国立大学病院の赤字は、単なる「経営努力不足」ではありません。病院長会議などが示すとおり、2025年度は通期で400億円超の損益赤字となる可能性が指摘され、危機感は現実の数字として表面化しています。

*ミュートしています

第一の要因は、コストだけが急騰し、収入側(診療報酬)が追随しないという制度的な乖離です。医薬品費・診療材料費の増加に加え、人件費(働き方改革対応)や物価高が同時に襲い、大学病院の収支悪化が加速したことが報じられています。

第二に、国立大学病院は「特定機能病院」として、不採算でも高度医療・教育・研究を維持する責務を背負っています。これは社会的に不可欠な機能である一方、収益最大化と相性が悪い“構造”そのものです。

第三が現場の「負の連鎖」です。人手不足と疲弊で稼働制限(病床・手術枠の制約)が起きる一方、稼働を上げれば残業と離職リスクが増え、将来の供給能力を削る。つまり、短期の増収策が長期の減収要因になるジレンマです。

第四に、DPCをはじめとする包括評価の下で、高額材料・高難度医療ほど「逆ザヤ」になり得る問題があります。足元では、物価・円安等で生じる医療材料の逆ザヤ是正(償還価格の見直し等)も議論されていますが、後追いの調整だけでは追いつきません。

ここで重要なのは、「漕ぎ手を増やす(稼働率を上げる)」が万能薬ではない点です。いま必要なのは、巨大な船を沈めないための設計変更です。たとえば

  • 教育・研究・高度救急のコストを“医業収益で賄う前提”から切り分け、公的資金・交付の設計を機能別に再構成する。
  • 逆ザヤDPCの可視化(症例群ごとの原価と持ち出しを把握)と、重点機能に限定した手当てを制度側に要求する。
  • 現場は「頑張り」ではなく、標準化(フォーミュラリ、同種同効品統一、共同購買)×業務設計(タスクシフト、稼働上限の科学化)で疲弊の連鎖を断つ。
  • 高性能だが燃費の悪い船に、荒波のなかで「もっと速く漕げ」と命じるのは酷です。沈没を防ぐには、エンジンの燃費改善(制度是正)と、航路設計(機能と稼働の最適化)を同時に行うしかありません。国立大学病院の赤字は、医療の最後の砦だけでなく、教育・研究という国の基盤が“静かに毀損しているサイン”なのです。