上期決算において、多くの製薬企業が売上の伸びを記録しています。しかし、その多くは海外市場での成長に依存しているのが現状です。では、なぜ日本国内での売上が伸び悩んでいる一方、海外での業績が好調なのでしょうか?この背後には、海外市場と国内市場の成長ステージの違い、そして製薬企業のビジネスモデルの課題を垣間見ることが出来ます。
1. 海外市場の成長期と国内市場の縮小
世界の医薬品市場は、依然として成長のステージにあります。世界の医薬品市場は過去20年間で大幅な成長を遂げ、2022年には総売上高が約1兆4,820億米ドルに達しました。 特に北米と欧州の既存市場が引き続き市場を牽引しており、2025年もこの傾向が続くと予測されています。新興国市場や医療ニーズが拡大する地域では、今後も医薬品の需要が増えることが見込まれています。そのため、製薬企業は成長の機会を求めて海外市場に積極的に進出し、売上を伸ばしています。
2. 国内市場でのビジネスモデルの限界
一方で、日本国内では医療費削減のための政策や薬価引き下げの影響により、市場が縮小傾向にあります。このため、国内売上は減少し、製薬企業にとって国内での成長は一層困難になっています。さらに日本の製薬企業は、これまで市場が成長期にあった時代に培ったビジネスモデルに依存していることが少なくありません。成長市場では、営業力やマーケティングの強化でシェアを拡大し、売上を増やすことが可能でした。しかし、市場が縮小するゼロサムの競争環境においては、このようなレース型の戦略では対応することは困難です。国内市場での売上が伸び悩む原因は、まさにこの「古いビジネスモデルの限界」にあると言えます。
3. 縮小市場に求められる新たな戦略
成長期にあるレース型の競争市場では、多くの企業が参入して競争が激化するものの、市場規模が拡大しているため売上増が期待できます。このような市場では、競争優位性よりもスピードやシェア拡大が求められるため、規模の追求や市場への積極的な投資が有効な戦略となりやすいです。
一方、ゼロサムのゲーム型競争市場では、市場が縮小する中で他社のシェアを奪うことが売上増に直結するため、単なるシェア拡大の戦略だけではなく、差別化や効率化といった競争優位性を築くための工夫が必要になります。こうした市場で売上を伸ばす企業は、資源の最適配分や特定の市場セグメントに対する強みの活用、またはコスト削減を通じて競争に勝つ戦略を展開しています。
縮小市場でも売上を伸ばしている企業は、これらの戦略を実践しており、競争優位性を築いています。一方で、従来のビジネスモデルから脱却することが出来ない製薬企業は、国内市場での競争において苦戦を強いられています。
まとめ
製薬企業の好調な決算の背景には、海外市場の成長と国内市場の縮小という二つの市場環境の対照が存在します。国内市場で成長が期待できない中、海外市場での成長が企業の業績を支えているのが現状です。しかし、今後も国内市場での競争に勝ち抜くためには、成長期のビジネスモデルから脱却し、縮小市場に対応した新たな戦略の構築が不可欠です。