7対1一般病棟入院基本料の1日あたりの平均レセプト請求点数は4,466点でした(H28年中医協調査)。

これは一ヶ月30日換算にすると133,980点、金額にすると1,339,800円です。

つまり一人入院するとひと月に134万円もの医療費がかかるということです。

20対1の療養病棟の入院基本料の平均請求点数は1,842点、一ヶ月でおよそ55万円となり、殆どのケースで在宅復帰はかなわず終身となります。

私が顧問をしている病院では6割の方が透析導入されており、入院基本料に加えて透析費用として約35万円/月が上乗せされることになります。

こちらも90万円/月と高額です。

今後、少子高齢化により高齢者の比率はより一層高くなることは容易に想像される事実です。

ではさぞや病院は儲かっているだろうと思われるかもしれませんが、病院は労働集約型のため総売上高に対して一般管理費が80%を占め、そのうちの50%は人件費です。

そのため利益率は5%程度となります。

多くの官公立病院で赤字なのが理解できるのではないでしょうか。

日本の統計が閲覧できる政府統計ポータルサイトのe-Statから、「受療行動調査」の結果から、外来の待ち時間と年齢別の医師以外の病院スタッフの対応に対する満足度を調べてみました。

2002年から2017年と少々古いデータとはなりますが、外来診療の待ち時間に大きな変化がないことに驚きます。

AI問診、リモート診療が進みつつある直近のデータでは変化があるでしょうか?

また病院スタッフの対応には、高齢者では若干スコアが低くなるものの、概ね満足していることが分かります。

私が顧問をさせていただいている医療法人でも時々クレームはありますが、データを見る限り個別に生じたクレームにしっかりと対応することを怠ることがなければ大きなトラブルにはならなさそうです。

これらは無償で公開されているデータのほんの一部です。

顧客ニーズを探索するためのデータベースとしての活用範囲は非常に広いため是非覗いてみてはいかがでしょうか。

みなさんは「視覚優位」や「聴覚優位」、「言語優位」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。

これらは認知特性と呼ばれ、外界からの情報のインプットやアウトプットの情報処理の方法です。

認知特性は人それぞれ異なり、同じことを見たり、聞いても必ずしも自分と同じ方法で相手が理解しているとは限りません。

たとえば、文字ばかりの説明の方を好むという人がいる一方で、グラフなどの情報の方が理解しやすい人もいます。

このように認知特性は、個人個人の思考や認知の「好み」と言えるものです。

昨日のブログで、「メラビアンの法則」を例に、文字だけの情報では伝達出来る情報量が少ない傾向にあると紹介しましたが、皆さんの顧客である医師では若干の違いがあるかもしれません。

以前、話題になった本で「東大生のノート」というものがありました。

多くの人は、情報を自分の中で整理して頭に入れる「インプット」を目的としてノートをとっています。

100人以上の東大生による受験生時代のノートを調査した結果、彼らは「アウトプット」つまり「学んだ知識を試験時に確実に思い出すこと」を目的にノートを書いている、ということが分かりました。

確かに医師など知的レベルの高い方は文字情報を好む傾向があるように感じます。

クライアントである医師のホームページ作成を手掛けたことがありますが、対象者である患者を想定して写真などイメージを中心とした構成にしたところ文字を多く入れた構成にするように修正が入りました。

私のように情報処理速度が遅い脳を持つ人間には、ビジーに映る画面でも、クライアントには情報量が少なく、訴求インパクトが低いと感じたのかもしれません。

営業戦略においてMRの意見はどの程度、尊重され、重要視され、反映されているでしょうか?

新型コロナウイルスによる影響が沈静化した現在のMR活動は、コロナ以前の対面による営業活動中心に戻っているそうです。

医療機関の訪問自粛要請などから顧客への対面営業が困難であったここ2年間はデジタルによる情報提供への転換を余儀なくされ、メールやWebの活用を積極的に行ってきました。

本社としては既に推進しているデジタルを中心とした情報提供に注力したいでしょうが、営業現場ではその意向に反して堰を切ったようにコロナ以前の活動に逆戻りしており、本社と営業との間ではギャップが生じています。

この急速な揺れ戻し現象は、デジタル化を推進してはいたものの定着まではしていなかったということかもしれません。

では本社と営業現場、どちらの顧客アプローチが正解なのでしょうか?

医薬品は市場のニーズを反映しているとはいえ、その開発の経緯からプロダクトアウトの形で市場にロンチされることが多いはずです。

その場合、まだまだ市場/顧客におけるニーズは十分に顕在化しておらず、MRによる潜在的な市場の掘り起しが重要な役割を果たしています。

そしてその対象者は必ずしのデジタルの親和性が高い顧客ばかりではありません。

また医療機関は労働集約型であるため、リモート化が進む現在においてもワークプレイスは必ず医療機関です。

在宅ワークでパソコンの前に座っているわけではないのです。

重要顧客ほど忙しいものです。アポイントの取得は難しく、そのために出待ちなどで面会機会を得る必要もあります。

さらに医薬品は高度な情報を伴う製品のため、必要な情報を顧客自ら見つけ出すことは、忙しい顧客ほど難しくなります。

また限定的な情報よりも周辺の情報も合わせて取得したいと考える顧客は少なくありません。

対面営業はデジタルに比べて効率の面では劣りますが、受注確率の面では高くなります。

「メラビアンの法則」では、言語情報は、メールやチャットなどのコミュニケーション代替ツールによって十分代用は可能であると言われており、対面によるコミュニケーションより事実を過不足なく伝えられるメリットがある場合もあります。

ただし、メールやチャットなどのオンラインに依存した言語コミュニケーションツールなど、オンラインで使用される語彙数は、日本人が日常的に話したり、聞いたりする語彙数の5分の1にしかならないという研究結果もあり、対面の場合に比べてかなり少なくなります。

つまり対面コミュニケーションで得られる情報量のうち7%が言語情報であり、そのうちの5分の1の1.4%程度の情報量しかオンライン言語ツールからは得られない可能性があるということです。

デジタルの活用とデジタル化の推進は当然進むべき方向かとは思いますが、デジタルを推進する方々はもう少し顧客に最も近く理解しているMRの声に耳を傾けても良いのではないでしょうか。

製薬業界は様々な保護と規制により同一化を余儀なくされ、差別化が非常に難しい業界です。

逆に言えば、小さくても競合に対して違いを生み出せば大きなレバレッジが効くということです。

違いを生み出すにはどうすればいいでしょうか?

それは競合がやっていないことをやることです。

そのためには競合を知る必要があります。

製薬業界は受発注データによって競合を知ることが出来る極めて稀な業界です。

では果たして受発注データを完全情報として使い切れているでしょうか?

多くの製薬企業が営業サポートとしてCRMを導入していますが、期待したような処方インパクトを得られていません。

CRMを定着させ、売り上げを向上させるために新たに研修を計画するなど対策を講じています。

現在の医薬品ビジネスにおける競争環境は非常に厳しいものです。

手探りで課題解決の方法を探していては市場競争のスピードについていけません。

なぜCRMは浸透・定着しないのでしょうか?

導入されたそのCRMは医薬品ビジネスにおいて正しい方法でしょうか?

CRMの導入は多くの業界・企業で急速に普及しています。

CRMとは「Customer Relationship Management」の略で「顧客関係管理」または「顧客関係性マネジメント」という意味で使われるマーケティング用語です。

CRMが普及する背景には、新型コロナウイルス感染拡大やコミニュケーションチャネルの変化、経済の後退などにより、新規顧客の獲得が難しくなっていることがあります。

そのような背景から、製品やサービスだけでは自社製品が選ばれることが難しくなりました。

例えば消費材であるシャンプーの顧客ニーズを考えてみましょう。

シャンプーの種類には人気サロンなどで販売されている高級シャンプーから大衆向けの製品、アトピーの方向けの製品、育毛・発毛効果を謳った製品、保湿効果でしっとりする製品や指通り良くさらさらさせる製品、予めリンスが配合された製品など、用途や年齢など幅広い顧客が対象です。

個々の顧客ニーズを第一に考え、それぞれのニーズに応えるカスタマーセントリック(顧客中心主義を実現するために、自社製品を購入している顧客データを分析し利用することが重要となっています。

そのために顧客情報を一元管理することで、データに基づき顧客ごとにアプローチを最適化することで顧客との良好な関係性を築き購買意欲の向上を図ることができるというわけです。

では医薬品に対する顧客のニーズとはどのようなものでしょうか?

製薬企業に求められることは革新的な医薬品の創出を通じて人々に健康を提供することであり、医薬品に最も優先される特性は効果と安全性です。

対象によっては忍容性、簡便性やコスト、安定供給などが選択の基準となることもあるかもしれません。

医薬品の承認には臨床試験の実施により安定した有効性および安全性の成績を示す必要があります。

特に後発医薬品においては先発医薬品と成分や規格などが同一であることを保証に承認され販売されることから、特に競合他社製品との差別化が図りにくい製品です。

医薬品ビジネスは様々な法的保護があり、コモディティ化しやすい究極のレッドオーシャンマーケティングです。

医薬品は嗜好品でも消耗品でもなく、病気に苦しむ人にとって必需品です。

理解すべきは処方をする医師が対象のカスタマージャーニーだけではなく、エンドユーザーとなる患者のペイシェントジャーニーの2つの側面が必要です。

消費財ビジネスに比べて顧客のニーズが瞭然とした医薬品ビジネスにおいて行うべきベストな手段としてのCRMは異なるはずです。

消費財ビジネスのような不特定多数を対象としたマスマーケティングは、多様な顧客ニーズに対応し、個客ごとに最適化されたマーケティングが難しい環境にあるます。

そのため多くの情報を収集し属性ごとに分類し分析を行い、CRMなどのITツールを用いることでダイレクトマーケティングに近ずく努力をしています。

つまり本来、ダイレクトマーケティングによる顧客へのタッチポイントを持っていればその必要は低くなります。

しかし新型コロナウイルス以降、顧客との対面営業が困難となった今では代替としてその必要性は状況によってはあるかもしれません。

製薬業界は自社製品のみならず競合製品の売上データが施設/Brick単位で入手できる極めて稀な業界です。

受発注データを読み解くスキルが有ればMRが最も知りたいであろう「治療方針」と「処方傾向」を推測することが出来ます。

更に自社製品のみならず競合製品の売上高が分かることで、患者数および市場金額規模まで分かります。

市場金額が分かればシェア値から自社の競争地位、競合他社に対する競争優位性が分かるので、顧客ターゲティングはもちろん、投入すべき経営資源の量や顧客に最適化されたメッセージが明確になるのです。

もし受発注データがなかったらどうでしょうか?

オンライン/オフラインで顧客情報を収集し、入力/管理、分析、考課、戦略プランニングから実行計画まで多くの行程が必要になります。

顧客個々人の顔が見えない、不特定多数のマスマーケティングある消費者マーケティングでは必要であっても、ターゲットマーケティングである医薬品ビジネス、それも受発注データを入手することが出来る製薬業界では自ら状況を複雑化しているのではないでしょうか。

戦略を考える時、市場/顧客と自社の関係は重要ですが、それだけでは十分ではありません。

もう一つ考えるべき重要な要因があります。

それは競合です。

なぜなら競争市場には必ず競合が存在するからです。

市場/顧客と競合、そして自社による3つの視点は、大前研一氏が既に3C分析で述べている通りです。

昨今では生産性向上のためにMRの削減する傾向が続いています。

利益が低下する理由として、2つの原因が考えられます。

一つは売上高が減少していること、もう一つは販売管理費が増加していることです。

営業部門は労働集約型のため人件費の割合が高くなる傾向が強く、そのため人員削減は利益の向上に効果的です。

では売上高の増加に対する人員削減の影響はどうでしょうか?

3Cの視点から考えると、適正な人員数は競合の戦力を上回ることです。

医薬品ビジネスにおいて、戦力量は非常に重要なファクターです。

製薬業界は政府により様々な保護を受けています。

特許による競合からの保護、薬価制度による価格競争からの保護です。

そして、さらにもう一つ重要なことがあります。

医薬品は高度な情報を伴う製品です。

製薬企業は顧客が知り得ない非常に多くの情報を有しています。

これによって製薬企業有利な不完全競争の状態を得ています。

しかし昨今では、製薬企業は顧客が自社製品の情報にリーチしやすいように、デジタルによる整備を推進しています。

顧客は自社製品の情報だけではなく、競合製品の情報を入手することで容易に比較することが出来るようになりました。

これは製薬企業が有利は不完全競争の状態を手放し、顧客が有利な完全競争に自ら進んでいるのと同じです。

政府の製薬企業に対する様々な保護は、反面で同一化を招き差別化が働きにくい状態です。

競合他社に対して優位性を得ることは簡単ではありません。

「量」と「質」を考えた場合、同一化した市場では競合を量で上回るしかありません。

市場規模が縮小する現在は、勝者と敗者を生むゼロサムゲームです。

競合に勝つための理論とプロセスが必要です。