AIは膨大な過去データをもとに、もっとも合理的な“最適解”を導き出す力を持っています。しかし、誰もがその最適解にアクセスできるようになったら、ビジネスの競争はどうなるでしょうか?

わかりやすい例が「競馬」です。もしAIが完全に馬券の当たりを予測でき、誰もがその情報に基づいて購入すれば、オッズは限りなく1.0倍に近づき、リターンは消失します。「あたるも八卦、あたらぬも八卦」という不確実性があるからこそ、賭けが成立しているのです。

ビジネスの世界でも、全ての企業が同じAIを使って同じ「最適なターゲット」に同じ「最適なタイミング」で「最適な価格」でアプローチを仕掛けたら、最後に残るのは価格競争だけです。差別化が失われた結果、利益率は下がり、業界全体が疲弊してしまう。これはまさに“完全競争市場”の姿です。

さらに、正解があらかじめ決まっている状況では、リスクを取って新しいことに挑戦する意欲が削がれます。つまり、破壊的イノベーションが起きにくくなり、競争は横並びに陥る。企業の個性が失われ、面白みのない市場が生まれる可能性すらあるのです。

しかし、だからこそ問われるのは「最適解の先に、何を創るか?」です。AIが導くのはあくまで“誰でも辿り着ける最適解”。それをどう運用し、どう解釈し、自社らしさを加えるかが競争のカギになります。

また、企業が保有する固有の内部情報や顧客接点、ブランドの物語性といった「非データ化領域」も、依然として差別化の源泉です。つまり、情報がコモディティ化する時代にこそ、戦略や感性、創造性の価値が増していくのです。

「AIを使うか」ではなく、「AIが導き出した最適解を、自分たちはどう“ズラす”か」。

この問いにこそ、これからの競争市場を生き抜くためのヒントがあるのではないでしょうか。