生成AIがビジネスや研究の現場に入り込むスピードは凄まじく、私たちは「AIが書いた文章」や「AIが作った分析」に日常的に触れるようになりました。その一方で、「ハルシネーション」という現象も同じ速度で問題になっています。
ハルシネーションとは、AIが自信満々に、しかし事実と異なる情報を語る現象のこと。しかもそれが往々にして、非常にもっともらしい形で出てくるため、専門家でも一瞬だまされることがあるほどです。
ただ、この問題を理解するには「AIとは何か?」をより深く知る必要があります。
実は、私たちが“AI”とひとまとめに呼んでいるものは、大きく異なる性質を持つ複数のAIが存在しています。
そして、ハルシネーションは、特にテキスト生成AI(LLM)に固有の問題なのです。
■ テキスト生成AI(LLM)は「文章を予測するマシン」
ChatGPTなどの生成AIは、膨大な文章データを学習し、
文脈上もっとも適切に見える「次の単語」
を確率的に予測する
という仕組みで動いています。
彼らが最適化しているのは
「正しい答え」ではなく「自然で一貫した文章」です。
そのため、
- 統計解析
- 病態の推論
- 因果関係の判定
- 経営判断
- 論文の信頼性チェック
など、「正確さ」を必要とする領域では、平然ともっともらしい嘘を生成することがあります。
■ 一方、エージェント型AIは「タスクを実行するAI」
近年増えてきているのが、
「エージェント型AI」と呼ばれる別タイプのAIです。
これらは、
- 実際にPythonコードを実行する
- データベースにアクセスして検索する
- 外部ツールと連携して分析する
- 長いタスクを分割し、手順を設計して完遂する
といった**“行動するAI”**に近い性質を持ちます。
つまり、テキスト生成AI(文章生成)とは異なり、
手を動かして結果を取得する仕組みを備えています。
■ 万能なのは「AI」ではなく、人間の“AIの使い分け能力”
ここで重要になってくるのが、
全てのAIが万能ではない
むしろ、AIごとに用途が全く違う
という視点です。
AIを「ひとまとめの万能な機械」と捉えるのではなく、
専門性の異なるツール群として扱うことが必須です。
具体的には次のように整理できます。
■ 用途別:AIの“正しい使い分け”
▼ 1. テキスト生成AI(ChatGPTなど)
適した用途:
- 論文・レポートの文章化
- メール文作成
- アイデア出し
- 背景・考察の整理
- 文章の構成改善
適さない用途(=ハルシネーションが起きる領域):
- 統計解析
- 因果推論
- p値やORの生成
- 実データの分析
- 臨床判断
- ビジネスの重要意思決定
▼ 2. エージェント型AI(Code Interpreter、データ分析エージェント等)
適した用途:
- PythonやRを使った“本物の計算”
- データの読み込み・加工・分析
- 因果推論・統計解析(実行ベース)
- 論文の図・回帰表の作成
- 長いタスクの自動化
適さない用途:
- 感情的ニュアンスや文章の“巧さ”が求められるタスク
- 医療や法律など、判断が倫理・制度に深く依存する場面
■ まとめ:AIは「道具」であり、万能ではない
- テキスト生成AIは「作文」に強いが「計算」はしない
- エージェント型AIは「行動」「計算」には強いが万能ではない
- 全てのAIを同じものとして扱うのは危険
- ハルシネーションはAIの限界ではなく“本質的な性質”
- 最も重要なのは、AIを正しく使い分ける人間側の能力
AIと共に働く時代において問われているのは、「AIをどう賢く使いこなすか」という、人間側の成熟です。
AIはあくまでツールであり、
その価値を最大化するのは“使い手の知性”にほかなりません。

