ティッシュペーパーのような日用品においても、深い戦略的変化を反映したマーケティングが行われています。

スコッティのCMでは、大容量のティッシュボックスによって交換の手間を減らし、家事の負担を軽減できることが強調されています。重要なポイントは、このCMが売っているのは「大きなティッシュボックス」ではなく、「家事の手間を減らす解決策」です。

この微妙ながらも重要な違いこそ、現代のマーケティングが製品中心から消費者体験中心へとシフトしていることを示しています。これは、フィリップ・コトラーのマーケティング5.0の考え方にも通じます。

1. 製品の特徴からライフスタイルの解決策へ

従来のマーケティングでは、「柔らかさ」「吸水性」「価格」といった製品の特徴を強調するのが一般的でした。しかし、スコッティのCMでは、製品が消費者の生活にどのように組み込まれるかに焦点を当てています。

単に「長持ちするティッシュです」と伝えるのではなく、「交換の手間が減ることで家事の負担が軽くなる」と訴求することで、ティッシュを単なる日用品ではなく、生活を効率化するツールとして位置づけています。これは、コンテクストマーケティング(文脈に応じたマーケティング)の典型例といえます。

2. 予測マーケティング:消費者の悩みを先読みする

このCMの背景には、おそらく消費者行動に関するデータ分析があると考えられます。調査やデータから、「ティッシュの交換頻度が家事の負担の一つと感じられている」ことが判明したのかもしれません。

その結果、スコッティは単に「大容量」という機能をアピールするのではなく、消費者が気づいていないストレスを事前に察知し、それを解決する製品として打ち出す戦略をとっています。このような予測マーケティングは、AIやビッグデータの進化によって多くの業界で活用されるようになっています。

3. 感情的な共感を生むブランディング

スコッティのCMは、単なる機能的な利点ではなく、「家事の負担を軽減する」という感情的なメッセージを伝えています。これは、マーケティング5.0が重視する「人間中心のマーケティング」の考え方と一致します。

一見すると、大容量ティッシュには感情的な要素はないように思えます。しかし、「忙しい日常の中で、小さなストレスを減らす」という視点から伝えることで、消費者の共感を得ることができます。どんなにシンプルな商品でも、伝え方次第で感情的な価値を生み出せるのです。

4. インクルーシブマーケティング:幅広い層に訴求する

このCMのメッセージは、特定のターゲット(例えば主婦や親)だけに向けられたものではなく、「生活の質の向上を求めるすべての人」に向けられています。

共働きの家庭、単身者、高齢者など、さまざまなライフスタイルを持つ人々にとって「交換の手間が減ること」は共通のメリットとなります。これこそがインクルーシブマーケティング(包括的マーケティング)であり、現代のマーケティングにおいて重要なポイントです。

結論:現代のマーケティングは「製品」ではなく「生活」を売る

スコッティのCMは、単なるティッシュペーパーの広告ではなく、現代のマーケティングがどのように進化しているかを示す好例です。

今日のマーケティングにおいて最も効果的なブランドは、「何を売るか」ではなく「消費者の生活をどう向上させるか」に焦点を当てています。

多くの企業や組織が直面している問題の根本は、目的の不明確さと手段の優先、そしてROIを無視した施策の積み重ねにあります。

1. 総論を置き去りに各論ばかり

物事を進める際、全体の方向性や目的(総論)が明確になっていないと、個別の施策(各論)が積み重なっても成果につながりません。各論の積み上げだけで戦略的な整合性が取れなくなると、ROIの測定すら難しくなります。目的地を決めずに議論の空中戦を繰り広げても燃料切れで墜落してしまいます。

2. 目的を明確にせず手段ばかり取り揃える

「とりあえずDX」「とりあえずデータ活用」「とりあえず新規開拓」といった、手段を先に決めてしまうケースが多く見られます。しかし、本来の目的が曖昧なままでは、何のためにその施策を行うのか、どの指標で成果を測るのかが分からず、場当たり的な施策になってしまいます。

3. ROIを気にしない

企業活動の基本は、限られたリソースを最大限に活用して成果を生み出すことです。戦略的な意思決定では、投入するリソースに対する成果(ROI)を考えなければなりません。しかし、特に日本企業では、「慣習だから」「競合がやっているから」「上からの指示だから」といった理由で施策が実施され、ROIが不明瞭なまま予算だけが消費されるケースが多いと感じます。その結果、効果の不明確な施策に多額の予算が費やされることになります。

4. 戦術先行で戦略をかえりみない

「とにかく営業を増やそう」「広告を打とう」「SNSを活用しよう」といった戦術レベルの話が先行し、戦略的なターゲット設定や資源配分が後回しになるケースも多いです。戦略なき戦術は単なる消耗戦になり、成果につながりにくいのは言うまでもありません。

解決策:戦略 → 戦術 → ROI の順に考える

これらの問題を解決するには、「何を達成したいのか?」という目的を明確にし、その上で適切な戦略を立て、戦術を選択し、ROIを意識して評価・改善する というプロセスを徹底することが不可欠です。

結局のところ、戦略のない手段の積み重ねは、どれだけ頑張っても成果を生まない ということです。
あなたの組織は、手段ばかりに目を奪われていませんか?

近年、AIによる未来予測の技術が進化し、多くの企業がデータドリブンな意思決定を重視するようになっています。特に、マーケティングや営業戦略の分野では、AIが過去のデータをもとに未来の市場動向や顧客の行動を予測し、意思決定をサポートするケースが増えています。しかし、本当にAIの未来予測は信用できるのでしょうか?

ここで参考になるのが天気予報です。

天気予報も、AIと同様に過去のデータを活用し、気象モデルを用いて未来の天候を予測しています。短期(1〜2日後)の予報精度は90%以上と高い一方で、1週間以上先の長期予報になると精度が大きく低下します。これは、大気の流れや気圧の変化といった外的要因が影響し、予測の不確実性が高まるためです。

AIの未来予測も、まさにこれと同じ傾向を持っています。短期的なパターン分析には強いものの、長期的な市場の変化や競争環境の変動を正確に予測することは極めて困難です。新規参入、競合の戦略変更、規制の変化、さらには消費者の価値観の変化など、多くの要因が絡み合う中で、過去のデータだけを頼りに未来を見通すことには限界があります。

未来予測より現状分析の方が合理的な理由

戦略の目的は「未来を正確に予測すること」ではなく「競争優位を確保すること」

  • 未来を100%正確に予測することは不可能
  • 重要なのは、「どの市場が成長するか?」ではなく、「自社が勝てる市場でどう戦うか?」

未来予測に依存せず、競争環境の現状分析をもとに「今、どこにリソースを集中すべきか」を判断する方が実践的。


競争環境は短期間で変わる

  • AIの未来予測は「過去のデータ」をもとにした統計的な分析に過ぎない
  • しかし、実際の競争環境は、新規参入・競合の戦略変更・政策変更・外部環境の変化によって短期間で変わる

未来を予測するよりも、「現状の競争環境を把握し、適切なリソース配分をする」方が合理的。


過去のパターンは未来を保証しない

  • AIが未来を予測する際、**「過去にこうだったから、未来もこうなる」**という前提に基づいている
  • しかし、市場や競争環境は非線形であり、過去のパターンが未来にも適用されるとは限らない

未来予測を過信するよりも、現在の競争環境を定量的に分析し、変化に迅速に対応する方がビジネス上の成功確率が高い。

それでは、企業が戦略を立てる際に、どのようなアプローチが最も合理的なのでしょうか?

答えは「未来予測よりも、現状分析に基づいた意思決定」です。

市場や競争環境は常に変化しています。AIが「どのターゲットが売上につながる可能性が高い」と示したとしても、それが競争優位につながるかどうかは別問題です。AIの予測を盲信するのではなく、現在の市場環境や競合の動きをリアルタイムで分析し、最適なリソース配分を行うことが重要です。

DXS Stratify® は、まさにこの「現状分析の精度を高め、戦略的な意思決定を支援する」ためのツールです。

DXS Stratify® は、未来を無理に予測するのではなく、現在の競争環境を数値化し、どこに注力すべきかを明確にすることを目的としています。AIが提供するターゲットリストをそのまま受け入れるのではなく、それが競争環境の中でどのような意味を持つのかを評価し、最も効果的な施策につなげるための判断材料を提供します。

AIによる未来予測の技術は今後も進化していくでしょう。しかし、どれほど高度な技術を用いても、未来を完全に予測することはできません。ビジネスの成功において重要なのは、未来を予測することではなく、現状を正しく把握し、迅速に適応することです。

データに基づく戦略は確かに重要ですが、それをどう活用するかが企業の競争力を左右します。DXS Stratify® を活用することで、AIの限界を補いながら、より実践的な戦略を構築することが可能になります。

企業のDX推進やAI活用は、業務の効率化や標準化を加速させる一方で、競争優位の源泉となる「独自性」を失う側面があります。これまでは業務のデジタル化が競争力を高める要因でしたが、今や多くの企業がAIやクラウドを活用することで、似たような戦略・施策に収束する傾向が見られます。同一化が進むことで、差別化が機能しなくなり、経営資源に勝る企業が優位となる傾向を生みます。では、この状況下でどう差別化を図るべきでしょうか?

AI・DXの普及が競争を均質化させる理由

同じツールの導入による「標準化」

現在、AIやDXの導入は、企業ごとの差別化要因が減り、似たような施策が展開されがちです。例えば、医薬品業界ではIQVIAのデータやVeeva CRMを導入する企業が大半を占めており、競合との違いを出しにくくなっています。

「最適解の収束」による競争の硬直化

AIが導き出すのは、一般的に「最適」とされる戦略や施策です。しかし、同じデータとアルゴリズムを使えば、競合他社も同じ最適解にたどり着く可能性が高くなります。結果として、企業ごとの違いが薄れ、競争のポイントが「いかに早く実行するか」に移り、価格競争に陥りやすくなるのです。

差別化の源泉が「データ」と「活用方法」にシフト

AI自体は競争優位にはなりません。本質的な差別化要因は、「どのデータを使い」「どのように活用するか」にかかっています。独自のデータを持つ企業や、データを戦略的に活用できる企業こそが、競争優位を築くことができます。

競争優位を確立するための差別化戦略

では、このような均質化の流れの中で、どうすれば競争力を維持・強化できるのでしょうか?

独自のデータセットを活用する

競争優位の鍵は「データ」です。他社と同じオープンデータや一般的なマーケティングデータを使うのではなく、自社で収集・蓄積した独自のデータを活用することが重要です。例えば、DXS Stratify®のように、競争環境を可視化する独自の分析アルゴリズムを用いることで、他社とは異なるインサイトを提供できます。

② AIを「業務効率化」ではなく「戦略立案」に活用する

多くの企業はAIを業務効率化のために導入しますが、戦略立案や意思決定の補助に活用することで、差別化が可能になります。特に、データを活用したターゲティングやポジショニング戦略を強化することで、単なる「デジタル活用」から「データドリブンな意思決定」へと進化させることができます。

人間の介在価値を高める

AIの精度が向上しても、最終的な意思決定や価値提供の場面では人間の役割が不可欠です。例えば、医薬品業界においては、AIがターゲットドクターを特定するだけでなく、MRがどのように関与すべきかのストーリーを作り上げることが重要になります。データの活用と人的スキルの掛け合わせが、新たな競争優位を生み出します。

特定市場・領域に特化する

AIやDXの一般的な導入ではなく、特定の業界や用途に最適化することで独自性を出すことができます。例えば、製薬業界に特化したDXS Stratify®のように、業界特有の課題にフォーカスしたソリューションを提供することで、他の汎用的なBIツールとの差別化が可能になります。

DXの時代こそ「戦略的差別化」が必要

AIやDXが進むことで、業務の効率化は進む一方、競争環境は均質化しやすくなります。そのため、単にデジタルツールを導入するのではなく、「どのデータを活用し」「どのような差別化を図るか」を戦略的に考えることが不可欠です。

デジタル技術が発展し、どの企業もAIを活用できる時代だからこそ、求められるのは「競争優位を生み出す戦略的なデータ活用」です。企業ごとの独自性を打ち出し、持続的な競争力を確立するためには、単なるDX推進ではなく、差別化戦略の視点が欠かせません。

「経営資源に勝る方が勝つ」とよく言われますが、具体的に経営資源とは何を指しているのでしょうか?一般的には「人(Human)、物(Material)、金(Capital)、情報(Information)」の4つが経営資源とされます。しかし、単にこれらを持っているだけでは競争優位にはなりません。重要なのは、これらの資源をどのように活用し、企業の価値創造プロセス(バリューチェーン)に組み込むかです。

経営資源をバリューチェーンにどう活かすか?

バリューチェーンは、企業が価値を生み出すプロセスを「主活動」と「支援活動」に分けて整理するフレームワークです。それぞれの活動に適切な経営資源を投入することで、競争力のあるビジネスモデルを構築できます。

例えば、製薬業界を考えてみましょう。

  • 「研究開発(R&D)」では、優秀な研究者(人)、膨大な臨床データ(情報)、資金力(金)が競争優位のカギになります。
  • 「マーケティング&販売」では、医師とのネットワーク(情報)、製品のブランド力(物)、営業部隊の数(人)が成果を左右します。

つまり、単に資源を持っているだけではなく、バリューチェーン上のどこにリソースを集中させるかが戦略のポイントとなります。

経営資源とバリューチェーンは一体

バリューチェーンと経営資源は、どちらも企業戦略を考える上で欠かせない視点です。

  • バリューチェーンは、「企業がどこで価値を生み出すのか?」を明確にするもの。
  • 経営資源は、「その価値創造のために、どのリソースを強化すべきか?」を決めるもの。

つまり、経営資源による優位性は単に総量だけではなく、どの活動にどの資源をどう配分するかが競争優位の決め手となるのです。

まとめ

経営資源は単なる「人・物・金・情報」ではなく、それらをどのバリューチェーンの活動に投入し、どのように活用するかが重要です。競争の激しい市場では、「自社がどの領域で価値を生み出し、そのためにどのリソースを活用するのか?」を見極めることが、持続的な成長につながります

「良い商品を作れば売れる時代」は終わった

よくマーケティングは顧客への価値提供や課題解決と言われますが、現代のマーケティングの難しさは、多くの市場において顧客の基本的なニーズがすでに満たされていることにあります。

単に良い商品を作るだけで売れる時代は、すでに過去のものとなりました。成熟市場では、ほとんどの顧客が基本的なニーズを満たしており、企業は新たな価値をいかに創出し、効果的に届けるかという課題に直面しています。現代のマーケティングでは、単なる「需要の発見」ではなく、溢れかえった市場の中でターゲットを精密に定め、競争を回避しながら価値を届けることが重要になります。

「砂漠で一本の針を拾う」精密なマーケティング

市場が飽和し、競争が激化する中、「多くの人に売る」のではなく、「特定のターゲットに最適な提案をする」ことが求められます。このアプローチこそが「砂漠で一本の針を拾う」精密なマーケティングです。

ビッグデータやAIを活用した高度な分析が、この精密さを実現する鍵となります。顧客の購買行動や興味・関心のデータを分析し、適切なターゲットを特定することで、無駄のないメッセージングが可能になります。

精密なマーケティングの成功事例

  • ユニクロは、「流行に左右されるファッション」ではなく、「高品質なベーシックウェア」に特化することで、多くの消費者に支持されています。AIを活用した在庫管理と購買データの分析により、適切な商品を適切なタイミングで供給する仕組みを確立しています。
  • アップルは、「高機能なデバイス」をアピールするのではなく、「洗練されたデザインとシンプルな操作性」という価値を前面に押し出し、ブランドの独自性を確立しました。特に、製品のエコシステムを最適化することで、顧客が他社製品に移行しにくい環境を作り出しています。

ビッグデータ活用の課題

ビッグデータは多くの可能性を秘めていますが、万能ではありません。データの解釈と活用方法が、競争優位性を左右します。

  1. データが多すぎて本質が見えにくい
    情報が溢れすぎることで、本当に重要な気づきを得るのが難しくなります。ノイズを排除し、最も価値のあるデータを選び抜くことが成功の鍵です。
  2. 競合との差別化が難しい
    競合他社も同じようなデータを使って分析しているため、単純なデータ活用では差別化ができません。市場のトレンドだけでなく、競争環境を踏まえた独自の視点が求められます。
  3. 「欲しくなる」仕掛けをどう作るか
    たとえデータから潜在ニーズを特定できても、顧客がそのニーズを自覚していなければ購買にはつながりません。ここで重要なのが、ストーリーテリングやブランドの文脈づくりです。

例えば、単に「高機能な掃除機」をアピールするのではなく、「家事の時短を実現し、自由な時間を生み出す」というメッセージに置き換えることで、顧客にとっての価値を明確に伝えることができます。

ビッグデータだけに頼らないマーケティング戦略

データはあくまで行動の記録であり、その行動の背景にある「なぜ」はわかりません。予測はできても、ゼロから新しい価値を創造することは困難です。データは過去に基づくため、完全に新しい市場を創出するような発見には向きません。そのため、ビッグデータだけに頼るのではなく、顧客の生の声を拾うための人的営業が重要になります。

人的営業によるニーズ発掘の可能性

対面営業での傾聴は、顧客自身が気づいていない潜在的なニーズを引き出す点で非常に有効です。ただし、単に話を聞くだけでは不十分であり、適切な質問や観察力が求められます。

  • 非言語情報の収集
    顧客の表情やしぐさ、話し方など、データでは捉えられない情報を基に洞察を得ることができます。
  • 質問を通じた気づきの提供
    「普段どのように業務を進めていますか?」といった質問を投げかけることで、顧客自身も気づいていなかった課題に気づくことがあります。
  • 関係構築による本音の引き出し
    営業担当者との信頼関係が構築されることで、顧客はより深いニーズや本音を話すようになります。

人的営業の限界

人的営業には、以下のような課題もあります。

  • 顧客自身が自覚していないニーズの発掘が困難
  • 営業担当者のスキルに依存し、再現性のある手法にしにくい
  • 多くの顧客に対応するには時間がかかり、スケールしにくい

ビッグデータ × 人的営業の融合が鍵

では、ビッグデータと人的営業はどちらが有効なのでしょうか? 結論としては、両者を組み合わせることが理想的です。AIによる分析で有望なターゲットを特定し、人の手による細やかな対応で最終的な意思決定を後押しする。このハイブリッドなアプローチこそが、これからのマーケティングの鍵となります。

まとめ:マーケティングの本質は「顧客の選択を変えること」

最終的に、マーケティングの本質は「顧客の無意識の選択をどう変えるか?」にあります。どれだけデータを分析しても、顧客が行動を変えなければ意味がありません。そのためには、データを活用するだけでなく、競争環境を正しく理解し、顧客に響くメッセージを作り上げることが必要です。

これからの時代、マーケティングは「情報戦」から「戦略戦」へとシフトしていきます。ただ情報を集めるのではなく、最適な戦略の中で顧客の心を動かすことが求められるのです。

経済の発展とともに、私たちの生活はかつてないほど物質的に豊かになりました。高機能な家電、ファッションの多様化、スマートデバイスの普及により、どこにいても便利な生活が手に入るようになっています。しかし、その豊かさが逆に「ストレス」や「選択の負担」を生むという「逆転現象」が起きています。


1. 物質的豊かさがもたらす「過剰」

かつては「モノが足りない」ことが問題でした。しかし、現代ではモノが多すぎることが新たな課題となっています。例えば、

  • 選択肢が多すぎて決められない(決断疲れ)
    • 朝、クローゼットの前で何を着るか迷う
    • メニューが豊富すぎると、どれを選べばいいのか悩む
  • モノが溢れて収納スペースが圧迫される
    • 片付けても片付けても減らないモノたち
    • 収納スペースを増やすために、広い家が必要になる
  • 情報過多で本当に必要なものがわからなくなる
    • インターネット上にあふれるレビューや広告
    • 次々と新しいトレンドが生まれ、何が本当に価値があるのか分からない

このように、豊かさによって得たはずの「快適さ」が、逆にストレスを生む状況が生まれています。


2. 「増やす」から「減らす」へ—価値観の転換

この「逆転現象」により、近年注目されているのが「シンプルに生きる」という価値観です。

  • 断捨離やミニマリズム:不要なモノを減らし、本当に必要なものだけに囲まれる生活
  • サブスクリプションサービス:所有するのではなく、必要なときに使うという考え方(Netflix、Spotify、家具のレンタルなど)
  • デジタル化の加速:本やCD、紙の書類を持たずに、すべてクラウドで管理

この流れは単なる一時的なトレンドではなく、「減らすこと」が新たな価値になった結果です。


3. 「減らすこと」にビジネスチャンスがある

この新しい価値観をマーケティングの視点で捉えると、「減らす」ことをサポートする商品やサービスが求められていることがわかります。

① 「選択肢を減らす」ことで負担を軽減する

  • ユニクロの「定番化」戦略:シンプルでベーシックな服を提供し、迷わず選べる
  • Appleのミニマルデザイン:機能を厳選し、シンプルな操作性を重視
  • カフェのメニュー縮小:選択肢を絞ることで、注文の決断時間を短縮

② 「所有から利用」への転換

  • 家具・家電のサブスクリプションサービス:必要な期間だけ使うことで、モノを増やさない
  • カーシェアリング:車を所有せず、必要なときだけ利用する
  • アパレルのレンタルサービス:洋服を買わずに、その都度レンタルする

③ 「持たない快適さ」を提供する

  • デジタル化によるペーパーレス:書類をデータで管理し、紙の削減
  • キャッシュレス決済:現金を持たずに、スマホだけで支払いを完結
  • クラウドストレージの普及:データをUSBやHDDではなく、クラウドに保存

このように、「足す」ではなく「引く」ことで新たな市場が生まれているのです。


4. まとめ:「豊かさの再定義」が求められる時代へ

かつては「モノを持つこと=豊かさ」でした。しかし、現代ではその豊かさが「逆転現象」を引き起こし、新たな価値観を生み出しています。これからのマーケティングでは、「モノを増やすこと」ではなく、「最適化し、減らすこと」にどのように価値を見出すかが重要なテーマになるでしょう。

企業がこれから取り組むべき課題は、「減らす」ことによってどのような新しい快適さを提供できるかです。「選択肢を減らす」「持たなくても済む環境を整える」「シンプルな体験を提供する」ことが、次世代のビジネスモデルの鍵となるのではないでしょうか?

製薬企業をはじめ、多くの企業が国内市場の縮小に伴いグローバル化を進めています。しかし、市場縮小期に適した戦略を持たずに海外展開を進めると、結局は国内でも海外でも競争に敗れるリスクがあります。これは、多くの企業が未だに高度経済成長期に成功したビジネスモデルを基盤にしていることが原因です。

成長志向型モデルの限界

日本企業はこれまで、以下のようなモデルで成長してきました:

  • 市場拡大による生産量増加
  • 規模の経済によるコスト削減
  • 安定した雇用環境のもとでの人材投資

しかし、このアプローチは拡大市場では機能しても、縮小市場や成熟した海外市場では適用が難しくなっています。市場縮小期に適した戦略を持たない企業は、成長の鈍化とともに競争力を失いかねません。

従来のグローバル化戦略が通用しない理由

海外市場であっても、従来の成長モデルでは以下のような課題に直面しやすくなります:

  1. 海外市場も常に成長しているわけではない
    かつては無限の成長が期待された新興市場も、経済の成熟や人口動態の変化によって成長が鈍化しています。戦略のない無計画な海外展開は、結果的に企業のリスクを高めることになります。
  2. 価格競争に巻き込まれる
    特に新興国市場では、低コストの現地企業との競争が激しく、日本企業が単に価格競争で勝つのは困難です。価格ではなく、価値を提供する戦略が必要になります。
  3. ブランド力とマーケティングの弱さ
    日本企業は技術力を強みとしていますが、海外市場ではブランド戦略やマーケティングの不足が原因で、製品の良さが伝わりにくい傾向があります。
  4. 市場縮小時の適応力不足
    多くの企業は、市場が縮小すると撤退やリストラを選択肢としがちです。しかし、これでは競争力を維持できず、海外市場でも持続的な成長が難しくなります。

縮小市場で勝つための「収益性最大化」戦略

市場の拡大を追い求めるのではなく、勝てる市場を選び、収益性を最大化することが重要です。

  1. 勝てる市場を選定する
    ただ成長市場を狙うのではなく、自社の強みを発揮できる市場を選ぶことが鍵です。
    • 競争が激しい市場ではなく、特定のニッチ市場を狙う
    • 価格競争ではなく、技術力やブランド力で勝負する
    • 既存顧客との関係を深め、LTV(ライフタイムバリュー)を高める
  2. 規模の経済よりも収益性を優先する
    成長のための成長ではなく、以下の点を重視するべきです。
    • 高利益率のビジネスモデル(サブスクリプションやサービス提供型など)
    • コスト競争から脱却し、付加価値を高める
    • 単なる製品販売ではなく、ソリューション提供型のビジネスに移行する
  3. 戦力を集中し、競争優位性を発揮する
    分散的な投資ではなく、競争力のある分野に資源を集中すべきです。
    • デジタル技術やデータ分析を活用してターゲティングを強化
    • 自社の強みを活かせる市場に重点的に投資
    • 収益性の低い市場からは計画的に撤退する
  4. ゼロサム市場での競争に備える
    成長が鈍化すると市場はゼロサムゲーム化し、競争がより熾烈になります。
    • 競争相手のシェアを奪う戦略を明確化する
    • 価格競争ではなく、提供価値を高める
    • 景気変動に強い事業ポートフォリオを構築する

結論

グローバル展開は、単に海外市場に進出すれば成功するものではありません。市場縮小期の戦略を持たずに海外進出すると、結局は国内と同じように競争力を失うことになります。

「撤退やリストラを前提とするのではなく、勝てる市場を選び、収益性を最大化する戦略」が不可欠です。成長だけを追い求めるのではなく、市場が縮小しても持続的に勝ち続けるための戦略を持つことが、今後の企業の成長にとって重要となるでしょう。

医薬品市場について、「まだまだ成長している」と主張する方がいる一方で、「すでに成熟期から衰退期へ移行している」と考える方もいます。市場ライフサイクルの観点から、現在の医薬品市場の状況を整理してみましょう。

医薬品市場の特徴

一般的な消費財市場は、需要と供給のバランスによって市場規模が変動します。一方で、医薬品市場は公的医療保険制度や政府の医療予算の影響を強く受け、自由競争が制限されているという特徴があります。そのため、市場の拡大や成長は、医療財源の制約の中で決まることになります。

成熟期から衰退期へ移行する要因

現在の医薬品市場において、成長を支えていた要因が弱まりつつあります。

  1. 医療財源の制約
    • 国の医療費抑制政策により、薬価の引き下げが続いています。
    • 財政赤字の拡大により、医薬品への公的支出は増やしにくい状況です。
  2. 人口減少と経済停滞
    • 日本をはじめとする先進国では人口減少が進み、将来的な患者数の減少が予測されます。
    • 経済成長の鈍化により、医療費の増加を支えるだけの財源確保が困難になっています。
  3. ジェネリック医薬品の普及
    • 新薬の特許切れが進み、低価格のジェネリック医薬品への置き換えが進んでいます。
    • これにより、製薬企業の収益基盤が弱まっています。
  4. 競争の激化
    • 多くの疾患領域で競争が激化しており、価格競争にさらされています。
    • バイオシミラー(バイオ後続品)の登場も、収益減少の要因となっています。

「まだ市場は成長している」という意見について

一方で、「市場はまだ成長している」と考える方がいるのも事実です。その主な根拠は以下のような点にあります。

  1. 高額医薬品の登場
    • 抗がん剤や遺伝子治療薬など、一部の高額医薬品は市場規模を押し上げています。
    • ただし、これらの薬剤は高額であるがゆえに、財政的な制約を受けやすいです。
  2. 高齢化による需要の増加
    • 慢性疾患(糖尿病、高血圧、認知症など)の増加により、医薬品の需要が高止まりしています。
    • しかし、これらの疾患領域ではジェネリック化が進み、利益率は低下傾向にあります。
  3. 新興国市場の成長
    • 先進国市場が停滞する一方で、中国やインドなどの新興国市場は拡大しています。
    • ただし、現地企業との競争や価格規制が強まっており、利益確保が難しくなっています。

結論

医薬品市場全体で見ると、成長要因が弱まり、成熟期から衰退期へ移行していると考えるのが妥当でしょう。一部の領域では高額医薬品や新興国市場の成長が見られるものの、医療財源の制約や人口減少、ジェネリック普及による影響が大きく、全体の市場環境は厳しさを増しています。

市場の変化を正しく理解し、戦略を適切に見直すことが、これからの医薬品業界において重要になるでしょう。

以前、ある希少疾患向け新薬を開発する製薬企業のビジネスプラン作成のお手伝いをした際のお話です。新製品のロンチにあたって「売上目標は100億円」と宣言されていました。しかし、なぜ100億円なのかを尋ねると、「社長がそう言うから」という根拠が曖昧な理由でした。そこで改めて市場規模を調べてみると、対象となる市場は約200億円と試算されました。つまり、100億円の売上を達成するためには市場の50%を獲得する必要があるということです。

もし100%のシェア値であれば全体市場を占有する必要があります。では、このシェア目標がたとえば25%や10%であれば、どう変わるでしょうか。ここで重要になるのがSTP戦略です。STPとは「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の略称で、市場をどのように区切り、どこを狙い、どんなポジションで勝負するかを決定するフレームワークです。

たとえば半数以上のシェア獲得を目標とするならば、市場全体に対して積極的にアプローチし、大きなマーケティング予算や営業体制が必要になります。しかし10%を狙うのであれば、より特定のセグメントに集中し、限られた人員・予算でも効率的に成果を上げられる戦略を組むことが可能です。

売上目標が意味する市場シェア値は、STPにもつながるという視点は、戦略策定にとって欠かせません。目指すシェア値に応じて、必要となるリソースの量や配分、マーケティング手法、さらには提携やパートナーシップの選択肢も変わってきます。

単に大きな数字を掲げるだけではなく、「その数字が市場全体の中でどの程度の位置づけになるのか」「それを達成するためにどんなSTP戦略が必要なのか」を明確にすることを理解してください。