日本の医薬品市場は現在、構造的な変化のただ中にあります。薬価改定の繰り返しやジェネリック医薬品の浸透により、長期収載品の価値が低下し、市場規模は縮小傾向にあります。主要8社の国内売上高を見ると、多くの企業で前年割れとなっており、この傾向は今後も続くと予想されます。

一見すると、為替の変動や海外市場の成長によって企業業績が安定しているように見えるかもしれません。しかし、国内市場の縮小は、企業の収益基盤を揺るがしかねない深刻な問題です。各社は販管費の削減をはじめとするコスト圧縮策を加速させていますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。
このような状況が続けば、国内売上高の構成比はさらに低下し、医薬情報担当者(MR)の配置見直しや削減、共同販促による固定費分担など、販売体制の再構築が避けられなくなるでしょう。その結果、販売カバレッジの維持コストは上昇し、国内市場向けのパイプラインの優先度が下がり、国内専用の製造ラインも整理・統合されると考えられます。中堅企業では、海外M&Aによる事業ポートフォリオの分散を進める動きがさらに活発になるかもしれません。
さらに、5年から10年後には、国内医薬品市場の成長率は停滞し、政府による供給確保策の検討や、受託製造・卸売業界の再編が進行する可能性もあります。このままでは、日本の医薬品市場は、研究・イノベーションの拠点としての重要性こそ維持されるものの、収益源としての地位は相対的に低下していくでしょう。
こうした中で製薬企業が生き残るためには、グローバルでの成長可能性が高い品目への集中投資、アセットライトな日本事業モデルの構築、薬価制度改革への積極的な提言、為替差益を活用した海外資産の取得、リージョナル製造ハブの最適化など、多角的な戦略が不可欠です。
また、こうした変化は製薬企業だけでなく、患者や医療従事者、卸・流通業界、政府・規制当局など、医薬品エコシステム全体に影響を及ぼします。たとえば、ドラッグラグの拡大や希少疾病薬の国内導入の遅れ、卸・流通業界の利幅縮小と再編、政府・規制当局における産業雇用の維持と医療費抑制の両立といった課題が顕在化する可能性があります。
企業には、変化のスピードに柔軟に対応し、主体的に事業規模を最適化するとともに、グローバルな視点に立った戦略の構築が求められています。
