今後有望な新薬(パイプライン)の発売が控えていることを根拠に、強気な売上目標を設定する経営陣の戦略発表を目にします。
これは戦略と呼べるでしょうか? 結論から言えば、それだけでは“戦略”とは言えません。むしろ、戦略“以前”の希望的観測(Wishful Thinking)や数合わせ域を出ません。
「戦略」ではなく「戦略の皮をかぶった希望的数字」と言えるかもしれません。
なぜ“戦略”とは言えないのか?
1. 「期待する」だけでは戦略にならない
戦略とは、本来「目標を達成するために、どこを主戦場とし、誰と戦い、どのように勝つか(STPと資源配分)」を明確にする意思決定です。
期待される新薬が出る → 売れるはず → 売上が増えるはず → だから目標も高くする
これは戦略ではなく「前提条件頼みの計画」に過ぎません。
2. 「誰に、どんな価値を、どう届けて勝つか」が示されていない
仮に新薬が発売されたとしても、
- 市場の競合状況は?
- 自社の強み(差別化要因)は?
- 医師や患者にどうアプローチして採用を拡大するのか?
- 他剤との比較優位はどこにあるのか?
- 販売体制は?戦力は?卸との連携は?
…といった、具体的な勝ち筋が明確でなければ、戦略的とは言えません。
3. 売上目標が先にありきの“数合わせ”の可能性
「新薬がある → だから強気に売上を設定」しているケースは、
売上目標を正当化するために、“ポジティブな材料”を後付けで戦略っぽく語っているだけ、という構図になりがちです。
真の戦略とは?
- 競合状況を踏まえたポジショニング
- ターゲットの明確化と適切なリソース配分
- 競争優位の明示(ガイドライン適応、エビデンス、価格、使いやすさなど)
- 市場浸透の段階ごとに応じたアクション設計(イノベーター理論など)
これらが設計されてこそ、「戦略的に新薬を成功に導く」と言えます。
まとめ
多くの場合、営業に降りてくる売上目標額は、「市場規模」や「シェアの現実的な獲得可能性」から積み上げて導かれたものではなく、会社全体として必要な売上・利益額から逆算されたトップダウン型の目標になっています。つまり、それは「これだけ売らなければ会社として困る」「このくらいの売上がなければ、投資回収や経営維持ができない」という経営上の都合です。
有望な新薬があること=強気の目標設定が戦略になるわけではありません。
むしろその新薬を、どう売るか・どこで勝つかを明示してこそ、戦略的であると言えます。