それ、ほんとに“医薬品ビジネス特化型”?──感情マーケ起点のフレームワークにご注意を

近年、製薬企業向けとして「ペルソナ」や「カスタマージャーニー」のフレームワークが次々と登場しています。とくに、「医師をペルソナ化し、AIDMAのような行動変容ステップに沿ってジャーニーを描く」という手法は、業界内でも広まりつつあるようです。

ですが、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
そのフレームワーク、実は“消費財ビジネスの焼き直し”ではありませんか?

AIDMAやAISASのようなモデルは、あくまで「生活者がモノやサービスを欲しがる心理」をベースに設計されています。これは、選択権が個人にあり、かつその選択が感情や直感に大きく左右される消費財ビジネスにおいて極めて有効です。しかし、医薬品の世界ではどうでしょうか?

医薬品は「欲しいから選ぶ」のではなく、「必要だから処方される」もの。しかも、最終的に製品を使う患者と、それを選ぶ医師が分離しており、医師の意思決定はエビデンス・診療ガイドライン・治療経験といった論理と専門性に強く依存しています。

つまり、医薬品ビジネスにおいては、“感情ベースの行動モデル”では医師の判断プロセスをとらえきれないのです。

では、医薬品ビジネスに本当に適したペルソナ&ジャーニーとは何か?

それは「医師の性格」ではなく、「診療スタイルや治療判断の傾向」でペルソナを分類し、カスタマージャーニーは「診断→治療選択→再評価→変更」といった診療プロセスをベースに構築するものです。情報提供の接点は「認知」や「欲求」ではなく、「診療のどの段階で、どんな情報を求めるか」にフォーカスすべきです。

たとえば、糖尿病治療薬においては以下のような設計が可能です:

  • ペルソナ例:ガイドライン重視型、患者志向型、新薬慎重型 など
  • ジャーニー例:初診→検査→初期治療→HbA1c再評価→薬剤変更→長期処方
  • 各ステップの情報ニーズ:初期治療選択では「費用対効果と安全性」、再評価では「長期データと併用時の注意点」など

このような構造に基づく設計であれば、MRの活動やMSLの情報提供、製品戦略との連動が明確になり、実行力のあるマーケティング施策が生まれます。

製薬マーケティングに必要なのは、“医薬品ビジネスの構造を反映した思考”です。うわべだけ「医師をターゲットにしたから製薬特化」ではなく、その行動原理や意思決定プロセスに即した設計がなされているか?
それを見極める目を持つことが、これからのマーケターに求められているのではないでしょうか。