最初は自分で選んでいたはずのコンテンツが、気が付けばリコメンデーションされるコンテンツをなかば無意識に選択していませんか?今日、私たちの生活のあらゆる場面で目にするリコメンデーションシステムは、Eコマースや動画配信サービス、音楽ストリーミングなど、私たちの選択を効率化してくれる便利な仕組みとして、その存在感を増しています。しかし、これらのシステムの進化の裏側には、特に大企業が持つ圧倒的な競争優位が隠れています。


フィードバックループ問題:便利さの裏に潜むリスク

リコメンデーションシステムの進化に伴い、多くの企業が直面しているのが「フィードバックループ問題」です。これは、システムが過去のデータと顧客の反応をもとに新しい提案を行う過程で、ユーザーの嗜好を狭めてしまう現象です。たとえば、一度「推奨」された商品が購入されると、それが顧客の好みとしてデータに記録され、同じような商品がさらにリコメンドされる。このサイクルが続けば、本来の多様な嗜好や興味が見えなくなってしまいます。

自律性喪失が企業に与える影響:短期利益と長期リスク

リコメンデーションシステムの進化が引き起こす「自律性の喪失」という新たな課題が注目されています。顧客が自分自身で選択するプロセスを放棄し、システムによる提案を無批判に受け入れる行動は、短期的には企業にとって非常に好都合です。効率的な販売プロセス、在庫管理の最適化、そして顧客との接点強化は、売上向上に直結するでしょう。しかし、この状況には長期的なリスクも潜んでいます。

短期的なメリット

  • 売上の安定化: 顧客がリコメンデーションに従うほど、販売プロセスが予測可能になり、収益の安定化が図れます。
  • 運用コストの削減: リコメンデーションにより、マーケティングや広告費用を削減しながらターゲット層に効率よくアプローチできます。

長期的なリスク

  • ブランド価値の低下: 顧客が自律的な意思決定を放棄すると、ブランドに対する愛着が弱まり、競合製品への乗り換えが容易になります。
  • 市場の画一化: 顧客の選択肢が狭まることで、マーケット全体が均質化し、差別化が困難になる可能性があります。

大企業の優位性:リソースの集中が成功を後押し

この問題を克服するためには、単に「過去を見る」だけでなく、新しい選択肢を積極的に探索する必要があります。しかし、こうした対策には膨大なデータ、先進的なアルゴリズム、そして継続的なシステム改善が求められます。フィードバックループ問題を含む課題に取り組む上で、大企業が持つ優位性は明白です。

  1. 膨大なデータ量 大企業は、膨大な顧客データを蓄積しています。このデータは多様で質が高く、アルゴリズムのトレーニングや精度向上において大きなアドバンテージとなります。
  2. 高額な技術投資 NetflixやAmazonのような大企業は、最新のAI技術やハイブリッドモデルを採用するために多額の投資を行っています。これにより、多様性を確保しながらも顧客体験を損なわない高度なシステムを構築しています。
  3. 継続的な検証と監査 GoogleやMeta(旧Facebook)は、アルゴリズムのバイアスや精度を監査するためにA/Bテストや専門チームを設けています。このような体制を維持できるのも、大企業ならではのリソースの余裕があってこそです。
  4. グローバルなスケール 大企業は異なる地域や文化圏から得たデータを統合し、多角的なアルゴリズムを構築することで、より幅広いユーザー嗜好に対応しています。

自律性維持が企業にとっての長期的利益を生む理由

企業が短期的な利益にとらわれず、顧客の自律性を尊重することは、長期的な競争優位につながります。ここでは、顧客自律性を促進する具体的な施策と、その効果について考察します。

(1) 顧客ロイヤルティの向上

顧客が自分で選択する喜びを感じられる環境を提供することで、ブランドへの信頼が深まり、リピート率が向上します。

(2) エンゲージメントの強化

顧客に新しい選択肢を提示し、自己発見のプロセスを支援することで、顧客体験の質を向上させ、競合との差別化が可能になります。

(3) 市場での独自ポジションの確立

顧客の自律性を重視する企業は、「消費者中心」のブランドとして市場での地位を確立しやすくなります。このアプローチは、単なるリコメンデーション技術の競争を超えた価値を提供します。

一方で、中小企業はこうしたリソースを持たないため、フィードバックループ問題への対応が難しいのが現実です。新たな技術を導入するためのコスト負担やデータ量の不足、システム監査のための専門知識の欠如など、多くの壁に直面しています。


大企業が果たすべき役割:未来のリコメンデーション戦略

特に大企業は、豊富なリソースを活用し、顧客の自律性を失わせるのではなく、「選択の自由と利便性の両立」を追求する役割を果たすべきです。そのためには、以下のような戦略が重要です:

  • 多様性の組み込み: 顧客の過去データだけでなく、新しい選択肢やサプライズを提案し、選択の幅を広げる。
  • 透明性の確保: リコメンデーションの仕組みや理由を顧客に伝え、提案内容への理解を深める。
  • インタラクティブな仕組み: 顧客が提案内容をカスタマイズできる機能を導入し、選択に主体的に関与できる環境を提供する。

これらの施策を通じて、大企業は短期的な利益にとどまらず、顧客との長期的な関係構築に成功するでしょう。


最後に:リコメンデーションの未来とは

リコメンデーションシステムは、顧客体験を向上させるための重要なツールである一方で、顧客の自律性を奪うリスクを伴います。特に大企業は、このテクノロジーをどのように活用するかによって、短期的な利益だけでなく、企業としての社会的責任やブランド価値が問われる時代に突入しています。

顧客にとって真に価値のある体験を提供するためには、利便性の提供と選択の自由のバランスを追求することが不可欠です。

組織の成功を追求する中で、「ベストプラクティスの共有と実行」は組織全体のレベルを引き上げる特効薬のように考えられています。企業は成功事例を収集し、それを分析して他のチームや地域で同じ戦略を実行しようとします。このアプローチには一定の効果がある一方で、その限界が見過ごされることも多く、不適切な取り組みや期待外れの結果を招くことがあります。ここでは、なぜベストプラクティスが万能ではないのかを掘り下げてみましょう。


1. 文脈が成功を決定づける

ベストプラクティスは、特定の状況から生まれるものです。成功に貢献する要因(市場環境、組織文化、競争状況など)は固有のものであり多様性を持っています。これらの条件が揃わなければ、同じ行動をただ実行しても望む結果を得られない可能性があります。たとえば、成長市場で成功した販売戦略は、成熟市場や縮小市場では競争が激化し、同じ成果を得られないかもしれません。

ポイント:

「何をしたか」ではなく、「なぜうまくいったのか」を理解することが重要です。


2. イノベーションを妨げるリスク

ベストプラクティスに過度に依存すると、組織が停滞する可能性があります。同一行動の実行に重きを置きすぎることで、実験やイノベーションが犠牲になることがあります。高い成果を上げる人々は、しばしば課題に創造的に適応することで成功を収めています。固定化された手法の盲信は、新しい発見や突破口を見逃すリスクを生みます。

ポイント:

ベストプラクティスはあくまで「指針」として活用し、柔軟性を持つべきです。


3. 「一律適用」は現実的でない

チームや個人は、それぞれ強みやスキル、働き方が異なります。一つの方法があるチームでうまくいっても、別のチームではその方法が合わない場合があります。たとえば、高度なデータ分析を必要とする顧客対応戦略が、必要なツールや専門知識を欠くチームでは実現困難になることがあります。

ポイント:

ベストプラクティスを適用する際は、チームや組織の特性に合わせたカスタマイズが不可欠です。


4. シンプルすぎる解釈の罠

ベストプラクティスはしばしば簡潔な成功ストーリーとして提示されますが、実際には非常に複雑です。成功は単一の要因によるものではなく、タイミングや実行の質、さらには運といった複数の要素が絡み合っています。単純化された成功事例に注目しすぎると、真に結果を生み出した要因を見落とす可能性があります。こんなことを訴求したら上手くいったなどのマジックワードはありません。

ポイント:

単純化を避け、成功の背後にある複雑な要因を深く掘り下げる必要があります。


5. 現状維持バイアスを強化する

ベストプラクティスは過去の成功から生まれることが多いため、組織を過去の戦略に縛り付ける可能性があります。特に変化の激しい環境では、過去に有効だった方法を踏襲することで、新たな課題への対応が遅れるリスクがあります。市場は進化し、競合は適応し、顧客ニーズは変化します。かつてのベストプラクティスが陳腐化することも珍しくありません。

ポイント:

古い仮定に疑問を持ち、常に戦略を見直すことが重要です。


まとめ

ベストプラクティスは重要ですが、それだけに依存するのは危険です。その効果は文脈に依存し、イノベーションを妨げる可能性があります。背景分析や適応的戦略設計を取り入れることで、単なる模倣にとどまらず、持続可能な成功を実現する道を切り開くことができます。

DXS Stratify®は、背景分析と適応力に焦点を当てたアプローチを提供し、ベストプラクティスの盲目的な適用に代わるソリューションを提示します。

ビジネスを語る際、「顧客への価値提供」というフレーズはよく取り上げられます。しかし、「価値」という言葉の意味は非常に曖昧です。それは問題解決のことなのか、ニーズを満たすことなのか、それともそれ以上のものなのでしょうか?「価値」の本質と、企業がどのようにそれを効果的に提供できるのかを掘り下げてみましょう。


価値は問題解決だけではない

顧客のニーズに応え、課題を解決することと捉えられがちです。確かにそれらは重要ですが、しかし価値はそれを超えたところにあります。価値の本質とは、顧客がその結果として得られる具体的な得や利益にあります。それは、効率化による時間の節約やコスト削減などによる目標達成や、感情的価値や社会的価値などの顧客にとっての得や利益をもたらすことです。


価値の中心:ROIと費用対効果

価値を端的に表現すると、それは投資対効果(ROI)や費用対効果に集約されます。顧客は製品やサービスに投資したお金や時間、労力が、それによって得られる成果を上回ることを求めています。企業にとっては、自社の商品やサービスが明確かつ測定可能な優位性を提供できるようにすることが重要です。


製薬企業が新しいCRMシステムを導入するとします。このシステムが年間10万ドルのコストを要する一方で、売上を20%向上させることができれば、そのROIは明確であり、顧客にとって価値ある投資となります。


結論

価値提供の本質は、顧客が少ないリソースでより多くを実現できるようにすることです。具体的には、より高いROIや費用対効果を提供することが重要です。これにより、顧客との強固で持続可能な関係を構築することができます。

顧客の立場に立って、次の質問を自問してみてください。


それって「どんな得があるの?いったいいくら儲かるの?」

伊藤忠商事は健診データ活用した製薬向けマーケティング支援を開始しました。製薬企業は自社の製品を処方されたかどうかより、まず対象となるCKDの患者の市場拡大にKPIとして置いているそうです。果たしてこの戦略は製薬企業に利益をもたらすでしょうか?

売上を増やすために多くの企業が市場拡大に多額の投資を行います。しかし、その拡大が結果的に競合を強化することにつながるとしたらどうでしょうか?市場を成長させることは必ずしも持続可能な競争優位性を生むわけではなく、むしろ企業のポジションを弱める可能性があります。ここでは、市場拡大に伴う主なリスクを検討します。

1. 市場拡大が市場シェアの低下を招く

市場が拡大すると、全体の売上が増加する可能性があります。しかし、すべての企業が均等に利益を得るわけではありません。競争力のある企業が新たな機会をより効果的に活用すれば、市場シェアの低下につながる可能性があります。

2. コストをかけて競合を強化するリスク

企業が疾患啓発や教育、顧客獲得のための施策を実施することで、市場全体が成長します。しかし、市場シェアの大きい競合は、その拡大による恩恵を追加コストなしで享受することができます。

3. 競争の激化

市場の成長は、新規参入を誘い競争を激化させる要因にもなります。既存の強力なプレイヤーがさらに市場での地位を強化し、新規参入者が増加することで、利益率が低下するリスクが高まります。

4. 短期的な売上増 vs. 長期的な競争力

市場拡大により短期的な売上増が期待できても、それが長期的な競争優位性につながるとは限りません。市場シェアの低下が続けば、売上増加が一時的なものにとどまり、持続可能な成長を達成できなくなる可能性があります。

5. 市場データへの不平等なアクセス

業界によっては、特定の企業が市場データを独占的に活用できる場合があります。市場拡大の施策が外部のデータ提供者やパートナーシップを伴う場合、競合も同じデータにアクセスできるリスクがあり、差別化が困難になります。

6. 競争要因の制御不能な増加

市場拡大は単に新しい需要を生み出すだけではなく、規制の変更、処方習慣の変化、競合の動きなど、企業が直接コントロールできない要因を増やす可能性があります。戦略的なポジショニングが不十分な場合、競争環境に対応することが困難になります。

7. 市場シェアを取り戻すコストの増大

市場シェアを失うのは簡単ですが、それを取り戻すのは非常に困難です。一度競合が顧客の信頼を獲得すると、奪い返すためのコストは飛躍的に増大します。市場拡大の恩恵を享受できなかった企業は、後から高額な顧客獲得コストを負担することになります。

結論: 成長だけでは不十分

マーケットシェア理論では、拡大した市場は参入者のシェア値に応じて細分配されます。特に市場ライフサイクルが成熟期から衰退期向かうフェーズではより顕著です。

市場拡大は売上を押し上げる手段の一つですが、企業はそれによって真の競争優位を確保できているかどうかを慎重に評価する必要があります。成長そのものが成功を決定づけるわけではなく、その成長が 持続可能な市場支配力 につながるかどうかが重要です。しっかりとした戦略がなければ、市場拡大は単に「敵に塩を送る」行為に終わるかもしれません。

DXS Stratify®は市場規模の軸に、競争地位および競争優位性の軸を加えることで、適切なターゲティングとリソース配分を実現します。

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面接では必ずと言っていいほど、以下の3つの質問が聞かれます。
①これまでの経歴について(過去)
②志望動機について(現在)
③自己の強みについて(未来)

これらは、それぞれ「過去、現在、未来」の観点であなたの価値、すなわち強みを引き出すための質問です。そして、面接官にあなたが「どのように会社に価値を提供できる人材か」を印象付ける絶好の機会でもあります。単にそれぞれの質問に答えるのではなく、3ステップで、自分の価値を戦略的にアピールすることが重要です。

以下では、それぞれの質問にどう答えるべきかを解説します。


1. これまでの経歴(過去の強み):過去に培ったスキルや成果を強調する

この質問では、あなたがこれまでどのようなスキルを身に付け、どんな成果を上げてきたかが問われています。具体的なエピソードや数字を交えて、実績をしっかりと伝えましょう。自分の過去の経験がどのように積み上がり、今の自分を形作ったのかを示すことで、面接官に信頼感を与えられます。


2. 志望動機(現在の強み):今の自分が会社にどう貢献できるかを示す

志望動機は、「現在の自分がどう活躍できるか」をアピールする場です。ここでは、企業が求めるスキルや経験に、自分のスキルをどう活かせるのかを具体的に説明します。事前に企業研究を十分に行い、自分の強みと会社のニーズが重なる点を明確にすることが重要です。


3. 自己の強み(未来の強み):他の候補者との差別化ポイントを明確にする

この質問では、未来に向けてあなたがどんな強みを活かし、どのように会社に貢献できるかが問われています。ここでは、自分の特長や強みが、将来的にどのように役立つかを具体的に述べ、面接官に期待を抱かせることがポイントです。


まとめ:3回繰り返して価値を印象付ける

面接での、「これまでの経歴」「志望動機」「自己の強み」の3つの質問は、自分の「過去の強み」「現在の強み」「未来の強み」価値を段階的に伝える、戦略的な絶好の機会です。それぞれの質問に対して、自分の価値を的確に伝え、面接官に「この人なら活躍してくれそうだ」と思わせることが、面接成功への鍵です。

さあ、次の面接では、この「過去・現在・未来の強み」を意識して、自分の価値をしっかり伝えてみてください!

顧客ニーズの多様化は、明確で統一されたニーズが少なくなっていることを意味すると言えます。プロダクトアウト型のビジネスモデルでは、企業が自社の能力や技術を基に製品を開発し、必ずしも特定の顧客の要求を考慮しないという特徴があります。このアプローチは、市場がより均一であり、顧客ニーズを予測したり一般化したりすることが比較的容易だった時代には効果的でした。

しかし、顧客ニーズが多様化するにつれて、嗜好が細分化され、市場がカスタマイズやパーソナライズに向かう中、「明確」または「普遍的」なニーズを特定することが難しくなっています。その代わりに、顧客のニーズは暗黙的で潜在的、または非常に個別的なものになることが多く、これらを発見したり、共創したりするアプローチが必要です。

このような環境では、特定の顧客ニーズを理解し、解決することを重視するマーケットイン型のアプローチがより効果的です。この視点が欠けていると、プロダクトアウト型の戦略は、現代市場の細分化された需要に響かない解決策を生み出すリスクを伴います。

産業が成長を遂げた初期の時代、ビジネスモデルの主流はプロダクトアウト型でした。企業は自社の強みである技術力、生産能力、そしてイノベーションを活かし、市場が求めるであろう製品を生み出すことに集中していました。このアプローチは、フィリップ・コトラーのマーケティング1.0に対応しており、顧客が製品の性能や機能を最優先するという前提に基づいていました。当時、顧客のニーズは比較的均一であり、高品質で信頼性のある製品を提供することが競争優位を得るために十分だったのです。

しかし、市場が進化するとともに、消費者の行動も変化しました。マーケティング2.0の時代が訪れると、製品中心のアプローチから顧客中心のアプローチへの大きな転換が起こりました。企業は特定の顧客ニーズを理解し、それに応えることが持続的成功の鍵であることを認識し始めたのです。ここで登場したのがマーケットイン型のアプローチであり、顧客調査やセグメンテーション、ターゲティング戦略を重視する時代となりました。マーケティング1.0の一律的な手法とは異なり、マーケティング2.0では多様化する顧客の嗜好に対応する柔軟性が求められました。

しかし、この変化はそこで止まりませんでした。デジタル技術の爆発的な進化やグローバル化の進展により、顧客の要求はさらに多様化しました。現代はマーケティング3.0および4.0の時代に突入しています。この時代では、顧客ニーズが多様化するだけでなく、顧客自身の価値観や社会的責任、そしてデジタルとのつながりがビジネスに大きな影響を与えています。もはや明確で普遍的な顧客ニーズは珍しくなり、その代わりに断片化され、潜在的な需要が顕在化してきています。これらに対応するためには、より動的で参加型のビジネスアプローチが必要です。

この変化は、プロダクトアウト型モデルの限界を浮き彫りにしています。市場を理解せずに製品を開発することは、顧客の共感を得られないリスクを伴います。一方で、マーケットイン型モデルは、顧客とのコラボレーションやデータに基づいた意思決定を重視し、複雑で断片化された現代市場において必須のアプローチとなっています。

プロダクトアウトからマーケットインへの移行は、単なる適応ではなく、ビジネス戦略における必然的な進化です。コトラーの理論が示すように、多様化し流動的で、より厳しい期待を持つ顧客に応えるためには、この転換を受け入れることが重要です。

では、現代の企業はどうすべきでしょうか?それは、プロダクトアウト型のイノベーション志向のルーツと、マーケットイン型の顧客中心の洞察を融合させることにあります。このシナジーこそが、これからの市場で成功を収める企業を定義する要素となるでしょう。

ライフスタイルの変化や多様化する顧客のニーズに応えるため、企業は自社製品の情報提供の手段として、マルチチャネルやオムニチャネルの整備を急ピッチで進めています。SNSやメール、チャットボットからWeb講演会やコールセンターまで、さまざまな手段を用意することは、顧客体験を向上させるために重要な取り組みです。しかし、ここに一つの大きな落とし穴があります。それは、適切なチャネルは顧客自身が選択するものであり、適切なチャネルの標準化を目指すあまり、手段そのものが目的化してしまうことです。

どのチャネルが有効かを議論する際、企業はしばしばチャネルごとにデータを評価します。しかし、このデータ自体がKPIによるバイアスの影響を受けていることが少なくありません。たとえば、「デジタルチャネルの利用率を上げる」という目標がKPIとして設定されている場合、リソースはデジタルチャネルに偏りがちです。あるいは営業担当者が直接顧客からアンケートを取得すれば人的チャネルの評価が高い結果になります。そのため、顧客が実際に望む手段が選択肢から外れ現状を見誤ることもあります。

さらに根本的な問題は、そもそも「手段の目的化」が起きている点です。たとえるなら、「車が良いか、飛行機が良いか、船が良いか」を議論する前に、「目的地はどこか」「何を運ぶための手段なのか」を明確にしなければならないということです。チャネルはあくまで情報提供の手段であり、それ自体が目的ではありません。本来の目的は、「どのような価値を、どの顧客に、どのように届けるのか」を定義することです。


DXS Stratify®が提供する新たな視点

このような課題に対して、弊社が開発したDXS Stratify®は、戦力量を定量化し、競合他社に対して競争優位性を獲得するために必要な活動量を算出するツールです。このアプローチは、チャネルの有効性を議論することにとどまらず、「必要な活動量を確保するために実現可能な手段を活用する」という新しい視点を提供します。

DXS Stratify®は、以下の点で手段の目的化を防ぎ、企業が真に目指すべきゴールに集中できるよう支援します。

  1. 必要な活動量を明確化
    市場や競合の状況に基づき、競争優位を確保するために必要な活動量を具体的に算出します。
  2. 実現可能なチャネルの選択
    目標達成のために、現実的なリソースと条件に合致したチャネルを定性的に選択することで、活動量を確保します。
  3. リソース配分の最適化
    必要な活動量を達成するために、人的リソースや予算を戦略的に配分し、効果的なチャネル活用を実現します。

本質に立ち返るための戦略ツールとして

DXS Stratify®は、単なるデータ分析ツールではありません。企業がチャネルやKPIの議論に囚われることなく、競争優位性を築くための戦略的な意思決定を支援します。チャネルそのものが目的化してしまう危険性を回避し、目標達成に向けて本当に必要な活動を明確にすることが可能です。

「適切なチャネルを探す」のではなく、「必要な活動量を確保する」――この視点が、企業の競争力を強化し、顧客に真の価値を届ける鍵となるのです。DXS Stratify®は、企業がこの新たな視点を取り入れ、持続的な成長を実現するための強力な武器となるでしょう。

供給チェーンの混乱が発生した際に、製薬企業が自社製品の代わりに競合他社の製品を同等な代替品として推奨することがあります。一見すると、これは製品の差別化を図るという基本戦略と矛盾しているように見えます。そもそも、企業が自社製品の独自の優位性を強調する一方で、競合他社の同等製品を推奨する理由はどこにあるのでしょうか?

医薬品の本質:同等性が前提

医薬品は厳格な規制基準に基づき開発・販売されています。この基準は、ブランド名の薬であれジェネリック薬であれ、一貫した有効性と安全性を保証することを目的としています。この高い標準化の結果として、同一成分を持つ製品の差別化は必然的に限定されます。そのため、供給不足時に競合他社の製品を代替品として推奨することは、業界全体で共有される「同等性」という基盤を反映しており、競争上の差別化を放棄するものではありません。

患者に対する倫理的責任

製薬企業の第一の使命は、患者の健康と治療の継続性を守ることです。供給の中断が治療の継続に支障をきたす場合、同等の代替品を提案することは、患者の治療を中断させないための措置です。このような場合、競争よりも倫理的責任が優先されます。こうした行動は、医療従事者や社会全体との信頼を維持する長期的な戦略とも言えます。

製品以外での差別化

製薬業界では、科学的厳密性が求められるため製品そのものでの差別化が難しい一方で、以下のような領域で差別化を図ることが可能です。

  • 情報提供の質: 医療従事者にタイムリーでエビデンスに基づく情報を提供する。
  • サービスの充実: 安定した配送システムや支援プログラム、個別対応のソリューションを提供する。
  • 供給体制の安定性: 製品の安定供給を実現する。
  • 経済的価値: 医療システムにとってコスト効率の高い選択肢を提供する。

これらの要素により、製品そのものが類似していても競争上の優位性を確保することができます。

差別化が限られる場合の戦略的影響

製品レベルでの差別化が難しい場合、企業はより広範な戦略的アプローチに目を向ける必要があります。例えば、資源配分の最適化、医療従事者との関係構築、ターゲット市場の絞り込みなどが重要な手段となります。

さらに、供給不足時に代替品を提案する行為は、医療従事者との関係を維持し、柔軟性を示すことで、供給が安定した際には信頼を活かして価値を再び訴求することが可能です。

市場の現実:製品間の差異の縮小

医薬品のライフサイクルにおいて、初期段階では革新的な薬剤が際立つものの、競合他社がジェネリックや類似品を投入するにつれて、製品間の差異は徐々に縮小します。この傾向は業界の特性として避けられないものですが、それが競争の終わりを意味するわけではありません。

競争の焦点は、業務効率、ブランド信頼、ステークホルダーとの関係に移行します。これらの分野で優れた成果を上げる企業は、コモディティ化した市場でも成功を収め続けることができます。

結論

供給不足時に競合他社の製品を代替品として推奨することは、差別化を損なうように見えますが、医薬品業界全体の優先事項である患者の安全、倫理的責任、長期的な信頼と一致しています。製品レベルでの違いが小さい市場においても、優れたサポート、サービス、戦略的なポジショニングを通じて差別化を図ることが可能です。

とはいえ製品の安定供給を実現することが強く求められることも事実です。

COVID-19のパンデミックは、製薬業界に大きな変革を迫りました。対面での情報提供が制限される中、多くの製薬企業はDX(デジタルトランスフォーメーション)による情報提供の推進に乗り出しました。その結果、医薬品市場は一強多敗、勝者総どりの傾向を強めています。なぜ、他社に遅れを取らないように推進した情報提供のDX化が期待に反する結果となったのでしょうか?この現象を紐解く鍵は、情報の供給側から需要側へのシフトにあります。これにより、従来の不完全競争市場から完全競争市場へと市場構造が変化し、一強多敗、勝者総取りの傾向が強まる結果となったのです。


情報主導権の移行がもたらした完全競争市場

DXの推進によって情報提供は劇的に改善されました。医師をはじめとする顧客は、製薬企業の営業担当者に依存せずとも、自ら必要な情報を集めて比較・検討できるようになりました。この変化は、従来の「不完全競争市場」、つまり製薬企業が情報の独占によって優位性を保つ市場構造を崩壊させました。代わって生まれたのは、顧客が自由に選択できる「完全競争市場」です。

しかし、情報過多の状態が顧客に新たな課題をもたらすことになりました。膨大な情報に圧倒された顧客は、すべての情報を検証することを諦め、多くの人が評価する製品を選ぶ傾向を強めています。この結果、すでに市場で高いシェアを持つ製品がさらに選ばれる「強者総取り」の現象が加速することになります。


ガイドライン配布に見る過去のパターン

この現象は、新しいものではありません。過去にも同様の傾向が観察されています。例えば、製薬企業が臨床ガイドラインを医師に配布する取り組みでは、競合他社より早く多く配布することで自社製品の処方を促進しようとしました。しかし、ガイドラインには特定の製品が推奨されることはほとんどなく、通常は同一クラスの薬剤が推奨されます。その結果、最終的にはガイドラインのクラス内で最もシェアが高い製品が選ばれる傾向がありました。

ガイドライン配布の事例からも明らかなように、情報の供給量が直接的に処方シェアの向上につながるわけではありません。むしろ、既に高いシェアを持つ製品が選ばれる傾向を助長するだけです。すなわち「敵に塩を送る」行為とも言えます。


シェアが低い企業に必要な戦略

シェアの低い製薬企業がこの流れに対抗するには、差別化された戦略が必要です。単に市場リーダーを模倣するのではなく、市場リーダーが重点を置かない地域や専門分野を特定し、そこでのシェア拡大を目指します。市場規模が小さくても、競争が緩やかなセグメントではリソースを効率的に活用できます。自社製品の独自の特長やアウトカムを明確に打ち出し、規模の競争ではなく、信頼関係の構築に注力します。全体市場ではなく、確実に投資効果が見込まれる活動にリソースを集中させます。特定の顧客層への集中的なアプローチが有効です。


おわりに

DXがもたらした市場構造の変化は、製薬企業に新たな課題を突きつけました。不完全競争市場の優位性に依存した戦略は、完全競争市場では通用しません。しかしながらDX化による情報提供の推進は止まりません。オムニチャネルを整備することで顧客は一層情報にアクセスすることが出来ます。またMRのみならずMSLなど情報提供チャネルを拡大しています。これらは全て完全競争市場を促進し、強者の非差別化を後押しすることとなり、一強化をさらに進めることになります。市場内の弱者はニッチ市場や未開拓のセグメントに注力することで、小規模な企業でも持続的な競争優位を築く可能性があります。戦略は常に強者の目線で語られる一例と言えるでしょう。

顧客からのフィードバックやデータを継続的に統合し、製品やサービスを改良・強化する手法として「循環型マーケティング」というアプローチは、広く知られています。このモデルは一般消費財の業界で大きな成果を上げていますが、医薬品の分野では、その特性上、特有の課題が存在します。

一般消費財:フィードバックを活用した改良

一般消費財における循環型マーケティングは、顧客からの直接的なフィードバックを基盤としています。企業はアンケート、レビュー、ソーシャルメディアを通じてデータを収集し、顧客のニーズや嗜好を特定します。このフィードバックループにより、以下のような利点が得られます:

  • 迅速な製品改良:例えば、新しい製品の味やパッケージに対する顧客の不満は、次の生産サイクルで即座に対応できます。
  • 市場への即応:季節のトレンドや競合他社の動きに応じて、限定版商品の発売やターゲットキャンペーンを展開できます。
  • 顧客中心のイノベーション:フィードバックは新製品のアイデアのきっかけとなり、市場での relevancy(関連性)を維持する手助けとなります。

このようなアプローチの魅力は、顧客の満足度が購買行動に直結し、企業が迅速に対応するインセンティブを生む点にあります。

医薬品:規制された構造的プロセス

一方で、医薬品業界は、高度に規制され構造化された環境の中で運営されており、一般消費財のような「循環型マーケティング」がそのまま機能するわけではありません。特に患者を対象としたフィードバックにはいくつかの懸念が存在します。

  1. 医師中心の意思決定
    医薬品の選択や治療方針は、患者ではなく医師の専門的判断によって決定されます。そのため、患者満足度やデータ解析を活用しても、意思決定プロセスに直接影響を与えることは難しい場合があります。
  2. 倫理的・法的な制約
    医師や患者に対する直接的なマーケティングは、倫理的・法的な懸念を引き起こす可能性があります。処方行動への影響を与えようとする行為は、医師の独立性を侵害するものと見なされるリスクがあります。
  3. 複雑なフィードバックループ
    フィードバックは、臨床試験や実地データ、規制当局の評価を通じて間接的に得られるものであり、消費者から直接得られるものではありません。医薬品の改良は、時間と投資、さらには規制の承認を必要とする複雑なプロセスです。

比較分析

医薬品分野での適応策

医薬品業界が一般消費財のようなフィードバックループを再現することは難しいものの、循環型マーケティングの要素を適応することは可能です:

  • 実地データの活用:患者の治療成果を分析し、医師に医薬品の長期的な有効性や社会的な影響などデータを通じて伝えることで、データ主導の対話を促進します。
  • 協調的フィードバック:医師と協力し、未解決の課題や治療のギャップについて意見を交換することで、次世代の薬剤開発に役立てます。
  • デジタル活用:CRMシステムやデータ可視化ツール(例:DXS Stratify)を活用し、医師に行動可能な洞察を提供することで、医薬品の価値を高めます。

まとめ

循環型マーケティングは、フィードバックループがイノベーションや満足度を促進する効果があります。一般消費財の分野ではシンプルかつ迅速なモデルですが、医薬品業界ではより適応的で慎重なアプローチが必要です。規制や倫理を尊重しながら、医師、患者、社会全体に利益をもたらす意味のあるフィードバックループを構築することが、医薬品業界にとっての次なる課題と言えるでしょう。

このような産業間の違いを考えることは、異なる業界がいかにして戦略を「ミックス」して成功を収められるかを理解する上で非常に重要です。