後発医薬品に対して先発医薬品が優位性を持つための戦略

新薬は特許によって「一社による販売」が認められている「独占市場」であり、供給元である製薬会社は需要に対する一定数のみ製造/販売を行い、かつ公定価格による保護を受けることで一定の期間は独占的に利潤を得ることが約束されています。

しかし特許期間後は先発医薬品と同様に臨床試験等により確認され薬事法に基づく厚生労働大臣の承認を受ければ、どの製薬会社もその医薬品を「ジェネリック医薬品」として販売できるようになるため独占市場は成立しなくなります。

では「不完全競争市場」が成立しなくなった医薬品ビジネスは直ちに「完全競争市場」となるかと言えばそうではありません。

品質や先発医薬品メーカーのブランド力や信頼度、取引期間やMRとの関係性などにより一定数の顧客がその製品を使い続けるからです。

「完全競争市場」が成立するためには、時間経過とともにその薬品を最初に発売した製薬会社がどこなのか、市場/顧客の多くが忘れ去る必要があります。

つまり先発医薬品であることを認知されていることが重要な要因だと言えます。

そのためには競合に対して圧倒的なシェアの差をつけた市場内のNo,1であることが大前提です。

つまり戦略とは市場の占有率を上げ顧客内認知度を高めることと言えます。

しかし現実には、ほとんどの先発医薬品メーカーでは特許の切れた製品に経営資源を割かなくなるため、その経過は比較的早く進む傾向にあるでしょう。

2者間競争では競合および顧客が明確であるため、マトリクス分析など必要がないと思われがちです。

しかし実際には2者間競争であってもミクロ競争環境は千差万別でありワンオペレーションでは対応しきれません。

競争環境を正しく捉えていなければ知らぬうちに競合に攻略されていたということも起こります。

デモデータでは、全体市場における競合製品のシェアが52%、自社製品のシェアが48%と非常に僅差です。

そのため全社としては「拮抗」を基準にした戦略プランを実行することになると思われます。

では実際に「拮抗」を基準としてよいのか、マトリクス分析によって検証してみましょう。

a行およびb行のABC6フレームにおいて、自社製品は40%のカバー率で80%の売上金額構成比、競合製品は60%のカバー率で95%の売上金額構成比となっています。

したがって安定性では競合製品が自社製品を大きく上回る結果となりました。

また最も注力すべきAbフレームに分類される顧客数を比較すると、自社製品は1顧客、競合製品は4顧客となっています。

明細タブから双方のシェア差を確認すると自社製品のAbフレーム1顧客はほぼ互角の拮抗状態です。

一方、競合製品のAbフレーム4顧客はAaへランクアップ寸前の予備軍ばかりです。

このまま競合製品の攻略を許せば、「拮抗」状態は一気に競合製品優位に傾く可能性が非常に高い状況です。

まずは自社製品のAbをAaにランクアップすること、そして競合製品のAaランクアップを阻止することが最優先課題となります。

自社製品のc行およびd行のABC6フレームにおける売上金額構成比は、カバー率61%に対して19.8%と寄与率が低いため、限られた経営資源を有効に活用し、戦力で競合製品を上回るために、ここに投入しているリソースをAbのAaランクアップと競合製品のAaランクアップ阻止に振り替えるべきでしょう。

全体市場におけるシェアばかり注視して詳細市場の分析を怠ると大きなしっぺ返しがあるかもしれません。

コロナ禍であろうと働き方改革で在宅ワークが推奨されようと、医療機関は労働集約型であるため、リモート化が進む現在においてもワークプレイスは変わりません。

仕事の合間にパソコンを除いて情報収集をする余裕はほとんどないと言ってよいほど忙しいのです。

だからこそ、パンフレットや資材を携えて医師が出てくるのを待ち続け、その移動中に急いで自社製品を紹介するコロナ禍以前では当たり前のように見られたMRの営業活動は意義があったと言えるのではないでしょうか?

発売後の口座開設に失敗し、その後も市場拡大が上手くいかないケースを取り上げてみましょう。

発売時の担当者は既に不在で後任の担当者に交代したような場合には、責任は無いものの負の遺産を引き継ぐことで成果につなげることが難しく、モチベーションが維持できずに負のスパイラルに陥ることがあります。

そのような場合には、まず成功体験を得ることが大切です。

当該製品は全体市場における1位のシェアを持つ強者ですが、担当者の対策前後のマトリクス分析ではaおよびb行のフレームが空欄となっており、全ての顧客において競合製品が圧倒的な有利な市場環境です。

これでは本社から出されるビジネスプランを愚直に実行したとしても上手く行きません。

現状で最も注力すべきフレームはAcのフレームであり、4顧客が存在します。

最短で結果を出すために3か月間リソースを集中する顧客として1つだけ選択することにします。

では4顧客のうち、最も短期で成果を出すことが出来る顧客は誰でしょうか?

自社製品のシェアが最も高いのは顧客Dですが、1位の競合製品とのシェア差が大きすぎます。

顧客Cは1位の競合製品のシェアは高くなく、自社および他の競合製品間のシェアも近接しています。

顧客Cをターゲットに3か月間、集中的に活動を行った結果、自社製品のシェアは13.4%から16.7%までアップし、1位となったことでAcからAbへとランクアップに成功することが出来ました。

さらに4%シェアを拡大することが出来ればAaへのランクアップも実現可能です。

Aaが出来ることで売上実績は安定するでしょう。

成果が出ない状況で漫然と活動を続けるのではなく、実現可能な目標を立てることでモチベーションが高まり、成果が出たことで次の目標に進むことが出来るでしょう。

縮小市場では市場占有率を高めることが重要であり、全体市場におけるシェアで1位になることはゴールです。

しかし1位になっただけでは市場における競争優位性までは判断することは出来ません。

一例を上げてみました。

競合製品①は自社製品に対して3%シェア値で上回る市場における1位のポジションです。

では1位のポジションではあるが本当に市場における安定的な強者でなのかを検討するためにマトリクス分析を行ってみました。

競合製品①と自社製品の、Aa、Ab、Ba、のカバー率および市場金額構成比は両者ともに同等です。

一方でc行のAc、Bc、Ccの数は自社製品は85に対して競合製品①が101と上回っており、カバー率および売上への寄与率も高くなっています。

c行のフレームは競合優位であり、そのため競合製品①は競争劣位の非常に脆弱は市場で売上を得ていると言うことを意味しています。

つまり競合からの攻略に陥落しやすく、一瞬にして売上を失う危険性があると言うことです。

自社製品は同等のカバー率でありながら売上金額構成比において競合製品①を上回っており、むしろ全体市場でのシェア値は2位であっても安定性では自社製品の方が競合製品①よりも高いと言えます。

自社製品における課題は、未取引顧客数(シェア値5%以下)であるd行のAd、Bd、Cdの数は57、カバー率28.9%と大きく、売上金額構成比は0.8%と寄与率は非常に低くなっていることです。

このフレームにかけるリソースはAbフレームに転嫁した方が良いでしょう。

絶対的なシェア値も重要ですが、マトリクス分析からいかに競争優位性に裏付けられた安定的なシェア値であるのかを知る必要があります。

UXやCXなど、カスタマーセントリックへの取り組みが注目されています。

医薬品ビジネスは購入者である医師/医療機関と消費者である患者の2段階の構造です。

エンドユーザーとしての患者のニーズを探索するためにペルソナやカスタマージャーニー、ペイシェントジャーニーなど価値提供を模索しています。

とはいえ製薬企業は直接的に患者にプロモーションを行うことは出来ません。

製薬企業が提供する患者にとっての価値はどのように伝えれば良いでしょうか?

私は医療法人の顧問として経営戦略をプランニングしていますが、医療機関でも集客のためのマーケティングは必要不可欠となっています。

少子高齢化による人口の減少によって、同じ医療圏にある他の医療機関と患者を取り合うことはごく自然な流れです。

つまり製薬企業が行う患者にとっての価値提供は、医療機関にとっての価値でもある可能性があると言うことです。

自社の製品/サービスを利用することによる、医師/医療機関の目線での患者への価値提供を提案することが大切なります。

B to B to Cの医薬品ビジネスにあっては、B to Bを攻略することが優先されます。

医薬品ビジネスでは様々な法規制や保護により競合との同一化を余儀なくされるため、差別化が機能せず極めて限局的なマーケティングとなる傾向にあります。

すなわちマーケティングによって競合への優位性を得ることが非常に難しいビジネス環境にあると言えます。

そのため、マーケティングによる競合への優位性を得ることが困難であり売るための仕組みが機能しにくいビジネスと言えます。

マーケティング=戦術とは「手段、オペレーション」です。

戦術は戦略を実現させるための手段であり、成果を出すための具体的な方法です。

つまり戦略が間違っていれば、いくら優れた戦術を駆使しても目的を達成することは出来ません。

『戦略の誤りは戦術では補えない』という言葉の所以はこのことから生まれています。

めまぐるしく変化する競争環境の中では環境変化に適応力のある「戦略」を立てることがとても重要です。

戦略とは『目的を達成するための科学』です。

戦略の優劣が勝敗を決定するといっても過言ではありません。

皆さんは「亀蛇宇宙図」をご存知でしょうか?

この世界は巨大な半球であり、その下では巨大な3匹の象が地球を支え、それを巨大なカメが支え、一番下ではとぐろを巻いた巨大なヘビが世界のすべてを支えている古代インドの宇宙観とされるものです。

象は「方位」を、亀は「未来」を、蛇は「時間」を表しているとも言われています。

人々は自分たちが暮らす地上のことは知っていてもそれを支える存在についてはあまり気を配ってはいません。

地上では日が昇りそして日沈み、陽が照り時に雨が降り、全てがダイナミックに動き続けています。

ビジネスにおけるこの「動」の存在がマーケティングです。

マーケティングプランに基づいて行動し変化を肌に感じながら成果につなげることに夢中になってしまうことも多いでしょう。

夢中になりすぎていつしかそれ自体が目的かのようになることは珍しいことではありません。

しかしマーケティングは目的を達成するための手段であって目的そのものではありません。

そのため目的達成に向かって手段が適切に機能しているか確認することを忘れてはいけません。

一方でそれを支える象や亀は「静」の存在です。

目的を達成するためには外部からの示唆や影響によって決める向かうべき方向性となる「指針」としての戦略がなければなりません。

戦略がなければマーケティングがいかに優れていたとしても戦いには勝てません。

戦略のないマーケティングはただのファンタジーです。

そして戦略には未来像となるビジョンとしての明確な目的が必要です。

ビジョンと戦略は一度定められた後には大きく変わることはありません。

目的とそこへ至る方向が簡単に代わっては道に迷ってしまうからです。

変わらないものが大切です。

S.I Labが提唱するマトリクス分析による戦略プランニングの手法は、定量データを用いた数学的アプローチからの全く新しい分析手法です。

マトリクス分析はその新規性と進歩性により、経済産業省 特許庁より特許番号:特許第7101426号を取得しています。

特許の対象となったのは「市場分析システム、市場分析プログラムおよび市場分析方法」です。

分析のための専門的な知識やスキルは必要なく、誰でも簡単に分析することが出来る客観的で再現性に優れた独自のものです。

入力データの範囲に応じて、「全社戦略」、「エリア戦略」、「担当者ごとの戦略」の全てが同じロジックによって分析されることで、組織全ての階層で全体と同じ意思決断をおこなうことが出来ます。

そのためスピーディな判断力と行動力を発揮できるフラクタル型組織を実現します。

分析に用いる定量データは受発注データを用います。

受発注データは市場環境、顧客の消費行動、競合との競争状況を最も敏感に反映する指標です。

製薬業界はその受発注データを入手できる極めて稀な業界です。

受発注データほど正確でアップデートが早く、かつ定量的な情報は、アンケート調査やローラー調査をしても到底入手することは出来ません。

受発注データの代表はIQVIA社が提供するDDDと呼ばれるもので、多くの製薬企業が購入し営業担当者がいつでも閲覧できるようにダッシュボードに表示させています。

受発注データは予め数値化された定量データのため、印象や推論、経験値や感覚に基づく意思決定ではなく、客観的に顧客の治療方針や処方傾向、および競合の状況を追跡、分析、評価することで効率よく自社製品の処方につなげることができます。

さらに受発注データは定期的に更新されるため、最新のデータを用いることで戦略を常に最適な状態に維持することが出来ます。

マトリクス分析では受発注データを基に「市場規模」、「競争地位」、「競争優位性」の3つの指標を用いて分析を行います。

パレートの法則によって「市場規模」を3分位とした軸と、各製品のシェア値を基にマーケットシェア理論を用いて市場内の順位である「競争地位」と、競合との優劣を示す『競争優位性』を数式化した4分位の2軸の掛け合わせによって12のフレームに顧客数をマトリクス表示させます。

パレートの法則を用いれば見返りの大きい顧客数と優先順位を視覚的に把握することが出来ますが、パレートの法則だけを用いたターゲティングでは、競合との相対的な競争状況が分からず「必ず勝つ、絶対に負けない」ための戦略を立てることが出来ません。

「必ず勝つ、絶対に負けない」戦略を立てるためには競争地位と競争優位性を用いた市場における競合状況を加味した指標が必要です。

ビジネスフレームワークにおけるターゲットは顧客を指しますが軍事用語に由来する「戦略」が意味するターゲットとは競合です。

特に、市場が縮小傾向にある衰退期ではゼロサムゲームとなり、片方が売上を伸ばせばもう片方は売上を奪われることになります。

自社製品のターゲット顧客を奪い合う相手とは誰なのかを正しく理解し対策を立てなければ勝つことは難しくなるでしょう。

マトリクス分析のアルゴリズムでは分析結果から4つの戦略プランが導き出されます。

競合の脅威が低い「圧倒的強者」から勝つ見込みがほとんどない「圏外弱者」まで4つのタイプ分類に市場規模を加味することで優先順位はもちろんのこと、経営資源の配分、戦略と戦術が明確になります。

特許取得記念として、お問い合わせからお申し込みいただければ個別の相談会を実施させていただきます。

実際に貴社の受発注データを用いての分析も可能ですので是非お申し付けください。

パレートの法則に従っていつまでも大きな市場や売上高の大きな製品に対して経営資源を投入し続けることは消耗戦につながります。

自社だけでなく競合も市場と売上を死守するために同様に経営資源を集中投下してくるからです。

お互い自ら骨身を削り合い損失を無視して大量に経営資源を投入することで企業体力に勝る側が勝利することになりますが例え勝ち残ったとしても市場価値が既に失われていたのでは身も蓋もありません。

最適な経営資源配分を判断する経営手法としてプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)が有名です。

PPMは1970年代にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の開発した製品および事業のポートフォリオのフレームワークです。

横軸に経験曲線効果に基づく相対的市場シェア、縦軸に製品ライフサイクル理論に基づく市場成長性を数値で表現する4象限のマトリクスにより、製品・事業の位置づけと組み合わせを一覧することができます。

これにより、企業が展開する複数の製品・事業の戦略の方向性を検討します。

問題児(育成すべき段階)、花形(現在の取り組みを維持・継続する段階)、(金のなる木(投資を抑えて収益を回収・収穫する段階)、(負け犬(撤退する段階)の4象限は皆さんご存知でしょう。

PPMで横軸に用いる相対的市場シェアは、市場全体の売り上げを対象として導き出す絶対的市場シェア率とは異なり、ある特定の競合他社におけるシェア率を対象として算出するシェア率です。

比較対象が1社で自社が比較対象よりシェアが大きい場合には相対的市場シェアは1より大きくなります。

相対的市場シェアは競争力を的確に示す指標として事業戦略検討のための分析手法です。