テルモピュライの隘路でのペルシアの20万の大軍とスパルタのレオニダス王が率いるわずか300の兵の激闘はご存知でしょうか?

映画「300」にもなった有名な戦いです。

テルモピュライはアテネの北方にあり、山と海にはさまれた隘路となっており、ペルシア軍を阻止する戦いの場に選ばれました。

戦いにおいて「必ず勝つ、絶対に負けない」ための最低条件は敵に対して同等以上の戦力を持つことです。

テルモピュライの戦いにおけるスパルタ軍の兵力は、実際には300人ではなく、ギリシアのポリス連合軍として7000人ほどの兵士だったとされています。

しかしそれでも兵力差は50倍という圧倒的な差があった事は事実のようです。

ではスパルタ軍がペルシア軍に勝つための最低条件である戦力を同等以上にするためにはどのようにすればよいでしょうか?

その答えは選ばれた主戦場にあります。

テルモピュライは海と山に挟まれた隘路になっており、ペルシア軍はいかに大軍であっても進行する際に軍が伸びきってしまい、スパルタ軍との戦力差が無効化されてしまいます。

進入路を狭め進入するペルシア軍の数を制限することで、両群の対峙する兵力数が同等になった結果、スパルタ軍の少数の兵士でもペルシア軍を足止めすることが出来るわけです。

さらに300人であっても選りすぐりの精鋭部隊であるスパルタ軍と、戦意の低いペルシア軍では同等の兵力数であれば戦力においてスパルタ軍が圧倒的に上回ります。

戦力は兵力と武器性能の積で決まるため、同じ兵力数であれば戦闘力の高いスパルタ軍に勝機が生まれます。

スパルタ軍はファランクスと呼ばれる布陣による戦闘を得意としていました。

ファランクスは盾と槍を持った兵が密集し敵を攻撃しながら、隣の人間を守る隊形の事です。

テルモピュライの戦いおける主戦場と主敵、そして布陣はまさに戦略におけるセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングのSTPです。

すなわち優れた戦略こそが「必ず勝つ、絶対に負けない」ための絶対条件です。

競合が存在しない魅力的なマーケットは無い

新規作用機序を持つ全く新しい製品には競合は存在しないと考えていませんか?

私の取引先の製薬会社にも、実際にそのように考えてマーケティングプランを立てるマーケターの方は多く存在しています。

本書は「医薬品ビジネスは究極のレッドオーシャンマーケット」がテーマという観点から言えば、その可能性は非常に低いと断言します。

自社製品の適応症に該当する患者全てが対象とした場合、今現在その患者はどの市場に存在しているのでしょうか?

競合が存在しないのならば全くの未治療の潜在的患者です。

その場合、治療されていない理由はどこにあるのでしょうか?

もちろん正式な適応症を持つ薬剤が存在しないということは未治療の大きな要因です。

しかし本当に治療の必要性が高ければ代替治療が行われているはずです。

つまり未治療なのは治療の必要性‣緊急性があまり高くない、すなわちニーズが低いことが考えられます。

また治療は薬物療法だけでなく、非薬物療法もあり、本当に治療が必要な患者は何かしらの薬物治療あるいはその他の治療を受けていることが予想されます。

その場合は、同じ作用機序製品のない全くの新薬であっても既存の治療法からの切り替え、あるいは新患を獲得しなければなりません。

すなわち競争市場において、多くの場合には競合が存在しないマーケットは無い、または採算の合わないニッチな市場ということです。

魅力的なマーケットには必ず競合が存在します。

戦略の本質は主戦場と正敵を定めること

これまでのブログを読んでいただいた方は、全体市場の規模と競争環境における自社/自社製品の競争地位および競争優位性による相対論として戦略を立てることの重要性についてご理解いただいている思います。

つまり戦略の本質は、どこを主戦場として戦うか、誰を正敵として攻守攻防戦を挑むのかを決めることに尽きます。

地形分析もなく、敵が誰かも分からないようでは、右往左往している間に全滅してしまいます。

そして状況に応じて変化しているのは自社だけではありません。

市場も競合も同じく変化し続けています。

勝敗のカギを握るのはスピードです。

競合よりも先に、いち早く状況を察知し、状況に応じて戦略を最適化し続ける必要があります。

その手法については改めて、詳しく述べようと思います。

不確実性の中では「戦略」は不要と考えている企業でも「マーケティングプラン」は存在することが多いのではないでしょうか。

「戦略」とはやるべき事とやらないことを決めることであり、マーケティングはそのやるべき事をどのように実行するかを明確にする「戦術」にあたります。

私は医療法人の顧問として経営企画に携わっており、新規事業プロジェクトのPMやPMOとしてマネジメントをさせていただいています。

その際、「どのようにやるか」と各論に議論が進みがちになることが往々にしてあります。

プロジェクト運営で重要なのは、まず何をするべきか漏れなくダブりなく徹底的に洗出し、優先順位を決めることです。

各論ばかり話し合っていては重要なタスクの洗出しが不十分となり、漏れや見過ごしが発生することで後々大きな問題に発展する危険性があります。

マーケティングプランは手段であって目的ではありません。

戦略がなければ、その戦術がいかに優れていたとしても戦いには勝てません。

戦略のない戦術はただのファンタジーです。

医薬品ビジネスにおいては過去に幾度も「危機的状況」にあると繰り返されてきました。

大型医薬品の特許切れが集中した「2010年問題」や後発医薬品の数量シェア目標が80%に定められた「2020年問題」など、製薬企業を取り巻くビジネス環境は目まぐるしく変化してきました。

そして現在は「団塊の世代」が75歳以上となる2025年問題という新たな「危機的状況」に直面しています。

2025年問題が過去と大きく異なるのは、これまでは「危機的状況」にありながらも医薬品市場は成長してきたということです。

市場ライフサイクルが「成長期」のフェーズであれば、程度の差はあれ市場に参入する全ての企業が売上を拡大することが出来ます。

しかし「成熟期」から「衰退期」へと市場ライフサイクルのフェーズが移ると、限られたパイを奪い合うゼロサムゲームが始まります。

つまり片方が売上を拡大すればもう片方は売上を奪われ、最終的には市場から駆逐されてしまう危険性があるということです。

すなわち現在の医薬品ビジネスは生き残りをかけた熾烈なサバイバル競争です。

「VUCAの時代」と言われるように不安感情が社会的なレベルで高まっています。

生物学的に生命の危険性を感じると、生物は生存の維持と危険回避の2つに集中します。

多くの製薬企業が行っている人員削減や売上維持にのカスタマーセントリック戦略は、まさに現状維持とリスクの回避のように見えます。

しかしこれらの戦略は市場競争で重要な「差別化」戦略を自ら無効化していると言えます。

「差別化」とは自らマイノリティを選ぶことによってマジョリティの中心となる行為です。

市場ライフサイクルの「衰退期」では、勝者と敗者の二極化が進み、差別化が行われないその他大勢は縮小を余儀なくされるか市場を去ることになるでしょう。

同一市場に存在する参入者の数から競争環境の厳しさを判断することは出来るでしょうか?

例えば競合企業の数が多ければ競争環境は厳しく、少なければ厳しくないと言ってよいかということです。

競合の数が少なければ競争環境は厳しくないように思えますが実はそう単純ではありません。

市場の規模と成長性、競争優位性の3つの視点から判断する必要があります。

十分に自社の取り分が確保出来るような大きな市場や、参入者の皆が共に売上を拡大することが出来る市場が拡大している成長期であれば、競合の数は多くても競争環境は厳しくはありません。

では自社以外の参入者が1社のみの2者間競争の場合はどうでしょうか?

勝つべき相手は目先のただ一人に打ち勝てば良いだけです。

市場規模が小さければ共存ではなく、競合を駆逐し全体市場を占拠しなければなりません。

市場規模が縮小していればゼロサムゲームとなり競争環境はより厳しくなります。

しかし競争環境が厳しくとも競合に対して圧倒的な優位性があれば勝つことは難しくない場合もあります。

2者間競争の場合、シェア差が1:3であればその市場内の競争は既に勝負ありの安定市場となります。

競争環境を正しく理解することは、「必ず勝つ、絶対に負けない」戦略を立てる上で大切なことです。

現在、クリニック開業の支援をしていますが立地が悪く医療圏として患者の見込みが損益点を超えません。

ビジネスにおいて、商圏として投資(開業)に見合うだけの市場性があるか、市場は成長しているかは重要な意思決定の要因です。

しかしクリニックと顧客である患者の関係はB to Cのビジネスモデルであり、顔の見えない不特定多数が対象です。

つまり消費財マーケティングと同様な戦略プランが可能と言えます。

現在の消費財マーケティングでは、従来のCMや広告を打って店舗で待つという受け身のビジネスモデルからインターネットなどのITツールを用いることで効率的にマスマーケティングを行うことが出来るようになり、BtoCからDtoC(製造者が消費者に直接サービスを販売するビジネスモデル)へと変化しています。

医療においてもホームページなどで認知を広げ、オンライン診療やAI問診などのシステムを活用すれば医療圏に縛られることなく全国を市場とすることも不可能ではありません。

一方で医薬品ビジネスは顧客である患者へのダイレクトマーケティングには制限があり、処方箋を必要とするため医師を介する必要があります。

BtoBのビジネスモデルからの転換はまだまだ難しいようです。

市場競争の激化やIT技術の進展によって、医薬品ビジネスはかつてないほど急速かつ急激な変化に直面しています。

特に少子高齢化による市場の縮小や度重なる薬価の引き下げにより、今後益々深刻な課題を抱えることが予想されます。

また、IT技術の進展は市場/顧客のニーズや価値観の多様化・複雑化をもたらし、これらの変化に柔軟で俊敏な対応をすることは生き残り競争に勝ち抜く上でも非常に重要です。

このような環境が変化により将来の予測が困難な状態をVUCAと言います。

VUCAという言葉はもともと軍事用語であったことはご存知でしょうか?

1991年末にソビエト連邦が崩壊した冷戦終了後の複雑化した国際情勢を示す用語として、米軍で使われ始めた軍事用語です。

2010年代になるとビジネスの場においても「将来の予測が困難な状況」という意味で使われはじめ、2016年に開催されたダボス会議で、「VUCAワールド」という言葉が使われたことで世界的な共通認識となりました。

将来の予測が困難なVUCAの時代というとネガティブなイメージを持ちますが、誰にも予測ができないということは新しいチャンスや可能性がそこに存在するとも言えます。

予測不可能な時代だからこそ、ゲームチェンジャーが生まれて新たなサービスや市場が生まれる可能性も秘めています。

ゲームチェンジャーは、これまでの常識が覆されるような従来とは全く異なる視点や価値観をもって市場に大変革を起こすような企業や製品・サービスのことです。

既存の市場ルールを無効化し、一気に業界トップに躍り出る可能性を秘めています。

VUCAという言葉がもともと軍事用語であったように、競争市場で勝つためには「戦略」が必要です。

勝つための理論とプロセスとして、医薬品ビジネスに特化したマーケティング手法として新たに再構築を行い、「市場分析システム、市場分析プログラムおよび市場分析方法」として特許を取得致しました。

参院選の結果が出ましたのでシェア理論的考察をしてみました。

与党の自民党と野党第一党の民主党のシェア推移から競争地位と政権交代の可能性を見てみましょう。

シェア(議席占拠率)において民主党が自民党に最も接近したのは2010年です。

民主党は2009年8月末の衆院選で自民党を破り政権交代を果たしましたが、3年余りの政権運営は迷走し、この間に首相は2回も代わっています。

2016年に再度、射程距離理を詰めますが射程圏内まではあと一息足りませんでした。

既に市場内競争は1強型のシェア類型となっており、これは既に勝負ありを意味します。

政権交代には大きな戦略転換かインパクトのある社会的な出来事が必要です。

圧倒的な強者である自民党ですら公明党との連立を組んでいるため、実際のシェア差はもっと大きいはずです。

弱者である民主党は全体市場を狙わずエリア戦略に切り替えることも戦略の一つです。

いずれにせよ、民意が反映された選挙結果ということでしょうか。

同一市場内に複数の競合が存在する場合、競争環境の厳しさは単純に参入している競合の数だけでは判断するは出来ません。

つまり競合数が多いから競争環境は厳しく、少ないから容易いとはならないということです。

競争環境を見極めるための2つの指標をご紹介します。

それは「シェア類型」と「市場ライフサイクル」です。

「シェア類型」では競合間のシェアの差から競争環境を判断することが出来ます。

「分散型」であれば参入者の誰にでも強者になれる可能性がありますが、「一強型」になってしまうとその市場では既に勝負ありの状態にあります。

もう一つの指標は「市場ライフサイクル」です。

市場規模は拡大しているのか、あるいは縮小傾向にあるのかが判断の基準となります。

市場自体が成長期にあれば、「レース型競争」となり、大小の差はあるにしろ、参入者の全てが売上を伸ばすことが出来ます。

逆に市場規模が縮小傾向にあれば、限られたパイを奪い合う「ゼロサムゲーム」となり、一方が売上を伸ばせば他方が売上を失うことを意味します。

今の医薬品ビジネスのマーケットは縮小傾向にあります。

まず優先すべきは競合との競争に勝ち残ることです。