「いつも通りやっているはずなのに、思うように結果が出ない」。それは“やり方”が悪いのではなく、“何をすべきか”に問題があるのかもしれません。すなわち戦略の欠如です。

たとえば、優れた料理人は、その日の天候や湿度、素材の状態に応じて、調味料の配合や火の入れ方、調理時間までも細かく調整すると言われます。つまり、同じレシピであっても、外部環境に応じて「つくり方」を変えています。

これこそが戦略です。

一度うまくいったやり方=いわゆるベストプラクティスを、そのまま何度も繰り返しても、必ずしも同じ成果が得られるとは限りません。むしろ環境が変わったにもかかわらず、過去の成功体験に固執し続ければ、かえって結果が悪化することすらあるのです。

多くの組織が取りがちなのが、「いつも通り」の精度をさらに高めようとするアプローチです。トレーニングを重ねたり、デジタルツールを導入したりと、業務遂行能力の向上に投資するのです。

もちろん、それ自体に意味がないわけではありません。合理化・効率化のために、KPIを立て、CRMでトラッキングを行い、PDCAを確実に実行管理するなど、外部環境が安定している場合や、定型業務の精度が成果に直結する分野であれば、有効な施策となり得ます。

しかし、外部環境が変化しているにもかかわらず、同じ手法の「精度」を上げるだけでは、本質的な解決にはなりません。むしろ、間違った方向に精度を高めてしまえば、「高精度で迷走する」という状態に陥ります。

デジタルツールも同様です。戦略がなければ、せっかく導入しても“見える化”で終わり、行動も成果も変わらないということが往々にしてあります。

戦略とは、「その時々の状況に応じて最適な選択をし続ける意思決定」です。環境の変化に応じて、柔軟に行動を調整すること。それが戦略的な思考であり、成果の再現性を高める唯一の方法です。 上手い料理をつくるためには、レシピを守るために精度の高い秤や高性能な調理器具(=KPIやCRMのような支援ツール)を使うことではなく、天気予報を見て外部環境を読み解く力(=戦略的判断)が求められるのかもしれません。