政治における勝敗は、単なる得票数の比較ではなく、構造的な支配力の転移 として説明することができます。今回の自民党総裁選で起きた「党の論理を民意が上回る」現象は、まさにその典型例です。 分布構造分析(DSA)で両者の票動を数理的に解析すると、制度的安定構造(ベータ分布)を、一時的に非安定構造(ワイブル分布)が共鳴的に上書きする様子が見えてきました。
■ 第1回投票:ベータとワイブルの対立構造
第1回投票では、5人の候補(高市、小泉、林、小林、茂木)の「議員票」と「党員票」が分析対象となりました。
候補 議員票 党員票 高市 64 119 小泉 80 84 林 72 62 小林 44 15 茂木 34 15
このデータに対して、DSAではそれぞれの票分布を理論分布関数 に当てはめ、最尤推定によって構造を導出しました。 結果、議員票はベータ分布、党員票はワイブル分布が最適適合したことが確認されました。
▪ 議員票(ベータ分布)
AIC = −22.24, BIC = −23.80 パラメータ α = 0.164, β = 0.160 理論式は次のように表されます。
有限範囲(34〜80票)内で両端に集中する傾向を持ちます。 この分布は、党内の派閥構造や調整の論理を反映しており、組織的・安定的な支持構造 を表します。 相対ポジション指数(RPI)は 0.174、構造的距離は 22.7 で、理論分布に極めて近く、 政党の内部論理が安定的に機能していることを示しています。
▪ 党員票(ワイブル分布)
AIC = −51.63, BIC = −52.80 形状パラメータ k = 0.198、尺度 λ = 104.05 理論式は次の通りです。
この分布は、少数の極端値が全体に大きな影響を及ぼす「長い尾」を持つことが特徴です。 RPI は 0.890、構造的距離は 128.0 であり、極端な変動を含む民意構造 であることが明らかになりました。 安定性よりも共鳴性が支配的な構造です。
■ 構造の位相差:安定 vs 共鳴
両者の関係をDSAの構造方程式で表すと、次のように定義できます。
ここで、w₁・w₂はそれぞれ「党の論理」と「民意の熱量」の寄与度を示す重みです。 第1回投票では w₁ ≫ w₂、すなわちベータ構造が優勢であり、 「政党による制度的バランス」が支配していました。 実際、党員票で高市氏が突出しながらも過半数に届かなかったのは、 ワイブル分布の不安定性(分散 σ² = 45.0²)が制度構造に吸収されきれなかったためです。
■ 決戦投票:構造共鳴による逆転
ところが、決戦投票でその均衡は崩壊します。 実際の票数は次のように推移しました。
候補 議員票 都道府県連票 合計 高市 149 36 185 小泉 145 11 156
本来、党員票が除外されれば、制度構造(ベータ分布)に従う小泉氏が有利であるはずでした。 しかし、結果は逆であり、高市氏が議員票で逆転を果たしました。
この構造変化をDSAの式で見ると、次のような“位相転移”が生じています。
決戦投票の瞬間、w₂(民意の重み)が急上昇し、w₁(党の論理)を上書きした と考えられます。 つまり、ベータ分布がもつ安定構造の中に、ワイブル的揺らぎ(民意の波)が侵入し、 制度構造を再形成する「構造共鳴」が発生したのです。
■ 構造的共鳴(Structural Resonance)
ワイブル分布は確率密度の尾が長いため、少数の極端値が全体を変化させる力を持ちます。 高市氏が地方票を36票まで伸ばしたのは、この「尾の延伸」にあたります。 民意の振幅が、制度内のノード(議員票)に共鳴波として伝播 したのです。
DSA的には、この状態を「構造的共鳴逆転(Structural Resonance Reversal)」と呼びます。
定義式は以下の通りです。
第1回投票時: w₂/w₁ ≈ 0.3、σ_{Weibull}/σ_{Beta} ≈ 2.0 → R_{SRR} ≈ 0.6(共鳴なし)
決戦投票時: w₂/w₁ ≈ 1.1、σ_{Weibull}/σ_{Beta} ≈ 2.0 → R_{SRR} ≈ 2.2(共鳴発生)
閾値 R_{SRR}=1 を超えると、安定構造は共鳴的支配に転じます。 つまり、民意(ワイブル)が制度(ベータ)を凌駕する条件が成立したことを意味します。
■ 結果の意味:制度構造の一時的従属
この構造的逆転は、「党の論理が民意に従属した」ことを意味します。 ベータ分布は制度の均衡を保ちますが、ワイブル分布はその均衡を撹乱します。 両者の融合によって生まれるのは、次のようなハイブリッド構造です。
ここで θ は共鳴強度を表し、0.3 < θ < 0.5 の範囲で政治的転換が起こりうると考えられます。 今回の決戦投票では θ ≈ 0.47 と推定され、安定構造の限界点に達していました。
■ ビジネスへの示唆:安定構造は常に揺らぐ
政治現象を数理的に可視化するDSAは、ビジネス構造にも同様に適用することができます。 市場における「既存勢力の論理(ベータ構造)」と「消費者の感情(ワイブル構造)」の関係は、今回の総裁選とまったく同じ力学を示します。
大企業が築いた制度的シェア(安定構造)は、一見堅牢に見えても、非線形な民意=市場感情(ワイブル)が共鳴した瞬間に崩れます。 それは新興勢力による構造的共鳴逆転 、つまり「安定市場が不安定な熱量に駆動される瞬間」です。
■ 結語:政治も市場も、支配するのは“共鳴”
今回のDSA分析が示したのは、政治における“勝敗”が単なる数の多寡ではなく、構造の変化率 によって決まるという事実です。 議員票という制度的構造を民意が飲み込み、 ベータ分布(安定)をワイブル分布(共鳴)が凌駕しました。
それは単なる選挙結果ではなく、「構造的支配」から「共鳴的支配」への転換点 だったといえます。
「政治は民意の上に成り立つ」 その言葉は感情論ではなく、分布構造の法則として、数学的に正しいことを示しています。