近年、「AIによって営業は不要になる」という議論を耳にする機会が増えています。確かに、デジタル技術の進化により、リードジェネレーションやマーケティングオートメーションの分野では、AIが大きな役割を果たすようになっています。しかし、この議論には一つの前提が潜んでいます。それは、多くのビジネスモデルが「消費財(FMCG)」の視点で語られているという点です。
消費財モデルが営業とマーケティングを混同させる
消費財ビジネスは、基本的にマスマーケティングを中心とした戦略を取ります。テレビCMやSNS広告などを活用し、幅広い消費者層にアプローチすることでブランド認知を高め、小売チャネルを通じて販売を促進するモデルです。このような環境では、営業の役割は「流通先の交渉」や「プロモーション活動の補助」にとどまり、営業=販売促進の一部という認識が根付いています。
一方で、B2Bビジネスや製薬業界のように、ターゲットが明確に決まっている1on1マーケティングでは、営業の役割は単なる情報提供にとどまりません。顧客のニーズを深く理解し、関係を築きながら、最適なソリューションを提案するという「課題解決型」のアプローチが求められます。つまり、AIによる自動化が進んでも、人間の営業が持つ「関係構築力」や「交渉力」は、容易に置き換えられないのです。
「AIで営業を置き換えられる」論の背景
では、なぜ「AIによって営業が不要になる」と語られるのでしょうか。その背景には、以下の3つの要因があります。
- マーケティングの研究やフレームワークが消費財ビジネスを基準に発展してきた 代表的なマーケティング理論である4PやAIDMAは、消費財の流通モデルを前提としています。そのため、B2Bや1on1マーケティングのように、長期的な顧客関係が重要なビジネスに対しては、そのまま適用できないケースが多いのです。
- コンサルティング業界やビジネススクールがB2C中心の成功事例を重視 多くのコンサルティング会社やMBAプログラムでは、P&GやCoca-Cola、Appleなどの消費財・B2Cブランドを成功事例として取り上げる傾向があります。これにより、マーケティングと営業の役割を区別せず、「マーケティングが自動化できるなら、営業も不要では?」という誤解が生じやすくなっています。
- デジタル広告やマーケティングオートメーションの進化 デジタルマーケティングが発展したことで、企業はAIを活用して顧客データを分析し、ターゲティングを自動化することが可能になりました。これにより、特にB2C領域では、営業を介さずに商品が売れる環境が整いつつあります。しかし、B2Bや製薬業界では、単に情報を提供するだけでなく、「顧客の課題を理解し、最適な解決策を提示する」営業の役割が不可欠です。
AIは営業を置き換えるのではなく、支援する
結論として、「営業はAIに完全に置き換えられるのか?」という問いに対する答えは「営業の種類による」ということになります。
- マスマーケティング型の営業(消費財) → AIの活用が進み、営業の役割は縮小する可能性が高い。
- 1on1マーケティング型の営業(B2B・製薬など) → AIは「営業支援ツール」として活用されるが、営業自体が不要になることはない。
特に1on1マーケティングでは、人間の営業が持つ「関係構築力」「交渉力」「問題解決力」は、AIには代替できない要素です。むしろ、AIを活用することで営業活動の質を向上させることができるため、「AIに仕事を奪われる」ではなく、「AIを使いこなす営業」が生き残る時代になるでしょう。
