「顧客理解の重要性」は、どんなビジネスでも語られるキーワードですが、その中でも特に近年注目されているのが“個別最適化”です。
ビッグデータやAI技術の発展により、消費者一人ひとりに合わせたマーケティングや営業活動が可能になってきました。

しかし一言で“個別最適化”と言っても、その意味合いは業界によってまったく異なります。
今回は、消費財ビジネスと医薬品ビジネスを比較しながら、「医薬品ビジネスにおける個別最適化とは何か?」を考えてみましょう。


比較表:消費財と医薬品における個別最適化の違い


医薬品ビジネスにおける“個別最適化”とは?

医薬品ビジネスでは、顧客である医師が「科学的根拠に基づいて処方している」ため、自由裁量が少ないと見られがちです。
しかし実際は、エビデンスをどう解釈し、どの薬を選ぶかには“行動のクセ”や“環境的制約”による個人差が大きく影響しています。

例えば、

  • 同じ疾患を診ていても「先発品を好む医師」と「後発品で様子を見る医師」
  • ガイドラインに沿っていても「積極的に新薬を試す医師」と「慎重に様子を見る医師」

こうした違いに着目し、
どの医師が、なぜこの薬を使っていないのか?”というギャップを特定することこそが、医薬品ビジネスにおける個別最適化の核心です。


■ “マーケティング”から“戦略”へ

消費財では「当てにいく」個別最適化が主流ですが、
医薬品では「なぜ使われないのかを構造的に見極め、限られたリソースで最大の成果を上げる」という、
より戦略的かつ定量的な個別最適化が求められます。

これには、処方データだけでなく、地域特性、施設構造、患者属性まで含めた立体的な分析が必要です。
そして、その結果をもとに「誰に」「どんな情報を」「どれだけ届けるか」を定める。
まさに、“戦略としての個別最適化”です。


おわりに

消費財と医薬品、どちらのビジネスにも“個別最適化”は必要不可欠です。
しかし、その意味もアプローチもまったく異なるということを理解しないと、表面的なデータ活用にとどまり、成果につながらない“分析のための分析”に陥ってしまいます。

医薬品ビジネスにおける真の個別最適化とは、行動の背後にある制約や思考を洞察し、リソースをターゲット顧客に集中させること。
それこそが、医薬品ビジネスに求められる“戦略的思考”と言えるでしょう。