コンサルティングの世界では、「顧客の課題=ネガティブなギャップを解決すること」が価値提供の基本だとよく言われます。でも、それは本当に正しいのでしょうか?

もちろん、困りごとを解決することは、コンサルティングにおいて重要な役割の一つです。しかし、市場が縮小し、あらゆる分野がゼロサム型の競争環境へとシフトしている今、「課題解決型」の支援だけでは、もはや十分とは言えません。

これからの時代に求められるのは、「すでにうまくいっていること=ポジティブな状態」をさらに伸ばし、強みを起点に新たな価値を生み出す“価値創造型”のアプローチです。

たとえば、既に持っている優位性をさらに尖らせたり、自社の得意領域を最大限に活かせる市場にフォーカスする、つまり、STP戦略(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)を通じて“勝てる戦い方”を選ぶことが、ますます重要になってきています。

強調したいのは、「課題解決型アプローチ」一辺倒に陥ると、かえって競争優位性を失うリスクがあるという点です。なぜなら、似たような課題に対して、どの企業も似たような解決策を採用することで、差別化が機能せず、同質化に陥ってしまうからです。

その結果、「課題は解決しているのに、なぜか選ばれない」というジレンマに直面することになります。

このようなコモディティ化(=差別化が困難な状態)のリスクは、特に成熟市場において顕著です。これは、ポジショニング理論(M.ポーター)やブルーオーシャン戦略でも繰り返し指摘されていることです。

一方で、顧客の強みや競争優位を起点とする支援は、単なる問題解決にとどまらず、依存型ではなく自律的な成長を促す支援につながります。それはクライアントとの長期的な関係性を築くうえでも、今後ますます求められる姿勢です。

「助ける」ことをゴールにしてしまうと、支援行為の“実施”で止まってしまいます。
しかし、「勝たせる」「成果を出させる」ことを目的にすれば、そこには戦略思考が不可欠です。

これからのコンサルティングには、問題を解く力だけでなく、「顧客を、どう勝たせるか」を設計する力が求められます。過去の延長線では勝てない時代だからこそ、価値の本質を見極め、“支援の質”そのものをアップデートする必要があるのです。

一般的に外部環境を整理する際には「PEST分析(Politics, Economy, Society, Technology)」が広く用いられます。特に消費財や一般サービス業など、比較的自由競争が働く市場においては、PESTは有効なフレームワークとして機能してきました。

しかし、医薬品ビジネスにこのPESTをそのまま適用することには大きな限界があります。

その理由は2つあります:


1. 「制度に依存した市場構造」であること

医薬品市場は、自由な価格決定や流通が許されている消費財とは異なり、
薬価制度・診療報酬・承認制度といった国の制度に強く制約されている点が特徴です。
特に薬価改定や適応拡大の判断ひとつで市場が一変するため、制度的な要因(Politics)と規制(Regulation)を切り分けて分析する必要があります。


2. 「医療提供体制の変化」が売上やマーケティング活動に大きく影響すること

医薬品は患者が自ら選んで購入するのではなく、医師の診療行動や医療機関の体制に依存して処方されます。
そのため、消費者のライフスタイルや嗜好を中心としたSociety視点では不十分であり、医療機関の再編、病診連携、地域医療構造の変化などを独立して評価すべきです。


こうした背景を踏まえ、S.I Labは医薬品業界における戦略立案や環境分析においてより本質的なフレームワークが必要であると考え、新たに「PHRSTE分析(ファースト分析)」を提唱します。


■ PHRSTE分析とは


このPHRSTE分析により、医薬品業界に特有な外部環境の変化を過不足なく整理することが可能になります。
とくに戦略仮説の構築・上市判断・地域戦略立案・社内の合意形成において、従来の「PEST分析」よりも実務的かつ再現性の高いフレームワークとして機能します。

今後の製薬ビジネス戦略は、「マーケティング思考」だけでは不十分です。
構造の理解から始まる“戦略思考”の第一歩として、このPHRSTE分析を活用してください

それ、ほんとに“医薬品ビジネス特化型”?──感情マーケ起点のフレームワークにご注意を

近年、製薬企業向けとして「ペルソナ」や「カスタマージャーニー」のフレームワークが次々と登場しています。とくに、「医師をペルソナ化し、AIDMAのような行動変容ステップに沿ってジャーニーを描く」という手法は、業界内でも広まりつつあるようです。

ですが、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
そのフレームワーク、実は“消費財ビジネスの焼き直し”ではありませんか?

AIDMAやAISASのようなモデルは、あくまで「生活者がモノやサービスを欲しがる心理」をベースに設計されています。これは、選択権が個人にあり、かつその選択が感情や直感に大きく左右される消費財ビジネスにおいて極めて有効です。しかし、医薬品の世界ではどうでしょうか?

医薬品は「欲しいから選ぶ」のではなく、「必要だから処方される」もの。しかも、最終的に製品を使う患者と、それを選ぶ医師が分離しており、医師の意思決定はエビデンス・診療ガイドライン・治療経験といった論理と専門性に強く依存しています。

つまり、医薬品ビジネスにおいては、“感情ベースの行動モデル”では医師の判断プロセスをとらえきれないのです。

では、医薬品ビジネスに本当に適したペルソナ&ジャーニーとは何か?

それは「医師の性格」ではなく、「診療スタイルや治療判断の傾向」でペルソナを分類し、カスタマージャーニーは「診断→治療選択→再評価→変更」といった診療プロセスをベースに構築するものです。情報提供の接点は「認知」や「欲求」ではなく、「診療のどの段階で、どんな情報を求めるか」にフォーカスすべきです。

たとえば、糖尿病治療薬においては以下のような設計が可能です:

  • ペルソナ例:ガイドライン重視型、患者志向型、新薬慎重型 など
  • ジャーニー例:初診→検査→初期治療→HbA1c再評価→薬剤変更→長期処方
  • 各ステップの情報ニーズ:初期治療選択では「費用対効果と安全性」、再評価では「長期データと併用時の注意点」など

このような構造に基づく設計であれば、MRの活動やMSLの情報提供、製品戦略との連動が明確になり、実行力のあるマーケティング施策が生まれます。

製薬マーケティングに必要なのは、“医薬品ビジネスの構造を反映した思考”です。うわべだけ「医師をターゲットにしたから製薬特化」ではなく、その行動原理や意思決定プロセスに即した設計がなされているか?
それを見極める目を持つことが、これからのマーケターに求められているのではないでしょうか。

「面白いアイデアなんだけど、結局ビジネスにはならなかった」
そんな話、聞いたことありませんか?
どんなに画期的で魅力的なアイデアも、それだけでは“事業”にはなりません。
では、ビジネスとして成立させるには、何が必要なのか?
答えはシンプルです。「数字で逆算する」こと。
つまり、「絶対に売れると思うんだよなぁ」ではなく、「年商〇〇にはなるはず」と数値化することです。
ビジネスアイデアを現実の事業に育て上げるには、以下の4ステップが欠かせません。


① アイデアの言語化:課題×解決×誰に
まず出発点は「何を、誰の、どんな課題に対して提供するのか?」という問いです。
ここでは「誰にでも使えます!」ではダメ。“誰のための解決策か”を明確にすることが大前提です。


② 市場の定量化:TAM・SAM・SOMで現実を見る
次に、「そのアイデアの対象は、どれだけの市場規模があるの?」という問いに答えます。
ここで使うのが【TAM・SAM・SOM】という3つの市場指標です。
• TAM(Total Addressable Market):理論的な最大市場
• SAM(Serviceable Available Market):自社の製品やサービスで対応可能な市場
• SOM(Serviceable Obtainable Market):実際に自社が取れるシェア
このSOMが、“年商〇〇にはなるはずだ”という冷静な数字的根拠になります。


③ 事業計画に落とし込む:SOMを逆算して構築
SOMが見えたら、それをベースに売上目標や販路、人員、投資額などを具体的に設計します。
ここで重要なのは、「売上を目標にしてリソースを考える」のではなく、“取れる市場から逆算して”現実的に構築すること。


④ 損益の範囲で運営する:理想でなく、再現性で勝つ
最後は、いかにSOMの収益をしっかりキャッシュに変えるか。
そのためには、損益分岐点や変動費・固定費を明確にし、
「どこまで売れば利益が出て、どこを越えると赤字になるか」を常に把握する必要があります。
ここが曖昧だと、事業は持続しません。


【まとめ】
ビジネスは“情熱と根性”では続きません。
必要なのは、「定義」→「定量」→「設計」→「運営」という、冷静なプロセスです。
アイデアを「夢」で終わらせないために。
事業化とは、想いを数字に変えて、社会に届ける設計図づくりなのです。


分析には「静的」と「動的」という分類があります。構造的な定義においては、静的分析とはある一時点における状態や構造を把握するものであり、時間軸を持ちません。一方で、動的分析は、時系列の変化や将来予測を扱う分析であり、時間の流れに沿った傾向や変化を捉えるものとされています。

しかし、ビジネスの現場においては、この「静」と「動」の感覚がしばしば逆転することがあります。たとえば、現場で重要視される「現状分析」は、構造的には静的に分類されますが、実務においては、日々変化する市場環境や競合状況に即応するための手段として、非常に“動的”に活用されています。

一方で、AIを用いた売上予測や需要予測といった動的分析は、中長期的な視点での意思決定を支える一方で、一度立てた予測に依存した計画が固定化しやすく、結果として変化に弱くなるリスクも含んでいます。つまり、構造的な分類とは裏腹に、実務での活用においては、静的分析のほうが柔軟かつ即応的であり、動的分析のほうが硬直的に運用される場面が少なくありません。

このように、「静的=遅い」「動的=速い」といった印象にとらわれすぎると、現場での意思決定を誤る可能性があります。重要なのは、分析の構造が静的であるかどうかではなく、その分析結果をどう活用するかです。

たとえば、DXS Stratify®のように、顧客の競争環境をスポットデータ分析から明確に分類する静的分析であっても、注目する視点や評価軸を状況に応じて切り替えることで、極めて動的に機能させることが可能です。外部環境要因による競争環境を定量化および可視化し、競争優位性に応じて自社のポジショニングに焦点を変える。このように、静的な構造を持ちながらも、スポット(注目点)をピボット(軸転換)させることで、変化に対応し続けることができます。

変化が常態となった現代のビジネス環境においては、分析手法の性質そのものに加えて、その運用の柔軟性こそが競争力の源泉となります。構造的な静的分析を、動的に運用するための視点切り替え力——それがこれからのビジネスに求められる思考であるといえるでしょう。

「顧客理解の重要性」は、どんなビジネスでも語られるキーワードですが、その中でも特に近年注目されているのが“個別最適化”です。
ビッグデータやAI技術の発展により、消費者一人ひとりに合わせたマーケティングや営業活動が可能になってきました。

しかし一言で“個別最適化”と言っても、その意味合いは業界によってまったく異なります。
今回は、消費財ビジネスと医薬品ビジネスを比較しながら、「医薬品ビジネスにおける個別最適化とは何か?」を考えてみましょう。


比較表:消費財と医薬品における個別最適化の違い


医薬品ビジネスにおける“個別最適化”とは?

医薬品ビジネスでは、顧客である医師が「科学的根拠に基づいて処方している」ため、自由裁量が少ないと見られがちです。
しかし実際は、エビデンスをどう解釈し、どの薬を選ぶかには“行動のクセ”や“環境的制約”による個人差が大きく影響しています。

例えば、

  • 同じ疾患を診ていても「先発品を好む医師」と「後発品で様子を見る医師」
  • ガイドラインに沿っていても「積極的に新薬を試す医師」と「慎重に様子を見る医師」

こうした違いに着目し、
どの医師が、なぜこの薬を使っていないのか?”というギャップを特定することこそが、医薬品ビジネスにおける個別最適化の核心です。


■ “マーケティング”から“戦略”へ

消費財では「当てにいく」個別最適化が主流ですが、
医薬品では「なぜ使われないのかを構造的に見極め、限られたリソースで最大の成果を上げる」という、
より戦略的かつ定量的な個別最適化が求められます。

これには、処方データだけでなく、地域特性、施設構造、患者属性まで含めた立体的な分析が必要です。
そして、その結果をもとに「誰に」「どんな情報を」「どれだけ届けるか」を定める。
まさに、“戦略としての個別最適化”です。


おわりに

消費財と医薬品、どちらのビジネスにも“個別最適化”は必要不可欠です。
しかし、その意味もアプローチもまったく異なるということを理解しないと、表面的なデータ活用にとどまり、成果につながらない“分析のための分析”に陥ってしまいます。

医薬品ビジネスにおける真の個別最適化とは、行動の背後にある制約や思考を洞察し、リソースをターゲット顧客に集中させること。
それこそが、医薬品ビジネスに求められる“戦略的思考”と言えるでしょう。

私は昔から、株式投資より不動産投資の方に安心感を覚えます。理由はシンプルで、不動産には「自己効力感」があるからです。利回りは事前に試算できますし、空室リスクがあっても広告を出したり賃料を調整したりと、自分の手で改善策を講じることができます。もちろん万能ではありませんが、「自分の行動が結果に影響する」という実感が持てる点が大きいのです。

一方、株式投資はどうでしょう。銘柄選定は自分でできても、業績や株価の変動は自分ではコントロールできません。どれほど分析しても、経営者の判断や市場環境に大きく左右されます。できるのは、買うか売るか、持ち続けるか、見守ることだけ。自分でどうにかできる領域が極めて限られていると感じてしまいます。

この感覚は、働き方にも通じます。会社員として働く場合、自分で会社を選ぶことはできますが、入社してしまえば、その会社の経営方針や将来性に身を委ねるしかありません。まるで、株主が企業の業績に一喜一憂するのと似ています。

それに対して、自ら事業を起こす、もしくは経営に関わる立場に立てば、自分の判断と行動が直接的に結果を左右します。もちろんリスクも責任も大きくなりますが、不動産投資と同じように「自分で舵を握っている感覚」があります。私はその感覚を求めて、独立という道を選びました。

最近では、企業の倒産件数が増加傾向にあります。これまで「大企業に入れば安泰」と言われていた時代とは違い、会社に属していても将来が保証されるとは限らなくなってきました。むしろ、どの環境に身を置くかよりも、「自分で変化をコントロールできるかどうか」が問われる時代になってきていると感じます。

投資にも働き方にも、正解はありません。ただ、もし今の働き方に不安を感じているなら、いちど立ち止まって「自分はどこまでを自分の力でコントロールしたいのか?」を問い直してみるのもいいかもしれません。

今後有望な新薬(パイプライン)の発売が控えていることを根拠に、強気な売上目標を設定する経営陣の戦略発表を目にします。

これは戦略と呼べるでしょうか? 結論から言えば、それだけでは“戦略”とは言えません。むしろ、戦略“以前”の希望的観測(Wishful Thinking)や数合わせ域を出ません

「戦略」ではなく「戦略の皮をかぶった希望的数字」と言えるかもしれません。


なぜ“戦略”とは言えないのか?

1. 「期待する」だけでは戦略にならない

戦略とは、本来「目標を達成するために、どこを主戦場とし、誰と戦い、どのように勝つか(STPと資源配分)」を明確にする意思決定です。

期待される新薬が出る → 売れるはず → 売上が増えるはず → だから目標も高くする
これは戦略ではなく「前提条件頼みの計画」に過ぎません。


2. 「誰に、どんな価値を、どう届けて勝つか」が示されていない

仮に新薬が発売されたとしても、

  • 市場の競合状況は?
  • 自社の強み(差別化要因)は?
  • 医師や患者にどうアプローチして採用を拡大するのか?
  • 他剤との比較優位はどこにあるのか?
  • 販売体制は?戦力は?卸との連携は?

…といった、具体的な勝ち筋が明確でなければ、戦略的とは言えません


3. 売上目標が先にありきの“数合わせ”の可能性

「新薬がある → だから強気に売上を設定」しているケースは、

売上目標を正当化するために、“ポジティブな材料”を後付けで戦略っぽく語っているだけ、という構図になりがちです。


真の戦略とは?

  • 競合状況を踏まえたポジショニング
  • ターゲットの明確化と適切なリソース配分
  • 競争優位の明示(ガイドライン適応、エビデンス、価格、使いやすさなど)
  • 市場浸透の段階ごとに応じたアクション設計(イノベーター理論など)

これらが設計されてこそ、「戦略的に新薬を成功に導く」と言えます。


まとめ

多くの場合、営業に降りてくる売上目標額は、「市場規模」や「シェアの現実的な獲得可能性」から積み上げて導かれたものではなく、会社全体として必要な売上・利益額から逆算されたトップダウン型の目標になっています。つまり、それは「これだけ売らなければ会社として困る」「このくらいの売上がなければ、投資回収や経営維持ができない」という経営上の都合です。

有望な新薬があること=強気の目標設定が戦略になるわけではありません。
むしろその新薬を、どう売るか・どこで勝つかを明示してこそ、戦略的であると言えます。

AIは膨大な過去データをもとに、もっとも合理的な“最適解”を導き出す力を持っています。しかし、誰もがその最適解にアクセスできるようになったら、ビジネスの競争はどうなるでしょうか?

わかりやすい例が「競馬」です。もしAIが完全に馬券の当たりを予測でき、誰もがその情報に基づいて購入すれば、オッズは限りなく1.0倍に近づき、リターンは消失します。「あたるも八卦、あたらぬも八卦」という不確実性があるからこそ、賭けが成立しているのです。

ビジネスの世界でも、全ての企業が同じAIを使って同じ「最適なターゲット」に同じ「最適なタイミング」で「最適な価格」でアプローチを仕掛けたら、最後に残るのは価格競争だけです。差別化が失われた結果、利益率は下がり、業界全体が疲弊してしまう。これはまさに“完全競争市場”の姿です。

さらに、正解があらかじめ決まっている状況では、リスクを取って新しいことに挑戦する意欲が削がれます。つまり、破壊的イノベーションが起きにくくなり、競争は横並びに陥る。企業の個性が失われ、面白みのない市場が生まれる可能性すらあるのです。

しかし、だからこそ問われるのは「最適解の先に、何を創るか?」です。AIが導くのはあくまで“誰でも辿り着ける最適解”。それをどう運用し、どう解釈し、自社らしさを加えるかが競争のカギになります。

また、企業が保有する固有の内部情報や顧客接点、ブランドの物語性といった「非データ化領域」も、依然として差別化の源泉です。つまり、情報がコモディティ化する時代にこそ、戦略や感性、創造性の価値が増していくのです。

「AIを使うか」ではなく、「AIが導き出した最適解を、自分たちはどう“ズラす”か」。

この問いにこそ、これからの競争市場を生き抜くためのヒントがあるのではないでしょうか。


「質が高い」と言われても伝わらない

最近、AIを用いたアプリケーションの営業を受ける機会がありました。よくある自社製品の機能がいかに優れているかを訴求するものでした。機能自体に目新しさがなく、現在使用しているものとの違いが感じられないと伝えると、「当社の製品は他社より質が高いです」 という応酬をうけました。

しかし、「質が高い」とは具体的に何を指すのでしょうか?
スピードなのか、操作性なのか、正確性なのか、耐久性なのか、それともコストパフォーマンスなのか、、、

このように、何をもって「質」とするのかが明確でないと、結局のところ何が優れているのかが伝わりません。営業担当者が自信を持って「質の高さ」をアピールしても、それが顧客のニーズと一致しなければ価値は伝わらず、購入の決め手にはなりません。

つまり、顧客は「質」ではなく、「自分の課題を解決できるかどうか」、その結果としてROIが得られるかで判断する のです。

したがって、自社製品の質の高さがどのような課題解決につながるのかを明確にし、その価値を適切に伝えられる顧客を見極める必要があります。
そのためには、市場を細分化するおとで勝ちやすいターゲットを選定し、競争優位性を明確に打ち出すSTP戦略が不可欠 です。


営業の精度を高めるSTP戦略

戦略の本質は、限られたリソースをどこに投下するかという意思決定にあります。

  1. セグメンテーション(市場の細分化)
    • 顧客のニーズや特性に応じて市場を分類し、すべての顧客に同じアプローチをするのではなく、適切なグループごとに対応を変える。
    • 例:
      • コスト削減を優先する企業
      • 操作性を重視する企業
      • 品質向上を求める企業
  2. ターゲティング(優先すべき顧客の選定)
    • すべての顧客に売り込むのではなく、最も勝率が高く、競争優位を発揮できるターゲットを選ぶ
    • 判断基準:
      • 競争優位性が活かせるか?
      • 市場規模・収益性は十分か?
      • 競争環境はどうか?
  3. ポジショニング(市場での立ち位置を明確にする)
    • ターゲットが抱える課題に対し、競合製品と比べてどのような価値を提供できるのかを明確にする
    • 例えば、「当社のCRMは競合のA社に比べ、操作が簡単で、トレーニング不要で導入できます」と具体的に伝える。

売り込みではなく、ソリューションを提供する営業へ

「売る」営業から、「顧客の課題を解決する」営業へ。
この視点の転換こそが、営業の成功率を劇的に高めるポイントです。

STPを活用することで、無駄な営業を減らし、最適なターゲットに対して、最も効果的な提案を行うことができます。

最終的に、顧客が求めているのは「質の高さ」ではなく、「課題を解決する最適な手段」。
そのためには、営業担当者自身がSTP戦略を意識し、適切なターゲットに、適切なリソースを投下し、競争優位性を明確に打ち出すことが不可欠なのです。