近年、日本の製薬企業は「国内赤字・海外黒字」という二層構造で生き延びてきました。国内市場は薬価改定やジェネリック促進で採算が取れず、海外、とりわけ高価格が維持できる米国市場での収益が、国内事業を支えてきたのです。しかし、トランプ前大統領が打ち出す政策は、この構造に根本的な揺さぶりをかける可能性があります。

最悪シナリオを想定すると、米国での薬価が「最恵国価格政策」により30%引き下げられ、さらに米国向け輸出には20%の高関税が課される。加えて市場多角化や効率化による改善効果が得られなければ、海外利益は現在の800億円から560億円へと大幅減少します。国内赤字200億円を差し引けば、全社利益はわずか360億円にまで縮小し、現行の利益構造の約半分に落ち込む計算です。


内資系企業への影響

内資系企業の多くは、米国市場を中心とした海外収益で国内赤字を補っています。そのため、薬価引き下げと関税のダブルパンチは利益構造そのものの崩壊につながりかねません。さらに、米国に自社製造拠点を持たないケースが多く、高関税の影響を直接受けやすい構造です。対応策として米国内での生産や提携を進めれば、巨額の初期投資が必要になり、短期的には財務負担が急増します。


外資系企業への影響

一方、米国本社を持つ外資系は、すでに米国内製造拠点や販売網を整えている場合が多く、高関税の影響は限定的です。しかし、日本子会社にとっては別の懸念があります。米国本社がグローバルでの薬価引き下げに伴い、日本市場でも価格引き上げ交渉や販売方針の見直しを迫る可能性が高まるため、日本国内での販売戦略が本社主導で変更されるリスクがあります。結果として、日本市場における製品ラインナップや営業体制の縮小が進む可能性も否めません。


構造変革の契機

この打撃は単なる減益では終わりません。米国市場依存の高さがリスクとして顕在化し、海外黒字で国内赤字を補填するモデルは維持困難になります。高関税は米国内製造移管や現地パートナーシップ締結といった追加投資を迫り、資金負担を増やします。そして収益源の細りは、研究開発費や営業基盤への投資削減につながり、中長期的な競争力を削ぐ危険性を孕みます。

一方で、このシナリオは逆説的に「経営構造を抜本的に変えるチャンス」でもあります。市場の多角化、製品ポートフォリオの高付加価値化、国内事業のデジタル・効率化など、これまで後回しにされてきた施策を前倒しで実行する契機になり得ます。トランプ政策は、日本の製薬企業にとって試練であると同時に、依存から脱却し、競争力の再構築を迫る“最後通牒”かもしれません。