統計上、日本経済には景気回復と賃上げの兆しが表れています。大企業を中心にベースアップが進み、賃金上昇率も久々にプラスに転じています。しかし、多くの国民は依然として「生活が楽になった」とは感じていません。日本経済には、景気回復や賃上げの兆しが見え始めています。統計上は賃金上昇率もプラスに転じ、企業業績も改善基調にあると報じられています。しかし、この流れを「実感できる人」と「実感できない人」に分かれるのはなぜでしょうか。
景気回復が実感出来ない理由として、以下のようなものが挙げられています。
- 賃金の上昇が物価の上昇に追いついていない
- 非正規雇用の増加と不安定な所得
- 地域間の景気格差
- 貯蓄志向の高まり
- 一部の業種・産業での回復の遅れ
- 可処分所得の伸び悩み
列挙されている要因は一見すると「景気回復を実感できない理由」として妥当に見えますが、実はそれらは 現象の説明にとどまっており、本質的には「分析方法の問題」に帰着すると考えられます。
平均値が示さない「実感」
政府統計や報道で強調されるのは「平均賃金」や「GDP成長率」といったマクロ指標です。しかし、平均値は一部の大企業や高所得層の成果に大きく左右され、分布の大半を占める中小企業や地方の実情を覆い隠してしまいます。結果として、「数字は改善しているのに実感が伴わない」というねじれが生じるのです。
固定化するパワーロー構造
いま起きているのは、景気回復や賃上げの恩恵が大企業・都市部に集中し、地方や中小企業には波及しないという パワーロー構造の固定化 です。
- 大企業・都市部 → 利益増加を賃上げに還元できる。
- 中小企業・地方 → 原材料高や人件費高を転嫁できず、むしろ疲弊。
この格差は、「一強多弱」「Winner-Takes-All」という偏在を強めています。
分布構造で見れば「理由」が自然に整理される
列挙された要因も、分布分析で捉えると一貫性が生まれます。
- 賃金 vs 物価
→ 賃金上昇の分布を見れば、「追いついている層」と「取り残されている層」が可視化される。 - 非正規雇用
→ 雇用形態別に所得分布を描けば、非正規が裾野を長く伸ばし「ロングテール」を形成しているのが見える。 - 地域格差
→ 地域別分布を重ねると、都市部に集中し、地方が尾に沈んでいる構造が明確になる。 - 産業間格差
→ 業種別分布で、輸出産業やグローバル企業が突出し、内需型産業が下位に固まっている。 - 貯蓄志向
→ 可処分所得の中央値や分布を追えば、実際に「余剰資金が生まれていない層」が多数派であることが裏付けられる。
つまり、個々の「理由」を並べ立てるより、分布構造で可視化するほうが直感的かつ一貫性を持って理解できる のです。
政策的インプリケーション
もし政府や政治が「平均」を基準に施策を打ち続ければ、偏在は拡大する一方です。必要なのは:
- 中央値や分布指標に基づいた政策(例:中央値賃金の上昇を目標にする)
- セグメントごとの支援策(業種別・地域別・雇用形態別のボトムアップ支援)
- 分布の偏在を是正する再配分(税制・社会保障の再設計)
政治に求められるのは「分布構造の是正」
資本主義の競争原理のもとで、経営者は生き残りを賭けて戦っています。彼らに「分布の偏在をならせ」と求めるのは筋違いです。むしろ、それを是正するのは 国家と政治の役割です。
必要なのは、平均値や正規分布を前提にした従来型の経済観ではなく、分布構造を直視した政策です。
- 所得分布の偏在是正:低所得層や地方への再配分政策。
- 中小企業の支援:価格転嫁の仕組み強化や生産性向上投資の後押し。
- 地域間格差の緩和:都市集中を是正し、地方での雇用・所得創出を支える施策。
平均ではなく分布を見る政治へ
これからの政治が問われるのは、「景気が回復しているか」ではなく、「誰にその成果が届いているのか」 を見極める視点です。分布を無視して平均に頼れば、数字と国民生活の乖離はますます広がります。
まとめ
「景気回復と賃上げの実感格差は、まず統計の読み方に問題があります。平均値に依存する限り、一部の勝者の成果が全体を代表してしまい、多数派の実情が見えなくなります。そして、その誤った前提に基づいて政策が設計されることが、実感との乖離を拡大させています。」
「平均ではなく分布を見る政治」こそが、これからの日本に求められているのではないでしょうか。
