今年の東京マラソンは、西山雄介選手(トヨタ自動車)がパリ五輪日本代枠を逃したり、ペースメーカーが給水で立ち止まって、後続の選手が慌てて避けるなどが話題になりました。

では優勝選手が誰で、どのようなレース展開であったか覚えていますか?

レースは序盤からケニア勢に絞られ、キプルトとキプラガトが最後までデッドヒートを繰り広げ、ベンソン・キプルト選手が日本国内最高記録の2時間02分16秒で初優勝を飾りました。

なぜ、優勝選手だけでなく、その他の話題までが注目されるのでしょうか?それはレースでは参加した誰しもがゴールすることが出来るからです。だから完走することがニュースになるのです。

同じようにビジネスの競争の場においてもレース型競争市場が存在します。これは戦後の高度経済成長期や産業革命期など、市場規模が拡大する際には市場参入者の誰もが売上を伸ばすことができます。

また、競争市場のタイプにはレース型競争市場の他にゲーム型競争市場が存在します。ゲーム型競争市場では勝ち負けが存在し、負ければ市場から駆逐されるタイプの競争型です。

例えばサッカーアジアカップはトーナメント形式で行われ、勝てば次に進み、負ければ終わりです。文字通り勝たなければ次はなく、その試合に勝つことだけが最大の目的になります。

地上波による放送も、準々決勝、準決勝、決勝の最大4試合しか放送されませんでした。

現在の市場環境は景気後退や人口減少により縮小傾向にあります。このような市場ライフサイクルでは競争環境はゲーム型競争市場のゼロサムゲームになります。

つまり、負ければ終わり、次はないために相当なプレッヤーがかかります。内容よりも競合に勝つことが最大限の目標です。

老舗下着メーカーのワコールが、ビジネスモデルを見直し、中期経営計画の一環として希望退職を含む構造改革を発表したことが、業界内外で注目されています。この動きは、研究開発から商品企画、生産・品質管理、そして販売に至るまで、全てのプロセスを自社で一手に担うというワコールの長年の強みに、新たな風を吹き込むものです。

しかし、ワコールが直面しているのは、ただのビジネスモデルの転換期ではありません。これは、変わりゆく消費者の好みと迅速な市場の動向に対応するための、根本的なビジネス戦略の見直しを迫られています。同社の矢島社長によれば、近年、在庫の過剰と回転率の悪化はコロナ禍によるものではなく、同社の製品作りのアプローチに根深い問題があるとのこと。特に、消費者の好みが多様化し、流行が急速に変化する現代において、販売の14カ月前から商品企画を始める現行の方式は、高リスクとされています。

こうした状況は、今日のVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる時代の特徴を象徴しています。このVUCAの時代においては、変化に適応することが、企業にとっての生存戦略になっています。ワコールの中期経営計画における構造改革は、このVUCAの時代に対応するための重要な一歩であり、同時に、伝統的なモノづくりのアプローチと現代の市場の動きとの間のジレンマを解決する試みでもあります。

時代の変化に対応し、消費者の変わりゆく需要に応える柔軟性が求められており、ワコールの取り組みは、そうした変化の中で、自社の強みを生かしながら、新たな時代に適応する方法を模索していることを示しています。

不確実性を機会に変え、競争力を高めるVUCAの時代の戦略アプローチ
(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)

① 中長期的な予測より、短期での分析サイクルで柔軟な戦略修正を行う
② データの蓄積を待たず、結果からの逆推論的アプローチで迅速な意思決定を行う
③ 形式知と暗黙知のクロストークによる、継続的な競争優位を確保する