近年、AIロールプレイングツールやSFA/CRMなどのデジタルソリューションが営業現場での新たなスタンダードとなり、これらのテクノロジーは営業効率の向上や顧客関係管理の強化といった多くのメリットを提供します。しかし、これらの戦術支援ツールの効果を最大限に活用するためには、戦略フェーズの正確さと自社の強みの理解が不可欠です。

戦略とは、単に市場のセグメンテーションやターゲティングの問題に留まらず、自社の核となる強みを如何にして競争優位性に変換するかに関わるものです。自社の強みが明確であれば、どの市場セグメントが最も競争優位性を発揮し、どの顧客群に最大の影響を与えることができるかが明確になります。これにより、デジタルソリューションを活用して、より売り上げインパクトを最大化した営業活動が可能になります。

セグメンテーションとターゲティングを自社の強みに合わせて選定することで、営業努力がより意味のあるものになります。誤った市場セグメントやターゲットに焦点を当てることは、自社の強みを活かす機会の損失につながり、ROIの最大化が困難になります。

デジタルソリューションの効果を最大限に活用するためには、戦術的な実行に先立って、戦略フェーズで自社の強みを深く理解し、それを市場のニーズと組み合わせることが重要です。このような戦略的なアプローチは、営業の効率化と顧客満足度の向上、そして最終的にはビジネスの成功に直結します。

日本経済団体連合会(経団連)の歴史を眺めると、会長職は長らく製造業界の重鎮たちが務めてきたことがわかります。

日本の経済発展史を振り返ると、製造業がその中心に位置しています。自動車、電機、重工業など、世界市場で影響力を持つこれらの業界は、国内外での日本経済の成長を支えてきました。経団連会長の多くが製造業界から出てくるのは、このような背景が大きな理由です。

製造業は、日本のGDPにおいて重要な役割を果たしており、資源に恵まれない日本では、輸出産業としての製造業の地位は非常に高く、経済政策やビジネス環境形成に、経団連は大きな影響力を持ってきました。

そのため経団連のリーダーシップは、製造業の大手企業から選ばれており、これらの企業が持つ長い歴史と経済への貢献、そして政治や他の経済分野との強固なネットワークによるものです。

しかし、今やITや情報産業は日本経済の新たな柱としての地位を確立しつつあります。先進技術の発展、製造業とIT技術の融合、スタートアップの活性化、グローバルマーケットへの進出、政府によるデジタルトランスフォーメーションの推進などが、この変化を加速しています。

経団連の5代目会長で、財界総理、影の総理と呼ばれた、稲山嘉寛氏から、情報産業の先駆者であるリクルート社長の江副氏が経団連に加盟する際、「物を作らない企業は実業ではなく虚業」と言われてから40年、今後、ITや情報産業出身者が経団連のリーダーシップを担うようになるでしょうか?

情報を制するものは戦いを制する、とは、元々孫子の「名君賢将の動きて人に勝ち、成功、衆に出づる所以のものは、先知なり」から来ています。この教訓は、現代のビジネス界においても非常に重要な意味を持ち、現代のデータ駆動型意思決定における原則となっています。

この孫子の兵法は、データを基盤とした意思決定の重要性を強調しています。企業が「必ず成功する、絶対に失敗しない」ためには、分析により効果的な戦略を立てる必要があります。

ビッグデータによるデータ駆動型の重要性が高まっていますが、ビッグデータとは、「データ量(Volume)」「発生頻度(Velocity)」「多様性(Variety)」の3つに加えて、最近では、「正確さ(Veracity)」や「データ価値(Value)」まで含めて、5Vとなっています。

データ駆動型意思決定とは、経験や感覚だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいて行動を決定することを意味します。このアプローチにより、企業はリスクを最小限に抑え、機会を最大限に活用することができるのです。

市場のトレンド、顧客の行動、競合他社の動向など、様々なデータを収集し分析することで、顧客のニーズを理解し、それに基づいて製品やサービスを最適化することができます。また、市場の変化に迅速に対応し、競合他社に対して先手を打つことも可能になります。

軽量で迅速な市場分析により、顧客アプローチを最適化し、売上インパクトを最大化するための、直感的かつシンプルな分析ツールも必要になるでしょう。

*『孫子』(そんし):紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家

日本ベーリンガーインゲルハイムのSGLT2阻害薬・ジャディアンスが、CKDの適応を取得しました。同様の適応を持つSGLT2阻害薬にはフォシーガがあります。
(CKD:「慢性腎臓病。ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く」)

SLT2阻害薬は、長年糖尿病治療薬の主役であったDPP-4阻害薬を抜き、急速に市場を拡大しています。中でも6製品が競合するSGLT2阻害薬の市場は、「フォシーガ」(アストラゼネカ/小野薬品工業)と「ジャディアンス」(日本ベーリンガーインゲルハイム/日本イーライリリー)の2強型競争市場を形成しています。

ジャディアンスが、CKDの適応を追加取得することで競争優位性にどのような変化が起きるのか、戦力量分析を用いて試算してみました。

正確なデータソースを持たないため、試算は以下の条件としており、考察は参考程度にとどめてください。
 糖尿病市場:約6760億円
 SGLT2阻害薬市場:約2300億円
 フォシーガ売上:約565億円
 ジャディアンス売上:450億円
 ジャディアンスファミリー売上:約685億円

以下は、フォシーガの推定シェア値を24%、ジャディアンス19%、ジャディアンスファミリー29%と仮定し、CKD適応追加の寄与係数を+0.5ポイントとした場合の、対フォシーガに必要な戦力量の分析結果です。
1.ジャディアンス単体:現在の2.8倍のリソース投入が必要
2.ジャディアンス+CKD:現在の1.8倍のリソース投入が必要
3.ジャディアンスファミリー:現在の1.2倍のリソース投入が必要
4.ジャディアンスファミリー+CKD:現在の0.8倍のリソース投入が必要

戦力量分析の結果から、SGLT2全体市場での競合の場合には、ジャディアンスファミリー+CKDの総力戦であればフォシーガの牙城を崩すことが可能です。

例えばSTPを設定するなら、セグメント設定:今後増加する高齢者市場、ターゲット設定:加齢とともに増加する心腎疾患患者、ポジション設定:高齢者での心腎連関疾患の基準薬などです。

その他の戦略としては、市場細分化によりフォシーガの戦力量を上回る市場でドミナント的にシェアを積み重ねることになるでしょう。

*これらの数字は市場調査や過去のデータに基づく推定であり、将来の市場動向を保証するものではありません

*戦力量:製品力、MR数、経営資源、ブランド力、ロジスティックなど

現代のビジネス環境は、急速な変化と技術進化の中で「時間との勝負」という特性を持ち、また、市場の縮小に伴い「陣取り合戦」という側面も強まっています。これらの状況は企業に対して、素早い意思決定と戦略的な市場占有を要求しています。

特に、「時間との勝負」は、データ駆動型の意思決定スピードの重要性を強調しています。しかし、これは必ずしも大量のビッグデータに依存することを意味するわけではありません。現代は予測不能な時代であり、予測の意義自体が変化しています。そのため、軽量なデータを活用し、頻繁にデータ分析を行うことが求められます。これにより、企業は市場の変動に迅速に対応し、戦略を即座に調整できるようになります。

一方で、縮小傾向にある市場では「陣取り合戦」のゼロサムゲームの性質を帯びています。この競争環境下では、企業は既存の顧客を維持し、競合から市場シェアを奪う戦略が重要です。顧客ニーズの深い理解と、カスタマイズされた製品やサービスの提供により、顧客のロイヤリティを高め、競合他社との差別化を図る必要があります。

これらの要素を踏まえると、現代のビジネスは、データを迅速に解析し、市場の変動に柔軟に対応する能力、そして市場での持続可能な存在感を確立する戦略的なアプローチが求められていると言えます。

データ駆動型の意思決定と戦略的な市場占有は、競争の激しいビジネス環境での成功へのキーワードです。