豪州・10年間の反復測定データを解析がNutrients(2025; 17: 3660)に発表されました。紅茶摂取は全股関節骨密度と有意な正の関連を示した一方、コーヒーでは全体的な関連は認められなかったとされています。

解析は線形混合効果モデル(random intercept)で、年齢・BMI・喫煙・CCIなどの時間依存共変量と、閉経年齢や生涯アルコール、カルシウム・蛋白摂取などの時間不変共変量を調整しています。さらに交互作用項によるサブグループ解析も行い、連続変数は中央値で二分しています。

読み進めるほどに「結果そのもの」より「手法が生む見かけの結論」が気になりました。第一に、脱落と死亡の扱いです。論文では、死亡またはBMD欠測の参加者は次のwaveから除外され、欠測はMAR(Missing at Random)を仮定して補完せず、LMMで扱う方針です。

しかし、このテーマでMARが自然に成立するでしょうか。低BMD→骨折→入院や死亡、あるいは健康状態→受診継続といった経路があるなら、解析対象は「生き残って測定できた人」に偏り得ます(いわゆるhealthy survivor bias)。この構造はDAGで描くと直感的で、IPCWやjoint modelingなどの感度分析が欲しくなります。

第二に、時間依存性交絡です。BMIのような変数は、単なる交絡因子ではなく「過去の曝露(飲料習慣)から影響を受けうる」中間的性質を持ちえます。その場合、標準的な回帰調整は因果効果推定を歪めることがあり、MSM(IPW)などg-methodの検討が論点になります。

第三に、“見える閾値”の誘惑です。スプライン解析ではノットを2杯・4杯に固定し、非線形は有意ではない(p>0.05)一方で、「5杯超は視覚的に低BMDの可能性」と述べています。

しかしノット位置は結果の形を左右します。ノットの根拠が薄いまま“>5杯”が独り歩きすると、科学というよりメッセージ先行になりかねません(GAM等で滑らかさを自動選択する方がまだ説明責任を果たしやすい)。

第四に、交互作用(p=0.0147、0.0175)の解釈です。サブグループ・交互作用を多数試す設計で、多重検定調整が明示されないなら、統計的に“当たった”結果が混じる確率は上がります。

しかも連続変数を中央値で二分するのは、情報を捨て、境界付近の人を別人格のように扱う粗さも残ります。

最後に、DSAの視点で言えば、ここで本当に知りたいのは「平均BMDが0.00X動いたか」より、低BMD側の分布(尾部)がどう変わったかです。例えば“骨折リスク帯”に入る人の割合が動いたのか、それとも平均だけがわずかに動いたのか。論文自身、差が小さく臨床的意義が限定的であり得ることを示唆しますが、だからこそ分布の変化で語るべきでしょう。

この論文が示したのは「コーヒー/お茶と骨密度の答え」ではなく、むしろ――観察研究でよくある落とし穴(選択、時間依存性交絡、多重検定、恣意的スムージング)が、いかに“もっともらしい健康メッセージ”を作ってしまうか、という教材性でした。


AIで創薬標的を探す動きが加速しています。オミクス、EHR/RWD、論文知識グラフ、ネットワーク解析――データが揃い、計算資源も潤沢になり、「相関が強いもの=有望な標的」という発想は、ますます魅力的に見えます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。相関は“候補を拾う”ことはできても、“叩けば治る”を保証しないのです。創薬の意思決定に必要なのは、結局のところ「介入したらアウトカムが動くか」という因果です。相関のランキングをどれだけ精緻化しても、因果の問いに答えなければ、成功確率は上がりません。

*ミュートしています

相関AIが生みやすい“見せかけの標的”

相関は、病態の本体ではなく、病態に付随する「温度計」を上位に押し上げがちです。典型例は次の4つです。

  • 逆因果:病気の結果として変化している(原因ではない)
  • 交絡:年齢、重症度、治療、炎症などが両方を動かしている
  • 選択バイアス:データに入っている人・測れている人が偏っている
  • 代理マーカー問題:叩いても治らないが、病気の“指標”としてはよく動く

つまり、相関AIが得意なのは「疾患らしさの検出」であり、「治療可能性の検証」ではありません。ここを混同すると、探索段階のスピードは上がる一方で、後工程(検証・PoC)で失速します。

提言:AI創薬は「相関→因果」へ設計を切り替える

ではどうするべきか。ポイントは、相関を否定するのではなく、相関を“入口”として使い、因果の証拠へ計画的に接続することです。私は、次の3点を提言します。

1) まず「因果質問」を一文で固定する

「Xを増減させたら、Y(臨床的アウトカム)は変わるのか?」
この“介入形”の問いを最初に固定しない限り、AIは相関の沼に戻ります。議論も評価もぶれます。

2) DAGで“調整すべきもの/触ってはいけないもの”を明文化する

創薬のデータ解析は、説明変数が多く、恣意性が入りやすい領域です。DAGは、交絡・媒介・コライダーを整理し、**「何を調整し、何を調整しないか」**を合意形成する道具になります。これがないと、同じデータから都合の良い結論が量産されます。

3) 「因果の証拠の階段」を用意して、早い段階で反証する

因果は一発で証明するものではありません。だからこそ、段階設計が重要です。例えば、

  • 縦断データで時間順序を確認する(逆因果を潰す)
  • 遺伝学的自然実験で方向性を補強する(完全ではないが強い補助線)
  • 摂動実験(CRISPR、プローブ、オルガノイド等)で介入の手応えを取る
  • 負の対照・感度分析・外部データで“たまたま”を落とす

成功のコツは、**「当てにいく」より「早く外す」**です。相関で候補を増やすより、因果でハズレを早期に消す方が、最終的な成功確率は上がります。

まとめ:相関は加速装置、因果は成功確率を上げるエンジン

AIが相関探索を高速化したのは事実です。しかし、創薬は「見つける競争」ではなく「当てる競争」です。**相関で候補を拾い、因果で標的を確定する。**この流れを設計に組み込み、評価指標も「相関の強さ」から「因果の確からしさ(反証への強さ)」に移すべきです。

相関の時代は終わりません。ただ、相関のままでは勝てません。
AI創薬の次の主戦場は、“相関から因果への変換プロセス”そのものです。

対中国を含む安全保障テーマは、発言ひとつで炎上し、議論が「誰が言ったか」「どちらの陣営か」に吸い込まれがちです。こうなると、企業も行政も本来やるべき意思決定、調達・投資・サプライチェーン・BCP・レピュテーション対応、が止まります。各論の勝ち負けが前面に出て、肝心のリスク管理が空転するのです。

ここで効くのが、DSA+DAGを“統計手法”ではなく“議論の設計思想”として使う発想です。DAGは「前提」「因果」「規範(どうすべき)」を分離し、議論が混線する瞬間を可視化します。例えば「衝突が起きる可能性」「同盟国の動き」「国内法制の条件」「経済への波及」「世論の反応」は、同じテーブルで殴り合うべき論点ではありません。矢印でつなぎ、どの前提がどの結論を支配しているのかを明示すれば、“論点の不一致”が“人格の対立”に化けるのを止められます。

DSAはさらに、平均値ではなく“分布”を見ます。地政学は裾が効きます。少数の過激反応、特定業界への偏った影響、ある閾値を超えた瞬間の相転移。ここを分布の変化として捉えると、「危機は起きた/起きない」ではなく、「どの層にどんな形で負担が集中するか」という経営の言葉に落ちます。

重要なのは、結論を急がないことです。まず構造を描き、次にデータで分布の変化を確かめ、最後に価値判断としての選好(何を守り、何を許容するか)を宣言する。この順番が守られると、媒体がどこであれ“中立に見える”土台ができます。対立を語るのではなく、意思決定を前に進める。DSA+DAGの社会的価値は、そこにあります。

2025年9月、米国で「妊娠中のアセトアミノフェンは児の自閉症リスクだからやめるべき」という政治発言が拡散し、欧州当局や専門家が“安全性は従来見解と変わらない”として火消しに追われました。
この構図は、ビジネスでも研究でも頻発する「相関の物語化」そのものです。

今回紹介されたBMJのアンブレラレビュー(システマチックレビュー9件、一次研究40件)では、一見「正の関連」が並ぶ一方で、交絡因子を調整すると関連が消える――つまり“因果としては支持されない”という整理が示されています。
WHOも「妊娠中の使用と自閉症のリンクを裏づける決定的証拠はない」と明確に述べています。
臨床側(母体胎児医学の専門学会)も、適応と用法の範囲で使用可能という立場を維持しています。

では、DSA+DAGの視点からではどう映るでしょうか。
DSAは「分布の重なり(見かけの一致)」を捉えますが、それだけだと“物語”に回収されがちです。DAGを重ねると、「薬」→「ASD」に見える線の背後に、「発熱・疼痛(基礎疾患)」→「薬の使用」かつ 「発熱・炎症」→「神経発達」のような交絡経路が立ち上がります。すると論点は「薬が悪いか」ではなく、“交絡をどう閉じたか”に移ります。実際、「兄弟姉妹比較のような家族性の交絡に強い設計で関連が消える」タイプの証拠は、見かけの相関を因果から切り離す典型例です。

すなわちこの報告により否定されたのか?

ビジネス的な教訓はシンプルです。

  1. 否定できない”は最強の炎上ワード:意思決定者・生活者の不安を増幅し、行動を誤らせます(必要な鎮痛解熱を控える、など)。

すなわちこの報告により否定されたのか?

  1. 因果の品質がレピュテーションとコストを左右:規制・広報・法務・営業が巻き込まれると、科学そのものより“説明責任”のコストが支配的になります。
  2. データ活用は「分析」ではなく「反証可能な因果モデル」へ:DSA+DAGの価値は、相関を見つけることではなく、誤った因果ストーリーを早期に折る点にあります。

相関は速い。因果は遅い。だからこそ、社会は相関で動き、現場は因果で守られる――このズレを埋めるのが、これからの「因果コミュニケーション」の競争力だと思います。

統計的に「相関がある」とは、
AとBという2つの変数が、ペアとしてどれだけ一緒に動いているか
を表しているにすぎません。

ここで見ているのは、

  • Aが大きいときにBも大きくなりやすいか
  • Aが小さいときにBも小さくなりやすいか

といった、「ペア(Aᵢ, Bᵢ)の動きの揃い方」です。
したがって、

  • AとBのヒストグラム(分布の形)がよく似ていても、
    ペアの対応がバラバラなら相関はほぼ0になります。
  • 逆に、AとBの分布の形が違っていても、
    各ペアがほぼ一直線上に並んでいれば、高い相関が得られます。

この意味で、

「統計的に相関がある」=「AとBの分布が一致している

ではなく、

「統計的に相関がある」=「AとBのペアの動きが揃っている

と理解するのが正確です。

*ミュートしています


DSAで扱う「分布構造の重なり」と因果

一方、DSA(Distribution Structure Analysis:分布構造分析)が扱うのは、
平均や分散といった単純な指標だけではなく、

  • 分布の形(歪み・尖り・多峰性など)
  • クラスターや階層構造
  • 条件付き分布の違い

といった、分布そのものの構造です。

ここでいう「分布構造の重なり」や「一致率」は、

  • ある条件(例:介入あり)のもとでのアウトカムの分布
  • その条件がなかった場合(例:介入なし、あるいは反事実)の分布

が、どれくらい似ているか/どれくらい違うかを表す指標として用います。

因果推論の文脈では、DSAはDAG(因果グラフ)と組み合わせて用いられます。

  1. DAGで「どの変数がどの変数にどう影響するか」という因果の向きとパスを仮定する
  2. そのパスに沿って、DSAで分布構造がどのように変形するかを評価する
  3. 原因側を変えたときに、結果側の分布構造が一貫してズレるなら、
    そのズレを因果効果の大きさとして解釈する

この中で、

分布構造の重なり(=一致率)

は、因果効果の大きさを表す重要な指標のひとつではありますが、
それ自体が「因果そのもの」というわけではありません。
因果の方向づけはあくまでDAGが担い、
DSAはその上で「分布構造のズレ」を定量化する役割を果たします。


まとめ

  • 統計的な相関は、AとBの分布の一致度ではなく、
    ペアデータの動きの揃い方を表す指標です。
  • DSAが扱う「分布構造の重なり(一致率)」は、
    条件の違いによる分布構造の差=因果効果の大きさを測るための部品です。
  • DSA+DAGによる因果推論では、
    DAGが因果の向きを定め、DSAが分布構造のズレを捉えることで、
    「何がどれだけアウトカムの分布を変えているか」を説明可能な形で示していきます。

人員計画の議論が始まると、多くの組織ではこうなりがちです。
「人件費が重い。削減額を決めて、人数を逆算する。」
そして次に起きるのが、“給与レンジの高い50歳代を狙い撃ち”という発想です。確かに短期の帳尻は合いそうに見えます。ですが、その一手は本当に「経営を良くする因果」を踏んでいるでしょうか。

ここで必要なのは、人数や年齢の算数ではなく、因果の設計です。

私は、人員構成の適正化を DSA+DAG(Distribution Structure Analysis + Directed Acyclic Graph)でスキーム化しています。
ポイントはシンプルで、「人件費」ではなく「分布」と「因果」で人員計画を作ることです。

*ミュートされています。


DSA:なぜ“50歳代狙い撃ち”が起こるのかを構造で捉える

人件費が経営を圧迫する局面では、問題は平均ではなく 高コスト帯(右裾)に現れます。多くの組織ではその右裾が、昇給カーブの上にある 50歳代に集中します。だから「ここを薄くすれば効く」と見える。

しかしDSAでは、年齢だけを見ません。
年齢×職種×部門×等級×勤務形態(夜勤/当直)の分布で、次を同時に特定します。

  • 本当に“右裾”を形成しているのはどの層か
  • その層が担っている機能は代替可能か(育成年数は何年か)
  • 抜けたときに欠損が起きるボトルネックはどこか

つまり、「高いから狙う」ではなく「狙ってよい高コスト帯」と「触ると壊れる高コスト帯」を分けるのがDSAです。


DAG:50歳代を抜くと何が起きるか――逆噴射経路を切り分ける

50歳代は給与レンジが高い一方で、現場では次の役割を担っていることが多い層です。

  • 現場の段取り・調整・マネジメント(暗黙知のハブ)
  • 若手の教育(育成の要)
  • 有事対応(当直・トラブル対応の最後の砦)

この層を“コストだけ”で狙うと、DAG上ではこういう逆噴射経路が立ち上がります。

  • 早期退職(50歳代集中) → 人件費↓(プラス)
  • しかし同時に
    • 稼働↓ → 収入↓(マイナス)
    • 残業↑ → 疲弊↑ → 離職↑(マイナス)
    • 置換で派遣/委託↑ → 単価↑(マイナス)

DSA+DAGでは、これらを最初から分けて評価します。
だから「50歳代を狙うべきか」は、“気分”ではなく、純効果(プラス−マイナス)がプラスになる設計かどうかで判断できます。


すると、募集人数は「若干名」ではなく“説明できる設計値”になる

このアプローチを使うと、募集人数は曖昧な「若干名」ではなくなります。例えば、こう言えるようになります。

「高コスト帯(主に50歳代)のうち、代替可能性が高く、稼働への影響が小さい領域に限定して○〜○名。
一方、当直・稼働・育成のボトルネックに該当する50歳代は除外(または上限設定)。
稼働KPI・残業・欠員が閾値を超えた場合は募集停止・対象修正。」

つまり、人員計画が“人件費削減の算数”から、説明責任に耐える因果設計に変わります。


これは単なる削減ではなく「構造を組み替える」施策です

DSA+DAGは、早期退職だけで完結させません。
採用・育成・タスクシフト・外注最適化まで含めて、**人員構成を“持続可能な形に組み替える”**ための意思決定スキームです。
赤字でも人材不足でも、打ち手を誤れば組織は弱体化します。だからこそ、構造と因果で設計する価値があります。

もし、

  • 人員計画が「人件費」だけで決まり、50歳代が狙われている
  • 削減が稼働や離職にどう影響するか説明できない
  • “削減しても楽にならない”状態が続いている
    …こうした課題に心当たりがあれば、DSA+DAGの因果モデル人員計画は有効です。

新型コロナは5類感染症となり、最近では報道でもほとんど取り上げられなくなりました。一方で、インフルエンザの猛威と帯状疱疹ウイルスの「流行」「医療ひっ迫の懸念」というニュースは相変わらず続いており、品物が変っただけのように見えます。
多くの方が抱くのは、新型コロナは「本当に落ち着いたのか? それとも“扱い方”だけ変えたのか?」というモヤモヤではないでしょうか。

この違和感は、DSA+DAGの視点で整理すると、とてもクリアになります。


「騒がれていない=危険ではない」という誤った世界観

私たちが日々目にしているのは、

  • 報道量(ニュースの露出)
  • 公表される数字(新規感染者数など)

といった“見える指標”です。
DAG(因果グラフ)で描くと、これは

  • 政策レベル(2類相当か5類か)
  • 監視の設計(全数把握か、定点把握か)
  • 検査行動(無料か、自己負担か)

といった「上流の決定」によって大きく左右される“子ノード”にすぎません。

実際の影響、

  • 医療ひっ迫(病床・救急の逼迫度)
  • 健康リスク(特に高齢者・基礎疾患患者)
  • 経済・社会コスト(教育・雇用・メンタルなど)

は、別のノードとして存在しています。
にもかかわらず、「テレビで聞かなくなった=問題も小さくなった」と解釈してしまうのは、因果構造を潰して、ひとつの数字に還元してしまう二元論だと言えます。


DSA視点:リスクは「平均」ではなく「分布構造」で見る

5類移行後のコロナは、「平均的には」致死率や重症化率が下がったのは事実です。しかしDSA的には、ここで重要なのは分布の形がどう変わったかです。

  • 若年・健常者:多くは「ほぼ風邪〜インフル相当」のゾーン
  • 高齢者・基礎疾患あり:依然として“太くて重い尾”を持つリスク帯

つまり、「全体の平均リスクは下がった」が、「リスクの重心は特定セグメントに集中している」構造になっています。
これはビジネスで言えば、総売上は横ばいでも、利益の大半が特定顧客に偏っている状態に近いでしょう。


コロナは「インフルの箱」に“構造を変えないまま”入れられた

政策的には、インフルとコロナを同じ5類枠に入れ、同じルール(定点把握・ワクチン推奨・季節流行のモニタリング)で回す判断がなされました。

これは、

  • 「感染者数をとにかく減らす」から
  • 「医療ひっ迫を抑えつつ、社会・経済を止めない」

という目的関数の切り替えです。
ウイルスの“性質”がインフル並みに完全におとなしくなったからではなく、制御のフレームワークを共通化したと見る方が、DAG的には実態に近いのではないでしょうか。


ビジネスへの示唆:見える数字と、本当の構造を分けて考える

この構造は、そのままビジネスにも当てはまります。

  • 売上が上がった/下がった
  • KPIが達成できた/できなかった

といった“表に出る数字”だけを追うと、「テレビで騒がれていないから大丈夫」と同じ罠にはまります。

本来見るべきは、

  • どのセグメントで、どの指標が、どのような分布を描いているか(DSA)
  • その分布を形づくっている因果のつながりは何か(DAG)

という構造そのものです。

コロナ5類化の違和感は、「見せ方」と「実態の構造」のズレから生じています。
同じことは市場でも組織でも起きています。だからこそ、DSA+DAGのように、

「見えている数字」と「背後にある構造」を切り分けて捉える道具

を持てるかどうかが、これからの経営・戦略にとって決定的な差になるのではないかと感じています。

最近、「データ活用をAIで支援します」「AIが自動で分析します」とうたうサービスが一気に増えています。営業支援、マーケティング支援、人材マネジメントまで、あらゆる領域で「AI×データ活用」がキーワードになっているのは間違いありません。

しかし、それらの説明をよく読むと、多くは「AIでスコアリングします」「AIがネクストアクションを提案します」といった**“何ができるか”の話にとどまり、「AIがどのように分析するのか」という中身にはほとんど触れていません。**

ここに大きなギャップがあります。外から見ると、どのサービスも「AIでデータを分析してくれる」ように見えますが、その裏側では、

  • 従来型の回帰モデルやスコアリングモデルの焼き直し
  • 相関に基づいた予測モデル
  • ルールベースと少しの機械学習の組み合わせ
    といった、いわば「昔ながらのエンジン」が動いているケースが少なくないからです。

もちろん、それ自体が悪いわけではありません。営業効率を上げる、属人性を減らすといった目的に対しては、大きな効果を発揮します。ただし、そのエンジンはあくまで「既存パターンの延長線」を賢くなぞるためのものであり、因果構造や分布構造そのものを問い直す設計にはなっていない、ということは意識しておく必要があります。

たとえば「どの顧客にアプローチすべきか」を予測することと、「なぜその顧客にアプローチすると売上が変わるのか」という因果を説明することは、似ているようで別の問題です。前者は相関や過去パターンでもある程度対応できますが、後者には、分布の歪みやロングテール、交絡因子を含めた構造の理解が不可欠です。

私が取り組んでいるDSA+DAGは、この「エンジンの中身」に真正面から踏み込もうとする試みです。データの分布構造を解析するDSAと、因果構造を記述するDAGを組み合わせることで、単に「当たりそうなパターン」を見つけるのではなく、「なぜそうなるのか」「もし条件を変えたらどうなるのか」を扱える分析エンジンを目指しています。

これからの時代、「AIを入れているかどうか」では差別化できません。問われるのは、どのような分析エンジンで世界を見ているのかという視点です。サービスを選ぶ側も、提供する側も、「AIが何をどう分析しているのか?」という一歩踏み込んだ問いを持てるかどうかが、競争力の分かれ目になっていくのだと思います。

昨今、「因果AI」「コーザルAI」といった言葉を目にする機会が急速に増えました。売り文句はどれも似ています。──「AIが因果を自動で見つけます」「ブラックボックスではなく因果で説明します」。まるで、AIさえ使えば、これまでの限界を一気に飛び越えられるかのようです。

しかし冷静に眺めてみると、多くのサービスはコアとなる分析エンジンが従来の延長線上にあることが少なくありません。回帰分析や時系列モデルに多少の工夫を加え、それをAIのUIで包み直しているに過ぎないケースです。外装は最新でも、ボンネットの下に載っているのは「昔ながらのエンジン」であれば、その性能と限界もそのまま引き継がれます。

とりわけ因果の世界では、この「エンジンの古さ」がボトルネックになります。相関ベースの発想から抜け出せない、分布の歪みや裾の重さを正面から扱えない、介入や反事実を十分に表現できなければ、どれだけAIやクラウドを重ねても、根っこがここにある限り、「説明できた気になる」以上のことは難しいといえます。

この限界に対する解として位置づけられるのがDSA+DAGです。DSAは「まず分布構造を正面から解析する」ことを出発点にした5モジュール統合フレームワークで、正規・対数正規・Weibull・ガンマ・べき乗則・混合分布といった多様な分布を自動識別し、その上で最適なモデルを選びます。

 そこにDAGベースの因果推論を組み合わせることで、「どの変数がどの変数をどのように生み出しているか」という構造的因果関係と、「もしこの介入を変えたら結果はどう変わるか」という介入・反事実レベルまで一貫して扱える、新しいタイプの因果AIエンジンとして設計されています。

さらにDSA+DAGは、ICH E9(R1) estimand framework 準拠・100%再現性・分布識別精度95.2%といった形で、医療統計・規制要件に耐えうる形で実装されており、単なる「便利ツール」ではなく、RWDをRWEに変換するための基盤エンジンとなる可能性があります。

ポイントは、「AIだから新しい」のではなく、このエンジン自体が従来と別物だということです。テクノロジーの進歩によって、ようやくこのレベルのモデリングが現実的な時間とコストで回すことが可能になり、その器としてAIやクラウドを使っているに過ぎません。

AI+ビッグデータの時代になったからDSA+DAGが“新たに必要になった”のではなく、本来ずっと必要だったが、実装する手段が追いついていなかった。今起きているのは、その「タイムラグの解消」です。

#経営 #データサイエンス #意思決定 #因果推論 #インバウンド

はじめに:二元論の罠

「中国からの訪日客減少で1.7兆円の経済損失か」という衝撃的な試算がメディアを賑わせています。一方で、「他国からの需要で相殺され、影響は軽微だ」 という楽観論も聞かれます。

しかし、この「大打撃か、影響なしか」という二元論的な議論は、ビジネスの現場で本当に役立つ洞察をもたらすでしょうか? 複雑な経済現象を単純化しすぎ、重要なシグナルを見逃す危険性をはらんでいます。

本稿では、この二元論の罠から脱却し、より解像度の高い意思決定を行うための新しい分析視点として、DSA(分布構造分析)とDAG(有向非巡回グラフ)を用いた統合的アプローチを用いて検証してみましょう。

なぜ二元論に陥るのか?:「総額」だけを見る限界

多くの議論は、「インバウンド消費総額」という単一の指標に集約されがちです。しかし、この「総額」は、多様な要素が合成された結果に過ぎません。

①NRIの「1.7兆円損失」試算: これは「もし中国・香港からの旅行消費が特定割合で減少したら」という部分的なパス解析です。他の国からの需要増、円安効果、航空便の増減といった要因はモデルの外に置かれています。

②「影響は軽微」論: これは「総額は過去最高を更新している」という結果論です。中国依存度の高い特定の業種や地域が受けた深刻な打撃は、この総額の裏に隠れてしまいます。

どちらも「合成の誤謬」に陥るリスクを抱えています。ビジネスリーダーが本当に知りたいのは、「総額」の増減ではなく、「誰が、どこで、どのように影響を受けているのか」という構造的な変化のはずです。

DSA:分布で見るインバウンドの構造変化

ここで有効なのがDSA(分布構造分析)です。「総額」という平均値の議論から脱却し、データの「分布」そのものに注目します。

DSA(分布構造分析)とは? 平均値だけでは見えないデータのばらつきや偏り(分布)を分析し、その構造的な変化から新たな洞察を得る手法です。

インバウンド需要をDSAで分析すると、以下のような構造変化が可視化されます。

①国籍別の分布: 中国・香港のシェアが低下し、韓国・台湾・米国・欧州・中東のシェアが上昇。

②地域別の分布: 団体旅行客に人気のゴールデンルート(東京・大阪)から、個人旅行客に人気の地方都市や自然豊かな地域へ。

③業種別の分布: 中国客に依存していた都市部の免税店や高級ブランド店は打撃を受ける一方、体験型アクティビティや地方の宿泊施設は好調。

④単価の分布: 高額消費で知られた中国客の減少を、欧米からの長期滞在客が単価でカバーできているか。

このように分布で見ることで、「インバウンド市場全体が縮小した」のではなく、「市場の構造がダイナミックに変容した」という真実が見えてきます。この構造変化の中で、新たな勝者と敗者が生まれているのです。

DAG:因果関係で解き明かす「なぜ」

次に、DAG(有向非巡回グラフ)を用いて、これらの変化を引き起こしている要因とその因果関係を整理します。

DAG(有向非巡回グラフ)とは? 複数の要因間の因果関係を矢印で結び、全体像を可視化する分析ツール。相関と因果を区別し、真のドライバーを特定するのに役立ちます。

インバウンド問題をDAGで描くと、以下のような複雑な因果の連鎖が明らかになります。

  • 直接的な因果: 「日中外交悪化 → 渡航自粛要請 → 中国人訪日客数↓」
  • 交絡因子(共通原因): 「円安」「世界景気」「国際線増便」といった要因は、「中国人訪日客数」と「他国からの訪日客数」の両方に影響を与えます。

ここで重要なのが交絡因子の存在です。「中国人客が減ったが、他国客が増えたから問題ない」という単純な相関関係だけを見ると、「中国人客の減少が他国客の増加を引き起こした」かのような誤った因果解釈に陥る危険があります。DAGは、円安などの共通原因が両者に影響していることを明確にし、このような誤解を防ぎます。

ビジネスリーダーへの提言:DSA+DAGで未来を予測する

「1.7兆円損失か、影響ゼロか」という不毛な二元論から脱却し、ビジネスリーダーは以下の2つのステップで自社の戦略を再構築すべきです。

ステップ1:DSAで自社の立ち位置を特定する

まず、自社の顧客データや市場データを「分布」で分析してください。

  1. あなたの顧客の国籍構成はどう変化しましたか?
  2. あなたの製品・サービスの価格帯は、新しい顧客層にマッチしていますか?
  3. あなたの事業所がある地域は、需要が増加している地域ですか、それとも減少している地域ですか?

この分析により、自社が構造変化の「勝ち組」にいるのか、「負け組」にいるのか、あるいはその中間にいるのかを客観的に把握できます。

ステップ2:DAGで未来のシナリオを構築する

次に、自社のビジネスに影響を与える要因を洗い出し、その因果関係をDAGで整理してください。

  1. 今後、円安が是正されたらどうなるか?
  2. 新たな国際線が就航したら、どの市場からの需要が見込めるか?
  3. 次の地政学リスクは何か?それはどのパスを通じて自社に影響するか?

DAGを用いることで、複数の要因が複雑に絡み合う未来を、複数のシナリオとしてシミュレーションし、より頑健な事業計画を立てることが可能になります。

結論

インバウンド需要を巡る論争は、現代のビジネスがいかに複雑なシステムの中に置かれているかを象徴しています。もはや、単一の指標や単純な相関関係だけで意思決定できる時代ではありません。

DSAで構造変化の「どこ」に影響が出ているかを特定し、DAGで「なぜ」その変化が起きているのかを解明する。この二段構えのアプローチこそが、不確実性の高い時代を乗りこなし、持続的な成長を遂げるための新しい羅針盤となるのです。

あなたの会社は、まだ「総額」の増減に一喜一憂していますか?それとも、構造変化の波を捉え、次の成長機会を掴む準備ができていますか?

参考文献

[1] 日本経済新聞. “中国からのインバウンド消費、「年2兆円」に黄信号 渡航自粛…”. 2025年11月18日.

[2] FNNプライムオンライン. “【日中緊張】日本への渡航自粛で経済損失「1.7兆円」試算も…”. 2025年11月18日.

[3] J-CASTニュース. “中国からの訪日客減で「経済損失1.79兆円」をカバーできるかも…”. 2025年11月28日.