タクシーで「長距離客を狙えば効率が良い」。弁護士で「顧問を取れば安定する」。どちらも一見、正しい。単価が高い。少ない件数で売上が立つ。生活が安定する。――しかし分布構造で見ると、その意思決定は“正しそうで脆い”ことがあります。理由は単純で、どちらも「当たり」に依存しやすいからです。

長距離タクシー:右端(外れ値)を追うほど、日々の地盤が痩せる

長距離客は売上分布の右端にある“尾(tail)”です。たまに当たれば大きい。しかし、その発生は偶然性が高く、再現性が低い。ここで多くの人が間違えるのは、「平均が上がるから正しい」と思ってしまうことです。

平均は外れ値に引きずられます。たった数回の長距離が月の平均を持ち上げ、戦略が機能しているように見える。けれど実態は、長距離待ちの時間が増え、短中距離の回転(需要の母集団)を取り逃がし、売上のブレが大きくなる。結果として、稼ぎはギャンブル化し、下振れ耐性が落ちる。

問題は「長距離が悪い」ではありません。悪いのは「長距離を当てに行く」ことです。
当てに行く戦略は、分布の右端を追う代わりに、分布の“厚み”を失います。

顧問弁護士:固定収入が“固定負債”になる瞬間

顧問契約も同じです。月額顧問は一見、分布の底を持ち上げる“安定化装置”に見えます。ところが顧問が増えるほど、時間が細切れに拘束され、スポットの高単価案件や紹介が生まれる場面に投下できる「まとまった時間」が消えていく。

顧問が「いつ来るかわからない相談への常時対応」になった瞬間、弁護士の希少資源(集中できる時間)は、収入ではなく拘束として積み上がります。固定収入のつもりが、固定負債になる。分布構造で言えば、顧問の塊が増えるほど、右端の大型案件(尾)に接続する確率がむしろ下がることがある。

これも「顧問が悪い」のではありません。悪いのは「顧問=安定」と思い込み、拘束条件を設計しないことです。

重要なのは「当てる」ではなく「分布の形を変える」

ここで言いたいのは「当たる確率を上げろ」ではありません。分布構造の視点で大事なのは、当てることではなく次の3つです。

  1. 母集団を変える
    長距離を「引く」のではなく、長距離が生まれやすい母集団に接続する(空港・終電・ホテル動線・イベント動線など)。
    顧問を「取る」のではなく、紹介やスポットに繋がる母集団に接続する(業界団体、金融機関、士業連携、特定領域のコミュニティなど)。
  2. 導線を変える
    偶然の当たりを、仕組みの当たりに変える。
    タクシーなら「待つ」ではなく「流れに乗る」導線設計。
    弁護士なら「相談→スポット」へ自然に移行する導線設計(顧問の範囲、追加課金条件、窓口、SLA、同席頻度)。
  3. 拘束を設計する
    自由度(次の一手)を残す。
    当たりに依存するビジネスほど、実は“次の一手”が打てない。拘束は安定ではなく硬直を生む。硬直は分布を変えられなくする。だから、顧問を増やすなら拘束を契約で設計し、タクシーで特定の場所に張るなら張り過ぎを避けて余力を残す。

この3つは予測ではありません。未来を当てに行っていない。やっているのは「構造の設計」です。つまり、外れ値に頼らないように分布の形そのものを変える。

結論:「外れ値依存」から「構造依存」へ

長距離も顧問も、上手く使えば強い武器です。けれどそれが“当たり待ち”や“拘束の積み上げ”になった瞬間、戦略は脆くなる。分布構造で見るべきは、平均の高さではなく、分布の厚みと下振れ耐性、そして次の一手を打てる自由度です。

当てに行くな。分布を設計せよ。
勝ち筋は、偶然の当たりではなく、構造の中に作るものです。