多くの人は統計を「因果を調べるための道具」と考えています。ところが実際には、統計から直接知ることができるのは相関関係であり、因果の「証明」ではなく、因果の「推測」にすぎません。

このことを理解するために「犯罪立証」のプロファイリングになぞらえてみましょう。

現行犯逮捕ならば、犯人がその場で犯行に及んでいるため、因果関係は誰の目にも明らかです。しかし現実の事件はそう単純ではなく、多くの場合は「事件後の捜査」になります。警察は監視カメラの映像、目撃証言、指紋やDNAといった状況証拠を集め、それらを積み上げて「この人以外に犯人はいない」と合理的に推論していきます。

統計もまさにこれと同じで、データに現れる相関は状況証拠にすぎません。そこから因果を推測するには、交絡因子を取り除いたり、ランダム化比較試験や傾向スコアマッチングなどの手法で証拠を補強していく必要があります。

しかし、「100%の因果証明」にたどり着くことはできません。裁判では「合理的な疑いを超えて」立証できなければ有罪にはできないように、統計でも「偶然では説明できない」範囲まで可能性を高めることがゴールです。統計はあくまでも「因果の候補を絞り込む」ための道具であり、「因果そのもの」を明らかにするものではないのです。

では、因果をより深く理解するために何が必要なのでしょうか。その一つがDSA(分布構造分析)です。

従来の統計が状況証拠を積み重ねる刑事のような存在だとすれば、DSAは「犯罪を生む環境や構造そのものを可視化するプロファイラー」に近い役割を果たします。たとえば市場シェアを例に考えると、従来の統計は「広告出稿と売上に相関がある」といった証拠を提示してくれます。しかし、それが本当に因果なのかどうかは依然として不透明です。

一方DSAは、単なる相関ではなく、背後に潜む分布の構造を明らかにします。どのセグメントに競争優位が集中しているのか、どのポジションが脆弱で攻めやすいのか。つまり「なぜ売上が動いたのか」という因果を生む土壌そのものを可視化するのです。これはまさに、事件の断片的な証拠だけでなく、事件発生のパターンや人の動線、環境要因そのものを読み解くプロファイリングに相当します。

ビジネスの現場では「広告が効いたのか」「営業活動の量が効いたのか」という問いにしばしば直面します。しかし従来の統計だけでは、その答えは状況証拠レベルにとどまります。そこにDSAを組み合わせれば、「どの市場構造がその因果を生んだのか」という一段深い洞察が得られます。

統計は「因果を直接証明することはできない」という限界を持っていますが、DSAはその限界を補い、因果の背後にある構造を明らかにする役割を担います。統計が刑事の捜査だとすれば、DSAはプロファイラー。両者を組み合わせることで、データからより合理的で、かつ戦略的な意思決定へとつなげることができるのです。