因果推論の怖さは、「間違えると少しズレる」ではなく、結論が反転するところにあります。DAG(因果ダイアグラム)を正しく固定できていないと、交絡因子の向きや扱い次第で、有益が有害に、有害が有益に見えてしまいます。しかも、その反転は“統計的に有意”という顔で堂々と現れます。

なぜ起きるのでしょうか。理由は単純です。DAGは絵ではなく、「何を調整し、何を調整してはいけないか」を決める設計図だからです。設計図が違えば、分析は別の世界線を見に行きます。

典型的な落とし穴は3つあります。
1つ目は交絡の取り逃がし。共通原因を調整しないまま因果効果を語れば、見かけの関連に引きずられます。
2つ目はコライダー(合流点)を調整してしまうこと。これは「本来なかった関連」を人工的に作り、方向まで変えます。
3つ目は媒介(中間変数)の扱い。総効果を見たいのに媒介を調整すると、効果を消したり、条件によっては逆方向に見せたりします。

ここで重要なのは、DAGを“信仰”しないことです。DAGは仮説であり、固定には根拠が必要です。私はこの根拠を、現場のデータ構造から上流に遡って点検できる仕組みとして、DSA(分布構造分析)+DAGを位置づけています。まずDSAで「どこに偏りや層があるか」を可視化し、次にDAGで「どの経路を因果として採用するか」を監査可能にする。これが、意思決定に必要な説明責任を担保する最短距離です。

因果推論の失敗は、間違った結論以上に、間違った確信を生みます。だからこそ、DAGは描くのではなく、固定し、点検し、説明できる形にする必要があります。