「算多きは勝ち、算少なきは勝たず」は孫氏の兵法の言葉です。
数で圧倒する側が勝つことは戦いにおける原則です。
医薬品ビジネスは様々な法規制や保護により、極めて限局的で限定的な戦略/戦術とならざるを得ません。
差別化が機能しないことから同一化を余儀なくされ、競争環境は一層厳しくなります。
競合に対して優越性を得るには戦力数で上回ることです。
たとえ絶対数では劣っていても市場を細分化することで競合の戦力を上回ることは可能です。
強さを避け、弱点を攻撃するマトリクス分析法を用いれば、顧客を12のフレームに分類し競争環境を視覚化することで、「必ず勝つ、絶対に負けない」ための戦力量と主戦場を選択することが出来ます。
企業の意思決定をサポートするため、マーケティングリサーチが行われます。
自社製品に対する顧客の満足度や競合製品との位置づけ、実施したキャンペーンやイベントの効果判定などが目的です。
顧客の声を聴くことで、市場の変化を察知するためのチャネルとしても機能します。
質問項目を決め、MRが聞き取り調査を行うこともあると思います。
では目的に沿って、聞き取り調査を行うべき顧客を正しく選択しているでしょうか?
顧客の中には自社製品のロイヤルカスタマーがいれば競合製品と拮抗状態の顧客、自社製品より競合製品の使用量が多い顧客、自社製品を殆ど使用してない顧客など様々です。
これらが混在した状態では、調査により得られた要素から論理的に何らかの答えを導きだすことは困難であり、意思決定を誤った方向に導く危険性があります。
マトリクス分析法により競争環境を基に顧客分類をすれば同じ背景に揃えることが出来ます。
正しく選択された対象顧客へマーケティングリサーチを行えば正しい意思決定が出来るはずです。
受発注データは競合製品の売上を含んだデータです。
競合製品が適応症を拡大する、あるいは剤型を追加するなどの場合でも、対策を立てることで先手を取って攻撃をしかけることも可能です。
「木を見て森を見ず」#1で述べたように、エリア戦略において影響力のある顧客を攻略する必要があるケースは少なくありません。
もし本命本丸の攻略が必須であるなら、競合他社に勝る、それ相応の経営資源の投入が必要になります。
担当者だけの責任にせず、組織として取り組まなければ担当者を不要に追い込むことになりかねません。
実現可能性と必要な経営資源や時間、人的要因などから判断する必要があるでしょう。
また本命本丸にこだわりあまりにエリア全体が見えなくなることもあります。
実現可能性の低い顧客に執着するよりも、影響力や市場規模は小さくともエリア全体として自社製品のシェアを高めることで影響力を持つこともあり得ます。
顧客内シェアではなくエリア内シェアを高めることで本命本丸に影響を与えるのです。
地域医療構想による機能分化が進んでいることから医療機関の連携が必要になってきています。
営業管理者は担当者にはっぱを掛けるだけではなく、データ分析による戦略プランを持つ人材が求められます。
私がMRだった時の話です。
過去の担当MRがエリア戦略上、重要となる拠点病院での新薬採用に失敗しました。
その後の歴代の担当MRは口座開設のミッションを背負って奮闘するも成果は得られませんでした。
その役割が私に回って来たのですが、私は既にマトリクス分析法を考案しており、引継ぎの時点から分析結果に基づいて活動を計画しました。
担当交代直後は競合他社に攻略のチャンスを与えてしまう危険な期間です。
最重要ミッションである口座開設は、直ぐに売上に対する影響はなく、取り組むにしても非常に多くのリソース量を必要します。
売上を維持するために重要なa行およびb行の顧客を中心に活動を集中した結果、全同期間日は30%向上しました。
もし拠点病院での口座開設にリソースを集中投下したならば、ロイヤルカスタマーへの活動がおろそかになり、競合他社に顧客奪われていたと思います。
たとえ口座開設に成功したとしても既にライフサイクルが成熟期にある製品のため大きなリターンは望めません。
戦略は相対的に決める必要があります。
チームの中には他のメンバーと比べ進捗が大きく遅れるメンバーがいるはずです。
その結果は必ずしも担当者によるものとは限りません。
他のメンバーと異なる原因のひとつに市場環境の違いがあります。
そのため全社の市場環境に適したKPIを忠実に実行してもよい結果は得られません。
なぜなら戦略プランは市場と競合、そして自社の3Cにより相対的に決まるからです。
営業マネージャーであれば正しく導く必要があります。
誤った戦略プランをいくらトラッキングしても結果に結びつかないどころか、部下とのエンゲージメントが低下し、信頼関係を失うかもしれません。
経験値や感覚ではなく、定量データを用いることで客観的な視点でティーチングが出来るようになるでしょう。
過去のようなブロックバスターを生み出すことが難しい昨今の医薬品ビジネスモデルでは、新薬だからといって既存市場への参入は簡単ではありません。
アンメットメディカルニーズが枯渇し、新薬への期待が得られない領域も増えつつあります。
その場合は新薬であっても既存市場から患者を奪わなければなりません。
成熟期から衰退期にある降圧剤市場を例にみてみると、既に治療指針が確定しており、クラス別の処方傾向が定まっています。
さらに細分化するとクラス内競争は既に終わりを迎え、同様に一強型市場を形成しています。
クラス内弱者の製品から自社製品への切替であれば着実に市場を獲得し、さらに1stチョイス製品との併用薬の位置づけが定着すればシェアを高めることも出来るはずです。
病院市場であれば一増一減により自社製品への切替が進むかもしれません。
しかしヒエラルキー型組織のヘルスケア業界では切替は簡単ではありません。
メールやホームページによる情報提供だけでは実現困難です。
人的要因としてのMRの存在が不可欠です。
同じ目的に向かっているはずなのに本社と営業の対立が起きることは珍しくありません。
むしろ平常運転と言えます。
私はフィールドトレーナーとして、毎月更新される戦略プランとパンフレットをMRに落とし込む研修業務に従事していたことがあります。
冒頭にベストプラクティスを共有し、本社が作成したセールストークのロールプレイングを実施します。
その際にMRから、「そのプランでは上手くいかない、もっとこうした方がよいのでは?」との意見が出されました。
納得感、腹落感を得られなかったのです。
そのような経験の中、MRからの納得感を得て、実行性を高める方法がないかと考えたのがマトリクス分析法です。
マトリクス分析法を用いることで、なぜ本社はその戦略プランを立てたのか、なぜMRによっては戦略プランが合わないのか定量的かつ客観的に説明することが出来るようになりました。
印象的だったのは、モヤモヤが解消された時のMRの安心した顔です。
マトリクス分析法を使えば上手くいった時だけでなく、うまくいかなかった時にも、いいわけでは無く論理的に説明することが出来ます。
状況を改善するために上司に支援を求めることだってできます。
無意味な対立を回避し前進するエネルギーに転換しませんか?
iPodという革命的なイノベーションは当時一強だったウォークマンを一瞬で追い抜いてしまったことを覚えているでしょうか?
弱小パソコンメーカーのアップルがソニーのウォークマンに対する破壊的イノベーションで市場を占有したのです。
ソニーのウォークマンがiPodに決定的に差をつけられた理由は社内での有機的なつながりにあります。
ソニーはコンテンツから販売網、そして機器販売までもが垂直統合型のビジネスモデルです。
「コンテンツ部門」と「ハードウェア部門」がセクション化されていたために、互いの利害関係により失敗に終わりました。
ジョブズは「カニバリゼーション(共食い)を恐れるな」ということを事業の基本原則としていました。
「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだ」と言うことです。
セクショナリズムの壁を取り払い、全体最適を常に考える大きな視野を持って同じ方向へ進むことで企業は成長します。
個人が部門を越えて、全社的な視点を持つことが重要です。
マトリクス分析法は専門的な知識やスキルは必要なく、誰でも簡単に分析が可能で、客観的で再現性に優れる独自のものです。
入力データの範囲に応じて、「全社戦略」、「エリア戦略」、「担当者ごとの戦略」の全てが同じロジックによって分析されるために組織全ての階層で全体と同じ意思決断をおこなうことが出来ます。
そのためスピーディな判断力と行動力を発揮できるフラクタル型組織の実現が可能となります。
従来通りのオフラインによる人的営業に加えて、DXを活用したオンラインとのハイブリッド営業が推進されています。
では人的要因であるMRとデジタルの掛け合わせは当初期待した通りの処方インパクトが得られているでしょうか?
スマートテクノロジーの登場により人が行っていた業務や意思決定を、コンピュータや機械でこなすようになりました。
しかし依然として、どの項目を重視すれば良いかなどの重みづけは人が行う必要があります。
優先順位を正しい方法で設定していますか?
維持:現在のリソース量を継続する
強化:現在のリソースに人的要因やデジタルを追加する
検討:強化フレーム以上のリソース量を確保できるか、他に優先すべきことはないか検討する
撤退:現在のリソースを他に振り分ける
全体の一部が数値の大部分を作り出している、いわゆる2:8の法則はご存知でしょう。
パレート分析(ABC分析)は、ウェイトが高い順にA、B、Cのグループに分類し、重要度が高いグループを重点的に管理する手法です。
イタリアの経済学者ヴルフィレド・パレートによって『政治経済学講義』 (1896, 1897) の中で提唱されました。
コトラーがマーケティング1.0を提唱した20世紀初頭は需要が供給をはるかに上回る、大量生産・大量消費の時代です。
現代のような世界的な景気後退による市場が縮小する市場環境とは真逆と言ってもよい状況です。
縮小市場では競争環境がより厳しくなることから、3Cの中でも競合他社をより強く意識する必要があります。
マトリクス分析法はパレート分析(ABC分析)の軸に、競争環境の軸(a,b,c,d)の2軸で顧客を12のマトリクスに分類します。
そのため市場規模が縮小するゲーム型競争市場における戦略プラン二ングに適しています。
最近では米国大手通販サービスAmazonの成功からロングテール戦略が注目されるようになりました。
ブロックバスター型のビジネスモデルが困難となった現在では、ニッチ市場における戦略も非常に重要となりました。
マトリクス分析法は非差別化戦略、差別化戦略、集中化戦略、ニッチ戦略全てに対応する戦略プランニングの手法です。