RWD(リアルワールドデータ)の活用は、ここ数年で急速に進みました。
データは集まり、統計手法も揃い、研究デザインの教科書も整っています。にもかかわらず、RWDからRWE(意思決定に耐えるエビデンス)へ到達できない案件が、現場には山ほどあります。
原因は単純です。
既存概念の再構築は、あくまで既存の枠内での最適化だからです。
「RQから逆算して変数を揃える」
「交絡を調整する」
「PSMや回帰で差を見る」
「論文の型に落とし込む」
これらは正しい。だからこそ、誰も否定できません。
しかし、正しいのに詰む。ここに“壁”がある。
壁①:平均値の世界から抜け出せない(異質性が消える)
既存の枠組みは、最終的に“平均の結論”へ収束しやすい。
有効性は平均で語られ、安全性は平均で比較されます。
しかしリアルワールドは、そもそも均質ではありません。
同じ薬で「効く人」と「効かない人」が混ざっている。
副作用が出る人と出ない人が混ざっている。
病院、医師、地域、併存疾患、生活背景…条件が違いすぎる。
平均は便利です。
でも平均は、意思決定に必要な情報を消します。
現場が知りたいのはこうです。
- どんな条件の人に効くのか
- どんな条件の人に効かないのか
- 効かない側を効く側に移すには、何が必要か
ここは、既存概念の“改善”では届かない。
枠組みそのものを変える必要があります。
壁②:「説明責任」が最後まで残る(相関の疑いが消えない)
既存の手法は、統計的に整っていても、最後にこう言われます。
「それって、交絡を取り切れてますか?」
「その結果、因果だと言えますか?」
そして議論は、統計の作法の話にすり替わっていく。
分析の巧拙ではなく、解釈の信頼性の問題です。
つまり、RWD→RWEの本当の難所は“計算”ではなく、
因果を説明できる形で合意を取れるかにあります。
既存概念の再構築は、説明を上手くすることはできても、
「説明の形式」を標準化することが難しい。
壁③:属人性から抜け出せない(再現性が担保できない)
同じデータ、同じRQなのに、解析者が変わると結論がブレる。
現場では珍しくありません。
なぜか。
既存の枠組みは「手順」ではなく「作法」だからです。
最後は経験のある人の判断に依存します。
だから、組織としてはこうなります。
- できる人に仕事が集中する
- できない人は“レビュー待ち”になる
- スピードが出ない
- 品質が統一されない
- 結果として、意思決定が遅れる
再構築で改善はできても、属人性そのものは残る。
ここも“超えられない壁”です。
既存概念の再構築ができるのは「料理の改善」まで
既存概念の再構築は、たとえるなら「料理の腕を上げる」ことです。
同じ食材、同じ厨房、同じ道具で、より美味しくする。
しかしRWD→RWEで必要なのは、そこではありません。
- そもそも献立が間違っていないか
- 誰が作っても同じ味になる厨房設計になっているか
- “この人に何が効くか”まで出せる栄養設計になっているか
必要なのは、料理の上手さではなく、
献立と厨房そのものの設計思想です。
「超えられない壁」を越えるのは、新しい概念だけ
ここで初めて、DSA+DAGのような新しい概念の意味が出てきます。
- 平均に回収される前に、分布構造として現実を捉える(DSA)
- 因果の仮説を図として固定し、説明責任を標準化する(DAG)
- 解析を“個人技”から“ワークフロー”へ落とし、再現性を担保する
これは、既存概念の延長線ではありません。
既存概念が扱いきれなかった「異質性」「説明責任」「再現性」を、最初から設計に組み込む発想です。
結論:改善では越えられない領域がある
既存概念の再構築は、必要です。
ただし、それは改善に強い一方で、突破には弱い。
そして、RWD→RWEが止まっている理由は、まさにその「突破」が必要な局面に来ているからです。
データが集まった今、競争の焦点はこう変わりました。
“何があるか”ではなく、
“それで意思決定できるか”。
改善で届く範囲は、もう終わりつつあります。
次に必要なのは、概念そのものの更新です。
