最近、テレビやインターネットで流れるCMの多くは、商品そのものよりも「体験」や「感情」を強調しています。例えば、ある化粧品のCMでは、具体的な製品の効果よりも「使った後の気持ち」や「自分らしさ」を訴求しているものが目立ちます。このような広告は、確かに視聴者に共感を呼び起こし、好感を持たれることでしょう。しかし、この戦略はすべての企業に適しているのでしょうか?
結論から言うと、体験による顧客中心の戦略は、圧倒的な強者が活用できる特権であり、認知度が低い企業や小規模な企業が採用するには慎重であるべきです。
1. ブランド認知の欠如による不利な競争
体験訴求型の広告は、強者が市場で既に確立した認知度と信頼感を活かして展開しするための非差別化戦略です。認知度の低い企業が同様のアプローチを取っても、消費者はそのブランドを知らないため、同じ製品カテゴリで選ぶ際には強者のブランドを選択する傾向があります。
これは、「体験」を前面に押し出す広告が「どこの企業の製品か」を意識させないことが多いため、最終的に消費者が既に知っているブランドに安心して選びがちになるという現象です。結果として、新興企業が広告を展開しても、その効果が競合する強者に流れてしまうというパラドックスが生じます。
2. 差別化が曖昧になるリスク
強者と同じ体験訴求型の非差別化戦略を採用することで、自ら自社の差別化を無効化してしまうというリスクもあります。消費者は製品やサービス自体に大きな違いを見出さず、強者のブランドの方が信頼できるという認識に陥りがちです。この結果、自社製品の優位性をアピールする機会を失い、強者に対抗することが難しくなります。
3. 認知度向上のコストが高い
体験訴求型の広告や顧客中心主義の戦略は、広範な消費者にリーチしなければ効果が出にくいのが特徴です。認知度が低い企業は、そのような広告キャンペーンを展開するための十分なリソースや予算を持たないことが多く、強者と同じ戦略に乗ることは非常にコストがかかるだけでなく、費用対効果も低いという問題があります。
まとめ:目的に応じた柔軟な戦略が大切
「顧客中心主義」というバズワードに惑わされず、自社のビジネスの目的を達成するために最も適切な手段を選択することが、戦略的な成功の鍵です。顧客に対して価値を提供することはもちろん重要ですが、その方法は必ずしも顧客中心の戦略である必要はありません。
弱者が採りうる戦略は、差別化戦略、集中化戦略、ニッチ戦略です。