AIで創薬標的を探す動きが加速しています。オミクス、EHR/RWD、論文知識グラフ、ネットワーク解析――データが揃い、計算資源も潤沢になり、「相関が強いもの=有望な標的」という発想は、ますます魅力的に見えます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。相関は“候補を拾う”ことはできても、“叩けば治る”を保証しないのです。創薬の意思決定に必要なのは、結局のところ「介入したらアウトカムが動くか」という因果です。相関のランキングをどれだけ精緻化しても、因果の問いに答えなければ、成功確率は上がりません。

*ミュートしています

相関AIが生みやすい“見せかけの標的”

相関は、病態の本体ではなく、病態に付随する「温度計」を上位に押し上げがちです。典型例は次の4つです。

  • 逆因果:病気の結果として変化している(原因ではない)
  • 交絡:年齢、重症度、治療、炎症などが両方を動かしている
  • 選択バイアス:データに入っている人・測れている人が偏っている
  • 代理マーカー問題:叩いても治らないが、病気の“指標”としてはよく動く

つまり、相関AIが得意なのは「疾患らしさの検出」であり、「治療可能性の検証」ではありません。ここを混同すると、探索段階のスピードは上がる一方で、後工程(検証・PoC)で失速します。

提言:AI創薬は「相関→因果」へ設計を切り替える

ではどうするべきか。ポイントは、相関を否定するのではなく、相関を“入口”として使い、因果の証拠へ計画的に接続することです。私は、次の3点を提言します。

1) まず「因果質問」を一文で固定する

「Xを増減させたら、Y(臨床的アウトカム)は変わるのか?」
この“介入形”の問いを最初に固定しない限り、AIは相関の沼に戻ります。議論も評価もぶれます。

2) DAGで“調整すべきもの/触ってはいけないもの”を明文化する

創薬のデータ解析は、説明変数が多く、恣意性が入りやすい領域です。DAGは、交絡・媒介・コライダーを整理し、**「何を調整し、何を調整しないか」**を合意形成する道具になります。これがないと、同じデータから都合の良い結論が量産されます。

3) 「因果の証拠の階段」を用意して、早い段階で反証する

因果は一発で証明するものではありません。だからこそ、段階設計が重要です。例えば、

  • 縦断データで時間順序を確認する(逆因果を潰す)
  • 遺伝学的自然実験で方向性を補強する(完全ではないが強い補助線)
  • 摂動実験(CRISPR、プローブ、オルガノイド等)で介入の手応えを取る
  • 負の対照・感度分析・外部データで“たまたま”を落とす

成功のコツは、**「当てにいく」より「早く外す」**です。相関で候補を増やすより、因果でハズレを早期に消す方が、最終的な成功確率は上がります。

まとめ:相関は加速装置、因果は成功確率を上げるエンジン

AIが相関探索を高速化したのは事実です。しかし、創薬は「見つける競争」ではなく「当てる競争」です。**相関で候補を拾い、因果で標的を確定する。**この流れを設計に組み込み、評価指標も「相関の強さ」から「因果の確からしさ(反証への強さ)」に移すべきです。

相関の時代は終わりません。ただ、相関のままでは勝てません。
AI創薬の次の主戦場は、“相関から因果への変換プロセス”そのものです。