製薬業界には見られない構造的なリスクが潜んでいます。それは「制度依存リスク」です。
■ 売上は“顧客”ではなく“制度”に決められる
製薬業界では、製品価格は市場ではなく、国が定める薬価制度によって決まります。つまり、価格交渉の相手は医師や病院ではなく厚生労働省です。
さらに薬価は2年ごとに見直され、売上が伸びるほど価格が下がる「市場拡大再算定」も適用される、つまり成功するほど売上が減るというジレンマが存在するのです。
■ 社会保障費という“制度の天井”
高齢化による社会保障費の増加は国家の財政問題です。その抑制は国の至上命題であり、医療費、特に高額薬剤のターゲティングは年々強まっています。
医療経済性(費用対効果)評価によって、高価格帯の薬剤は保険償還外や使用制限という制度的リスクにさらされるのが今の現実です。
■ “AI”では読めない制度変更のリスク
近年は、AIによるレコメンドや予測が営業活動の中心になりつつあります。
しかしAIは「過去のデータから未来を推測する」ため、制度変更のような“非連続”かつ“人為的”な変化を正確に予測することは苦手です。
AIの動的分析は、すでに起きた変化や行動のトレースには有効でも、「もし制度がこう変わったら?」という仮説と意思決定を扱う“戦略的判断”には限界があるのです。
■ 静的分析で“戦う場所”と“守るべき資源”を定める
こうした不確実性に立ち向かうには、現在の競争環境を捉える静的分析が欠かせません。
どの市場に注力するのか?
どの競合と戦うのか?
どのチャネルにリソースを集中するのか?
市場環境の変化に俊敏に対応して競争優位性を得るためには、一時の流行やデータの“熱”に流されず、論理と構造に基づく冷静な判断が必要です。
静的分析があってこそ、外部環境要因の変化による影響を分析し、柔軟かつ迅速な戦略修正が可能になります。
■ 「制度が変わる」は「戦場が動く」に等しい
多くの製薬企業が「5年後の成長」を描きますが、その未来が実現するかどうかは、科学でも、マーケティングでもなく、制度という“外力”に左右される側面が大きいのです。
だからこそ今、静的分析による戦略設計と、変化を見越した複数シナリオの構築こそが、AIでは補えない人間の仕事であり、経営判断の核心となります。
そこで重要になるのが、S(戦略立案)→ P(行動設計)→ D(実行)→ A(分析)というSPDAループです。このSPDAループは、変化する競争環境に対して柔軟に対応しながら、現場の行動を戦略と一貫性をもって設計・実行・評価するための仕組みです。そして最後のA(分析)では、CRMに蓄積された活動データや成果データをAIで動的に分析し、成功要因(KSF)を可視化します。
DXS Stratify®は、医薬品市場における市場規模、競争環境、競合優位性を定量的に可視化する分析アプリケーションです。
「最適な戦略は常に外部環境の変化によって相対的に変わる」
そして、そのときに戦略を変えられる仕組みを持っているかどうか、それが、生き残る企業と沈む企業を分ける分水嶺となるでしょう。