MBAの統計解析の体験講座に参加し、基礎的な講義を受けました。内容は正規分布を前提とした平均値や標準偏差に関するものです。品質管理、需要予測、リスク評価など、従来の企業経営に広く使われてきた手法は、確かに正規分布を前提としており、意思決定に必要なリテラシーを効率的に習得するという点では、MBAのカリキュラムとして合理的な構成です。
しかし、近年GAFAなどのテクノロジー企業の台頭により、市場構造はパワーロー(べき分布)の傾向を強めています。この現実を踏まえて、「MBAではパワーローにおける分析手法も学べるのか?」と質問したところ、「経営者は分析者ではなく意思決定者なので、統計解析について深く学びたければ専門講座で学んでほしい」という答えが返ってきました。
たしかに、経営者が自らExcelを操作する必要はありません。しかし、ここに大きな落とし穴があるのではないでしょうか。
正規分布とパワーロー分布の世界観
正規分布は、多くの事象が平均値の周りに集まる「平均的な顧客」や「標準的な市場」を前提とした世界観です。これに基づいた意思決定は「平均に合わせる」ことに重点を置きます。戦後から続いた高度経済成長期の拡大を前提した市場であれば確かに問題はないでしょう。
一方、現実の市場はどうでしょうか?売上の大部分は一部の大口顧客に依存し、市場のシェアはトップ企業が独占し、SNSではインフルエンサーが極端に突出する。これらはすべて、一部の要素が圧倒的な影響力を持つパワーロー的な現象です。
「平均」の落とし穴と「突出」の重要性
正規分布を前提とした統計解析では、競争の勝敗を決める「分布の端に潜む突出した存在」を見落とす危険性があります。「気温が上がるとアイスコーヒーの売上が伸びる」という例が示されたのですが、東方地方では逆に、気温が低い冬にアイスクリームが売れると言われています。この現象を「気温と売上」という単純な相関関係だけで捉えると、「室内で過ごす時間の増加」「乾燥」「暖房の使用」といった要因を見落としてしまいます。もしかしたら、単純に甘いものが欲しくなるだけかもしれません。
このように、正規分布を前提とする相関関係の分析だけでは、事象の因果関係を深く理解することは困難です。
MBAで教えられるのは、あくまで「意思決定の共通言語」としての統計です。しかし、実際の経営環境を動かすのは、しばしば正規分布の外にある「極端な少数派」の動きです。
