医薬品ビジネスはターゲットマーケティングであることが多いため、必ず攻略すべき顧客が存在します。

それは単に処方獲得が期待できるからという理由だけではありません。

医薬品の使用には学会やガイドライン、オピニオンリーダーの存在が大きく影響します。

または処方量の少ない顧客が、採用などの意思決定権を持つことも珍しくありません。

そのような顧客とは日常的に面会しておらず関係構築が出来ていない場合もあります。

消費者マーケティングでは分散市場における不特定多数の中から受注確率の高い顧客を見つけ出せば良いのですが医薬品ビジネスではそうは行きません。

医療業界はヒエラルキー型の組織であることが多いため、MRは組織を意識した戦略アプローチが必要となるのです。

高度なICT技術の発展は、これまで小規模な対象にしか対応出来なかったマーケティングを、大規模なマーケティングでも行えるようになりました。

CRMを導入することで個客ごとに顧客の名前や住所、メールアドレスなどの個人情報に加えて、営業活動や取引履歴を基に最適化されたサービスを提供することが可能です。

さらにライフスタイル/ステージや嗜好・ニーズまでもが収集され活用されます。

では医薬品ビジネスで最も知るべき顧客情報はなんでしょうか。

それは顧客である医師の治療指針や処方傾向、そして競合との関係性です。

必要のない情報はかえってノイズとなり分析結果を不明瞭にすることになります。

製薬企業が提供する製品は生活消費財とは全く異なり、情緒的価値よりも製品そのものの価値が最優先されるべきものです。

顧客との良好なコミュニケーションの構築は営業活動において重要な要素ですが、それよりも信頼関係を構築する方がはるかに難しく、そしていちど築いた信頼は決して裏切ることは出来ません。

顧客である医師、特に患者はいつでも理解されたがつている,という意見があります。

求めることは健康な人と変わらない日常生活を送ること、健康な人と同じように天寿を全うすることです。

製薬業界に限らず、加速するデジタル顧客エンゲージメント推進のスピードは緩む気配がありません。

これまでMRが担ってきた顧客への情報提供は、情報提供ガイドラインよる規制強化や、顧客との対面営業が困難となったことから、オンラインによるコミニュケーションチャネルとしてITツールの活用にシフトすることは必然と言えます。

では、デジタルによる置き換え戦略は誰にとっても現状を打破するmagic touchとなるでしょうか。

市場が縮小し、顧客の新規獲得が容易ではない現在では、現状の売上を守るために一度獲得した顧客を失わないようにしなければなりません。

そのため、既存顧客へのきめ細やかなフォローが必要になってきます。

ITツールにより顧客の情報を細かく管理・分析することにより受注確度の高いターゲット顧客を導き出すデータドリブンな営業活動の仕組みが構築され、MRにリコメンデーションやサジェスチョンを行うようになりました。

しかし医薬品ビジネスは究極のレッドオーシャンマーケットです。

攻略が容易な受注確度の高い顧客は当然のことながら競合他社のターゲティングでもあります。

成熟期から衰退期にかけて、市場競争は多者間競争から一強型へと変遷します。

つまりレッドオーシャンマーケットでは強者が圧倒的に有利となります。

競合が厳しい市場の中で受注確度の高い顧客から優先的に獲得することを登山の難易度に例えっるなら、世界中から低い山を探してしらみつぶしに登るようなものです。

これは消費財のように薄利多売ビジネスには向いていますが、医薬品ビジネスのようなターゲットマーケティングの場合には向いているとは言えません。

特に新薬の新規採用の際など、攻略困難な顧客であっても何とかして攻略しなければならない、つまり「顧客獲得」だけではなく「顧客攻略」も重要なビジネスだからです。

競合も容易く登れる山は直ぐにコモディティ化してしまい競争力が失われてしまいます。

デジタル顧客エンゲージメントの行き着く先は、既に高いシェアを獲得している強者、あるいはニッチ市場を狙う弱者に二極化するのではと考えています。

働き方改革について語られるときに必ずといってよいほど「業務効率化」と「生産性向上」の2つのキーワードが登場します。

業務効率化とは、業務の「ムリ」、「無駄」、「ムラ」を削減し、合理化することによって生産性向上を実現するための一つの手段です。

つまり業務効率化が達成出来れば自ずと生産性の向上につながると言えます。

MRの減少が進む製薬企業では、限られた人材でより多くのアウトプットを生むことは、企業の将来を左右する重要な課題です。

過去にはSOVを追求した「量」に主眼を置いた営業活動から、現代ではデジタル技術を用いることで「質」に主眼を置いた戦略プランへとシフトしています。

ではビジネスにおける「量」と「質」とはどのような意味を持つのでしょうか。

成果は「量」×「質」の掛け算で決まると言われています。

「量」とは純粋に経営資源を多く投入すること、「質」とは最適な方法で効率的にやることと定義した場合、最適な方法で量を多くやれば成果は出るということになります。

「量」と「質」はどちらを優先すべきか、議論されることが少なくありません。

「ヘーゲルの量質転化の法則」はドイツの哲学者であるヘーゲルが説いた弁証法の基本三原則の1つで、量から質への転化、またはその逆への転化の法則を指したものです。

「量」を積み重ねることで、「質」的な変化を起こす、すなわち「量」をこなせばこなすほど、「質」の向上速度も早くなります。

言い換えれば、「量」をやらないと「質」は高まらない、だからこそ,早めに「量」をやったほうが良いわけです。

ではやみくもに「量」をこなせばよいのかといえば、時間は24時間とすべての人に有限であり、また経営資源にも限界があります。

そのため「量」と「質」の間には、「量」の最大化と最適化のプロセスが重要になります。

では「量」の最大化と最適化はどのように決定すればよいでしょうか。

それは市場/顧客、競合との状況により相対的に決まります。

適正な「量」に絶対値はありません。

自社は外部環境の影響を受け、競争市場は常に変化しています。

競争地位と競争優位性によって相対的に状況を判断しなければ、適正な「量」を決めることができません。

社会の情報化が進むにつれて顧客自身による情報収集もさかんに行われるようになり、その結果として競合への乗り換えなど既存顧客を失うリスクが増えました。

縮小市場では新規顧客の獲得が難しくなり、一度競合に奪われた顧客を取り戻すことは容易ではありません。

顧客を失わないために、既存顧客の満足度を向上させる個客ごとに最適化された価値提供が必要になってきています。

そのため、多様化する顧客のニーズに対応するために個客情報を集め、個客ごとに最適化されたOne to Oneマーケティングの必要が出てきました。

One to Oneマーケティングとは、個客ごとに最適化されたアプローチにより、購買行動につなげるマーケティング手法です。

過去の購入製品やWebサイトの閲覧履歴などから興味の対象物を絞り込む手法は、皆さん自身も経験しているでしょう。

そもそも医薬品ビジネスでは、個客一人ひとりをMRが訪問・面会し、個客ごとに最適化された営業を行うOne to Oneマーケティングでした。

これまで、製薬会社から医師への情報提供は、MR(Medical Representative:医薬情報担当者)が担ってきましたが、情報提供ガイドラインよるMRの活動の規制強化や、コロナ禍により顧客との対面営業が困難となったことから、製薬企業ではMRに代わるコミニュケーションチャネルとしてデジタルにシフトする動きが進みつつあります。

パンフレットや資材を携えて医師が出てくるのを待ち続け、その移動中に急いで自社製品を紹介するコロナ禍以前では当たり前のように見られたMRの営業活動は消えつつあります。

長く製薬業界のスタンダードであったMRに依存する営業体制からの転換し、顧客との新たなコミュニケーション方法の確立することは製薬企業にとって喫緊の課題です。

これまで、MRによる直接的なコミュニケーションに依存していた製薬企業は自社で運用するWebサイトやコーポレートサイト、オンラインで実施するセミナー、オンライン面談によるディテーリングなど、コミュニケーションの場をweb上に移行する企業が増えつつあります。

しかし、その成果は、データベースドマーケティングのリミテーション①でお示ししたように、まだ発展途中のようです。

マーケティングは時代とともに「製品中心」から「精神的な満足」を求める顧客のニーズに沿って、その主眼を変化させて来ました。

松下電器産業(現パナソニック)創業者である松下幸之助氏の「水道哲学」のように、「良いものを、安く、たくさん作って流通させる」ことが企業成功の鉄則であった、大量生産/大量消費の時代は終わり、「いいものを、安く、たくさん作って流通」させても顧客に買ってもらえるとは限らない時代です。

また機能的価値を高めようとしても多くの分野で一定の機能を超えており、顧客のニーズは既に満たされているという事実もあるかと思います。

とはいえ、依然として「機能的価値」の方が「情緒的価値」よりも圧倒的に重要であることは変わりません。

製造業の本質は製品そのもののにあるからです。

さらに、市場競争が厳しい状況では、良い物を作り、「機能的価値」高めるだけではなく、競合他社の商品やサービスと比較して、「自社商品が優れている所はどこなのか」ということを明確にする差別化がますます重要になってきました。

しかし、さまざまな商品やサービスが溢れている昨今では、「機能的価値」だけで差別化を図ることはかなり難しくなってきました。

技術格差と情報格差が小さくなっており、さらに様々な規制・保護により同一化を避けられない医薬品ビジネスでは、競合に優位性を示す差別化を生み出すことが困難な状況です。

そのため、カスタマーセントリックやカスタマーエクスペリエンスなど、「情緒的価値」に着目したマーケティングが主流となってきました。

「情緒的価値」は、主観的な要因が強く、個々人によって感じ方が違うために定量化や客観性が難しい側面があります。

MA(マーケティングオートメーション)が進歩していますが、この領域ではまだMRによるone to oneマーケティングに一日の長があるのではないでしょうか。

マーケティングプランニングには、戦略プランと実行計画の大きく2つのフェーズがあります。

この2つのフェーズにおいて、医薬品ビジネスと消費財ビジネスとでは異なる特徴があります。

医薬品ビジネスでは様々な法規制などにより、競争環境がコモディティ化することで、戦略プランは主にレッドオーシャンマーケティングになります。

一方で消費財ビジネスでは不特定多数に対するマスマーケティングが主体のために自社の強みと顧客のニーズが合致するポジショニングを探すブルーオーシャンマーケティングです。

では医薬品ビジネスにおいて実行計画の上で理解しておくポイントはなんでしょうか?

営業アプローチには「アウトバウンド営業」と「インバウンド営業」の2つがあります。

アウトバウンド営業とは、企業側から顧客にアプローチするプッシュ型営業です。

飛び込み営業だけでなく、テレアポやダイレクトメールなどの手法がこれに当たります。

アウトバウンド営業のメリットは、企業側が顧客を選定し、直接会って商談することで購買意志の無い顧客であっても購入に結びつけることができます。

デメリットは効率が悪くなることや営業担当のセリングスキルにより成約に差が出やすい点などがあります。

インバウンド営業は顧客から企業にアプローチするプル型営業です。

企業が発信するWebサイトやメール配信、セミナーやイベント開催といった施策を打ち、それらを見た顧客からの問い合わせや受注につなげるアプローチ手法です。

インバウンド営業は元々購入意志のある顧客が対象となるため、成約率が高くなる傾向があります。

Amazonや楽天など、インターネット上で商品やサービスの売買を行うECビジネスに代表されるように、MA(マーケティングオートメーション)によって顧客とのコミュニケーションを自動化したり、CRMにより顧客満足度と顧客ロイヤリティの向上を通じて売上拡大と収益向上が図れることが出来るため、多くの営業担当者を必要とせず費用対効果が高くなる傾向にあります。

一方で目に見えない顧客が対象となることから適正なアプローチをするために市場調査や顧客調査などが重要となります。

では医薬品ビジネスではインバウンド、アウトバウンドのどちらのアプローチをするべきでしょうか?

答えは「自社の競争地位と競争優位性によって相対的に決まる」です。 12のマトリクスのフレーム分類に応じて、アプローチを変えることで限られた経営資源を適正に分配することが出来ます。

パンデミック後の世界的なデジタル顧客エンゲージメントの推進スピードは緩む気配はありません。

ITツール発展の大きな背景要因は市場環境の変化です。

高度経済成長期からバブル期における市場規模が拡大していく時代であれば市場に参入した全ての企業が比較的容易に新規顧客を獲得することが出来ました。

しかし世界的な景気後退や少子高齢化社会により、経済成長の行き詰まりを迎えると市場内における競争が激しくなり勝者と敗者が生まれるようになりました。

縮小市場では市場拡大よりもまず現状の市場/顧客の維持は最優先課題です。

縮小市場では新規顧客の獲得がますます難しくなり、競合に奪われた顧客を取り戻すことは容易ではありません。

顧客を失わないために既存顧客の満足度を向上させる個客ごとに最適化された価値提供が必要になってきています。

そのため、個客情報を集め管理する必要性が生まれたというわけです。