2005年に登場し大きなインパクトを与えた『ブルーオーシャン戦略』は、競争の激しいレッドオーシャンから脱し、競争のない新たな価値空間=ブルーオーシャンを切り拓くことを提唱しました。成熟市場における差別化困難と価格競争から逃れる処方箋として、当時の企業戦略に革新をもたらしました。
しかし2020年代の現在、私たちは新たな局面に立たされています。かつてのブルーオーシャン戦略が前提としていたのは、「市場の広がり」や「未開拓な顧客層の存在」でした。しかし、今私たちが直面しているのは、人口減少、消費の選別化、業界間の垣根の解消による競争激化といった“市場そのものが縮小していく”状況です。
このような市場環境において、従来型の「ブルーオーシャンを探す」アプローチには限界が見えてきています。
■ 縮小市場下では“ブルー”の罠に陥る
現在、再び注目を集めているのが、ニッチ戦略やバーティカルなマーケット開拓です。狭く、深く、他社が入ってこない空間をブルーオーシャンと捉える考え方です。
しかし、ここには重大な落とし穴があります。市場が縮小する中で“誰もいない空間”を探すと、それはしばしば「顧客がいない市場」になってしまうリスクがあるのです。
つまり、ポジショニングとしては正しくても、ビジネスとしてスケールしない。顧客が少なすぎて採算が取れない。特にBtoB領域では、この傾向が顕著です。製品やサービスの設計、流通、マーケティングにかかる固定コストを回収できない“儲からないブルー”が量産されてしまう恐れがあります。
■ 「ブルーの質」が問われる時代へ
だからこそ今、求められるのは「誰もいない市場」ではなく、「誰もまだ仕組み化していない市場」への目線です。すでに顕在化しているが複数の業界が曖昧に関わっていて、明確な主役が不在な市場。たとえば医療×介護、製薬×デジタルヘルス、物流×エネルギーのような境界領域(インターフェース市場)です。
このような場面では、既存の資源や強みを組み合わせ直し、新たな「利用文脈」や「サービス設計」で市場構造自体を再構成することが求められます。まさに、競争回避ではなく「構造設計による価値創造」を志向したブルーオーシャン戦略の進化形です。
■ 市場縮小期の“ブルーオーシャン戦略Reboot”とは?
縮小市場における戦略の本質は、「広げること」ではなく、「焦点を絞って構造を変えること」にあります。ターゲットを狭めることは避けられませんが、それを“狭さ”ではなく“深さ”と捉える視点が必要です。
そのために有効なのは、
• 市場ではなく課題起点で考えること
• 隣接領域との境界に立ち、役割の再定義を行うこと
• 仕組みやルールを設計するプレイヤーを目指すこと
です。
つまり、これからのブルーオーシャンとは、“空白”を探すのではなく、“接点”をつなぎ直す戦略へと進化する必要があります。
競争のない市場を探すのではなく、競争の意味そのものを変える。そのための知恵と構想力こそ、ブルーオーシャン戦略の“リブート”に求められるのです。