市場内の購入意志を持つ潜在顧客を見つけるだけの作業なら、消費財マーケティングのように分散市場の不特定多数の顧客に対するマスマーケティングが有効な戦略プランです。

しかし医薬品ビジネスは個人の嗜好品ではありません。

使用に関しては様々なコンセンサスが必要です。

処方に対する様々な関係者の意思統一を図り、市場を形成していかなければなりません。

そのプロセスにはどうしても時間がかかるのです。

初めから処方意思のある顧客を獲得だけで売上を構成してしまうと、やがて頭打ちになります。

よく保険の外交員に例えられるように、友人知人、親兄弟を保険に加入させたら終了となってしまいます。

時間はかかっても、しっかりと基盤を構築していけば継続的に売上を上げることが出来ます。

意思統一において、皆さんも感じると思いますが、医師の世界は時代とともに変わったとはいえ、縦社会です。

ヒエラルキーとメンツが存在します。

これは間違えないようにした方が良いでしょう。

新規市場参入やロンチ後の初動実績はとても重要です。

しかし売上実績を焦るあまりに、顧客に使ってもらえる症例なら何でも良いという姿勢で、新患や切替、追加投与など手当たり次第に処方をさせてしまうと製品のブランディングが薄れ、差別化戦略が無効化されてしまいます。

その結果、特に特徴の無い製品との印象が付いてしまい、初動の勢いを失い、やがて市場から消えてしまいます。

すなわちロンチに失敗し、一つの製品を消滅させてしまうことになります。

過去に武田薬品とMSDから週一回のDPP-4阻害薬が発売されましたが、両社とも既に自社での販売を止めています。

当時、インフォームドチョイスという言葉が学会を中心に流行っており、両社も患者のライフスタイルに合わせてデイリー製剤と週一製剤を患者に選ばせるというプロモーションを行っていました。

まだまだSGLT2阻害薬が浸透しておらず、DPP-4阻害薬が主流でおよそ70%の糖尿病患者が服用するブロックバスター製剤でした。

既に市場内で絶対的なシェアを獲得している強者に市場参入したばかりの、認知すらされていない製品が真っ向から勝負を挑んだわけです。

当然のことながら顧客は従来のデイリー製剤を選択することになります。

なぜ、様々な分析からマーケティング戦略を策定し、セグメント設定、ターゲット設定、ポジショニング設定を行ったはずなのに、いきなり全体市場を同時に狙うような事をしてしまったのでしょうか?

イノベーター理論のベルカーブであれ、ライフスタイルのSカーブであれ、初動は低調でも途中から2字曲線を描いて成長しています。

つまり導入期はランディングのための助走期間、攻略のための地固めの期間、春を待つ我慢の期間です。

ここで我慢しきれず結果を急いではせっかくの戦略が台無しになり、やり直しが効かない状況に陥ります。

一度付いてしまった製品イメージをリブランディングすることは容易ではありません。

戦略の意味をしっかりと考える必要があります。

新規参入の翌年、長期処方解禁を迎えいよいよこれから一気に売上を伸ばしたい。

では、これまでの売上実績を基に来期のフォーキャストを算出する際に、どのようなことに注意する必要があるでしょうか?

今までの延長線上にフォーキャストを引いてよいものでしょうか?

順調に売上実績が増加していたのに、突如として伸びが鈍化し頭打ちになる事があります。

これをキャズムと呼びます。

キャズムは、イノベーター&アーリーアダプターと、アーリーマジョリティの間にあると言われており、このキャズムを超えられるかどうかが、その製品が広く普及するための障壁となります。

この溝を飛び越えられずにロンチに失敗した製品は数多く存在します。

イノベーターとアーリーアダプターを合わせた、約16%のマーケットを初期市場と呼び、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードの3つを合わせた約84%のマーケットをメインストリームと呼びます。

初期市場はいわゆる購入意志のある顧客であり、メインストリームは購入意志が不明確な顧客と言えます。

当然のことですが購入意志のある顧客を獲得することは、無い顧客に比べて容易であることが想像されます。

キャズムを超え、市場を拡大するためには購入意志の無い顧客をいかにして振り向かせるかが勝負の鍵となります。

初年度にじっくり市場を作り攻略してきたのか、あるいは実績を作ることを優先し売りやすい顧客を優先したのか、キャズムの幅と深さはこれまでの努力を写す鏡です。

ある病院の経営企画室から地域医療構想推進のコンサルティングのご依頼を頂きました。

同時に新規事業による多角化も行います。

厚生労働省が行った医療経営に関する調査報告では、「単独のみ型」より「多角化展開型」する方が事業利益率が高いことが報告されています。

医業経営を取り巻く環境が厳しくなるなか、地域における医療ニーズへの対応、収益性・事業性の確保、医療サービスの質の向上といった視点から、新規事業に乗り出す医療機関は少なくありません。

昨今のコロナ禍のような不測の事態においても、多くの医療機関が減収となる中で「多角化経営」は強みを発揮しています。

医療経営とはすなわち経営戦略です。

医薬品ビジネスのマーケティングと同様に、マーケティング戦略プロセスの手法が有効です。

外部環境分析、内部環境分析、施設の強みによるブランディングなど一連のプロセスは同じです。

正解な戦略プラン策定には多くの情報が不可欠です。

地域の情報や人脈を持つMRは貴重な情報元となり得ます。

是非、経営企画室を訪問してみてはいかがでしょうか?

市場競争はより一層厳しくなっています。

縮小市場では競合の市場を奪い合うゼロサムゲームです。

競争市場で競争地位を把握するにはインハウスのデータだけでは不十分です。

競合との市場占拠率、すなわちシェアが必須です。

「シェアは既に指標に取り入れている」かもしれませんが、その運用はどうでしょうか?

シェア値が高い、低い、シェア値の差が何%、それらの指標から何を読み取れるでしょうか?

戦略を立てるためには競争地位だけではなく競争優位性の2つの指標が必要です。

マーケティングのビジネスフレームワークでは多くの分析を行います。

3C分析、PEST分析、5フォース分析、SWOT分析と数え出したら切りがありません。

収集したデータの整理、分析を通じて、戦略策定に必要な判断材料を得ること出来ます。

しかしそれぞれのデータは必ずしも関連性があったり、分類されてはいません。

そのため、有益なデータとして活用するには情報を論理的かつ系統的に整理する必要があります。

その際に活用されるのがビジネスフレームワークです。

分析のプロセスを標準化することで、見過ごしたり、気がつかなかったことを発見することが出来ます。

勘や経験則を頼りに組み立てていた仮説や推測ではなく客観的なデータから導き出すことでより確度が高くなります。

また、視覚化、定量化することで共有や迅速な意識決定が可能になります。

しかし分析だけでは不十分です。

なぜそうなったのか因果関係の元になる原因を明らかにするためには解析を行う必要があります。

分析と解析はどちらも英語ではanalysisと訳されますが日本語では異なる意味合いで使われます。

集めたデータがどんな要素で成り立っているか細かく確認し、データの構成要素を理論的に調べていくプロセスです。

解析というと皆さんは統計解析を思い浮かべるかもしれません。

ビッグデータやデータドリブンという言葉が良く聞かれます。

ビジネスパーソンは基本的な知識や考え方を知っておくことは必要不可欠な時代と言えるでしょう。

マーケティング理論は世に溢れていますが、マーケティング戦略から実行プランへブレイクダウンする手法は意外にも明文化されたものが非常に少ないです。

そのせいでしょうか、マーケティング戦略との整合性に乏しい、とってつけたような実行プランが多いように感じます。

戦略は因果関係や相互作用を伴った、一連のストーリーであることが大切なポイントです。

そうでなければ、実行する営業担当者は、何のためにその活動を行う必要があるのか、その活動がどのような結果につながるのか理解できないまま実行することになります。

当然のことながら、納得度の低い指示は実効性も低くなります。

皆さんが思い当たるのはKPIではないでしょうか?

一月の顧客面会回数やWeb面談の回数、講演会への招聘人数など、数値による進捗状況がモニタリングされ、売上実績の良し悪しは、活動の実行状況の良し悪しと相関つけられ評価されます。

ハイパフォーマーと呼ばれるMRは、活動の意図を理解し、自らの判断で最適な行動が出来ますが、大部分のMRは活動の意図を正しく理解できない、あるいは納得度が低く自らの経験や感覚で行動する傾向にあります。

KPIはKGIを実現するために細分化されたタスクであり、実行することで顧客の行動変容を促すことがゴールです。

月に4回面談すれば処方が獲得出来る訳ではありません。

顧客の行動変容の進捗状況を見ながら必要な面談回数を相対的に決めることが必要不可欠です。

また顧客の行動変容のフェーズに応じて取るべき戦略は大きく異なります。

設定された数をこなすだけでは目的や目標を達成するために責任を持ち、積極的に行動しているとは言えないのです。

社会に対して価値を提供し、その対価を得ることがビジネスの基本的法則ですが、その中でも医薬品ビジネスは最たるものと言って良いでしょう。

マーケティングミクスには、企業の⽬線でマーケティング戦略を考える「4P」と顧客視点で検討する「4C」の2つがあります。

これは別々のフレームワークで検討されることが多いですが、スライドのように実は目線の違いだけで同じことを分析しています。

また5Force分析や3Cでは競合を分析要因としていますが、同様に競合の定義を自社の目線だけではなく顧客の目線でも考えてみる必要があります。

顧客が処方している薬剤を確認すると思わぬ事実が見つかることがあります。

NDBオープンデータなど公開データなどで検証してみると良いでしょう。

医療・治療は必ずしも確立したものではなく、新しいエビデンスや知見の登場で大きくかわることも珍しくありません。

人は認知バイアスから逃れることが出来ません。

それを出来るだけ排除するためには可能な限り客観的な視点と定量的な分析を心掛けましょう。

マーケティングは美しいまでの整合性

昨日の投稿に予想を超えた多くの方からアドバイスをちょうだいしました。

感謝とともにとても感動しています。

『現実世界は「非合理」な場所であり「合理的」な世界をベースに構築する経済学とはギャップが存在する。そのギャップを埋める戦略こそが真の戦略である』

『上下左右と何度も行き来して戦略を考え、最終的に美しいまでの整合性が取れた状態がゴールである』

実践を積み重ねた方々の言葉は非常に重く深いです。

私自身も既存のフレームワークに囚われず、かつプロセスを標準化して美しいストーリーを作り上げることを目指しています。

素晴らしいストーリーはきっと人を感動させ突き動かすエネルギーになるはずです。

分析過程では様々な事象を細分化して抽出し掘り下げて検討します。

しかしそのままでは細切れになった断片の山でしかありません。

一旦分割された事象を再びつなげ、組み合わせ、相互作用を生むことで初めて機能し始めます。

戦略には色々な要素が盛り込まれています。

個別の要素と要素の間に、どのような因果関係や相互作用があるのか?

そのつながりからストーリーが生まれます。

ただタスクに切り出しアクションリストにするだけではせっかく書き上げたストーリーの魔法が消えてしまいます。

プレゼンテーションが静止画ではなく物語のように見える、戦略は科学でありアートですね。

ここ数日頭を悩ませているのは標準的なマーケティングプロセスがどうしても医薬品マーケティングにしっくりこないことです。

いま、ベンチャー系の製薬企業の ビジネスプラン 作成のコンサルティングおよび研修の依頼をいただいており、ビジネスフレームワークを活用しながら作成を進めています。

フレームワークのプロセス通りに進めていると、行ったり来たりする場面に遭遇します。

それはSTP分析です。

ターゲット設定は処方元である医師を対象にしますが、セグメンテーション設定を医師にすると市場規模と金額が算出できず、そもそも投資対象として適切であるかが判断出来ません。

ターゲット設定をした後に医師個々が持つ患者数から積み上げれば算出は可能ですが、費やす労力が大きいのとセグメンテーションを設定する時点で市場規模と金額が分からないことは問題です。

やはりセグメンテーションは自社製品の対象となる適応疾患を有する患者群を対象として設定する方が良さそうですが、その場合もターゲット設定をした医師がセグメンテーションした市場全てをカバーしているかは不明確で、明確化するためにはターゲット医師個々が持つ患者数とセグメント設定した対象患者数を突き合わせる必要があります。

また「医薬品を必要とする患者」に「必要とされる医薬品」を届けることが製薬企業のミッションだとすれば、セグメント設定を行い、提供する価値を明確化するポジショニング設定を行ったあとで、患者に届ける最適なチャネルとして対象患者を診療するポテンシャル顧客をターゲティングする方がスムーズに行える気がします。

なんだかまとまりのない話になってしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

よいアドバイスがあれば是非教えてください。