① 有意差が意味すること
統計解析で「有意差あり」と判定されるのは、両群間の違いが単なる偶然だけでは説明できない可能性が高い、ということです。つまり、「この薬はプラセボと比べて明らかに異なる作用を持つ可能性が高い」と科学的に裏づけるシグナルとして機能します。
② しかし「有意差=大きな効果」ではない
注意すべきは、有意差はあくまで「偶然ではない差」を意味するだけであり、その差が大きいか、あるいは臨床的に本当に意味があるかを保証するものではないという点です。例えば1万人規模の試験でわずかな差が統計的に有意となっても、患者一人ひとりの体感としては「ほとんど変わらない」可能性もあるのです。
③ 実臨床で効果が得られなかった事例
歴史を振り返れば、「有意差を示して承認された薬」が実臨床では期待通りの効果を発揮しなかった例は少なくありません。
- 抗不整脈薬:不整脈抑制では有意差を示したものの、死亡率はかえって上昇。
- ベバシズマブ乳がん適応:PFSで有意差を認め承認されたが、OSでの延長は確認できず適応取消。
- SSRI抗うつ薬:プラセボに対して有意差はあるものの、効果量は小さく、実臨床での満足度は限定的。
これらは「統計的有意差」と「臨床的有用性」の乖離を象徴しています。
④ それでもp値が主要な指標である理由
ではなぜ今もp値中心なのか。それは規制当局や医療現場にとって「シンプルで客観的」だからです。
- 規制当局:承認の可否を一律に判断するには、数値基準が不可欠。
- 医療現場:専門外の医師でも「有意差あり」という表現は直感的に理解しやすい。
- 研究慣習:RCTの歴史とともに「p<0.05」が標準化され、今なお根強く残っている。
つまり、p値は「わかりやすさ」と「制度上の利便性」によって支えられているのです。
⑤ 今後の動向
しかし近年は「有意差だけでは不十分」という認識が広がっています。効果量、信頼区間、Number Needed to Treat(NNT)、さらにはリアルワールドデータ(RWD)など、多角的な指標で薬剤の価値を評価する流れが強まっています。
規制当局も、臨床的意義や患者中心のアウトカムを重視する方向へシフトしており、単純なp値依存からの脱却は避けられません。
✅ まとめ
有意差は科学的根拠を示す重要なツールである一方、「偶然ではない差」を示すにとどまるため、臨床的価値の保証にはならない。これからの時代は、有意差のその先──「どれだけ意味のある差か」を問う視点が求められています。 この潮流の中で、DSA(分布構造分析)はデータの構造そのものを可視化し、統計的有意差では見落とされがちな実臨床の意味ある差を明らかにすることが期待されています。
