾を抱えたレッドオーシャンマーケットなのです。

さらに、近年はDXの名のもとに、業界全体でビッグデータからのトレンドやパレート分析による標準化や、ソリューションの共通化(BI、CRM、医薬品販売データベースなど)が進んでいます。


その結果、本来であれば企業ごとの独自性につながるはずのデータ活用やCRM施策までもが「同じ武器で戦う均質化競争」へと収束しており、まさに血で血を洗う戦場と化しつつあります。

競争が進むほど、標準化が進み、標準化が進むほど、差別化が困難になる。
この“標準化の罠”こそが、今の医薬品ビジネスを最も過酷なレッドオーシャンにしているのです。

まるで、戦略参謀が自らの軍を、出口のない均質化された死戦場に送り込んでいるようなものです。

武器(ソリューション)も、地図(データ)も、戦術(施策)も、すべてが競合と同じであるならば、そこに勝機などあるはずがありません。

いま求められているのは、同じ戦場に立ち続けることではなく、戦う場所そのものを変える戦略の転換なのです。


SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)は、「営業の効率化」「情報の一元化」「売上の最大化」など、さまざまな期待を背負って導入されてきました。
特に1990年代、バブル崩壊をきっかけに、それまでの“個人技に頼る営業”から“組織で支える営業”への転換が求められるようになり、SFA/CRMはその象徴的な取り組みとして脚光を浴びました。

「売れば売れる」時代の終焉

バブル期(1980年代後半)は、企業が営業活動において「属人的」かつ「感覚的」に行動しても、結果が出やすい成長環境でした。売れば売れる時代です。

しかし、バブル崩壊後は景気が急激に冷え込み、「努力=成果」ではなくなり、戦略や効率が求められるようになりました。

それまで“トップセールス”に依存していた企業も、売上確保のために営業活動を「再現性のある仕組み」に変える必要に迫られました。このとき登場したのがSFA(営業支援システム)CRM(顧客管理)です。

③ ITの進化と接続

1990年代後半にはITインフラが整備され始め、データの蓄積と活用が現実的に可能となり、導入機運が高まりました。それから30年近くが経過した今でも、「導入したが活用されていない」「入力されない」「成果が見えない」、そうした声はいまだに多くの企業から聞こえてきます。

一体なぜ、ここまで時間とコストをかけたツールが“営業の武器”になり得ないのでしょうか。その本質的な問題に、いまこそ正面から向き合う必要があります。

SFA/CRMを「使えば成果が出る」は営業的にあり得ない

営業は顧客のニーズに対して製品を売り込んでいく仕事です。本社を営業、営業を顧客ととらえると、「なぜ使うのか?」が明確でないまま「とにかく入力しろ」では、価値が伝わらない=買ってもらえないという構造です。

これは、営業が顧客に対して「うちの製品、機能がすごいんです!」と一方的に語るのと同じで、相手(営業)のニーズや課題を理解せずに提案しても刺さらないのと全く同じです。営業は日々、提案力を試されるプロフェッショナルです。本社からの導入提案が、的確な課題設定や具体的なベネフィットを欠いたものであれば、その“営業力”はたちまち見透かされてしまいます。営業にとってSFA/CRMは、導入する本社から“営業されている商品”なのです。

そしてこの商品(SFA/CRM)を営業が“買う”かどうかは、

  • 「自分の課題を解決するか?」
  • 「自分の仕事を楽にするか?」
  • 「自分の成果につながるか?」

すなわち、どんな得があるの、メリットは?が納得できている必要があるのです。


SFA/CRMは“箱”でしかありません

SFAやCRMはよく「箱」にたとえられます。
確かにその通りで、これはデータを格納し、共有し、活用するための仕組みです。
しかし、どれだけ高機能な箱であっても、「何を入れるか」「どう入れるか」が定義されていなければ、意味のある活用にはつながりません。

実際、多くの現場では「訪問した」「説明した」「資料を渡した」といった“結果の報告”が形式的に入力されているだけで、
・どんな仮説を立てて
・どのようなアプローチを行い
・顧客にどのような変化が見られたのか
といったプロセス情報や行動変容の兆しが記録されていないケースがほとんどです。

この状態でいくら分析を行っても、「なぜ成果が出たのか」「次にどうすべきか」といった最適解にはたどり着けません。
つまり、“箱”としての設計はされていても、“中身の構造”が設計されていないということです。


KPIは「動いた量」を測るだけの指標です

SFAの導入と同時に、KPI(Key Performance Indicator)の設定が進みました。
「訪問件数」「面談数」「提案数」「資料配布数」など、活動の量を数値化すること自体は悪いことではありません。
しかし、KPIはあくまで“事後的な活動の記録”にすぎず、「どのような文脈で行ったか」「それが顧客のどの段階に影響したか」までは捉えることができません。

結果、現場ではKPIが目的化し、「数字を埋めること」が仕事の中心になってしまいがちです。
つまり、「訪問すること」や「資料を出すこと」が目的になり、「顧客を動かすこと」が後回しになる構造に陥るのです。

KPIの達成をPlanとして繰り返しDoするだけでは、変化の兆しを捉えることはできません。それは、市場が拡大していた過去には通用しましたが、今のような変化が速くゼロサム化した市場では、効果が薄れているのです。


成果を生むのはKPIではなくKSFです

顧客の行動を変え、購買行動へと導くには、営業担当者が顧客の状況を読み取り、適切なタイミングで適切な提案を行う“個別最適化”が必要です。
そのときに鍵となるのが、KPIではなくKSF(Key Success Factor:成功要因)です。

KSFとは、「この商談が成功したのはなぜか」を紐解くための“プロセス要因”です。
たとえば、
・提案タイミングが顧客の課題と一致していた
・競合との差別化ポイントが響いた
・意思決定者の意見が変化した
といった“顧客の変化”や“勝ち筋の発見”を見出すものです。

こうした情報は、数値ではなくナラティブな文脈や営業の観察によって初めて蓄積されます。
そして、これこそが他社に模倣されにくい競争優位性の源泉となります。


標準化と個別最適化は対立します

SFA/CRMの活用がうまくいかない根本には、「本社が求める標準化」と「営業が必要とする個別最適化」の間にある構造的ジレンマがあります。

営業がまじめにデータを入力すればどんどん蓄積されビッグデータとなります。本社はビッグデータを分析し、トレンドやパターンを抽出し標準化しようとします。
それに対して営業は、目の前の一人ひとりの顧客に合わせて、柔軟に対応する個別最適化を求められています。

さらに、本社が導き出した「標準的な勝ちパターン」は、営業にとってはすでに“過去の話”であり、現場では役立たないことも多々あります。
行動変容プロセスを促す必要がある営業にとって、顧客の反応や空気感は日々刻々と変化しており、営業はその“変化の速度と幅”を肌感覚で追いかけています。
そのスピード感は、本社の分析や意思決定の数倍から十倍は速いといっても過言ではありません。


SFA/CRMは「売上を上げるツール」ではありません

忘れてはならないのは、SFAやCRMそのものが売上をつくるのではないということです。
それはあくまでも、「誰に・何を・どのように届けるか」という戦略があってこそ機能する“実行装置”です。

つまり、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)戦略がなければ、SFA/CRMは動かないのです。

  • どこの市場を狙うのか(Segmentation)
  • どの顧客に集中するのか(Targeting)
  • どのような価値を伝えるのか(Positioning)

この地図とコンパスがあってこそ、SFAは情報を蓄積し、KPI/KSFが紐づき、CRMが生きた関係性を築く道具になります。
逆に言えば、戦略不在のままツールだけが先行してしまうと、現場には“作業だけが増えるツール”としか映らないのです。


いま必要なのは、「再設計」ではなく「再定義」です

SFA/CRMは多くの企業にとって、“仕方なく使うもの”になってしまっています。
この状況を打開するには、必要なのは機能改善やトレーニングではありません。
必要なのは、そもそも「何のためにあるのか」を再定義することです。

営業の成果を支援するために、
顧客の変化を可視化するために、
戦略を実行に移すために。

この本質に立ち戻ることができれば、SFA/CRMはようやく「現場の味方」としての役割を果たせるようになるはずです。


まとめ

SFA/CRMが営業の武器にならなかったのは、営業が悪いからでも、本社が悪いからでもありません。
その間にある“思想のギャップ”が、いまだに埋められていないからです。

KPIだけを追っても売上は上がりません。
標準化を進めても、個別最適の積み重ねには勝てません。

SFA/CRMを“営業の武器”として生まれ変わらせるためには、STP戦略という地図と、箱ではなくコンパスとしての機能を与える必要があるのです。

私は製薬企業に31年間勤め、営業(MR)、マーケティング、研修、デジタル、戦略と5つの部門を経験してきました。部門が変わるたびに直面する課題も変わり、それぞれに特有の“モヤモヤ”を感じ続けてきました。

MR時代は、「この活動に意味や根拠があるのか」と迷いながら日々を走り抜け、マーケティング部門では「現場との温度差により戦略が噛み合わない」もどかしさに直面しました。研修担当となってからは、「教えた知識が現場で活かされない」ギャップに悩み、デジタル部門では「せっかく開発したツールが現場で使われない」空回り感を味わいました。

営業管理職を経験したわけではありませんが、現場で受け取る指示には「属人的な感覚に頼ったものが多い」との声も多く、それもまたモヤモヤの一因です。そして何より特筆すべきは、これら部門ごとの“モヤモヤ”が、最終的にすべてMRに蓄積されていくという構造です。

その結果どうなるか。MRは「とにかく数をこなせ」とばかりに活動量を増やし、管理職はKPIの遂行に躍起となり、研修部門はスキルアップメニューを次々と投下、デジタル部門はダッシュボードに数字を並べ、マーケティングは施策を月替わりで打ち出し、経営層は評価指標をより厳格に設定する。

どこかで見たことのある光景ではないでしょうか。これらの多くは、実は「部分最適の積み重ね」に過ぎず、本質的な課題に踏み込めていないどころか、状況を悪化させてしまっているケースさえあります。

かつてはこれでも何とかなっていました。市場が成長していたからです。曖昧な戦略や対処療法的な対応でも、拡大する市場に乗って売上は伸びていた。しかし今、その前提は大きく崩れつつあります。

業績悪化は現実のものとなり、旭化成が血液浄化事業を売却し、協和キリンは希望退職を募り、塩野義製薬は鳥居薬品へのTOBを行うなど、再編の動きも加速しています。 もはや部分最適の延長線上では限界です。いま、製薬業界に求められているのは「全体最適化」。断片的な改善ではなく、戦略、組織、行動すべてを統合した“本質的な変革”が必要な時代に来ているのではないでしょうか。


概要

最近、製薬業界でもAI活用のニュースが次々と報じられています。中でも注目を集めているのが、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)社が導入した営業支援AI「CE³(Customer Experience and Engagement Engine)」です。医師の潜在的ニーズを予測し、MRにサジェスチョンを行うことで、面談のインパクトを最大化しようという意欲的かつ先進的な取り組みです。

AIが処方傾向や論文閲覧履歴などのデータから、今後起こり得る医師の疑問を予測し、そのタイミングで情報提供を行うことで、個別最適化されたMR活動が可能となり、結果として医師の満足度向上につながる。理想的なストーリーですし、BMSが語る「卓越した実行力」には確かな意志と戦略的な意思決定が感じられます。

しかし一方で、こうしたAI活用に対しては、冷静な視点からの問いかけも必要ではないでしょうか。BMSの取り組みには一定の意義がある一方で、現場・戦略・本質という3つの側面から、いくつかの限界や懸念があることも事実です。


視点①:AIの予測精度は“現場の入力”次第

まず見過ごせないのは、AIの予測精度は投入されるデータの質と量に大きく左右されるという点です。特に医師のインサイトを読み解くようなセンシティブなモデルを構築するには、きめ細かなフィールドデータが不可欠です。しかし、現場のMRが日々の業務の中で高精度な記録を残し続けるのは、現実的には簡単なことではありません。

データ入力の負担が増えれば、現場の生産性が下がるだけでなく、入力の質にもばらつきが生じます。最悪の場合、AIが学習するのは「入力しやすい医師」「話しやすい医師」の情報ばかりとなり、そこから導き出されるサジェスチョンも自然と偏っていくおそれがあります。

つまり、「話しやすい医師にまた会いに行く」ことが推奨されるような状態になれば、本来ターゲットとすべき医師にはリーチできないまま、AIのリコメンドが再生産されてしまうのです。

おそらくBMSは「完璧な予測」ではなく、「推奨ヒント(レコメンド)提供」を現実的な落としどころとしているのだと推測されます。医師が次に関心を持つ可能性が高いテーマをいくつか提示し、MRが会話の入り口として活用することで、タイミングと情報の質の最適化を目指しているのでしょう。これは“AIによる先読みのきっかけ提供”という意味で、人的資源の価値を最大化するアプローチとして評価できます。


視点②:AI活用が進むほど「誰に会うべきか」の重要性が増す

この点でより本質的に重要なのが、「誰に会うべきか」が明確になっているかどうかです。AIはあくまで“既にある行動データからパターンを見出す”ツールであり、「誰に会うべきか」を判断することはできません。

製薬業界はゼロサムに近い市場構造へと変化しています。限られた医師に対して、限られた時間とリソースをどう投入するかこそ、競争優位性獲得につながります。戦略的ターゲティングのない状態でAIを稼働させても、それは「効率よく無駄なことをやる」だけになりかねません。

この観点では、本社の組織再編よりもむしろ、競争環境や市場構造を見極めたうえで、どの地域・どの施設・どの医師にどれだけ営業資源を配置するかという判断こそが重要です。


視点③:予測精度が上がるほど、同質化のリスクも高まる

現在は“AI導入”そのものが先進的に見えますが、技術の汎用化が進めば、いずれはどの企業も同じようなデータとアルゴリズムを用いることになります。その場合、差別化は困難となり、先行者利益は短期的で終わる可能性も高く、ROIの観点でも不安が残ります。

すでに武田薬品やアステラス製薬、MSDなども類似の取り組みを進めており、予測精度そのものでは持続的な優位性は築けません。
最終的に差がつくのは、「誰を狙うか」というターゲティング戦略と、限られた経営資源をどう集中させるかという意思決定です。

また、潜在ニーズとはそもそも「起こる前にはデータとして存在しない」ため、教師データの構築が困難です。副作用の発生、学会での発表、他剤の承認といった突発的な要因が予測の精度に影響する構造も、AIにとっては大きな壁となるでしょう。


視点④:医薬品において本当に重要なのは「ウォンツ」への対応

医師の処方行動は、一般消費財とは異なり「感情」や「印象」に左右されにくく、エビデンスやガイドラインに基づいています。したがって、いくらAIが潜在的ニーズを先読みしても、それが医師の意思決定に実質的な影響を与えるとは限りません。

むしろ、医師が「今、必要としている情報(=ウォンツ)」に的確かつ迅速に応えることのほうが、本質的な価値提供といえます。
このためには、適正使用に必要な情報を、適切なタイミングで、最適なチャネルを通じて届けるという、戦略に基づいたオムニチャネル設計と実行が求められます。

つまり、勝負を決めるのはAIではなく、「どの情報を、どの対象に、どう届けるか」の戦略的判断なのです。


まとめ:AIは万能ではない。戦略との整合性が問われる時代へ

AI活用が加速する時代において、注目すべきは「どのようなツールを持っているか」ではなく、「誰に、何のために、どう使うか」という戦略の整合性です。

その意味で、AIが真価を発揮するのは、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)戦略が明確に設計されていることを前提として、支援ツールとして活用されたときに限られます。

BMSの取り組みは、AI活用の先進事例として注目されますが、それを価値あるものにするためには、まずは「戦略的ターゲティングとリソース配分の最適化」こそが不可欠です。

「AIで何をするか」よりも、「戦略として何を達成するか」。
テクノロジーの進化とともに、私たちの“問いの質”も進化していくべき時代なのかもしれません。

ミクス記事リンク:BMS・勝間社長 AI機能活用の営業サポート「シーイーキューブ」 医師の潜在ニーズ予測 MR活動最適化

ランチェスターの法則を「使えるかたち」に変えるDXS Stratify®

フレデリック・ランチェスターが第一次世界大戦中に提唱した「ランチェスターの法則」は、兵力と攻撃効率を数式で表す戦闘理論として知られています。これは「戦いの構造を定量化する」ことを可能にした、きわめて合理的な数理モデルです。

この法則は、日本では「ランチェスター戦略」として経営に応用され、多くの中小企業経営者に実践されてきました。特に「弱者の戦略」「一点集中」などの指針は、経営判断の座標軸として今なお広く支持されています。

ビジネス書やマーケティングで取り上げられるこの「法則」は、多くの実務において概念的な戦略論として簡略化され、より広く普及するようになりました。これにより理解のしやすさは得られましたが、その一方でポジショニングやリソース配分における定量的根拠の欠如という曖昧さも残る結果となっています。

このギャップを埋めるために開発されたのが、DXS Stratify®です。
本ツールは、ランチェスターの法則を基盤としながら、市場シェア理論や競争構造分析を統合し、戦略判断を誰でも再現可能な定量分析に変換するアルゴリズム
を搭載しています。

つまりDXS Stratify®は、「勘や経験で戦略を語る時代」から、「誰もが構造的に戦略を設計できる時代」への橋渡しをするラスト1マイル的な存在です。市場が成長から縮小へ、競争が分散から集中へと移行する今、戦略にはこれまで以上に構造性と合理性が求められます。

DXS Stratify®が目指すのは、「ランチェスターの法則」の価値を、DX時代にふさわしいかたちでアップデートすることです。

*本製品の理論的基盤は、英国の技術者フレデリック・ランチェスターによって提唱された「ランチェスターの法則(Lanchester’s Laws)」にあります。この法則は、戦闘の勝敗を数理的に示すものであり、当社はこの原理をマーケットシェア理論および競争環境分析に応用しています。「ランチェスター戦略」という用語は使用しておらず、本製品は数理モデルとしての「ランチェスターの法則」に基づいた再現可能な定量分析を実現しています。

現在の不眠症治療薬市場において、ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系薬剤は依然として主流ですが、作用時間別に見ると、シェア構造には大きな差があります。中間型は安定した強者、超短時間〜短時間型は揺らぎのあるポジション、そして長時間型は、相対的に最も脆弱なポジションにあると分析されています。

つまり、長時間型セグメントこそが「攻略すべきターゲット」なのです。競争の原則は「弱者を攻めよ」。この基本原則を戦略に落とし込むならば、オレキシン受容体拮抗薬(ORA)はまずこの脆弱なゾーンにリソースを集中すべきです。

長時間型を使っている医師・患者層には、「しっかり眠れること」を求めつつ、依存性や翌朝のふらつきを懸念するニーズが潜在しています。ここに対し、「自然な眠りを促す新しい作用機序」「依存性が少ない」「高齢者にも安心」というORAの質的優位性を丁寧に訴求することで、切り替えの動機付けが可能になります。

特に、高齢者施設や慢性疾患の入院患者など、長期処方を前提とした施設は重点ターゲットです。施設別の処方傾向を分析し、処方医に対して切替事例や患者QOLの改善実績を示すことで、導入のハードルを下げることができます。

今はまだ、絶対的な王者が存在しない不眠症治療薬市場。だからこそ、「どこから攻めるか」「どこに勝機があるか」を見極め、データと論理に基づいた行動が鍵となります。競争の原則に従って、最も脆弱なセグメントに戦力を集中すること。それが、オレキシン受容体拮抗薬が牙城を崩す突破口となるでしょう。

このように、IQVIA社のDDDを用いれば、営業部、支店、課、MRでの全粒度での分析およびターゲティングとリソース配分が可能です。


1. 現状分析:ベンゾ・非ベンゾ市場内のシェア構造

作用時間型シェア評価戦略的意味
中間型安定目標値安定的な強者(攻めにくい)
超短〜短時間型下限目標値弱者と強者の境界(揺らぎがある)
長時間型上位目標値弱者の中の相対的強者(脆弱な拠点)
  • 長時間型が最も脆弱なゾーンであり、攻略の優先ターゲット
  • 現在のシェアギャップから見て「絶対的な強者」は不在

2. 戦略仮説:オレキシン受容体拮抗薬(ORA)のポジショニング

  • 「依存性が低い」「自然な眠りを誘導」「新規作用機序」などの質的優位性
  • 長時間作用を期待される患者・医師ニーズに適合
  • 長期処方・高齢者施設・慢性不眠患者層において優位

3. 戦術フレーム:フェーズ別アプローチ

フェーズ戦術具体策
興味喚起比較喚起従来薬と同じ“長時間”でも、依存性リスクが低い
優位訴求教育オレキシンという新しい作用機序で自然な睡眠
切替提案ケース提示長期処方患者へのQOL改善事例紹介
実行支援KPI設計処方傾向の高い施設リスト化→個別訪問→切替フォロー

4. 必須条件

  • 市場データに基づいた戦力量分析(DXS Stratify®などの活用)
  • MRによる施設別ターゲティング支援
  • 医師・薬剤師向けFAQ・比較資料の整備

5. 提言まとめ

弱者から攻略するランチェスターの法則に従い、ベンゾ・非ベンゾの中でも最も脆弱な「長時間型」セグメントにオレキシン受容体拮抗薬の強みを集中投下することが市場獲得の最短ルートであることが示唆されます。質的優位とデータに基づいた戦力集中こそ、持続的な競争優位性につながるのです。