現代では、大量生産/大量消費の時代は終わり、「いいものを、安く、たくさん作って流通」させても顧客に買ってもらえるとは限らない時代となりました。

また機能的価値を高めようとしても多くの分野で概ね一定の機能を超えており、顧客のニーズは既に満たされているという事実もあります。

そのため「情緒的価値」を高めるためにペルソナやカスタマージャーニー/ペイシェントジャーニーなどを分析し、CX、UXを高める製薬企業が増えています。

これら顧客ニーズの変化は経済成長が大きく影響しています。

しかし現在は世界的な景気後退や少子高齢化時代に突入し、また新しい時代の転換期を迎えています。

厳しい競争環境下では、顧客にフォーカスしただけでは不十分です。

競合に対する視点が重要になります。

3Cの要素をしっかりと見極める必要があります。

売り手と買い手が同じ量と質の情報を持つことで完全競争市場が成立します。

高度な情報を伴う医薬品ビジネスにおいて完全競争市場が成立することは、顧客に対する製薬企業の圧倒的な優位性が失われることを意味します。

では完全競争市場が成立するとどのようなことが起きるでしょうか?

ロジャースの「イノベーター論理」ではイノベーターとアーリーアダプターの16.5%以外は他者の意見を基に意思決定を行うとされています。

つまり他者が良いと言う製品、すなわち一番売れている製品を選択することになります。

もはや情報を比較し自分のメリット・デメリットすら考慮されない可能性があります。

行動変容モデルにおいて全てのフェーズで口コミが有効な理由はここにあります。

完全競争市場で一人勝ちするためにはシェアを高め市場内強者になることです。

医師向け薬剤比較アプリというものが登場しました。

DXによる情報提供推進がこのような状況を招くことは容易に危惧出来たことですが、、ついにこのフェーズに達してしまったかという感じです。

これまでも医薬品情報を収集するためのアプリは存在していましたが、その多くは添付文書アプリなど製品情報を網羅した、主に薬剤師向けに作られたものでした。

医師向け薬剤比較アプリでは、処方薬剤の特徴を確認したり、関連薬効製品や同効薬剤と比較や、実際に処方した医師の口コミを手軽に知ることができます。

この顧客にとって便利なアプリは製薬企業を消滅させる威力を秘めています。

医薬品は高度な情報を伴う製品です。

製薬企業は顧客が知り得ない多くの情報を有することで不完全競争市場を形成し優位性を得ています。

しかし顧客が企業と同等の情報を持ち、自ら選択をするようになる完全競争市場では、競争の2極化が進み、最終的には強者の一人勝ちを招きます。

簡単に情報を得られるということは、極めて限定的な情報のみで薬剤選択を行うということであり、営業活動を無効化してしまいます。

各社が進めてきたDXによる情報提供推進は自らの首を絞めるかもしれません。