近年、人口減少と労働力不足が深刻化する中、企業には省人化が強く求められています。
国の後押しもあり、多くの企業がDXを通じた業務効率化、すなわち省人化に取り組んでいます。
企業において省人化を推進する役割の中心とるのが、本社部門です。
しかしここに、企業にとって非常に深刻なパラドックスが潜んでいます。


省人化は本社部門自身をもリストラ対象にする
本社部門は自らが全社の人員管理を担い、省人化の方針を決定する立場にあります。
ところが、DXの進展によって最も省人化しやすいのは、定型業務が多い本社管理部門(間接部門)つまり自分たち本社部門なのです。
ここで矛盾が生じます。
DXによる省人化=間接部門のスリム化=自らのリストラリスク増大
つまり、「自分たちの仕事を減らすことで自分たちの存在意義が薄れ、最終的には不要とされる可能性が高まる」という自己否定的構造です。
これが、省人化のパラドックスです。
このジレンマを回避するため、多くの本社部門は「自らを守るため」に現場の採算部門、つまり営業や製造、サービスといった直接部門の人員削減へと矛先を向けることがあります。
これが意味することは、現場力の低下、競争力の喪失、そして企業の弱体化です。


本社部門の自己防衛が企業を蝕むメカニズム
営業などの採算部門は、売上・利益を生み出す企業の最前線です。
そこを削減すれば当然、競争力は低下します。
売上は減少し、利益も圧迫され、さらなるコスト削減が求められる。まさに負のスパイラルです。
本社部門の自己防衛によって、企業全体がじわじわと衰弱していく。
これは決して珍しい現象ではなく、むしろ多くの企業が直面している組織病ともいえます。


これからの本社に求められるのは「守り」ではなく「攻め」
本社部門は本来、
企業の将来成長・持続可能性を支えるための戦略・経営資源配分を担うべき存在
ですが、自己防衛が優先されるとこの本質的役割が損なわれ、企業全体の将来にとって害悪になります。
したがって重要なのは、
• 本社部門の機能とKPIを「自己の効率化と全社成長への貢献」に再定義すること
• 間接部門の縮小ありきではなく、付加価値転換型の再設計(攻めの本社化)を行うこと
です。
単なる省人化ではなく、全社のリソースを「どこに、どれだけ、どうやって」投じるべきかを定める、まさに企業の頭脳となるべきなのです。
営業や現場を削減するのではなく、競争力を最大化するために
• どの市場に注力すべきか
• どの顧客をターゲットとすべきか
• 競合と比べてどこに勝機があるのか
を冷静かつ客観的に見極める。
これこそが、戦略本社に求められる役割です。
本社部門が自己防衛的に採算部門を削減する構造は、企業の競争優位性と健全性を確実に損なう危険な兆候です。
だからこそ、省人化やDXは「間接部門の削減」と直結させるのではなく、企業全体の競争力を高めるために本社機能をどう転換するかという”全体最適”の視点で設計・運用されるべきです。


戦略本社化を支える武器、それがDXS Stratify®
この「戦う本社」への進化を支えるのが、DXS Stratify®です。
DXS Stratify®は、これまで属人的な経験や勘に頼っていた顧客・市場・競合分析を、データとロジックに基づいて可視化・分類し、戦略的意思決定を可能にするソリューションです。
• 市場・顧客のポテンシャルと競争環境を定量化
• 自社の競争優位性を数値化し、どこで勝てるかを明確化
• 資源配分の優先順位を合理的に導出
これらを実現することで、本社は
削減する本社から、勝たせる本社へ
と生まれ変わることができます。


まとめ
省人化は避けられない時代の流れですが、単なるコストカットや本社部門の自己防衛は、結果として企業の競争力を奪い、衰退への道を歩むことになります。
だからこそ、今必要なのは戦略的な意思決定機能を本社が担うことです。
そして、それを可能にする強力な武器こそがDXS Stratify®です。

添付の図をご覧いただければ明らかなように、いまや業界・業種を問わず「一強多敗」の構図が広がっています。輸送用機器でいえばトヨタ、海運業でいえば郵船、情報通信業ではNTTが、各市場において経営資源に勝る大手企業がシェアを独占し、その他の企業が消耗戦に巻き込まれる構造が定着しつつあります。

この状況は、単に「大手が強くなったから」ではありません。問題は、戦うルールが変わったのに、戦い方だけが昔のままであることです。私はこの要因の一つにコンサルタントやビジネススクール、マーケティングセミナーがあると思います。

多くのコンサルタントやビジネススクール、マーケティングセミナーでは、いまだに4P、PPM、アンゾフの成長マトリクスなど、戦後の高度経済成長期に提唱された市場拡大前提の古典フレームワークが当然のように使われています。

そして、その根拠としてしばしば引き合いに出されるのが、あの有名な「馬車から自動車へ」という比喩です。「馬を速く走らせる努力をしても、自動車の時代には勝てない。だから、発想を変えろ」と。確かに、時代の変化に気づくことの大切さを伝えるにはわかりやすい例かもしれません。

しかし、これを語る彼ら自身が、「自動車の時代だ」と言いながら、分析フレームはいまだに馬車の設計図を使い続けているのです。「皆が知っているから」「教えやすいから」という理由で、半世紀以上前の拡大期向けフレームを使い続けるその姿勢こそが、詭弁的ロジックではないでしょうか。

戦略的思考を語る場が、実は最も時代に取り残されている。そう考えざるを得ません。

実際、現代の多くの市場は縮小期に入り、競争はゼロサムゲーム化しています。拡大期に有効だった「分け合える前提の戦略」は通用せず、戦力量がモノを言う構造が強化される一方です。

こうした状況で、かつての戦略をそのまま流用すれば、資源を持つ大企業だけが生き残る「一強多敗」が進むのは必然なのです。いま必要なのは、「自動車の時代だ」と口にすることではなく、自分たちの馬車(古いフレームワーク)を乗り換える覚悟です。

国内の医薬品市場において、上位10社で約7割のシェアを占め、その多くが外資系製薬企業という構図の中、武田薬品工業は唯一の“純国産トップ企業”として孤軍奮闘しています。その存在感は、単なる企業活動を超え、産業界全体の象徴でもあります。

そんな武田薬品が、AIを活用した営業支援ツール「Next Best Action(NBA)」を導入し、営業現場での手応えを感じているという記事がありました。

記事リンク 週初めにAIが「推奨アクション」提案  武田の営業支援ツール、4月から本格運用

MRがAIから提案を受け、それをもとに訪問計画を立て実行することで、医師からは「求めていた情報が得られた」と好意的な反応が返ってきているそうです。

たしかに、これは顧客に寄り添うヘルスケア企業の“現場の進化”として素晴らしいことです。ですが同時に、今こそ冷静に問い直す必要もあるのではないでしょうか。

「その顧客は、本当に優先的に訪問すべき相手だったのか?」

AIが提案する「Next Best Action」は、裏を返せば「Next Easy Action」になっていないでしょうか?

つまり、「会いやすい」「反応が返ってきやすい」顧客に対して、彼らが欲しがる情報を提供する、接触しやすさベースの活動計画になっている可能性はないかということです

「喜ばれること」だけではなく、競争に勝ち、シェアを伸ばし、利益を上げることです。

ならば問われるべき営業活動の目的は、

その顧客は、本当に自社が勝つべきターゲットだったのか?

その実績は、競合他社を押しのけて得られた成果なのか?

その成果は、戦略目標全体への貢献度が高いのか?

もしこれらに自信を持って「Yes」と言えないなら、それは「効率的に喜ばれた」というだけの話であり、“営業活動としての成果”とは別問題です。

医師に喜ばれることは悪ではありません。しかし、企業の営業活動として正しいかどうかは、喜ばれることの先にある“勝てる市場での成果”で測るべきです。

ポテンシャルの高い顧客、すなわち市場性の高い顧客とは、一般に患者数が多く、多忙な医師であることが多いため、そもそも面会が困難です。加えて、そうした医師には競合各社のMRも集中するため、接触のハードルはさらに上がります。

接触機会を確保するには、オペのスケジュールを確認したり、外勤先での面会を調整したりと、一層の工夫が求められます。特に、面会規制が厳格化している昨今では、重要な顧客には「会えないのが当たり前」という前提で考えるべきでしょう。そのためにマルチチャンネル・オムニチャネルを整備しているはずです。

そのような状況下で成果を出す鍵は、「絶対的な面会回数」ではなく、「競合よりも多くコンタクトできるかどうか」にあります。限られた面会機会をいかにして競合よりも多く、自社が確保できるか、そこにこそ、勝敗を分ける差が生まれます。

必要とする顧客に必要なアクションによって、「顧客に喜んでもらうこと」は営業の一側面ですが、企業活動の本質は競争に勝ち、収益を確保し、社会に持続的な価値を届けることにあります。

喜ばれることが成果につながるとは限りません。真の成果とは、戦略に基づいて競争に勝った結果のはずです。

ゼロサム競争が進む中で、ただ“会いやすい顧客”や“反応の良い医師”ばかりにリソースが向かえば、戦略なき親切が自らのリスクを招くことになり得ます。

顧客のニーズに応えるだけでなく、競合他社との相対的優位性を見極めた上でのターゲティングとポジショニングがなければ、真の成果=勝利にはつながりません。

内資系製薬企業では絶対的な「強者のポジション」にある武田薬品では、このようなアプローチ方法は可能ですが、外資系製薬企業を含めると必ずしも絶対的な強者のポジションと言えるほどの競争優位性が得られているとは言い切れない中では脆弱性を含みます。

国内医薬品市場の縮小により、主要製薬企業の海外売上比率が3分の2を超えました。このままでは国内医薬品市場の空洞化を招き、医薬品アクセスへの影響が心配です。

だからこそ、武田薬品に期待したいのです。単に“AIを導入した営業”ではなく、競争に勝つ“戦略を持った営業”を築いて欲しいと強く期待します。

国内最大手として、そして日本を代表する製薬企業として、ただテクノロジーに流されるのではなく、グローバル競争の中で生き残る“戦略を持った、武田が“勝てる仕組み”を示すことは、業界全体にとって希望となるはずです。

正しい営業行動の判断軸

🔍 NBAの想定されるアルゴリズム構造

① 目的:営業アクションの最適提案

MRの限られた活動リソースを、最大の成果につながる医療機関・タイミング・情報提供内容に最適配分する。

② インプットデータの種類

おそらく以下のような社内外データが統合されていると考えられます。

③ 処理ロジック(推定される)

以下のような技術が組み合わされていると推測されます:

1. スコアリング+ルールベース

「医師Aに○○を伝えると処方が伸びた」という行動と成果の関係性を定量化。

スコアが高い医師・施設に推奨アクションを割り当てる。

2. 機械学習モデル

医師ごとのエンゲージメントレベル予測(たとえば回帰 or 分類モデル)。

コンテンツ選定やタイミングの予測には勾配ブースティング系(XGBoostなど)を使用している可能性。

3. ルールとAIのハイブリッド

初期はルールベース、その後にAIで改善されたパターンを学習して自動調整。

AIが出力した推奨に対して、「理由(Explainability)」を付け加えて人の納得感を補強。

④ アウトプット形式

毎週月曜に「10件程度」の推奨アクション。

各アクションには「なぜそれが効果的か?」という簡潔な理由も付与。

⑤ 特徴的な設計思想

透明性(Explainability)を重視しており、「なぜこのアクションなのか?」を明示。

ユーザー(MR)との協働開発により現場との乖離を最小化。

AI活用というよりも「人とAIの協働」に重きを置くUX設計。


患者支援アプリの導入やサポート体制の強化は、製薬企業にとって「CSR(Corporate Social Responsibility)的な施策」の側面と、単なる社会貢献ではなく、売上に直結する“戦略的投資”として実施します。では、なぜ患者支援が有効なのか?そして、どのような企業にとって、それが“勝手”になるのでしょうか。

■ なぜ患者支援が売上につながるのか?
医療用医薬品はガイドラインやエビデンスに基づいて処方されますが、実際の臨床現場では、それだけで処方が決まるわけではありません。特に長期投与や自己管理が必要な薬剤では、患者が治療を継続できるか=アドヒアランスが処方の持続性と処方量に大きな影響を与えます。
ここで、患者向けのアプリケーションや支援サービスが役割を果たします。服薬スケジュールの管理、副作用のセルフチェック、看護師によるフォローアップ、医療機関と連携したサポートなどは、患者の安心感を高め、治療中断のリスクを低下させるのです。
結果として、医師は“継続できる薬=処方しやすい薬”と判断しやすくなり、企業にとっては安定的な売上に結びつきます。


■ ただし、“誰がやっても効く”わけではない
この施策には、明確な「2つの絶対条件」があります。


【条件①】高い市場シェア
患者支援によりアドヒアランスが改善され、継続率が上がっても、シェアが低い企業ではその恩恵のほとんどをシェアトップが吸収してしまうリスクがあります。
つまり、支援の“果実”を自社が最も多く享受できる状態=市場シェアが高いことが前提条件です。


【条件②】市場が成長している
縮小市場では、いかに患者を支援しても、全体のパイが減るため投資対効果が悪化します。
逆に、成長市場では、新たな患者の取り込みや長期的なリピート獲得が可能で、支援が“攻めの投資”として回収しやすくなるのです。


■ 支援とは、強者の戦略である
以上をまとめると、患者支援アプリやサービスの本質は「強者が市場支配を固定化するための戦略」です。
トップシェアを持ち、市場が成長している状況であれば、支援は単なる好印象ではなく、シェア防衛・拡張・競合排除を狙うれっきとした戦略行動になります。
反対に、低シェア企業が縮小市場で支援を広く展開することは、競合の売上に貢献するだけの“善意の罠”になる可能性があることも忘れてはなりません。


■ 最後に
患者支援は感情論ではなく、極めてロジカルな“武器”として使うべき施策です。
自社の市場ポジションと市場のライフサイクルを冷静に見極め、どのタイミングで、どこに、どれだけ投資するのか、そこに戦略の巧拙が問われます。

日本の医薬品市場は今、静かに空洞化しています。薬価制度改革と市場の成熟により、国内はもはや“成長市場”ではなくなりました。主要製薬25社のうち、2023年度には海外売上比率が平均67.9%に達し、武田薬品は実に89.4%が海外売上。その半数を米国が占めています。

米中をはじめとする巨大市場への進出は、企業として当然の判断です。しかし、内資系企業までが海外に主戦場を移すということは、単なる経営判断を超えて国家的リスクを孕みます。

第一に、人的・資金的リソースが国外へ流出し、国内での新薬開発やニッチな疾患領域、災害時の供給体制といった「日本だからこそ必要な医薬品」の担い手が失われつつあります。
第二に、採算が合わないという理由で、小児用や希少疾患薬が相次いで販売中止に。必要でも手に入らない、そんな「医薬品アクセスの格差」が広がっています。
第三に、日本の医療制度と企業戦略がかみ合わなくなっている点も見逃せません。国民皆保険制度に支えられた薬価政策が内資企業の撤退を招くという“制度疲労”が進行中です。

こうした状況で頼みの綱となる外資系企業も、為替や本国都合で撤退・販売中止を決めるリスクを孕んでいます。すでにその兆候は現れており、日本市場は“魅力のない市場”と見なされつつあります。

本来、内資製薬は日本人の命と健康を守るラストラインでした。地方医療の維持、国産ワクチンの確保、災害時の医薬品安定供給など、外資では代替できない役割があるはずです。それが今、合理化と効率の名のもとに崩れようとしています。

企業の成長は必要です。しかし、それと引き換えに「国内を見捨てる」のであれば、問われるべきは国家の覚悟です。薬価だけを弄る時代は終わりました。
国産医薬品の戦略的確保、開発への投資インセンティブ、制度改革を伴った医薬品産業の再構築など、いまこそ政策転換が求められています。

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これまでお伝えしてきた通り、製薬業界のモヤモヤは、単なる感情の問題ではなく、制度依存型ビジネスモデルに起因する構造的な課題です。このモヤモヤを本質的に解消し、組織全体を未来に向けて動かすためには、従来型の施策やツールでは限界があります。ここで必要とされるのが、DXS Stratify®です。


DXS Stratify®は、現時点での市場構造、自社シェア、競合優位性を冷静に「静的分析」し、誰もが同じ戦略地図を共有できる環境を作り出します。これにより、現場・本社・経営層が、共通の「勝てる場所」と「集中すべき資源」を認識し、ブレることなく行動を最適化できるようになります。


これまで多くの企業が直面してきた問題は、努力や施策そのものではありません。
「どこで、何に対して努力すべきか」が曖昧なまま、なんとなく動いてしまうことにありました。DXS Stratify®は、その曖昧さを排除します。科学的根拠に基づき、「なにをするか」「なにをしないか」を論理的に明示するため、社員一人ひとりが意味と根拠を持って行動できるようになるのです。


また、DXS Stratify®は単なるデータ可視化ツールではありません。未来を完璧に予測しようとするのではなく、「今この瞬間の勝ち筋」を鮮明に映し出します。だからこそ、制度変更や市場環境の急変にも柔軟に対応できる、しなやかな戦略修正が可能になります。


現場においては、MRが訪問の優先順位に納得感を持ち、所長やマネージャーは戦略的なリソース配分ができるようになります。マーケティング部門は現場と同じ地図で戦略を描き、教育部門は「考える営業人材」を育成できる環境を手に入れます。

デジタル部門にとっても、単なる業務効率化ではない「成果につながるDX推進」を実現する強力な後ろ盾となるでしょう。


製薬ビジネスが直面する不確実性は、これからますます高まっていきます。そんな時代に、モヤモヤに流されるのではなく、確かな戦略地図を持ち、自ら未来を切り拓くために。

DXS Stratify®は、単なる一時的なソリューションではなく、組織の「戦う力」を根本から高めるための、不可欠なパートナーとなるはずです。

近年、製薬業界でもAIや高度なデータ分析技術を駆使した売上予測や市場動向の推測が盛んに行われています。しかし、未来予測に過度に依存することは、大きなリスクを招く可能性があります。特に、明確な戦略を持たずに予測結果に頼るだけでは、組織全体の判断力と柔軟性を著しく損なう危険性があるのです。


製薬業界では、国の制度改定や医療財政の制約など、過去データからは予測できない非連続的な変化が頻繁に発生します。このような外部要因は、AIによる動的分析の精度を大きく超えるものであり、未来を正確に予測することは極めて困難です。にもかかわらず、未来予測モデルの数値に過度な信頼を置いてしまうと、想定外の事態に直面した際、適切な判断と行動が取れなくなってしまいます。


さらに問題なのは、未来予測への過剰な期待が、組織の思考停止を招く点です。「データがこう示しているから」と思考を停止し、自ら仮説を立て、状況に応じて軌道修正する力が弱まってしまうのです。これでは、市場や制度環境が変わった瞬間に、組織全体が立ちすくんでしまうリスクが高まります。


重要なのは、未来を完璧に予測しようとすることではありません。むしろ、変化が起きる前提に立ち、現在地を正確に把握しながら複数のシナリオを想定し、状況に応じた柔軟な戦略を準備しておくことが求められます。「変化に強い組織」とは、未来を当てる組織ではなく、変化に即応できる組織なのです。


現場においても同様です。単なる予測に頼った訪問や活動ではなく、「なぜ今このターゲットに注力するのか」という明確な根拠を持つ行動が求められます。これによって初めて、現場の納得感と戦略的な一体感が生まれます。


これからの製薬ビジネスにおいては、戦略なき未来予測依存から脱却し、現在地に根ざした静的分析と、柔軟な戦略シナリオ構築へと転換することが不可欠です。


不確実性の時代を生き抜くために、私たちは今こそ、未来を「予測する」のではなく、未来に「備える」組織へと変わるべきなのです。

製薬ビジネスにおいては、市場のルールそのものが外部要因によって大きく変化するという特殊なリスクが存在します。これが、いわゆる「制度変更リスク」です。そしてこのリスクこそが、製薬業界でモヤモヤが慢性化する最大の原因の一つであるといえます。


一般消費財とは異なり、製薬業界では製品の価格が国の薬価制度によって決定されます。どれほど自社の製品が市場で評価されても、価格交渉の相手は市場ではなく、厚生労働省なのです。さらに、薬価は2年ごとに見直され、売上が拡大すると薬価が下がる「市場拡大再算定」の仕組みも存在します。つまり、努力がそのまま成果に繋がるのではなく、逆に成功が価格下落を招くという、非常に厳しい構造に置かれているのです。


このような制度依存型のビジネス環境では、未来を予測するための従来型の動的分析、つまり「過去データからの傾向予測」には限界があります。制度変更は非連続的かつ人為的に発生するため、AIによるトレンド分析や売上予測モデルでは対応できないのです。では、こうした不確実性にどう立ち向かうべきでしょうか。答えは、静的分析にあります。


静的分析とは、現時点での市場構造、競争環境、自社のポジショニングを冷静に把握し、「どこで戦うか」「どこにリソースを集中すべきか」を論理的に決めるための基盤です。流動的な未来を追いかけるのではなく、今この瞬間の戦場を正しく認識する。それによって、仮に制度が変わったとしても、どのような影響が及び、どこを守り、どこを切り替えるべきかを、迅速かつ柔軟に判断できるようになります。


静的分析を欠いたままでは、変化が起きた瞬間に組織は右往左往し、場当たり的な施策に追われることになります。逆に、静的分析によって「現在地」と「戦うべき領域」が明確になっていれば、変化への対応も合理的かつ戦略的に行うことができるのです。


製薬業界におけるモヤモヤを根本から解消するためには、制度に振り回されない軸を持つことが必要です。そのためには、今ここで、静的分析を戦略の中心に据え、「見えない未来」ではなく、「見える現在」に基づいて意思決定を行う習慣を組織に根付かせなければなりません。市場のルールが動く世界で生き残るために。私たちはまず、自分たちの立つ「現在地」を冷静に見極めるべきなのです。

製薬業界において、モヤモヤを解消し、組織全体が本当に成果を上げるためには、何をすべきでしょうか。結論から申し上げますと、今求められているのは「とにかく動くこと」ではありません。「どこにリソースを集中させるべきか」を冷静に見極め、選択と集中を戦略的に実行することです。


まず第一に必要なのは、「戦う場所」を明確に定めることです。すべての市場、すべての顧客に同じようにリソースを投下する時代は終わりました。限られた資源を最大限に活かすためには、勝てる可能性が高い市場、優位性を発揮できる顧客群に焦点を絞ることが不可欠です。勝てない場所、リターンが期待できない領域には、あえて踏み込まない勇気もまた、これからの企業経営には求められます。


次に大切なのは、選択した市場やターゲットに対して、戦略に基づいたリソース配分を行うことです。ここで重要なのは、感覚や過去の慣習に頼らないということです。
データに基づき、論理的に優先順位をつける。そして、その優先順位を現場レベルまで浸透させ、組織全体が同じ方向に向かって動く体制を作る必要があります。


さらに、戦略に基づく行動の成果を検証し、必要に応じて柔軟に修正していく仕組みも欠かせません。市場環境は常に変化しています。特に製薬業界では、制度変更や医療政策の影響が大きいため、固定的な戦略に固執することはリスクになります。
定期的に現状を見直し、戦略の修正を迅速に行える柔軟性を持つことが、長期的な競争力維持につながります。


要するに、これからの製薬ビジネスで成果を上げるためには、「考えずに動く」から「考え抜いて動く」へ、行動様式を変革しなければなりません。そのためには、単なる営業施策や目先の数字目標にとらわれず、より高い視座で「どこで、どう戦うべきか」を組織全体で共有し続けることが求められます。


今こそ、「選び、集中し、検証し、修正する」という本質的な戦い方へシフトする時です。それこそが、製薬業界が抱えるモヤモヤを解消し、未来に向かって確実な一歩を踏み出すための、唯一の道です。


2025年3月期の決算に合わせて、製薬企業各社が中期経営計画を発表しました。売上高や営業利益、ROEといった財務目標は例年どおり明記されています。そして、グローバル展開や研究開発の重点領域も語られています。

しかし、多くの中計において欠けているものがあります。それが「営業戦略」です。

売上目標はある。売る製品の方向性も示されている。けれど、「どうやって売るのか」「誰に何を、どう届けるのか」という販売戦略や営業体制に関する記述は、ほとんどの企業で見当たりません


戦術だけが並ぶ“中計あるある”

唯一、営業施策に踏み込んだのはツムラでした。eプロモーションの拡充や、医師との双方向コミュニケーション、MR教育強化のための「漢方マイスター制度」など、具体的な取り組みが明記されています。

しかしそれらは、あくまでも手段であり、「戦術」にとどまります。

たとえば、

  • 「どの市場を優先するか(セグメンテーション)」
  • 「誰を主要ターゲットとするのか(ターゲティング)」
  • 「どのような価値で競争優位を築くのか(ポジショニング)」

といったSTPに基づく戦略的思考。つまり「選択」と「集中」を伴う意思決定は、ツムラを含め、ほぼどの中計からも読み取ることができません。


戦略と戦術のすれ違い

戦術とは “How(どのように実行するか)” を示すものであり、戦略とは “Where(どこで)”、“Who(誰に)”、“What(何を)” を決める意思決定です。具体的に言えば、eプロモーションは「How=戦術」にあたります。重要なのは、「どのターゲットに、どのようなメッセージを届けるか」を明確にしたうえで、その手段として「eプロモーションが最適かどうか」を判断することです。もしそこが曖昧なまま手段だけが先行すれば、それは単なる施策の羅列に過ぎません。

中期経営計画は本来、「今後の方向性」を社内外に明示するものです。そこに戦略的な選択が含まれていなければ、現場は「何を優先すればいいのか」が分からず、ただ数値目標に追われることになります。


戦略なき中計が生む2つの弊害

  1. 営業現場が迷走する
     リソースを集中すべきターゲットや優先順位が明示されないことで、営業は広く浅く動かざるを得ません。結果としてリソースが分散し、費用対効果は低下します。
  2. KPIが機能しなくなる
     戦略が不在の中で設定されたKPIは、成果との因果関係が不明瞭です。「やったこと」は数値化できても、「なぜ成果につながったか」が語れません。

本当に必要なのは、「営業体制の再構築」ではなく「戦略の再設計」

国内医薬品市場は縮小傾向にあり、もはや“みんなで売れば売れる”時代ではありません。むしろ、「誰に集中するか」「何を捨てるか」を明確に定め、限られた営業リソースを戦略的に投入する必要があります。

それにも関わらず、多くの中計は、営業戦略を語ることなく「研究開発」と「財務目標」だけを軸に置いています。それでは、営業部門の生産性をどう最大化するのかという問いに答えることはできません。


まとめ:中計は“願望”ではなく“意思”であるべき

中期経営計画は、単なる数字の羅列ではありません。企業が「どこで、どう勝つか」を意思として示す場です。

それは、戦術を整えることではなく、戦略を言語化することです。戦略があって初めて、戦術は意味を持ちます。

中計という公式文書において、戦略が言語化されていないままでは、現場や投資家には伝わらず、結果的に“戦術だけが並ぶ空疎な計画”という印象を与えてしまうのです。