製薬業界において、これからの時代に求められるのは、「なにをするか」ではなく、「なにをしないか」を戦略的に決めることです。かつての成長市場では、活動量を増やすことで一定の成果が得られました。しかし、現在のように制度変更リスクが常に存在し、市場そのものが縮小傾向にある環境下では、やみくもな行動はリスクでしかありません。

市場が制度によって規定される製薬ビジネスでは、努力や施策の効果が制度改定によって無力化されるリスクを常に抱えています。そのため、すべての市場、すべてのターゲットに均等にリソースを投入することは、労力の分散と消耗を招くだけです。

成果につながる市場、戦うべき領域にのみ、限られたリソースを集中させる判断が不可欠なのです。とはいえ、「なにをしないか」を決めることは容易ではありません。なぜなら、意思決定には明確な基準と冷静な分析が求められるからです。

感覚や経験だけに頼っていては、どうしても曖昧な判断になり、結局また「全部やる」という選択に逆戻りしてしまいます。大切なのは、現時点の市場構造、競争環境、自社のポジショニングを冷静に見極めた上で、リターンが期待できない領域を明確に見切ることです。

この「やらない決断」を支えるためには、属人的な判断ではなく、論理的な裏付けが必要です。それによって初めて、組織全体が迷いなくリソースを集中できるようになります。また、「なにをしないか」を明確にすることは、単なるリスク回避ではありません。

むしろ、勝てる場所に圧倒的にリソースを集中し、確実に成果を積み上げるための、攻めの戦略です。すべてに手を広げるのではなく、戦うべき市場を選び抜き、そこに勝ち切る。それがこれからの製薬ビジネスに求められる戦い方だと考えています。

今後、モヤモヤを解消し、確実に勝てる組織に変わるためには、「なにをしないか」を決める勇気と、判断を支える冷静な分析の両方が不可欠なのです。

製薬業界で働く多くの方が、言葉にはできない違和感や不安、焦燥感を抱えているそうです。

言語化の難しい「モヤモヤ」が存在しています。このモヤモヤは、単なる感情論ではありません。製薬ビジネスが持つ構造的な特徴に深く根差しているからです。

一般消費財のように自由市場で価格が決まるビジネスとは異なり、製薬業界では価格は国が定める薬価制度によって決まります。

医師や病院との価格交渉で競争優位を築くことはできず、さらに薬価は2年ごとに見直され、売上が伸びれば薬価が下がる市場拡大再算定も適用されます。

つまり、努力して成功を収めたにもかかわらず、制度変更により売上が減少するリスクを常に抱えているのです。

この「成功しても必ずしも報われない」という構造は、現場の努力が無力化されるかもしれないという無意識の恐怖を生み出します。

現場にとっても、本社にとっても、成果と結果がダイレクトに結びつかない環境は、活動の意味や手応えを見失いやすくします。これが、製薬業界に蔓延するモヤモヤ感の根本原因です。

さらに社会保障費抑制という国家的命題のもと、高額薬剤に対する制度的制約は今後ますます強まるでしょう。市場の拡大だけでは成長を保証できない現実に直面している今、従来の延長線上の努力だけでは、いずれ立ち行かなくなる危機感もまた、モヤモヤの一部となっています。

このモヤモヤは、個人の意欲やスキルの問題ではありません。制度と市場の構造そのものがもたらす、業界全体の深い課題なのです。これを正しく認識することが、製薬業界で働く私たち一人ひとりにとって、第一歩となるはずです。

近年、製薬業界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が盛んに叫ばれています。経営陣はAI創薬、デジタルプラント、MR活動のデジタル化などをアピールし、「DX銘柄」選定にも力を入れています。

しかし現場では、「何のためのDXか」という疑問が根強く、医師からも「情報が多すぎて逆にアクセスしない」という声が上がっています。デジタル化が必ずしも医療現場のニーズに沿っていない現状が浮かび上がります。

さらに、MRのデジタル化を推進する一方で、「MRは必要」という現場の声も根強く、デジタルと人的支援のバランスが問われています。

成果もあります。武田薬品工業は製造DXで作業時間を大幅に短縮し、AI創薬で研究開発期間の短縮を実現しました。しかしこれらは業務効率化が中心であり、患者アウトカムへの直接的な影響はまだ限定的です。

DX推進における課題は、費用対効果、部門間連携、人材・リテラシー不足など多岐にわたります。特に現場ニーズとの乖離や、海外拠点との連携は多くの企業にとって大きな壁となっています。

真のDXを実現するには、DXの目的を明確に伝え、現場の声を戦略に反映し、効率化と価値創出の両立を図ることが重要です。加えて、DX人材の育成と、デジタルと人の力を融合する取り組みも不可欠です

。製薬業界のDXは、単なる業務効率化ではなく、患者価値の向上を目指すものでなければなりません。経営と現場が一体となり、地に足の着いたDXを進めていくことが求められます。

全文


■ なぜファイブフォースは時代に合わなくなったのか?

ファイブフォース分析(Five Forces Analysis)は、業界内競争、売り手・買い手の交渉力、新規参入リスク、代替品リスクの5つの「力」によって業界の収益構造が規定されると考えるフレームワークです。

ポーターによって提唱されて以来、あらゆる業界分析の基本とされてきました。しかし現代において、ファイブフォースは重大な限界を露呈し始めています。

まず、ファイブフォースは静的な業界構造を前提としています。「売り手はこう」「買い手はこう」「競合はこう」といった、あたかも動かない外的環境を前提に設計されています。

しかし現代の市場環境は、テクノロジーの進化、規制介入、グローバル競争、社会意識の変化によって、競争圧力そのものが流動的かつ多層的に変化する時代です。また、業界の境界線が曖昧になり、外から突然新たなプレイヤーや制度変更が襲ってくる中で、「内部の競争圧力だけを5分類する」という設計思想自体が、現代のダイナミックな競争環境に適応できていないのです。

■ リブート方針:5つの「静的力」ではなく「動的圧力マップ」へ
これからの時代に求められるのは、


• 競争圧力を「静止画」として分析するのではなく、
• 市場にかかる「流動的・重層的な圧力場」として可視化し、
• どこが収縮し、どこが拡張し、どこが突発的に変質するかを読み取る


という発想です。


従来のファイブフォースは「競争要因の強度」を一時点で測定するものでしたが、
リブート版では、


• 圧力の変動性(流動圧力)
• 制度・技術・社会トレンドによる新たな圧力層の出現
• 競争軸のズレ(市場越境リスク)


を動的に評価する必要があります。


■ リブート後の新コンセプト:Dynamic Competitive Pressure Map(動的競争圧力マップ)

■ さらに重要な視点:単独使用ではなく、フレームワークの連携が不可欠

リブートされたファイブフォースは、それ単独で競争環境を読み切ることでは成立しません。


むしろ、これまでリブートしてきた


• PHRSTE分析(外部環境要因の多層解析)
• バリューネットワーク(内部構造の流動化理解)
• 競争構造3C(市場シェア動態・競合間の力学分析)
• 競争構造STP(ターゲット区画ごとの勝ち筋設計)


などのフレームワークと組み合わせて使うことで、初めて真価を発揮します。


つまり、ファイブフォースリブートは「競争圧力マップ」という“外部圧力の気象図”を描く役割に徹し、そこからターゲット選定・リソース配分・ポジショニングに落とし込む流れが不可欠なのです。

日本の医薬品市場は現在、構造的な変化のただ中にあります。薬価改定の繰り返しやジェネリック医薬品の浸透により、長期収載品の価値が低下し、市場規模は縮小傾向にあります。主要8社の国内売上高を見ると、多くの企業で前年割れとなっており、この傾向は今後も続くと予想されます。

一見すると、為替の変動や海外市場の成長によって企業業績が安定しているように見えるかもしれません。しかし、国内市場の縮小は、企業の収益基盤を揺るがしかねない深刻な問題です。各社は販管費の削減をはじめとするコスト圧縮策を加速させていますが、それだけでは根本的な解決にはなりません。

このような状況が続けば、国内売上高の構成比はさらに低下し、医薬情報担当者(MR)の配置見直しや削減、共同販促による固定費分担など、販売体制の再構築が避けられなくなるでしょう。その結果、販売カバレッジの維持コストは上昇し、国内市場向けのパイプラインの優先度が下がり、国内専用の製造ラインも整理・統合されると考えられます。中堅企業では、海外M&Aによる事業ポートフォリオの分散を進める動きがさらに活発になるかもしれません。

さらに、5年から10年後には、国内医薬品市場の成長率は停滞し、政府による供給確保策の検討や、受託製造・卸売業界の再編が進行する可能性もあります。このままでは、日本の医薬品市場は、研究・イノベーションの拠点としての重要性こそ維持されるものの、収益源としての地位は相対的に低下していくでしょう。

こうした中で製薬企業が生き残るためには、グローバルでの成長可能性が高い品目への集中投資、アセットライトな日本事業モデルの構築、薬価制度改革への積極的な提言、為替差益を活用した海外資産の取得、リージョナル製造ハブの最適化など、多角的な戦略が不可欠です。

また、こうした変化は製薬企業だけでなく、患者や医療従事者、卸・流通業界、政府・規制当局など、医薬品エコシステム全体に影響を及ぼします。たとえば、ドラッグラグの拡大や希少疾病薬の国内導入の遅れ、卸・流通業界の利幅縮小と再編、政府・規制当局における産業雇用の維持と医療費抑制の両立といった課題が顕在化する可能性があります。

企業には、変化のスピードに柔軟に対応し、主体的に事業規模を最適化するとともに、グローバルな視点に立った戦略の構築が求められています。

ニュースソース

市場縮小、人口減少、経済停滞。こうした環境が常態化する中で、私たちが立っている市場は、もはや成長を前提とした「競争なき空間」ではありません。顧客は自然には増えず、競合は寡占化し、ゼロサム型の奪い合いが当たり前となりました。


この現実を前に、従来の3C分析(Customer, Competitor, Company)もリブートする必要がありそうです。


なぜ従来の3Cが機能しなくなったのでしょうか。
まず、Customer(市場)についてはどうでしょうか?
かつては、顧客ニーズに対応すれば市場は自然と広がると考えられていました。しかし今は、ニーズの多様化と消費選別の進行により、単純な「顧客理解」だけでは売上拡大に結びつかなくなりました。さらに、人口減少により市場そのものが縮小し、顧客の獲得は「誰かから奪う」ことが前提となってきています。


次に、Competitor(競合)についてはどうでしょう?
従来は競合を把握し、差別化を図れば優位に立てるとされてきました。しかし現在は、競合の数が減る一方で、生き残った企業同士の競争が激化し、差別化だけでは十分にシェアを確保できません。競合のシェア動向や、どの領域で競争が激しくなるかまで精緻に読み解く必要があるのです。


そして、Company(自社)についてです。
これまでは、自社の強みやリソースを活かして成長戦略を描くことが基本でした。しかし現代では、自社努力だけでは拡大できる余地が小さくなり、どの市場区画で、どの競争構造を前提に戦うかを明確に定めなければ、資源が分散し、結果的に競争に飲み込まれてしまうリスクが高まっています。そのためオープンイノベーションやコンソーシアム型のビジネスモデルが見られるようになってきました。
このように、3Cをそれぞれ個別に眺めるだけでは、競争優位を築くことが難しい時代になりました。


これからの3Cリブートでは、
• Customerは単なる市場規模ではなく、「競合間のシェア分布」や「スイッチング要因」で捉えます。
• Competitorは競争市場であることを前提として、「競争地位」や「競争優位性」まで踏み込んで分析します。
• Companyは自社強みを「どこに集中配分すれば自社だけの強みとすることができるか」という観点で捉え直します。


つまり、市場・競合・自社を静的に整理するのではなく、動的な力学として読み解き、どこからシェアを奪い、どこを守るかを設計することが、これからの3Cの本質です。


市場が自然に拡大する時代は終わりました。これからは、「誰かの顧客を、いかに自社に引き寄せるか」が勝負になります。


競争構造力学を読み解き、適切にリソースを集中できる企業だけが、縮小市場においても確実に勝ち続けることができるのです。

2005年に登場し大きなインパクトを与えた『ブルーオーシャン戦略』は、競争の激しいレッドオーシャンから脱し、競争のない新たな価値空間=ブルーオーシャンを切り拓くことを提唱しました。成熟市場における差別化困難と価格競争から逃れる処方箋として、当時の企業戦略に革新をもたらしました。
しかし2020年代の現在、私たちは新たな局面に立たされています。かつてのブルーオーシャン戦略が前提としていたのは、「市場の広がり」や「未開拓な顧客層の存在」でした。しかし、今私たちが直面しているのは、人口減少、消費の選別化、業界間の垣根の解消による競争激化といった“市場そのものが縮小していく”状況です。
このような市場環境において、従来型の「ブルーオーシャンを探す」アプローチには限界が見えてきています。


■ 縮小市場下では“ブルー”の罠に陥る
現在、再び注目を集めているのが、ニッチ戦略やバーティカルなマーケット開拓です。狭く、深く、他社が入ってこない空間をブルーオーシャンと捉える考え方です。
しかし、ここには重大な落とし穴があります。市場が縮小する中で“誰もいない空間”を探すと、それはしばしば「顧客がいない市場」になってしまうリスクがあるのです。
つまり、ポジショニングとしては正しくても、ビジネスとしてスケールしない。顧客が少なすぎて採算が取れない。特にBtoB領域では、この傾向が顕著です。製品やサービスの設計、流通、マーケティングにかかる固定コストを回収できない“儲からないブルー”が量産されてしまう恐れがあります。


■ 「ブルーの質」が問われる時代へ
だからこそ今、求められるのは「誰もいない市場」ではなく、「誰もまだ仕組み化していない市場」への目線です。すでに顕在化しているが複数の業界が曖昧に関わっていて、明確な主役が不在な市場。たとえば医療×介護、製薬×デジタルヘルス、物流×エネルギーのような境界領域(インターフェース市場)です。
このような場面では、既存の資源や強みを組み合わせ直し、新たな「利用文脈」や「サービス設計」で市場構造自体を再構成することが求められます。まさに、競争回避ではなく「構造設計による価値創造」を志向したブルーオーシャン戦略の進化形です。


■ 市場縮小期の“ブルーオーシャン戦略Reboot”とは?
縮小市場における戦略の本質は、「広げること」ではなく、「焦点を絞って構造を変えること」にあります。ターゲットを狭めることは避けられませんが、それを“狭さ”ではなく“深さ”と捉える視点が必要です。
そのために有効なのは、
• 市場ではなく課題起点で考えること
• 隣接領域との境界に立ち、役割の再定義を行うこと
• 仕組みやルールを設計するプレイヤーを目指すこと

です。


つまり、これからのブルーオーシャンとは、“空白”を探すのではなく、“接点”をつなぎ直す戦略へと進化する必要があります。
競争のない市場を探すのではなく、競争の意味そのものを変える。そのための知恵と構想力こそ、ブルーオーシャン戦略の“リブート”に求められるのです。

DXS Stratify®は、製薬企業の売上拡大を目的とした販促支援ツールではありません。むしろ、製薬市場の構造が「拡大から縮小」「競争から淘汰」へと転じる中で、医薬品アクセスの持続可能性と公平性を守るための“構造最適化の手段”として設計されたツールです。


製薬企業の短期収益を最大化することが目的ではない

従来の営業支援ツールやCRM連携型のソリューションは、「訪問頻度を上げて成果を出す」「高シェア施設に集中する」といった、売上最大化ロジックに従って資源配分を偏らせる傾向があります。

結果として、

  • 情報提供が過度に重複する施設(営業過多)
  • 担当がつかない医療機関(営業空白)
    という構造的不均衡が発生し、アクセス格差が拡大してしまうケースも少なくありません。

❷ DXS Stratify®は「営業活動の最適化」ではなく「医薬品アクセスの最適化」

DXS Stratify®の設計思想は、企業の強みが発揮できる“最適戦場”を明確化することで、非効率な競争を避け、健全な棲み分けと供給安定性を実現することにあります。

これは、

  • 市場構造を可視化し、
  • 競合との相対優位を分析し、
  • リソースの配分を戦略的に再構築する
    というプロセスによって、個社の業績と社会的医薬品アクセスのバランスを両立させるものです。

❸ “勝てるところに集中する”ことは、供給継続性・地域医療体制の維持にもつながる

製薬企業の戦略的撤退が進みすぎれば、医療現場での製品選択肢が失われる事態も起こり得ます。
特に中堅・内資系企業が対応してきた領域(例:希少疾患、後発品、特定診療科)での退出は、地域医療や患者の選択権の消失=アクセス喪失に直結します。

DXS Stratify®は、企業が“無理な競争を避けて生き残る戦略”を描くためのインフラであり、これは結果的に、

  • 医薬品供給体制の多様性維持
  • 特定製品への依存リスクの回避
  • 医療現場での情報提供機会の確保
    といった社会的価値の維持に寄与するものです。

政策・行政・第三者機関との対話にもつながる「共通言語」

DXS Stratify®の分析結果は、

  • 地域ごとの営業格差
  • 疾患領域ごとの戦略的空白
  • 販売集中が引き起こす医療過密と医療空白

といったデータを可視化できるため、製薬企業内に留まらず、

  • 医療政策立案者
  • 規制当局
  • 医療経済研究機関
    との共通言語として機能します。

つまり、企業の意思決定と医療政策をつなぐ“インフラ型ソリューション”であると言えます。


結論:

DXS Stratify®は、「売上を増やすために営業先を選ぶ」ためのツールではありません。
「アクセスの偏在や供給の不安定化という社会課題に対して、戦略的視点から構造的にアプローチするための意思決定インフラ」です。

製薬企業の持続可能な競争力を支えながら、医薬品アクセスの公平性と質を守る。
そのバランスを実現するために、DXS Stratify®は開発されました。

DXS Stratify®のフォーミュラリ活用可能性と社会的意義について


1. はじめに

近年、我が国の医薬品市場はゼロサム型競争への転換や外資系企業による寡占化の進行、中堅・内資系企業の弱体化といった構造的変化を迎えており、それに伴い医薬品アクセスの持続性と公平性に対する懸念が高まっている。
こうした状況の中で注目されているのが、標準的薬剤の選定と供給を体系的に管理するフォーミュラリ(Formulary)の導入である。
本資料では、当社が提供する
市場構造および競争優位性の可視化ツール「DXS Stratify®」が、フォーミュラリの企画・運用においてどのように応用可能であり、いかに医薬品アクセスの最適化に貢献するかを示す。


2. DXS Stratify®の概要

DXS Stratify®は、製薬企業の営業戦略・マーケティング戦略において、市場規模、競合ポジション、競争優位性といった定量指標を基に医療機関単位での戦略分析を行う特許取得済みアルゴリズムである。
従来のCRMやBIツールが担う「活動の記録・効率化」に留まらず、「戦うべき市場と施設」を定量的に特定し、人的・情報的リソースの最適再配分を支援する


3. フォーミュラリへの応用可能性

フォーミュラリは、本来「適正使用と費用対効果の観点から、医療機関・地域・保険者が治療に用いる薬剤を選定・管理するための戦略的枠組み」であり、以下のプロセスを内包する:

  • 同効薬比較および優先順位付け
  • 医療資源と疾患構造の地域特性把握
  • 医療機関間での採用方針の整合化
  • 治療標準化と財政負担の抑制

DXS Stratify®は、これらの判断に対して以下のように貢献可能である:

領域応用内容期待される効果
採用薬剤選定支援市場規模や競合状況を定量化し、必要性・合理性の高い薬剤を可視化薬事委員会等での採用理由の裏付け強化
地域フォーミュラリ構築支援地域別の医療機関ニーズ・競合構造を分析「地域最適」の薬剤選定と供給計画を可能に
製薬企業の対応戦略設計採用・非採用病院の構造的差異を分析し、適切なリソース配分を設計営業活動の効率化とアクセスギャップ解消に貢献
政策連携地域偏在・営業空白の可視化による医薬品アクセス政策への応用社会的価値の明確化、レギュラトリー・パブリックアフェア対応にも寄与

4. 社会的意義と波及効果

DXS Stratify®の活用は、企業の業績向上にとどまらず、以下のような社会的課題解決にもつながる:

  • 情報提供が届かない医療機関・地域へのアクセス補完
  • 医療機関の薬剤選定の合理性・説明性の向上
  • 医療提供体制の多様性と持続性の確保
  • 医療費の適正化と治療の標準化支援

これにより、「薬剤の公平な選定」と「情報アクセスの地域格差是正」を同時に実現する構造的ソリューションとして、フォーミュラリ推進における強力な意思決定支援ツールとなり得る。


5. 結論

DXS Stratify®は、単なる営業支援・売上拡大ツールではなく、医薬品の公平かつ持続的なアクセスを支えるための“戦略的インフラ”である
フォーミュラリ運用における分析基盤として応用することで、病院・地域・企業の意思決定を科学的に支援し、結果として医療全体の構造最適化に資するものであると考える。


1985年にマイケル・ポーターが提唱した「バリューチェーン」は、企業が価値を生み出すプロセスを分析する上で、戦略論の基礎となる重要なフレームワークでした。原材料の調達から生産、販売、サービスという一連の流れを「鎖」として捉え、多くの企業がコスト削減や効率化を実現してきました。


しかし、現代の市場はポーターの時代とは大きく様変わりしています。顧客ニーズは多様化し、製品やサービスの開発は自社だけでは完結せず、サプライヤー、顧客、業界を超えたパートナー、時には競合他社との「共創」が不可欠になっています。価値はもはや一方通行の「鎖」ではなく、多様な関係者が関わるダイナミックな「ネットワーク」の中で、共に創り上げ、進化するものへと変化しているのです。このような変化の中で、従来のバリューチェーンは限界を迎えています。

チェーン思考の限界
バリューチェーンは、内部最適化、垂直統合、そして自社完結型のビジネスモデルを前提としています。そのため、オープンイノベーション、アライアンス、外部パートナーとの協業といった、現代ビジネスの重要な要素に対応することが難しいのです。また、価値が「企業→顧客」という一方向に流れるという考え方では、顧客との交流、SNSでの評判、ユーザーエクスペリエンス(UX)といった、目に見えない価値を捉えることができません。


「バリューネットワーク」という新たな視点
そこで、バリューチェーンの時代に終止符を打ち、「バリューネットワーク」という新たなフレームワークを取り入れるべきです。
バリューネットワークとは、価値が単一の企業内にとどまらず、複数の関係者の間で「分散・共創」されるネットワーク構造を前提とした考え方です。サプライヤーだけでなく、顧客、技術パートナー、プラットフォーマー、さらには競合他社もネットワークの構成員となり、価値の起点と終点が固定されない、流動的なエコシステムを形成します。
この考え方では、従来の「自社が中心」「プロセス効率の最大化」という内向きの視点から、「誰とどのように連携するか」「どこで価値を生み出すための触媒となるか」という、外部との相互作用を重視した設計が求められます。


バリューネットワーク思考で戦略を再考する
例えば、製薬業界では、バイオベンチャーとの共同開発、大学との知的財産提携、患者コミュニティからのフィードバック活用など、製品の開発から普及に至るまでを「共創の場」として捉えることができます。サプライチェーンの効率性だけでなく、「どの接点で誰と価値を共創するか」という連携戦略が、競争の鍵を握るのです。
また、マーケティングにおいても、SNSや口コミなど「顧客による価値の拡散」は、ネットワークとして捉えることで初めて戦略に組み込むことができます。顧客はもはや「価値を届けられる対象」ではなく、「価値を共に創造し、広げるパートナー」なのです。


戦略の中心は、企業から「つながり」へ
これからの戦略思考は、「自社の強みは何か」ではなく、「誰とどのように連携し、どこで価値を生み出すか」を中心に据える必要があります。従来のチェーンの発想では、複雑化した顧客価値全体を捉えることは不可能です。 私たちは、「管理する鎖」から「つながりをデザインする網」へと発想を転換しなければなりません。バリューチェーンからバリューネットワークへ—それは、単なるフレームワークの変更ではなく、企業の思考様式そのものを変革することなのです。

マーケティングの教科書に必ず登場する「STP」。
Segmentation(市場細分化)→ Targeting(狙う市場の選定)→ Positioning(差別化戦略の構築)という、マーケティング活動の設計図ともいえるフレームワークです。


しかし、その“基本”が、実務においては空回りするケースが目立ちます。
たとえば、STPのS(セグメンテーション)で「性別」「年齢」「職業」などのデモグラフィック属性を切ったものの、実際の購買行動と乖離していた。T(ターゲティング)でボリュームゾーンを狙って疲弊し、P(ポジショニング)で「安さ」や「安心感」といった抽象的な差別化に落ち着いた、、こんな“見覚えのある失敗”は、現場に山ほどあります。


なぜSTPはうまく機能しなくなったのか?
理由は明快です。顧客の可視化手段が進化したのに、STPの使い方が古いままだからです。
現代は、SNS、サブスク、1on1マーケティング、D2Cといった“個”を起点とする消費活動が主流です。属性だけで区切るのではなく、「文脈」「価値観」「瞬間の課題」で切り取らなければ、ターゲットは見えません。


つまり、STPは今、“定義の仕方”を再構築する時期に来ているのです。
たとえばこうです。


• Segmentation:属性ではなく、ニーズ文脈/カスタマージャーニー起点での分類
• Targeting:LTV(顧客生涯価値)や共有可能価値を重視した“拡張性ある狙い”
• Positioning:スペック比較ではなく、“選ばれる理由”を体験として再構成


STPは「順番にやればうまくいく」手順書ではありません。
それは“顧客との接点”を論理的に捉えるための設計思想です。


フレームワークを生かすも殺すも、使い手次第。
時代に合わせて再定義すれば、STPは今なお強力な武器となりえます。