製薬企業では外資系を中心に早期退職やポジションクローズを実施し、9年連続でMR数が減少しており、23年3月末のMR数は前年同期比2166人の減少となりました。

デジタルマーケティングがもたらすMQL(Marketing Qualified Lead、マーケティングにより資質が確認された見込み顧客)からSQL(Sales Qualified Lead、販売に繋がる資質が確認された見込み顧客)への受け渡しは、人的資源に依存するプロセスです。MRの数が減少する中で、デジタルツールを活用した顧客開拓が進むと、購買に結びつけるための人的リソースが不足する可能性があります。

MRの数が1/3に減少した場合のリソースアロケーションを演習問題としてご用意しました。

選択肢は3つです。①欠員の担当顧客を残った人員が全てカバーする、②欠員の担当顧客は当面担当者不在とする、③市場規模の大きな顧客を再ターゲティングし優先顧客とする

①ではリソースが分散してしまいますし、②では担当者不在の間に顧客が離れてしまうでしょう。③は一見合理的なようですが、様々な市場環境の顧客が混雑することになるため、短期間でのリカバリーは困難なため、①~③には正解がありません。

先ずは現在の売上実績を崩さないために必要な顧客と、その上で売上実績を向上させるべき顧客を特定することです。そのためには、顧客を「維持」、「強化」、「撤退」と、状況とリソース量により判断する「検討」に分類する必要があります。これは担当交代による引継ぎでも同様です。

マトリクス分析を用いれば、市場規模と競争地位および競争優位性の2軸から、顧客を「維持」、「強化」、「撤退」、「検討」に分類することが出来ます。さらにカバー率とそれに対する売上寄与率を定量および可視化することで意思決定を支援します。

Demoでは36.59%の顧客をカバーすれば、現在の売上の80.03%を維持することが出来ることが分かります。極端に言えば60%くらいの人員を削減しても、8割の売上を維持することが出来るというわけです。

さらに「戦力量分析」と「活動量分析」の機能により、より詳細なリソース配分を算出することが可能です。

分散市場における不特定の潜在顧客のニーズを把握する消費財ビジネスとは異なり、医薬品ビジネスにおいて営業担当者が知りたい顧客情報は、自社医薬品の処方につながる治療方針や処方傾向です。

趣味や嗜好性、休日の過ごし方は、顧客とのコミュニケーションを深めるためには必要な情報ですが、処方獲得のための優先情報ではありません。

医薬品販売データベースによるシェア類型を用いることで、顧客である医師の治療方針や処方傾向を知ることが出来ます。

顧客タイプを知ることで処方獲得の糸口を見つけることが出来るでしょう。

兵法における戦略とは、「必ず勝つ、絶対に負けない」方法を意味します。同様に、ビジネスにおけるSTP分析においても、自社の強みによって競争優位性を得ることが出来るセグメント、ターゲット、ポジションを決める方法です。

演習問題から、自社および競合他社AとBの製品売上推移からどのような戦略をとるべきか考えてみましょう。

自社製品のシェア値が17%、競合製品Aのシェア値が30%、競合製品Bのシェア値が15%です。自社製品は当初こそ、最も高いシェア値を獲得していましたが、競合製品Aに抜かれダウントレンドとなっています。

再度、市場内シェア値1位に返り咲くためには、競合製品Aあるいは競合製品Bのどちらを対象とした戦略が必要になるでしょうか?

現状では競合製品Aを攻略するためには、現在の自社製品にかけているリソース量の5.4倍を必要とする射程距離圏外です。一方で、競合製品Bは辛うじてシェア値で上回るものの拮抗しており、勝つか負けるかの瀬戸際であり、必ず競り勝つ必要があります。

競合製品Bには、現在の自社製品にかけているリソース量の1.3倍で攻略が可能です。競合製品Bのシェアを5%奪えばその差は10%となり、攻略に必要なリソース量は0.4倍と大幅に減少します。さらに競合製品Bからシェアを奪うことに成功すれば、ようやく競合製品Aが射程距離圏内となります。

自社製品のシェア値を27%まで向上させても、依然として競合製品Aが優位であり、その攻略には、2倍のリソース量を必要としますが、現実的に攻略の可能性が見えてきました。

実際に戦略を立てる場合には、リソース量の総量と相談しながら配分可能かどうかを判断する必要があります。

DXS Stratify®の戦力量分析を用いれば必要なリソース量を定量および可視化することが出来ます。

MR(営業担当者)の評価に、単に目標の進捗率だけではなく、シェア値を取り入れるべきとの議論はい以前からされています。それは、担当するエリアの市場規模やその成長性、さらに競合他社との競争環境が異なるからです。

MOVEでは、①進捗率、②進捗率+市場規模、③進捗率+市場規模+シェア値の、3段階でどのようにターゲット施設の優先順位が変化していくのかをお示ししています。4軒の医療機関を担当するMRを事例として、Totalでは進捗率100%ではあるものの施設ごとには100%に達していないモデルケースを仮定しています。

①進捗率のみを追うことで、全ての施設が100%を上回る必要があると考えてしまいますが、それでは適切なリソース配分が出来ず、無駄なリソース、あるいはリソースが不足する施設が生じます。

②進捗率+市場規模の例ではその優先順位が変化し、100%達成しているIS病院の優先順位が上位になりました。

③進捗率+市場規模+シェア値では、IS病院の優先順位がさらにあがり、優先度No,1になっています。これは競争環境の中では非常に脆弱であり、インハウスの評価では100%達成している優良施設だとしても、外部環境からみれば、いつ口座を失ってもおかしくない状況にあります。

一方で、シェア値が1位のT大医学部附属病院では、シェア値が下位の競合製品が口座を失うことでさらにシェア値を高めることが出来る可能性があります。

このように内部環境要因は常に外部環境要因の影響を受けているため、進捗率などインハウスの情報のみで戦略を立てることは非常に危険な行為であると言えます。さらに目標の設定が不適切であった可能もあります。

製薬業界には、このような外部環境要因を知るための素晴らしい医薬品販売データベースが存在します。医薬品販売データベースは、どの製薬企業でも入手することが出来るため透明性が高く、それによって戦略的な動きを予測されやすくなるというリスクが生じます。

医薬品販売データベースを正しく使うことが競争市場においては重要です。

マーケティング戦略という言葉をよく目にしますが、私の定義では、戦略はマーケティングの上位概念なのでマーケティング戦略という言葉にとても違和感があります。なのでマーケティング戦略をうたうセミナーは基本的に受講しません。

「戦略」と「マーケティング」の用語はしばしば曖昧に使用されがちで、その結果として誤解や混乱を招くことがあります。孫子の兵法における戦略の定義や、ビジネスフレームワークのSTP分析(Segmentation, Targeting, Positioning)を一例として挙げてみましょう。

戦略と戦術
戦略(Strategy): 長期的な計画やビジョンを指し、主に何を達成しようとしているのか、どのような大きな目標に向かって進むのかを定義します。戦略は主戦場を選定し、敵(競合)に対してどのように優位性を確立するかを考える過程です。STP分析は、市場をどのようにセグメント化し、どのターゲット市場を狙うか、そして市場内でどのようなポジショニングを取るかを決定するプロセスであり、戦略的な決定の一例です。

マーケティング(Marketing): 戦術(Tactics)の一部と考えることができます。戦略の枠組み内で、具体的にどのような手段やアクションを取るかを指します。マーケティング活動は、戦略が定めた目標に到達するための道筋を具体化するもので、製品のプロモーション、価格設定、配布チャネルの選定などが含まれます。

ビジネスコミュニケーションにおいて、用語の正しい定義と使い方を理解し、共有することは非常に重要です。これにより、チーム内や業界全体での認識のズレを防ぎ、効果的な戦略立案と実行を可能にします。特に「マーケティング戦略」という言葉を使う際には、それが戦略的な目標達成に貢献するマーケティングのアプローチを指すと明確にすることで、ミスリードを避けることができます。

戦略とマーケティング(戦術)の関係性を正しく理解し、適切な文脈でこれらの用語を使用することが、ビジネスの成功において極めて重要です。これは、計画の精度を高め、目標達成の道筋を明確にするために不可欠です。

今では5万人を下回る国内のMRの人数は2013年には6万5千人を超えていました。マーケティングの世界は、常に変化し、進化しています。かつてのシェアオブボイス(SOV)の時代から、デジタル技術の急速な進化に伴い、マーケティングの焦点は大きくシフトしました。

シェアオブボイスの時代
シェアオブボイスは、あるブランドが持つ市場内の声の割合を示す指標です。広告出稿量やメディア露出の度合いを量ることで、競合他社との相対的な市場支配度を把握しようとするアプローチです。この時代においては、市場における「声」の大きさ、つまり「量」が競争力の源泉とされていました。多くの企業が、広告の大量投下や大規模キャンペーンを通じて、消費者の意識に刻み込まれることを目指しました。

デジタル化とマーケティングの変化
しかし、インターネットとデジタルメディアの台頭は、このパラダイムを根本から変えました。今日のマーケティングでは、単に「量」を追求するだけでなく、「質」の高い接触が重視されています。デジタルツールとデータ分析の進化により、マーケターはターゲット顧客により適切に、そしてパーソナライズしてアプローチすることが可能になりました。この変化は、顧客一人ひとりとの関係を深め、より意味のある方法でエンゲージメントを高めることを可能にしました。

ビジネスモデルによる違い
この「量」と「質」の重要性は、ビジネスモデルによっても異なります。マスマーケティング戦略においては、広い範囲の顧客にリーチするために「量」が重視されます。一方で、1on1マーケティングやアカウントベースのマーケティングでは、「質」が中心となり、顧客個々のニーズに合わせたパーソナライズされたアプローチが求められます。

デジタル時代のマーケティングにおいては、単にシェアオブボイスを最大化することから、量と質の適切なバランスを見つけることへと焦点が移りました。しかし、予めターゲット顧客が明確な医薬品ビジネスでは、顧客の行動変容において、MQL(Marketing Qualified Lead)からSQL(Sales Qualified Lead)までのプロセスを営業担当者(MR)が担う伝統的な営業モデルです。

「戦力量に勝る者が勝つ」という競争市場の原則において、売上インパクトを最大化するには人的販売は不可欠です。大幅にMR数を削減する製薬企業がある中で、今後の企業業績にどのような影響が現れるでしょうか?

ビジネスの世界における顧客理解のプロセスは、従来の方法から脱却し、より洗練されたアプローチへと進化しています。かつては、年齢や性別、職業、収入といった基本的なデモグラフィック情報に基づいて顧客を分類することが一般的でした。しかし、このアプローチでは、顧客の実際のニーズや欲求を深く理解することは難しいという限界があります。

現代のビジネス環境では、顧客のニーズを中心に属性を分類することが重要です。これは、単にカテゴリー別に顧客を分けるのではなく、まず彼らの具体的な要求や問題点を特定し、その後でこれらのニーズを持つ特定の顧客群を見つけ出すというプロセスを意味します。この方法により、企業は製品やサービスをより適切に顧客に合わせることができることから、顧客満足度の向上やロイヤリティの強化につながります。

たとえば、健康食品を販売する企業があるとします。従来のデモグラフィックに基づくアプローチでは、特定の年齢層や性別に焦点を当てるかもしれません。しかし、ニーズベースのアプローチを採用すると、健康に対する意識が高く、質の高い食生活を求める人々をターゲットにすることができます。これにより、年齢や性別を超えた多様な顧客層にアプローチすることが可能になります。

このようなニーズ中心の属性分類は、企業が市場の機会をより効果的に識別し、競争優位性を確立するのに役立ちます。顧客のニーズを深く理解し、それに応じてサービスや製品を調整することで、顧客にとっての価値を最大化し、企業の成功に貢献することができるのです。

過去には多くの製薬企業が行っていたブロックバスター戦略は、近年では小さな市場や特定のニーズを満たす市場へと変化しています。その背景には、高額な開発コストや長い開発時間、そして高い不確実性、高い規制のハードルなどがあります。

これらの小さな市場や特定のニーズを満たす市場は、以前では製薬企業の主なターゲットではありませんでした。しかし、特定のニーズに応える治療薬の開発を促進するために、税制上の優遇措置や市場独占期間の延長などのインセンティブが提供されています。また、これらの市場においては、必要とされる患者数が少ないことから、臨床試験をより小規模で実施することが可能です。

これにより、開発試験の実施が容易になり、コストと時間を削減できることから、製薬企業は小さな市場や特定のニーズを満たす市場の治療薬開発において、リスクが低減され、投資対効果が向上します。

しかし、メリットがある一方で、特定のニーズを除き、これらの市場の中には治療ニーズが必ずしも顕在化していないものもあります。その場合には市場の醸成をしていく必要が生じます。

市場の醸成に効果的なのは競合他社の市場参入です。競争により市場浸透、拡大のスピードは一段と速くなります。

では両社で開拓した市場は仲良く分け合うことになるでしょうか?残念ながらそうではありません。最終的には一強型の競争市場、すなわち勝者と敗者が生まれます。

特に市場に自社の他に競合他社が1社のみの2者間競争の場合、その傾向はシビアです。なぜなら目の前の敵に全戦力を投入することになるため戦力量に勝る方が圧倒的に競争優位になるからです。

また一般的には後発参入が有利になることがあります。先発参入メーカーをリード獲得として利用し、SQLを人的営業で一気に刈り取る戦略が可能だからです。

認知症の治療薬とRSウイルス(呼吸器合胞性ウイルス)ワクチンの開発は、市場の醸成において挑戦に直面している領域の事例と言えるでしょう。これらの分野は、高い医療ニーズと科学的な課題の両方を抱えていますが、それぞれ独自の困難さがあります。

RSウイルスワクチンでは先行参入したGSKを後追いする形でファイザーが市場参入します。このことにより市場はどのように拡大するのか、また勝者となるのはどちらでしょうか?

両社の戦略に注目したいと思います。

1対1マーケティングにおいては、本社部門によるマーケティング適格リード(MQL)の生成と管理、及び営業部門によるセールス適格リード(SQL)への対応と進展の間のインタラクティブなクロストークが極めて重要です。

この両部門間の緊密な連携は、個々の顧客の具体的なニーズと期待に対して最も適したアプローチを設計し、実行する上で不可欠であり、個別最適化されたマーケティングとセールスの努力を通じて顧客満足度を最大化し、最終的な購入意欲を促進するための重要成功要因となります。

それぞれのリードが正確なタイミングで適切な部門に移行し、各顧客へのパーソナライズされたコミュニケーションと対応が円滑に行われることが、1対1マーケティングの成功を大きく左右します。

顧客理解における営業部門の役割は、その観察的な顧客認識という定性的な情報において特に重要です。

ピーター・ドラッカーが指摘したように、「真に重要なことは定量化できない。数値だけで判断しようとすると決断を誤る」ことがあります。

この言葉は、ビジネスにおける意思決定プロセスにおいて、定量的データだけではなく、定性的な洞察もまた不可欠であるという重要な原則を示しています。

営業部門が認識する顧客の反応やニーズの微妙なニュアンス、顧客との会話から得られる直接的なフィードバックは、定量化することが難しいかもしれません。しかし、これらの定性的な情報は、顧客理解を深め、より適切な製品やサービスの提供、パーソナライズされたコミュニケーション戦略の開発において、中核的な役割を果たします。

定量的データが提供する客観的な枠組みと合わせて、営業部門の観察による定性的な洞察は、より全面的な顧客理解を可能にし、結果としてより効果的な意思決定を促進します。

営業部門から得られる直接的な顧客認識は、製品開発、マーケティング戦略、顧客サービスの改善など、企業のあらゆる面で意思決定を導くために不可欠です。