医薬品ビジネスでは特定市場に対する過剰な競合の参入により、一方の利益は他方の損益となるゼロサムのゲーム型競争市場となることが珍しくありません。その理由は医薬品業界の特殊なビジネスモデルにあります。

医薬品業界は、「護送船団方式」といわれ、政府が業界をある程度保護することで安定した経営を可能にし、同時に一定の競争を促進する政策を指します。

製薬企業は国民皆保険、公定薬価、特許制度などにより保護されている一方で、同種の複数医薬品が市場に参入することで競争が生じ、情報提供ガイドラインなどの規制も存在するという複雑なビジネス環境にあります。

国民皆保険により、製薬企業は安定した市場アクセスの機会を持ちます。これにより、安定した収入源を確保できます。特許制度は、新薬に一定期間市場独占を保証し、革新的な医薬品の開発を促進します。公定薬価により、医薬品の価格が政府によって設定されるため、過度な価格競争を避けることができます。

このように同一化が図られる一方で、直接的な比較による優劣を訴求することが出来ず、情報提供ガイドラインは、医薬品に関する正確かつ透明な情報提供を促しますが、製品の言語的な差別化を難しくします。

差別化戦略が成立しにくい競争環境では、総力戦となる傾向にあるため、「玉砕」戦略が起きやすいというわけです。しかし医薬品は一般消費財とは異なり、国民の健康維持には必要不可欠です。製薬企業は持続可能を前提として企業活動を行うべきです。

ゲーム理論の「囚人のジレンマ」の例では、企業が独立して行動することが全体の非効率を招くことが示されます。

公共医療費の削減、社会保障費の安定化、患者負担の軽減、医療アクセスの改善、イノベーションの促進、経済的な持続可能性を図るためには、市場全体の健全性を保ちつつ競争することが必要です。これには、業界内での協調と倫理的な競争が求められます。