新薬は特許によって「一社による販売」が認められているため、「独占市場」であり、供給元である製薬会社は需要に対する一定数のみ製造/販売を行い、かつ公定価格による保護を受けることにより一定の期間、独占利潤を得ることが出来ます。

しかし特許期間後は先発医薬品と同様に臨床試験等により確認され薬事法に基づく厚生労働大臣の承認を受ければ、どの製薬会社もその医薬品を「ジェネリック医薬品」として販売できるようになるため独占市場は成立しなくなります。

では「不完全競争市場」が成立しなくなった医薬品ビジネスは直ちに「完全競争市場」となるかと言えばそうではありません。

品質や先発医薬品メーカーのブランド力や信頼度、取引期間やMRとの関係性などにより一定数の顧客がその製品を使い続けるからです。

つまり先発医薬品であることを認知されていることが重要な要因だと言えます。

「完全競争市場」が成立するためには、時間経過とともにその薬品を最初に発売した製薬会社がどこなのか、市場/顧客の多くが忘れ去る必要があります。

ほとんどの先発医薬品メーカーの場合、特許の切れた製品には経営資源を割かなくなるためその経過は比較的早く進む傾向にあるでしょう。

市場におけるビジョンプレイヤーには顧客と自社、そして競合が存在します。

すなわち3Cです。

では3Cのうち、どこに重点をおいて戦略プランニングを行うべきでしょうか?

市場ライフサイクルのごく初期で、市場が拡大しているフェーズでは競合を意識した戦略プランニングはあまり重要ではないかもしれません。

まずは製品を中心とした戦略プランが重要です。

昨今では、カスタマーセントリックや生産性向上への取り組みが積極的に行われています。

しかしそれだけでは片手落ちです。

自社は常に外部環境の影響を受けます。

そして外部環境要因はコントロールすることが出来ません。

そのため外部環境の変化に自社が柔軟で俊敏に変化し対応する必要があります。

特に市場が拡大して競合の参入が増えたり、成熟期から衰退期に向かい市場が縮小するフェーズでは競合の存在は自社にとっての脅威です。

生産性向上など、利益確保を優先する傾向がみられますが、利益は売上を上回ることはありません。

売上を向上するためには競争市場で競合との競争に勝つ必要があります。

医薬品ビジネスでは、特許制度による独占販売が認められ、通常の市場経済では需要と供給のバランスで決まる価格においても公的な薬価制度により保護されています。

そしてこのような独占市場の問題点は認識されつつも容認されています。

なぜなら新薬開発には莫大な費用と時間がかかるために、一定期間の独占的な利益を得ることを容認しなければ開発資金の回収が見込めない製薬会社が新薬開発に消極的になり、治療に必要な画期的新薬が供給されなくなってしまうからです。

毎年繰り返し行われる薬価再算定ですが、引き下げだけではなく「市場拡大再算定」「新薬創出加算」によって価格が引き上げられることもあります。

また通常であれば需要が起こりにくい高額な製品であっても「高額医療費制度」など公的な保険制度による支援があります。

このような医薬品ビジネス特有の背景を理解しながらマーケティング戦略をプランニングする必要があります。

独占的競争市場において最も重要なポイント競合に勝つための方法です。

医薬品は適正使用のために必要な高度な情報を伴う製品です。

医薬品選択に与える影響として、「使用前の情報」の割合が高く、特に有効性が製品選択の要因となっています。

医薬品ビジネスの情報提供はその特性から、製品に関する情報量に関して買手である医師/患者と売手である製薬メーカーの間に格差がある非対称性が生じます。

つまり買手と売手それぞれが持っている情報に差があるため取引が対等に行われないことを意味します。

この状況下では「パレート最適」が行われず、売手である製薬企業に有利となり、買手のメリットが阻害されてしまいます。

そのため医療関係者が必要とする製品情報を入手しやすくするため、製薬各社は従来のMRによる対面の情報提供から、デジタルによって医療関係者が望む最適なタイミングで自社製品の情報提供を行えるように転換を進めています。

また医療用医薬品は自由に価格設定を行うことができず、国が定めた公定価格で取引を行うため非価格競争です。

非価格競争下では、価格のよる差異ではなく、それ以外の要素、すなわち製品自体の差別化により競合間競争を行うことになります。

つまり従来は顧客に提供する情報を製薬企業側が選択したり制限することによる優位性がありましたが、デジタルにより顧客が容易にアクセスできることでその優位性は失われたと言えます。

また差別化が難しい医薬品において、顧客自身が各社製品の情報を取得できることで顧客が求める価値基準によって製品比較ができるためむしろ顧客優位となりました。

製薬企業有利の不完全競争から、買手売手が平等な完全競争の状況に近くなり、競争状況はよりレッドオーシャン化しています。

製品特性に大きな差異が無く、価格によるメリットも得られない場合、顧客はブランド力や企業の信頼度で製品を選択する傾向が強くなります。

つまり市場内でシェアの高い製品が有利となり一極化のシェア類型が加速することになります。

自社がDX競争に参加してメリットがあるのかそれともデメリットの方が大きいのか見誤らないように注意が必要です。

外部環境分析では、政府の景気政策や企業の動向、顧客(個客)の消費行動、市場構造の変化などの経済活動の情報を収集します。

つまり我々を取り巻く経済の仕組みや,様々な経済活動の仕組みを研究する「経済学」です。

経済学における重要なキーワードは「市場(しじょう、いちば)」です。

またこの市場を形成する重要な概念として「需要と供給」があります。

需要とは、ある製品を買おうとすることであり、供給とは、ある製品を売ろうとすることです。

市場規模とはある特定の市場で取引される総金額や売上高、または出荷額のことです。

市場規模の変化をみることで、業界全体の需要が伸びているのか、縮小傾向にあるのかを知ることができます。

モノ・サービスの価格は、理論的には需要と供給が一致する相対的な関係で決まります。

市場経済においては、価格の上がり下がりによって需要量と供給量が調整されます。

一般的には、製品の価格が上昇すると需要量は減少し、逆に価格が上昇すると供給量は増加します。

そして、需要量が供給量よりも大きい場合には価格は上昇し、供給量が需要量より大きい場合には価格は下落するというわけです。

しかし医薬品メーカーは必要とされる医薬品の全量を供給することが義務付けられており、価格の如何によって生産量を調整することは出来ません。

価格による競争優位性を得ることが出来ないため、医薬品ビジネスでは市場規模と競合の動向が非常に重要になってきます。

市場動向分析は、需要の動向、供給の動向、さらに、市場競争力の動向を判断するために行います。

例えば市場ライフサイクルが導入期から成長期のように市場規模が大きく伸びており、同時に自社の売上が好調な場合、売上が伸びているからといって必ずしも自社製品の競争優位性が高いとは言えません。

市場規模の伸び率と自社の売上売手の伸び率を比較した場合、市場規模の伸び率のほうが大きければ相対的に自社のシェアが下がるからです(Market evolution index)。

逆に市場ライフサイクルが成熟期から衰退期のように市場規模が縮小傾向にある場合では、市場の縮小に伴って自社の売上も下がることが予想されます。

特に縮小市場では限られたパイの奪い合い、ゼロサムゲームになることから競合他社に対して如何にして競争優位性を築き維持するかが非常に重要なポイントとなります。

市場と顧客、そして競合、それらの影響を常に受ける自社の3Cです。

そして基本戦略は「差別化」と「集中化」です。

M・ロジャーズが提唱した、「イノベーター理論」についてはご存知の方も多いでしょう。

提唱されたのは1962年であり、日本の元号では昭和35年から昭和44年に当たる、いわゆる『高度成長期』(=高度経済成長期)に該当する時代です。

では、現在のように市場が縮小する、成熟期から衰退期においても通用する理論でしょうか?

ミクスのオンライン記事に「新薬処方タイミングの志向性」についての調査結果がありました。

スライドにグラフを示していますが、概ね同じ傾向にあることが読み取れるかと思います。

またこの分布図には見覚えがあるのではないでしょうか。

そうです、正規分布図です。

世の中の分布の多くは正規分布に従います。

正規分布であれば1標準偏差の範囲内に 68% の値が入ると言われています。

そのため、左片側の16%と右片側の16%の範囲に位置する値を外れ値として扱います。

では、市場参入期に、この外れ値であるアーリーアダプターによる処方/採用をベストプラクティスとして、その後のマーケティング戦略をプランニングしたらどうでしょうか?

早々にキャズム(深い溝)にはまり、越えることが出来ずにロンチに失敗することになります。

医薬品の場合は処方制限期間などで市場を拡大することが出来ない時期があります。

そこで目先の数字欲しさのマーケティングプランを立てることなく、じっくりと売れる仕組み作りを構築することが必要です。

優れた医薬品の提供を通じて社会に貢献する

これは製薬企業の使命です。

一方で営利企業でもある製薬企業において利益追求も重要な目的です。

最近では製品以外の価値創造として様々な付加価値が提供されています。

特にDXの世界においては顕著なのではないでしょうか。

少し古いデータですが、医師の製品選択に影響を及ぼす要因とその寄与度を調査した報告があります。

やはり先ずは製品そのものの価値、そして情報が重要です。

そして属人的な営業活動は企業活動の寄与度を上回ります。

もしかしたらあなたの会社の顧客中心の価値提供は独りよがりなものかもしれません。

塩野義製薬の代表取締役社長 手代木 功さんの言葉は製造業の本質を捉えていると思います。

インターネットの普及により、現代では情報を収集することは難しくありません。

しかしどのような情報を収集し、それに分析・解析を加え、有効な戦略プラン策定に結びつけるには一定の知識とスキルが必要です。

例として国民医療費と薬剤費の推移を見てみましょう。

国民医療費と薬剤費、どちらも年々増加を続けています。

しかし増加率では両方ともに減少し続けています。

市場は拡大しているのか、それとも縮小しているのか?

いづれかによって戦略プラン二ングは大きく異なります。

さらに詳しいデータを収集する必要がありあそうです。

悪性新生物は、入院で平均在院日数の短縮化が進んだ一方、入院外の患者が増加しています。

入院外では他の傷病に比べて高齢者の単価が上昇している点が特徴的であり、外来化学療法など、医療の高度化の影響もあるのではないかと推察されます。

精神及び行動の障害では、若年層の受療率が増加し、医療費が予測以上の伸びを示す傾向があります。

必要な情報を収集し、数値化することで分析、解析を行い、なぜそのような状況となっているのか原因を解明することで、より正確な戦略プランを立てる事が出来るのです。

セミナーの参加者から、デジタルによるプロモーションが期待したほどの効果が得られず、顧客への処方インパクトが低いとのご相談をよくお聞きします。

DXの推進と運用についてはDXプロバイダーに任せるとして、マーケティングのアプローチとしてDXの効果を最大化するために必要なことを考えてみましょう。

先ずはDXはマーケティング戦略プラン二ングのプロセスにおいて、どのような位置付けにあるのでしょうか?

①どこの、②だれに、③なにを、④どうやって、顧客に情報を提供をするのか、4このつのステップにおいて、DXは「どうやって」における情報提供の手段のひとつに過ぎません。

マーケティング戦略プラン二ングにおいて、①どこの、②だれに、③なにを、が正しく設定されていなければ④どうやっては効果を発揮することが出来ません。

DXはあくまでも手段のひとつです。

 本来の目的である「業績アップ」から外れて、「多くのツールを使うこと」ばかり考えて 手段が目的化していませんか?

マーケット状況から売上を予想してみましょう。

全人口の将来人口推計と傷病分類別受診率を掛け合わせることで、対象患者の将来人口推計を算出することが出来ます。

年齢ごとに傷病分類別にみた医科診療医療費により対象市場の市場金額規模が分かります。

それぞれ年度ごとにターゲット設定したシェア値から売上高を予想します。