ビジネスにおいて、直感に反する確率の考え方は興味深い学びを与えてくれます。たとえば、「サイコロを6回振れば必ず1回は6が出る」と直感的に感じることがあるでしょう。しかし、実際には1回も6が出ない確率が約33.5%もあり、この直感は必ずしも正確ではありません。このような確率の「錯覚」は、ビジネスの現場でも見られます。特に、本社部門の「形式知」と営業部門の「暗黙知」の関係において、このギャップは顕著です。

形式知と暗黙知の関係性

本社部門は、数式や理論に基づいた「形式知」を重視し、マーケットシェアや成約率のデータをもとに戦略を策定します。例えば、「この地域の売上成長率は10%で、一定の施策を打てばさらに拡大できる」といったデータ分析結果に基づく戦略が立てられるでしょう。

一方、営業部門は現場での顧客対応や日々の体験から得た「暗黙知」に基づいて意思決定を行います。営業担当者は「この地域の顧客は競合を好んでいるため、シェア拡大は難しい」という直感を持つこともあるでしょう。こうした暗黙知は、必ずしも数式や理論で簡単に表せるものではありません。そこで、形式知と暗黙知の間にギャップが生じるのです。

確率と感覚のズレが生む現場の視点

形式知としての数式は、理論的なモデルに基づくもので、確率計算や期待値を用いて目標や計画が設定されます。たとえば、「成約率が20%ならば、50件のリードで10件の成約が期待できる」といった数値が示されます。しかし、営業現場では直感的に「成約率が20%ならば、50件に対してそこまでの成約ができるとは限らない」と感じることがあります。このズレは、形式知と暗黙知の対立として現れるのです。

営業現場の経験と数式を融合させるには

このようなズレを埋めるためには、形式知に基づく数式やデータを営業部門が納得できる形で伝えることが重要です。たとえば、サイコロを6回振ったときの確率を例に、1回の成約率が小さくても、複数回の試行で全体の成功確率が高まることを伝えられるでしょう。「累積確率」の考え方を取り入れ、何度もチャレンジすることが全体の成約率を引き上げるという視点を提供できます。こうした説明により、営業部門は「自分たちの感覚が数式で説明されている」という納得感を得られるのです。

形式知と暗黙知が融合した意思決定を目指して

ビジネスにおける意思決定は、形式知と暗黙知が相互補完することで、より効果的になります。本社部門はデータに基づく理論や数式を用いることで、全体の戦略を示しますが、それを現場の営業担当者が実践するには、暗黙知に基づく現実的な視点が必要です。営業部門が持つ直感や経験を取り入れながら、形式知との対話を重ねることで、理論と現実のバランスが取れた戦略が実現します。

まとめ:知識の融合がもたらすビジネスの成功

確率と直感のズレは、ビジネスにおける形式知と暗黙知の関係にも似ています。数式やデータだけでは現場の感覚を完全にカバーできないことがあるため、双方の知識を尊重し、補完し合うことが重要です。本社部門は、数式に基づく形式知を営業部門の暗黙知と結びつけて考えることで、より現実的で実行可能な戦略を構築できるでしょう。ビジネスの成功には、この知識の融合が欠かせません。

サイコロを6回振ったときに「6」が少なくとも1回出る確率を考えてみましょう。感覚的には、「6回のうち1回、『6』が出るかどうか」というイメージで、なんとなく1/6の確率と捉えてしまいがちです。しかし、実際の計算では、この感覚と大きなズレがあることが分かります。

まず、1回のサイコロの振りで「6」が出ない確率は 5/6(約83.3%)です。これを6回連続で振っても「6」が1度も出ない確率は以下の式で求められます。

(5/6)6

この結果を1から引くことで、「少なくとも1回『6』が出る確率」がわかります。

1−(5/6)6≈0.6651

つまり、66.5%の確率で「6」が1回以上出るのです。このように、単純な1回の試行(1/6の確率)に基づいた感覚と、複数回の試行を通した結果の確率には大きなズレが生じます。これが、感覚値と期待値のズレです。

なぜズレが生じるのか?

このズレは、累積確率の考え方から生まれます。単発の確率は低くても、複数回試行を重ねることで、ある事象が少なくとも1回起こる確率が徐々に高くなります。例えば、1回ごとに「6」が出る確率が1/6でも、6回のうちどこかで「6」が出る可能性が積み重なるため、最終的に66.5%に達するわけです。

これは、宝くじを複数枚買うと当選確率が高まることにも似ています。1枚だけでは当選確率が低くても、複数枚買うことで当たる確率は徐々に上昇します。

感覚と数学のギャップを理解する

日常生活では、私たちはしばしば「感覚的な確率」に基づいて判断を下しますが、数学的な確率はそれと異なる場合が多々あります。サイコロやくじなどの確率に限らず、投資やリスク評価など、複数回試行される事象において、この感覚と期待値のギャップを理解しておくことは、より合理的な判断につながるでしょう。

上期決算において、多くの製薬企業が売上の伸びを記録しています。しかし、その多くは海外市場での成長に依存しているのが現状です。では、なぜ日本国内での売上が伸び悩んでいる一方、海外での業績が好調なのでしょうか?この背後には、海外市場と国内市場の成長ステージの違い、そして製薬企業のビジネスモデルの課題を垣間見ることが出来ます。

1. 海外市場の成長期と国内市場の縮小

世界の医薬品市場は、依然として成長のステージにあります。世界の医薬品市場は過去20年間で大幅な成長を遂げ、2022年には総売上高が約1兆4,820億米ドルに達しました。 特に北米と欧州の既存市場が引き続き市場を牽引しており、2025年もこの傾向が続くと予測されています。新興国市場や医療ニーズが拡大する地域では、今後も医薬品の需要が増えることが見込まれています。そのため、製薬企業は成長の機会を求めて海外市場に積極的に進出し、売上を伸ばしています。

2. 国内市場でのビジネスモデルの限界

一方で、日本国内では医療費削減のための政策や薬価引き下げの影響により、市場が縮小傾向にあります。このため、国内売上は減少し、製薬企業にとって国内での成長は一層困難になっています。さらに日本の製薬企業は、これまで市場が成長期にあった時代に培ったビジネスモデルに依存していることが少なくありません。成長市場では、営業力やマーケティングの強化でシェアを拡大し、売上を増やすことが可能でした。しかし、市場が縮小するゼロサムの競争環境においては、このようなレース型の戦略では対応することは困難です。国内市場での売上が伸び悩む原因は、まさにこの「古いビジネスモデルの限界」にあると言えます。

3. 縮小市場に求められる新たな戦略

成長期にあるレース型の競争市場では、多くの企業が参入して競争が激化するものの、市場規模が拡大しているため売上増が期待できます。このような市場では、競争優位性よりもスピードやシェア拡大が求められるため、規模の追求や市場への積極的な投資が有効な戦略となりやすいです。

一方、ゼロサムのゲーム型競争市場では、市場が縮小する中で他社のシェアを奪うことが売上増に直結するため、単なるシェア拡大の戦略だけではなく、差別化や効率化といった競争優位性を築くための工夫が必要になります。こうした市場で売上を伸ばす企業は、資源の最適配分や特定の市場セグメントに対する強みの活用、またはコスト削減を通じて競争に勝つ戦略を展開しています。

縮小市場でも売上を伸ばしている企業は、これらの戦略を実践しており、競争優位性を築いています。一方で、従来のビジネスモデルから脱却することが出来ない製薬企業は、国内市場での競争において苦戦を強いられています。

まとめ

製薬企業の好調な決算の背景には、海外市場の成長と国内市場の縮小という二つの市場環境の対照が存在します。国内市場で成長が期待できない中、海外市場での成長が企業の業績を支えているのが現状です。しかし、今後も国内市場での競争に勝ち抜くためには、成長期のビジネスモデルから脱却し、縮小市場に対応した新たな戦略の構築が不可欠です。

「選択と集中」は単なる手段である
ビジネスの世界では、「選択と集中」という戦略は、限られた経営資源(人、物、金、情報)を効果的に活用し、競争優位を築くための基本的な手段として広く認識されています。特定の市場や分野に集中することで、企業は他社に対して有利な立場を得ることができます。しかしながら、この戦略自体は「手段」に過ぎません。その目的を明確に定義しなければ、企業は単にリソースを投じているだけになり、期待する成果に到達できない可能性が高くなります。

目的が抜け落ちていると「選択と集中」は無意味に
「選択と集中」の最大の目的は、最終的に市場での支配的なポジションを確立し、競争相手に対して圧倒的な優位を築くこと、すなわち「制圧」にあります。市場の制圧は、多くの企業にとってビジネスの最終目標となりえます。なぜなら、支配的なポジションを確立することで、企業は価格設定の自由度を高め、競争相手が模倣しにくい独自の強みを築き、長期的な収益性を確保することができるからです。

目的が明確でない場合、「選択と集中」によって達成すべき目標が曖昧になり、企業は「何のために選択と集中を行っているのか?」という根本的な疑問に対して適切な答えを出せなくなります。結果として、リソースを投じたにも関わらず、競争優位や収益性向上に繋がらない場合もあるでしょう。

「選択と集中」が「制圧」に至るための条件
市場の「制圧」を目的とするならば、以下の要素が鍵となります。

  1. 明確なターゲット設定と集中
    すべての市場に均等に力を注ぐのではなく、収益性や成長可能性が高い分野を明確に定義し、その分野にリソースを集中的に投入することが不可欠です。選択した分野で他社よりも強力な地位を築くことを目指します。
  2. 競争優位の構築
    単に市場シェアを拡大するだけでなく、競合が模倣できない独自の強みや差別化ポイントを築くことが重要です。これは、特定の技術やブランド、顧客ロイヤリティなどが考えられます。集中することで、これらの要素を強化し、市場での優位性を確立します。
  3. 持続可能な成長とリスク管理
    「制圧」だけでなく、持続可能な成長の基盤を築くことも重要です。特定市場の「制圧」にはリスクも伴うため、集中する分野での収益性を高めつつ、新たな市場拡大のための戦略も視野に入れる必要があります。

「選択と集中」の本質は、戦略的な選択によって市場を制圧すること
「選択と集中」は、ただ単にリソースを集中させるための手段ではなく、戦略的な選択によって市場を制圧し、競争において長期的な優位性を築くことを目指したものです。戦略を効果的に実行するためには、その手段の背後にある目的を常に意識し、選択した分野での支配力を高めるための具体的なアクションを講じることが求められます。

このように、ビジネス戦略における「選択と集中」は、単なる手段ではなく、企業が競争市場で生き残り、成長するための強力なツールであり、その背後には「制圧」という目的が不可欠であることを忘れてはなりません。


現代のビジネスにおいて、DX化(デジタルトランスフォーメーション)や業務効率化は、もはや避けられない取り組みとなっています。多くの企業がこの流れに乗り、新しい技術やシステムを導入して業務改善を図ろうとしています。しかし、ここでひとつ重要な問題があります。多くの経営者が、DX化や効率化の目的を「売上向上」と誤解しているという点です。

本来、DX化や効率化の目的は「経費削減」であり、企業が限られたリソースをより有効に活用できるようにすることです。売上を直接的に増加させる手段ではなく、むしろコストを削減し、浮いたリソースを他の重要な分野へと再配分するための手段として位置づけられます。しかし、多くの経営者がDX化を売上増加の「魔法の杖」として捉え、その過程で本来の目的を見失っていることが少なくありません。

「3種の神器」の視点で考えるDX化

企業経営においては、「人」「物」「金」という3つの基本要素、いわば「3種の神器」が重要です。DX化や効率化は、この3種の神器をより効率的に活用するためのものであり、売上増加はこれらの効率化によって可能になる間接的な結果であるべきです。これらの基本要素の改善を無視して、単に売上を追い求めるようなDX化は、かえって社員の負担を増やし、生産性を下げる結果につながりかねません。

例えば、DX化の一環として新しいシステムを導入したものの、社員がそのシステムに慣れずにかえって作業が増えたり、余計な時間がかかることがあります。このようなケースでは、DX化によるメリットが薄れ、逆に生産性の低下やストレスの増加といった問題を引き起こす可能性があるのです。つまり、目的が曖昧であればあるほど、DX化は単なる「打ち手」にとどまり、本来の効果を発揮しないどころか、負の側面を生んでしまうのです。

本当の目的に立ち返る

経営者にとって重要なのは、DX化や効率化の本来の目的を再確認することです。経費削減によって得られたリソースを、どう売上向上につなげるか。そのためには、3種の神器に根差した「戦略」を構築し、DX化を経営基盤の強化手段として捉えることが求められます。単なる技術導入ではなく、企業全体の持続的成長を支える施策としてDX化を進めることが大切です。

戦後の高度経済成長期と3種の神器

戦後日本の高度経済成長期、生活水準の向上は急激に進み、消費者の欲望が次々と生まれました。特に「3種の神器」と呼ばれた冷蔵庫、洗濯機、テレビは、家庭の生活環境を飛躍的に向上させるものとして、誰もが手に入れたいと願った象徴的な家電でした。当時の日本では、経済成長とともに家族の所得も増え、こうした家電製品が日常生活の中で当たり前に揃うようになっていったのです。

消費の変遷:モノから質、質から精神的満足へ

経済成長が進むにつれ、家庭の物質的な豊かさは一定の水準に達し、人々の欲望も変化していきました。物質的なモノから「質」を求めるようになり、より高機能で長持ちする製品や、高品質な商品への需要が高まりました。さらに、物質的な質が行き渡ると、人々の欲求は精神的な満足へと向かうようになり、ブランド品や趣味、旅行、体験といった「心を満たす消費」に移行していきました。

現代の消費:経済格差と精神的な満足の追求

現在、多くの人々が物質的な基礎的なニーズを満たしている一方で、経済の停滞や所得格差の拡大により、消費行動に大きな影響が見られています。特に、中間層の減少と低所得層の拡大、そして少数ながらも高所得層の存在が顕著です。これにより、消費スタイルはますます多様化し、各層ごとに異なる消費のニーズが生まれています。

1. 高所得層の消費傾向:さらなる高級品・体験への投資

高所得層は、物質的な豊かさが十分に満たされているため、プレミアムな体験や独自性のある商品、特別なサービスに対する支出が多く見られます。プライベートジェットでの旅行や、個別の健康管理プログラム、高級車やブランド品など、一般的な消費の枠を超えたラグジュアリーなライフスタイルを追求しています。こうした消費は、少数派でありながらも確実な需要があり、特定の企業や産業にとって重要な顧客層となっています。

2. 低所得層の消費傾向:手軽に変化を楽しむ小さな消費

一方で、低所得層の拡大により、消費は「少額での満足感」にシフトしています。100円ショップやファストファッション、手頃な価格の外食チェーンなどが流行しているのは、こうした背景があるからです。低所得層の消費者は、手軽に手に入れられるものを通じて、日常の中に小さな変化を取り入れ、精神的な満足感を得ています。こうしたサービスは、経済的に制約がある層でも新しさや楽しさを体験できるため、現代の消費において重要な役割を果たしています。

3. 消えゆく中間層の影響:新しい消費スタイルへの需要

かつて日本社会を支えていた中間層が減少する中、消費はより二極化しつつあります。これにより、各所得層がそれぞれに合った消費スタイルを選ぶようになり、手頃な価格でありながらも、特別感を感じられる商品やサービスが求められています。例えば、サブスクリプションモデルのサービスや、リーズナブルで個別化された旅行プラン、比較的低価格ながらも独自性のある商品などが、多くの消費者にとって「ちょっとした贅沢」を感じられる選択肢として人気を集めています。

まとめ

消費の未来と格差を埋める可能性

現代の消費は、モノの所有から精神的な満足への追求にシフトし、多様な経済格差の中でさらに複雑化しています。少数の高所得層は特別な体験や高級品を求める一方、低所得層は手軽に満足感を得られる消費を選んでいます。消えゆく中間層に向けては、両者の間を埋める商品やサービスが求められており、これが新たなビジネスチャンスとなるでしょう。

こうした多様なニーズに応じることで、経済格差を反映しつつも、各層が自分に合った「小さな贅沢」や「自己投資感覚」を味わえる消費スタイルが、これからの時代にヒットしていく可能性が高まるでしょう。

合体ネタで人気のお笑いコンビ「トム・ブラウン」の漫才が絵本化されました。

パンを5つ がったいさせて

さいきょうのパン キングパンを

つくりたいんですよー

パンです パンです パンです

パンです チンパンジーです

がったい!!!!

・・・果たして、キングパンは完成するのか――!?

いったい、どうなっちゃうんだーーー!?

ここにはイノベーションのヒントが隠されています。

現代の市場では、顧客ニーズが飽和し、競争が激化し続けています。ブルーオーシャンを見つけるのがますます難しくなり、既存の市場がレッドオーシャンと化している中で、どのようにして新しい価値を創出すれば良いのでしょうか?

ヒントは「がったい」にあります。 すでに存在する製品や市場をそのまま活用するのではなく、異なる市場や製品を掛け合わせて全く新しい価値を創り出すことです。アンゾフの成長マトリクスにある、既存市場×既存製品をアップデートして、複数の既存市場×複数の既存製品を掛け合わせることで、全く新しいニーズを生み出すことが出来ます。

たとえば、劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」はミュージカル・アクション・コメディの幅広いジャンルを上演することが特徴です。既存の「ミュージカル」や「アクション」の世界には強力な競合が存在し勝つことが難しいため、既存のジャンルを足し合わせて全く新しい「ミュージカル・アクション・コメディ」というジャンルを生み出しました。このような発想によって、イノベーションを生み出すことが出来ます。

これはどの業界にも応用可能です。新たな市場を開拓したい、もしくは競合との差別化を図りたいと考えるのであれば、思い切って異なる要素を組み合わせてみましょう。パンが合体して「キングパン」となったように、複数の既存要素が新たな価値として生まれ変わるかもしれません。さまざまなアイデアを組み合わせて、既存の枠を越えたイノベーションを実現してみてはいかがですか?

アンゾフの成長マトリクスは、企業が成長を目指す際の戦略的選択肢を提供する有名なフレームワークです。「市場浸透」「製品開発」「市場開拓」「多角化」という4つの象限に分類され、それぞれに異なる成長戦略が示されています。しかし、現在の多くの市場環境は、アンゾフが想定していた成長志向の状況とは異なり、市場が成熟し、さらには縮小に向かっている場合が増えています。このような状況で、従来のアンゾフマトリクスをそのまま適用することにはいくつかの課題があります。

現在のビジネス環境における課題

  1. 市場縮小への対応不足
    アンゾフの成長マトリクスは、市場の成長を前提にしているため、市場が縮小している状況で適切な戦略選択をサポートするのが難しいです。従来のマトリクスは、新規市場を開拓し、既存市場に深く浸透することで成長を促進するものですが、縮小する市場では、成長戦略よりも収益の最大化やリソースの最適化が重要な課題となります。
  2. 競争の激化と資源の分散
    成長市場では、多少のリソースの分散が成長につながりやすいですが、縮小市場では限られたリソースをどこに集中するかが企業の生死を分ける重要な要素です。縮小市場においては、全方向にリソースを配分するのではなく、特定の領域に集中して効率的に成果を上げることが求められます。
  3. 多様なリスクと撤退の選択肢
    成長市場では新たな製品や市場の開拓が積極的に行われますが、縮小市場では新規投資がリスクを増大させます。そのため、撤退や特殊化(ニッチ市場への特化)を含めた柔軟な選択肢が求められます。しかし、従来のアンゾフマトリクスでは撤退の視点が組み込まれていないため、縮小市場には適していない部分があります。

成長市場と縮小市場に対応する新しいフレームワークの提案

そこで、現在の縮小市場に適応するため、従来のアンゾフマトリクスの「市場」と「製品」の軸を、「成長市場」と「縮小市場」という軸に置き換えた新しいフレームワークを提案します。これにより、成長市場と縮小市場それぞれにおいて最適な戦略が見出せるようになります。

  1. 成長市場 × 既存製品:市場浸透戦略
    既存製品で成長市場のシェアを拡大し、市場成長の恩恵を最大限に享受する戦略です。競争力のある価格設定やマーケティング、販売チャネルの強化などで、市場でのプレゼンスを強化します。
  2. 縮小市場 × 既存製品:収益最大化戦略
    縮小市場では、既存製品で最大限の利益を上げることが重要です。市場が縮小してもなお高い収益性を保つために、顧客層を選別し、ニッチな市場に特化するなど、コスト削減やプレミアムサービスの提供を行います。
  3. 成長市場 × 新規製品:市場拡大戦略
    成長市場に新規製品を投入し、シェアを獲得する戦略です。新たな製品開発を通じて市場での独自性を確立し、成長市場での地位を築きます。先行者利益を得られるよう、技術革新や差別化に注力します。
  4. 縮小市場 × 新規製品:撤退または特殊化戦略
    縮小市場で新規製品を投入する場合、ターゲットを限定した特殊化戦略が適しています。一般的な大規模製品展開はリスクが高いため、特定の顧客層向けにカスタマイズした製品を提供し、縮小市場での残存者利益を狙います。撤退も視野に入れつつ、慎重に判断する必要があります。

この新しいフレームワークは、市場の成長か縮小かという視点で戦略を検討するため、縮小市場においても適切なリソース配分が行えるようサポートします。縮小市場では利益の最大化や効率的なリソースの利用が求められる一方、成長市場ではシェアの拡大や新規製品の投入を通じての地位確立が鍵となります。企業が置かれた市場状況を的確に把握し、それぞれの市場の特性に応じた戦略を策定することが、今後の成功のために重要です。

「最後通牒ゲーム(Ultimatum Game)」は、ゲーム理論の中でしばしば取り上げられる興味深い事例です。このゲームでは、プレイヤーAが1,000円を受け取り、その一部をプレイヤーBに分配します。プレイヤーBがその金額に納得すればゲーム成立、拒否すればコントローラーに全額没収されます。理論的には、Bはたとえ1円でもゼロよりはましなので受け入れるべきとされますが、現実の人間はそう単純ではありません。Bは提示額があまりにも少ないと感じた場合、不公平だと判断し、オファーを拒否する傾向があります。

これは、現代のビジネス環境にも通じるところがあります。多くの業界で、「一強多敗」、すなわち勝者が全てを手にし、他の競争者が敗退する「勝者総どり」の構造が進行しています。強者は市場の大部分を掌握し、弱者や新規参入者は苦戦を強いられる。この状況は、まさに最後通牒ゲームのような力の不均衡を反映していると言えるでしょう。

一強多敗のビジネス環境がもたらす弊害

勝者総どりの環境では、競争が制限され、新規参入が難しくなり、革新が停滞します。また、支配的企業の失敗が経済全体に波及するリスクや、不平等の拡大が進み、富の集中や格差が広がります。さらに、競争が減少することで、大手企業は技術開発や製品改良へのインセンティブを失い、業界の成長が鈍化する可能性があります。

ゲーム理論をビジネスに取り入れるべき理由

ゲーム理論は、競合の行動を予測し、最適な戦略を導くフレームワークを提供します。たとえば、ナッシュ均衡を活用することで、競合が合理的な行動をとる前提で最適な行動を決定し、また、混合戦略を用いることで、競合の不確実な動きにも柔軟に対応可能です。

さらに、協力と裏切りのジレンマを解決する際にも役立ちます。短期的な利益を優先する裏切りと、長期的な協力のバランスを保つために、ゲーム理論が示唆する戦略を活用することで、持続可能な成長が可能になります。このように、ゲーム理論は競合との駆け引きを最適化し、戦略を洗練させる強力なツールとなります。

まとめ

最後通牒ゲームにおいて、合理的に見える行動が感情的な反発を招くように、現代のビジネス環境でも強者の戦略が必ずしも最適とは限りません。一強多敗のビジネスモデルは一時的には成功をもたらすかもしれませんが、長期的には多くの弊害を引き起こす可能性があります。また「最後通牒ゲーム」では強者が主導権を持っているように見えますが、弱者には戦略的に行動する余地があります。ビジネスにおいても同様で、弱者は単に受け身でいるのではなく、拒否や交渉、差別化、連携などの手段を用いて、強者に対抗する力を持つことができます。

あなたならいくらで納得しますか?

最近、テレビやインターネットで流れるCMの多くは、商品そのものよりも「体験」や「感情」を強調しています。例えば、ある化粧品のCMでは、具体的な製品の効果よりも「使った後の気持ち」や「自分らしさ」を訴求しているものが目立ちます。このような広告は、確かに視聴者に共感を呼び起こし、好感を持たれることでしょう。しかし、この戦略はすべての企業に適しているのでしょうか?

結論から言うと、体験による顧客中心の戦略は、圧倒的な強者が活用できる特権であり、認知度が低い企業や小規模な企業が採用するには慎重であるべきです。

1. ブランド認知の欠如による不利な競争

体験訴求型の広告は、強者が市場で既に確立した認知度と信頼感を活かして展開しするための非差別化戦略です。認知度の低い企業が同様のアプローチを取っても、消費者はそのブランドを知らないため、同じ製品カテゴリで選ぶ際には強者のブランドを選択する傾向があります。

これは、「体験」を前面に押し出す広告が「どこの企業の製品か」を意識させないことが多いため、最終的に消費者が既に知っているブランドに安心して選びがちになるという現象です。結果として、新興企業が広告を展開しても、その効果が競合する強者に流れてしまうというパラドックスが生じます。

2. 差別化が曖昧になるリスク

強者と同じ体験訴求型の非差別化戦略を採用することで、自ら自社の差別化を無効化してしまうというリスクもあります。消費者は製品やサービス自体に大きな違いを見出さず、強者のブランドの方が信頼できるという認識に陥りがちです。この結果、自社製品の優位性をアピールする機会を失い、強者に対抗することが難しくなります。

3. 認知度向上のコストが高い

体験訴求型の広告や顧客中心主義の戦略は、広範な消費者にリーチしなければ効果が出にくいのが特徴です。認知度が低い企業は、そのような広告キャンペーンを展開するための十分なリソースや予算を持たないことが多く、強者と同じ戦略に乗ることは非常にコストがかかるだけでなく、費用対効果も低いという問題があります。

まとめ:目的に応じた柔軟な戦略が大切

「顧客中心主義」というバズワードに惑わされず、自社のビジネスの目的を達成するために最も適切な手段を選択することが、戦略的な成功の鍵です。顧客に対して価値を提供することはもちろん重要ですが、その方法は必ずしも顧客中心の戦略である必要はありません。

弱者が採りうる戦略は、差別化戦略、集中化戦略、ニッチ戦略です。