常々「これは誤解を招くなぁ」と感じるのは、マーケティングセミナーやビジネススクール、多くのビジネスソリューションベンダーが、適応するビジネスモデルの前提条件を明示せずに、「この方法なら成功する」といった万能感を演出していることです。
しかし、外部環境要因は自社ではコントロール不可能であり、最適な戦略やビジネスモデルは外部環境に応じて相対的に変化するものです。そのため、まず前提条件を明確にし、それに基づいた適用が不可欠となります。
自社に適したビジネスモデルを知るための前提条件を整理することで、戦略の方向性を決定するための重要なフレームワークが得られます。つまり、最適なビジネスソリューションの導入を検討するうえでは、まず前提条件を理解することが重要です。
重要なのは、まず「前提条件」を明確にすること
自社に適したビジネスモデルを見つけるためには、以下の4つの前提条件を整理し、自社の立ち位置を把握することが不可欠です。
1. 市場ライフサイクル:成長期か縮小期か?
- 成長期であれば、シェア拡大や市場開拓が鍵になりますが、縮小期では競争がゼロサム化し、シェアの奪い合いやコスト構造の最適化が重要になります。
- 企業の意思決定も、「拡大投資 vs 収益性重視」といった軸で大きく変わります。
2. マーケティング手法:マスマーケティングか1on1マーケティングか?
- マスマーケティングなら ブランドの浸透力や大量販売のスケール が重要になり、大規模な広告投資が有効です。
- 1on1マーケティングでは データ活用やターゲティング精度、個別対応の質 が重要になります。
3. 顧客ターゲティング:購買確率の高い顧客への購入サポートか、購買意思が未確定な顧客の行動変容を促す必要があるか?
- 購入意向が高い顧客への過剰な情報提供や啓蒙活動は、本来必要のないマーケティングコストや営業工数が発生し、ROI(投資対効果)が低下します。
- 購買意思が未確定な顧客に対し、強引な営業活動をかけると、顧客が離脱し、長期的な機会損失につながる恐れがあります。
4. 競争環境:強者か弱者か?
- ランチェスター戦略に基づき、自社の立ち位置を把握し、強者は「非差別化」、弱者は「差別化・ニッチ戦略」が基本となります。
- これを誤ると「弱者が強者の戦略を真似て消耗戦に陥る」「強者がニッチに入り込んで利益率を落とす」などの問題が発生します。
適切なビジネスを知るためのフローチャート
以下の質問に答えることで、自社のビジネスモデルをこれら4つの前提条件に基づいて分類できます。
1. 市場ライフサイクル:成長期か縮小期か?
Q1: 現在、市場の需要は拡大しており、新規顧客の獲得機会が増えていますか?
- はい → 成長市場
- いいえ → 縮小市場
Q2: 過去数年と比較して、新規参入企業や投資が増えていますか?
- はい → 成長市場
- いいえ → 縮小市場
Q3: 業界全体で需要減少や規制の変化、新技術の台頭などにより、既存市場が脅かされていますか?
- はい → 縮小市場
- いいえ → 成長市場
2. マーケティング手法:マスマーケティングか1on1マーケティングか?
Q4: 自社のビジネスは、テレビCMや大量広告などの標準化されたメッセージを広範な顧客層に届ける手法を採用していますか?
- はい → マスマーケティング
- いいえ → Q5へ
Q5: 自社のマーケティングは、顧客ごとにカスタマイズされたアプローチを重視していますか?
- はい → 1on1マーケティング
- いいえ → マスマーケティング
Q6: 自社の製品・サービスは、顧客の意思決定が複雑で、購買プロセスにおいて多くの情報提供や相談が必要になりますか?
- はい → 1on1マーケティング
- いいえ → マスマーケティング
3. 顧客ターゲティング:購買確率の高い顧客か、行動変容が必要な顧客か?
Q7: 既に購入意向が高い顧客を中心に営業・マーケティング活動を行っていますか?
- はい → 購買確率の高い顧客を対象
- いいえ → Q8へ
Q8: 自社のビジネスは、顧客に新しい価値を理解させたり、行動変容を促したりする必要がありますか?
- はい → 行動変容を促す戦略
- いいえ → 購買確率の高い顧客を対象
Q9: 製品・サービスの価値を理解してもらうために、情報提供・無料トライアル・デモンストレーションを頻繁に行っていますか?
- はい → 行動変容を促す戦略
- いいえ → 購買確率の高い顧客を対象
4. 競争環境:強者か弱者か?
Q10: 自社は業界内でトップクラスのシェアを持ち、市場を支配する立場にありますか?
- はい → 強者
- いいえ → Q11へ
Q11: 競合他社と比較して、資本力・ブランド力・流通ネットワークなどの大きな競争優位を持っていますか?
- はい → 強者
- いいえ → 弱者
Q12: ニッチ市場で大手企業と直接競合せずに、自社の独自性を活かしたポジションを築いていますか?
- はい → 弱者だが差別化できている
- いいえ → 弱者であり競争が厳しい
以上の12の質問 に答えることで、 自社のビジネスモデルを分類します。それによって自社にとって最適な戦略アプローチ を特定し、競争力を高める方向性を決定します。
「万能」なスキームの罠
多くのビジネスソリューションベンダーが提供するスキームは、潜在市場に対するマスマーケティングによるリード獲得と、購買確率の高い顧客に対する購入サポートの二段階で成り立つ、消費財ビジネスモデル(FMCG)の典型的なアプローチ手法です。
このスキームは、確かに最大公約数的なビジネスモデルであり、現代のロールモデルとして一定の企業には適用可能です。しかし、B2C市場(特に消費財)においては標準的であっても、B2B市場や高関与型の市場では、そのまま適用できるとは限りません。
「万能」なビジネスモデルは存在しません。自社の置かれた状況を冷静に分析し、上記の4つの前提条件に基づいて最適な戦略を選択することが、競争優位性を確立するために必要になります。