アンゾフの成長マトリクスは、企業が成長を目指す際の戦略的選択肢を提供する有名なフレームワークです。「市場浸透」「製品開発」「市場開拓」「多角化」という4つの象限に分類され、それぞれに異なる成長戦略が示されています。しかし、現在の多くの市場環境は、アンゾフが想定していた成長志向の状況とは異なり、市場が成熟し、さらには縮小に向かっている場合が増えています。このような状況で、従来のアンゾフマトリクスをそのまま適用することにはいくつかの課題があります。

現在のビジネス環境における課題

  1. 市場縮小への対応不足
    アンゾフの成長マトリクスは、市場の成長を前提にしているため、市場が縮小している状況で適切な戦略選択をサポートするのが難しいです。従来のマトリクスは、新規市場を開拓し、既存市場に深く浸透することで成長を促進するものですが、縮小する市場では、成長戦略よりも収益の最大化やリソースの最適化が重要な課題となります。
  2. 競争の激化と資源の分散
    成長市場では、多少のリソースの分散が成長につながりやすいですが、縮小市場では限られたリソースをどこに集中するかが企業の生死を分ける重要な要素です。縮小市場においては、全方向にリソースを配分するのではなく、特定の領域に集中して効率的に成果を上げることが求められます。
  3. 多様なリスクと撤退の選択肢
    成長市場では新たな製品や市場の開拓が積極的に行われますが、縮小市場では新規投資がリスクを増大させます。そのため、撤退や特殊化(ニッチ市場への特化)を含めた柔軟な選択肢が求められます。しかし、従来のアンゾフマトリクスでは撤退の視点が組み込まれていないため、縮小市場には適していない部分があります。

成長市場と縮小市場に対応する新しいフレームワークの提案

そこで、現在の縮小市場に適応するため、従来のアンゾフマトリクスの「市場」と「製品」の軸を、「成長市場」と「縮小市場」という軸に置き換えた新しいフレームワークを提案します。これにより、成長市場と縮小市場それぞれにおいて最適な戦略が見出せるようになります。

  1. 成長市場 × 既存製品:市場浸透戦略
    既存製品で成長市場のシェアを拡大し、市場成長の恩恵を最大限に享受する戦略です。競争力のある価格設定やマーケティング、販売チャネルの強化などで、市場でのプレゼンスを強化します。
  2. 縮小市場 × 既存製品:収益最大化戦略
    縮小市場では、既存製品で最大限の利益を上げることが重要です。市場が縮小してもなお高い収益性を保つために、顧客層を選別し、ニッチな市場に特化するなど、コスト削減やプレミアムサービスの提供を行います。
  3. 成長市場 × 新規製品:市場拡大戦略
    成長市場に新規製品を投入し、シェアを獲得する戦略です。新たな製品開発を通じて市場での独自性を確立し、成長市場での地位を築きます。先行者利益を得られるよう、技術革新や差別化に注力します。
  4. 縮小市場 × 新規製品:撤退または特殊化戦略
    縮小市場で新規製品を投入する場合、ターゲットを限定した特殊化戦略が適しています。一般的な大規模製品展開はリスクが高いため、特定の顧客層向けにカスタマイズした製品を提供し、縮小市場での残存者利益を狙います。撤退も視野に入れつつ、慎重に判断する必要があります。

この新しいフレームワークは、市場の成長か縮小かという視点で戦略を検討するため、縮小市場においても適切なリソース配分が行えるようサポートします。縮小市場では利益の最大化や効率的なリソースの利用が求められる一方、成長市場ではシェアの拡大や新規製品の投入を通じての地位確立が鍵となります。企業が置かれた市場状況を的確に把握し、それぞれの市場の特性に応じた戦略を策定することが、今後の成功のために重要です。