データベースドマーケティングのリミテーション①

Facebookの「製薬ビジネス研究会」にてMRの方を対象にアンケート調査をさせていただきました。

まだ集計途中ですが、「CRMは生産性の向上や顧客アプローチの最適化を実現しているか

?」の問いに対して、1/4の方が「そうは思わない」と回答しています。

米国IT調査会社がCRMに取り組んだ日本企業を対象に実施した調査結果によると、「期待通りの成功」と答えたのは5%未満にすぎないそうです。

「ある程度は成功」と答えた企業を合わせても20%程度であり,CRMで成果を上げた企業は非常に少ないと言えます。

概ね今回のアンケート調査と同様の結果です。

「CRMは期待通りの成果を得られない」のでしょうか?

ITツールによる営業サポートによって業務効率化の目的は顧客満足度の向上による顧客の維持と売上の向上です。

言うまでもなくITツールは手段であって目的ではありません。

目的の達成につながっているのであれば、必ずしも活用されていなくても問題ではなく、個客ごとに最適で効果的なアプローチを選択することが重要です。

とは言え、ITツールを推進する担当者にとっては「手段」ではなく「目的」かもしれませんね。

「顧客管理」とは、顧客へのアプローチに用いるための、顧客の属性情報、購買履歴、接触履歴、取引履歴などの顧客情報を一元管理することです。

収集された顧客情報を基に、顧客ごとに最適なタイミングで情報やサービスを提供することにより顧客満足度の向上を図ることが目的です。

属人的営業では担当交代の際に失われてしまう顧客情報の損失を最小限に抑え、会社としての営業力を維持する事にもつながります。

では顧客管理が重要視されている理由はどこにあるのでしょうか?

近年では市場の縮小と顧客ニーズの多様化や、MRによるオフラインでの営業活動の制限など、以前のような営業アプローチでは新規顧客の獲得が難しくなったことから新しいアプローチの手法が必要となりました。

このような背景から、「既存顧客の維持」「見込み顧客の確保」「顧客属性に適切なアプローチ」が重視されるようになったことから顧客管理の重要性が高まりつつあります。

顧客管理の目的の一つに生産性の向上があります、

適切な活動計画やリソース配分を行うことで営業活動の効率化を図り生産性を高める事が目的です。

従来は外部環境・内部環境要因の分析結果から、顧客属性を分類し営業活動の効率化・高精度化を図るプロセスを人が行っていました。

その場合には偏りのない多くの情報とそれらを分析し顧客属性に最適化するスキルが必要とされます。

しかし、IT(Infomation Technology:情報活用技術)を用いることで分析者による偏りなく、収集した大量の顧客情報からダイレクトに営業活動の効率化を実現することが出来るというわけです。

顧客の多様性によって、従来の属性分類による出現率を用いて顧客層を設定することが困難になりました。

消費材マーケティングのように分散市場の不特定多数を対象としたマスマーケティングではその傾向が顕著です。

そのため、商品やサービスの機能・性能・価格といった「合理的な価値」だけでは差別化を図りにくくなっている現在、購入までの過程や使用する過程、さらに購入後の過程においても経験による「感情的な価値」の訴求を重視するCX(カスタマー・エクスペリエンス)というコンセプトが注目され始めました。

機能・性能・価格といった合理的な価値はコモディティ化しやすく、それだけでは自社と競合との差別化による競争優位性得ることが難しいからです。

そのような背景から「カスタマーセントリシティ」(顧客中心主義)を基盤として、顧客管理におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する製薬企業が増えています。

しかしどれだけ顧客のアクセス解析から滞在時間や嗜好を分析しても完璧にレコメンデーションすることはできません。

まぜなら人の消費行動は必ずしも合理性を伴うとは限らないからです。

過去の行動を分析することで、将来の行動を予測する確率は上がるかもしれませんが、一人ひとりの顧客個人を理解することは不可能です。

現代のようにコミュニケーションの手段がパーソナライズされても、個人のことを理解するには個客が本当にほしい情報を届ける必要があります。

消費材マーケティングではインターネット上のECサイトで商品を販売することが成立するため、実際に個客一人ひとりに営業を行うことは多くありません。

医薬品のようにターゲットマーケティングおいてはその必要性と重要性は比較になりません。

個客に最も近いのはMRです。

個客時代では対面のコミニュケーションがより重要になります。

そのことをもっと理解することがDXの成功のカギかもしれません。

医薬品マーケティングにおける製品戦略プランニングでは、様々な法律/規制などの影響を受けます。

自社の製品は、厚生労働省が認めた適応症にのみ使用が認められ、その使用には医師による処方箋を必要とし、学会治療指針や各種ガイドライン、薬価制度等などにより同一化が余儀なくされます。

すなわち医薬品マーケティングは限定市場での激しい競争と、極めて限局的な戦略プランとなるレッドオーシャンマーケティングです。

STP分析においても、適応疾患、処方箋、治療指針や薬価制度によって、セグメンテーションとターゲティング、そしてポジショニングはほぼ決められていると言っても良いでしょう。

では打ち手としてそのままのSTPで十分なのでしょうか?もちろん不十分です。

そのSTPには外部環境要因として市場/顧客の視点は含まれていますが、競合の存在の視点が欠けています。

競争市場には競合が存在し、競争に勝たなければなりません。

では競合の存在はどのように捉えれば良いのでしょうか?

それは競合の存在は競合そのものではなく市場/顧客を見ることです。

対象の顧客(患者)は今現在どこにいるのか?

まず市場を見て、その市場内で顧客を取り合う可能性があれば全て競合と言えます。

その上で自社と競合との競争地位と競争優位性から戦略プラン上の競合を特定します。

顧客が医薬品に求めるものは一般的な消費財に比べて限定的です。

そのため分析のプロセスを「仮説検証型」で進めることで効率的に行えるようになります。

探索型のアプローチに比べイノベーティブなアイディアは生まれにくくなりますが、既に製品として世に出ているためマーケティングプランニングにおいては適していると思います。

また仮説検証型とは言え、ヘルスケア全般から自社製品に関連する外部環境要因を絞り込む工程は少なくありません。

重複せず、全体として漏れがない分析を心がけましょう。

では顧客のニーズおよびウォンツはどのように分析すればよいでしょうか。

そのために様々なビジネスフレームワークを用いて標準化されたマーケティングプランニングのプロセスがあります。

外部環境を分析するビジネスフレームワークとしてPEST分析は皆さんもご存知でしょう。

「政治」、「経済」、「社会」、「技術」の4つの象限から外部環境を分析するためのフレームワークです。

「政治」、「経済」、「社会」、「技術」から外部環境を分析すると言われても戸惑ってしまうかもしれませんが、「政治を背景とした顧客ニーズ」、「経済を背景とした顧客ニーズ」、「社会を背景とした顧客ニーズ」、「技術を背景とした顧客ニーズ」、の4つの視点から市場/顧客のニーズを探索すると考えれば目的がはっきりとするかと思います。

さらにペルソナやカスタマージャーニーマップを用いれば分析手順が標準化され、より探索しやすくなるでしょう。

顧客ニーズ、ニーズの多様化、ニーズの理解、顕在・潜在ニーズなどマーケティングにおいて「ニーズ」という言葉はよく聞かれます。

ではどうすれば顧客のニーズを知ることが出来るでしょうか?

ペルソナによって具体的な顧客像を想起し、カスタマージャーニーによって購買行動・顧客体験を可視化する方法があります。

その際、ニーズをさらにウォンツに細分化することでニーズが明確になります。

さらにデマンドを加えることでSTPの設定を行うことが出来ます。

セミナーの開催についてエージェントの方とコンテンツについて打ち合わせを行うことがあります。

参加者のターゲット設定とインストラクションのデザインは提示してあるのですがリクエストとして、以下の3つをいただきました。

①平易な言葉を用いて分かりやすくする

②ターゲットに刺さるように専門用語を使う

③既存の情報と思われないように高度な用語も取り入れる

いかがでしょうか?

ターゲット設定を行っているので、ターゲットにのみスコープする、すなわち「選択と集中」を行うことで明確化と差別化を図っているはずなのですが、結果として不特定多数の全体市場を狙っているのか、ターゲットに集中化してるのか、ニッチ市場を狙っているのか意図不明の状態です。

しかしこれは決して珍しいことではありません。

せっかくマーケティングによってセグメント、ターゲット、ポジションの設定を行っても、実行計画では「あれもこれも出来ることは何でもやってみよう!」のような気合い十分なものに大変貌することは往々にしてあるのです。

そのようなことが起きないよう、「目的」「ゴール」「目標」を明確に設定して、ブレが無いようにしましょう。

競争が激化した背景についてピーター・ドラッカーがその著作の中で述べています。

「知識社会は、われわれが知るいかなる社会よりも競争の激しい社会である。知識は普遍であり、成果をあげられないことの弁解ができなくなる。」

つまり、競争の激化をもたらした原因は、「知識」です。

やる気や高い能力があっても、その「やり方」を知らなければ成果を出すことは出来ません。

インターネットの急速な発展と普及・浸透により、だれでも簡単に情報へアクセス出来るようになりました。

常に学習し、自ら知識習得に励み、実践応用することで常に最新の知識にアップデートすることが求められます。

現代は無知な者が淘汰され、新しい知識を獲得・創造できる力を持つ者に二極化する超競争社会です。

当ブログでは戦略を体系化し、さらに体系化すべき課題を明確化することを目的にしています。

イノベーションにつながる7つの機会 ピータードラッガー

1.予期せぬ成功と失敗を利用する

2.ギャップを探す

3.ニーズを見つける

4.産業構造の変化を知る

5.人口構造の変化に着目する

6.認識の変化を捉える

7.新しい知識を活用する

当ブログで一貫してテーマとしているのは、「市場における競争と、勝つための理論とプロセス」です。

現代社会ではあらゆる分野で「競争」が激化しています。研究、事業、教育、金融などあらゆる分野には「競争」があり、それを避けることはできません。

では「競争」とは善でしょうか?それとも悪でしょうか?

多くの場合、「競争」は生産性を向上させ、効率化により社会に富をもたらします。

一方で競争が激化することにより企業が存続する平均寿命は短くなる傾向にあります。

過去には企業の寿命(盛期)は30年と言われていましたが、現代では10年を切ったと言われています。

企業の短命化にともない、労働者も流動化せざるを得なくなりました。

トヨタ自動車 豊田社長の「終身雇用を守っていくのは難しい」との発言は記憶に新しいところです。