処方獲得のためには処方依頼だけでは顧客の行動変容は促せません。

まずは認知させ、興味関心を引き出し、処方意欲を持たせ、最後に処方行動に導く、AIDMAのプロセスが必要です。

この段階的な顧客の行動変容を察知せずにいきなり処方獲得を試みてもアーリーアダプターなどの一部の顧客にしか機能しないでしょう。

またこの行動変容を促すためにはプロセスごとに適切な情報提供チャネルも変化します。

つまり目的と手段を適性に選択する必要があります。

このプロセスはKPIとKGIの間にある因果関係としてKSFやKRIとして設定すると良いでしょう。

公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団による医療ニーズに関する調査結果をもとに医薬産業政策研究所から治療満足度調査の結果が報告されました。

これは私が常に興味を持って見ているデータです。

医薬産業政策研究所 さまのホームページからデータを転載させていただきます。

今回の調査ではがん領域が第一象限に多く含まれることに驚きました。

以前ならこの象限には生活習慣病領域が主に含まれていたからです。

多くの製薬企業がプライマリー領域からオンコロジー領域にこぞって舵を切ることで、予測されることですが短期間でコモディティ化が進む傾向にあります。

コモディティ化は差別化が図りづらく、競争優位性を得ることが出来ないといったデメリットが生じます。

コモディティ化とは、市場参入時には高付加価値を持っていた製品の市場価値が低下し一般化することです。

コモディティ化が起こると競合製品との差別化が困難となり、自社製品の特徴が薄れ、顧客にとっての選択基準が曖昧になります。

そしてコモディティ化した製品は一定量の需要は見込めますがやがて成熟期から衰退期を迎え需要の拡大が期待できなくなります。

市場規模が縮小し売り上げが減少していけばオンコロジー領域から撤退する製薬企業が出てくることもあり、市場に隙間ができることで市場を独占するチャンスを得られる可能性があります。

『マーケティング戦略』とはどのような意味を持つ言葉なのでしょうか?

『戦略』と『マーケティング』の2つの異なる意味を持つ概念が一つになっており、私は違和感を感じます。

定義には様々なものがありますが、一般的には『戦略』とは進むべき方向性の【指針】、『マーケティング』とは目的を実現のために必要な【手段】です。

そして『戦略』は『マーケティング』の上位概念であり、マーケティングプランニングのためには『戦略』は不可欠です。

『マーケティング』の手法の多くは競合製品との差別化ですが、法的保護や規制の多い医薬品ビジネスでは差別化を行うことは非常に難しいビジネス環境です。

そのため『戦略』が非常に重要な意味を持つことになります。

『戦略』なき『マーケティング』はファンタジーです。

『手段』が『目的』化することは実際に多く見られる現実です。

『マーケティング戦略』という言葉が招く弊害かもしれません。

ビジネスを展開する上で商圏は非常に重要な成功要因です。

顧客が存在しない商圏では集客に苦労することになりビジネスが成立しません。

しかし実際には顧客が存在しない商圏でビジネスを開始してしまう例は少なくありません。

競合が居ないと喜ぶ人も中にはいるくらいです。

釣りをされる方は目には見えないが海の中には魚がいるだろうと期待して釣り糸を垂れていまることでしょう。

しかし魚がいない海ではいかに良い仕掛け、良い道具を使っても一匹も釣ることは出来ません。

もしこれが猟なら、鳥一匹飛んでいない空に向かって弾を撃つ人はいないでしょう。

なぜなら無駄だからです。

必ず顧客が存在する、あるいは顕在化したニーズがある、まだ潜在的ではあるが今後顕在化したニーズになる、など確信が持てる商圏で勝負すべきです。

それを知るためには外部環境分析、内部環境分析のプロセスが必須となるでしょう。

地域医療構想で不足している病床を知ることが出来ます。

もし新たに病床を増床するなら過剰な病床ではなく不足している病床を選択するのは明白です。



なぜ、これまでの経験に基ずく意思決定が機能しなくなったのでしょうか?

それは現在が過去の延長線上にないからに過ぎません。

戦後の復興期からバブル期まで市場経済は成長を続けてきましたが、リーマン・ショックの後、世界規模で拡大した金融危機により、世界経済は近年で最も深刻な景気後退から未だ抜け出せていません。

つまり市場の成長期における経験則や感覚と成熟期から衰退期にライフサイクルのフェーズが移行した現在のビジネス環境では全く異なるアプローチが必要なのです。

いつまでも過去の経験則や感覚に頼ったアプローチ方法は機能しないだけではなく、誤った戦略につながる恐れがあります。

過去の成功体験にこだわっていると唯の武勇伝のように聞こえてきます。

客観性を持った物差しとは定量化された情報です。

経験則や感覚値による定性情報は主観的な情報のため共通の物差しとしては不適切です。

孫氏の兵法による「度にはじまり勝で終わる」とは現代でいうところのデータドリブンです。

つまり精神論では勝てないということですね。

「巧遅は拙速に如かず」は色々な解釈がありますが深追いをしない、腹八分目との意味もあります。

戦が長引けばたとえ戦いに勝ったとしても兵は疲弊し鋭気もそがれ国家も貧窮することになります。

深追いをせず頃合いよく早く戦いを終わらせることが大切です。

マーケットシェア理論においても上限目標シェア値は100%ではなく74%です。

下限目標値の26%と合わせることで100%に達します。

すなわち2者間競争では1:3の比率、競合に対して3倍のシェア差をつければ勝負ありということです。

100%を追うことは市場に対する安定供給の全責任が生じる以外にもいつまでも経営資源を投入することで消耗戦になることになり、メリットをデメリットが上回ることになるかもしれません。

戦略を学ぶうえで「孫氏の兵法」は欠かす事の出来ない最も有名な兵法書です。

2500年以上前に書かれた「孫氏の兵法」ですが現代社会のビジネス戦略においても活用できる知恵が詰まっています。

原理原則はいかに古くなろうともシンプルで不変で誰にでも応用可能であるはずです。

マーケットシェア理論では競合に勝つために必要な戦力量を2者間競争では3倍、多者間競争では√3倍以上としています。

この値を下回る場合には強者との戦いを避け、絶対に負けない条件が揃うまでシェアを積み重ねる必要があります。

孫氏の兵法には「必ず勝つ、絶対に負けない」ための戦略を選択するために必要なヒントが満載ですので是非ご一読をお勧めします。

JAK阻害薬やPD-1モノクローナル抗体薬では、競合製品は存在するがインディケーションの重なりとズレがあるため、適応症市場の中での正確なシェア値が分からず受発注データが上手く活用できないとお聞きします。

そのためマトリクス分析を行っても同じ理由から有用性がないとのご意見をいただくことがほとんどです。

実際にインディケーションのある適応症ごとの競合製品との競争環境はマトリクス分析でも把握することができません。

しかし安くない受発注データを購入しているのですから正確には分からなくても概要だけでも掴むことで競合製品に優越性を持つことができると思います。

安定しているのか脆弱なのか、優先すべき顧客はどこなのか、リソースをどのように配分すればよいのか、マトリクス分析によって方向性は見えてきます。

製品Aは早急に安定目標に達するためにa行およびb行の顧客を育成しなければならないでしょう。

1989年10月 に高脂血症治療剤として初のHMG-CoA還元酵素阻害剤であるメバロチンが発売されました。

スタチンの発見は、日本が得意とする微生物創薬の大きな成功例として記憶されています。

そして1995年には国内売上高でトップとなり世界100カ国以上で販売され、ブロックバスターに成長しました。

1991年12月には同じHMG-CoA還元酵素阻害剤のリポバスが登場し、その後リピトールなどストロングスタチンの参入によりスタチン系高脂血症治療薬市場の競合が激しくなりました。

競争環境が激しくなる一方で1997 年には「高脂血症診療ガイドライン」が、2002 年には「動脈硬化性疾患診療ガイドライン」が策定され高脂血症市場は急速に拡大していきました。

日本人の生活習慣の変化等による、糖尿病等の生活習慣病の有病者・予備群の増加を背景に2008年4月から生活習慣病予防のための新しい健診・保健指導として特定健診が始まり高脂血症市場の拡大はさらに加速していきます。

スタチン登場以前では、食事療法やフィブラート系薬剤,コレスチラミンにより総コレステロールで 20%前後の低下率が得られてはいましたが,総死亡は抑制されておらず, コレステロールを低下させることが虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患を予防,治療していくうえで本当にメリットがあるのかという議論が長く続いていました。

しかし製薬企業によるスタチンを用いた大規模臨床試験が相次いで報告され、あっという間に世界中で使われるようになりました。

今ではスタチンを主力製品としていた製薬企業の多くがオンコロジー領域に主軸を移しています。

がんによる死亡を防ぐために早期発見・早期治療を掲げ、2018年にはがん対策推進基本計画が閣議決定されました。

がん検診によりスクリーニングが進めば、スタチン同様に潜在的な患者が発掘されることで市場は拡大することでしょう。

PCR検査による陽性者のスクリーニングも同様に、ワクチン接種を推進する大きな追い風と言えるでしょう。

競合製品の存在は市場を奪い合う競争相手としてだけではなく、市場を形成する協力の関係であることがあります。

多くの製品が参入することでそれまで顕在化していなかった市場が短期間で認知されるようになるからです。

通常、医薬品の開発はシーズの探索から臨床試験を経て発売されるまで10年以上かかると言われていますが実際には同じクラスの薬剤が短期間に競合他社から相次いで登場してきます。

多くの大手製薬企業の筆頭株主が同じ機関投資家であることも興味深いのではないでしょうか。